あっ幸運体質だ、ラッキー!   作:睡眠人間

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ここら辺で舵切ってくか〜〜〜て話です。助走はしていたのであとは飛び立つだけですね。




友達

「……っ招木、少しいいか」

「嵐山?」

 

 久しぶりにその姿を見た時、以前と比べてあまりに印象が変わっていて、思わず声をかけてしまった。

 その衝動に我ながら驚いて、声をかけられた招木以上に嵐山自身が戸惑った顔をしていた。

 

 招木と嵐山。彼らは同い年の同期であり、同じ学校に通うボーダー隊員である。違うところと言えば能力と階級で、招木はサイドエフェクト持ちだが訓練生であり、嵐山は実力が優れていてB級隊員だった。

 特に嵐山は、ボーダー広報イベントにおける優等生然とした対応を評価され、ボーダーの広報担当に据えられることが決定している逸材。

 同じ環境に身を置きながらも、両者が顔を合わせて話したことはほとんどない。

 だからこそ、久しく見ていなかった招木の変わりっぷりを見て、嵐山は動揺していた。

 

「久しぶり。何か用かな」

 

 招木が嵐山のおかしな態度をスルーして挨拶する。返事をしてくれる。それだけでも彼にとっては天変地異に等しかった。

 この表現は人間には適さないかもしれないが、今の招木は何というか、毛艶がいい犬みたいな感じだ。

 入隊当時の病的な細さは改善され、頬の丸みは少女らしさを存分に発揮している。目つきも大分柔らかくなり、今も嵐山と目を合わせていた。そこに刺々しい感情は見えなかった。これまで全然目が合わなかったのに。

 そして何より嵐山の名前を呼んだ。何の用だと話を繋げた。明らかな対人コミュニケーションスキルの向上が見える。

 

「ええと、その。話がしたい」

「私と?」

「ああ」

 

 心臓をバクバクさせて震える声を抑えるようにしたせいか、思ったより低い声が出た。あ、俺緊張してると一瞬嵐山は思ったが。

 

「わかった。話そう。ここは人目が集まるから、移動してもいい?」

「え? あ、うん。そうしよう、……」

「じゃあいこうか」

 

 人目を気にするという今までだったら信じられない気遣いを見せられて、緊張どころの話ではなくなった。

 こっちに、と招木が先導する。迷いない動きだ。その後ろをついていきながら、嵐山は心の中で強く思った。

 ああ、まるで別人だな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 嵐山の人生に招木が登場したのは、第一次近界民侵攻のすぐ後だった。

 多くの近界民が攻め込み、二日で東三門あたりは壊滅状態。犠牲者1200人以上、400人以上が行方不明という未曾有の大惨事となったその町は、いまだ大混乱の真っ最中であった。

 当時嵐山が通っていた中学は、比較的被害を受けた生徒は少なかったが、それでも空席が増えていった。みんな県外へと転校していったのだ。

 いつまた近界民が襲ってくるかわからないし、情報が錯綜していたから人々の恐怖は広まるばかり。

 そんな中、招木がクラスの転校生として嵐山の前に現れた。

 

『あんな大災害の後に転入してくるなんて……』

 

 当時の招木の様子は、混迷の世の中であったことを抜きしても、かなりおかしかった。

 痩せ細っていて関節が目立っており目は暗い。ただその顔つきは、家族が近界民の被害を受けたクラスメイトにそっくりだった。

 だから嵐山は何となく彼女の事情を察して、無闇矢鱈に話しかけることはしなかった。誰とも話さない招木は教室で浮いていた。自己紹介がおかしかったからだ。

 

 そしてすぐに嵐山は家族を守るためにボーダーに入隊する。入隊希望者は当時珍しかったので、嵐山の話題は学校であっという間に広がった。

 もともと人望が厚い少年だったので、彼を誰もが応援した。

 ボーダー本部基地が完成して初めての、ボーダー隊員正式入隊日。期待に胸をドキドキさせて嵐山は周囲を見回し、目を開く。

 

『あ!』

 

 招木が立っていた。彼女は嵐山と同期入隊だったのだ。

 知らなかった。なんで教えてくれなかったんだろう。クラスメイトが同期か。なんだか心強い。……嬉しい。

 オリエンテーションが終わってすぐに招木に話しかけに行く。これから頑張ろう、と励まし合う関係になりたかった。

 しかし。

 

『誰?』

『えっ?』

『知らない……』

 

 あえなく撃沈した。招木は嵐山のことをクラスメイトと認識していなかったのだ。

 それでも諦めずに自己紹介をして、仲良くしようと握手を求めたが。

 

『……? 何なの、それ』

 

 招木は不可解な顔で背中を向けた。拒否されてしまったので、行き場をなくした片手で頬をかき、嵐山が困った顔をする。

 嫌われているな、と理解した。

 だからといって無理やり仲を改善したいとは思わない。彼女が望まないことはしたくないし。

 さらに柿崎という同い年の頼もしい仲間ができた。求めていた関係性の穴はすぐに塞がったのだ。

 

『へー、あいつとクラスメイトなのか』

『ああ。話したことないけど』

『おまえが? まあちょっと、いや大分近寄りがたいもんな』

 

 柿崎は「わかるかも」とちょっぴり笑う。

 嵐山や柿崎、また同期入隊の太刀川や三輪が順調にポイントを稼いでいく中、招木は低迷していた。

 彼女のトリオン量はそれなりにあったが嵐山と大差なかったし、戦闘技術が酷かったので有象無象の訓練生とほとんど同じだった。

 暗くて刺々しい印象も、三輪のように近界民を憎む隊員は珍しくなく、突出することはない。

 やがてボーダーでの日々に忙殺され、嵐山が招木を意識することはほとんどなくなった。

 

 

 

 

『この身がある限り、全力で守ります。家族が無事なら何の心配もないので、最後まで思いっきり戦えると思います』

『……!』

 

 モニターから自分の声がするなと思って顔を上げると、忘れかけていた輪郭が鮮明に浮かび上がる。

 招木が手元のタブレットで、先の広報イベントの映像を見ていた。新しく正隊員に加わった嵐山と柿崎が記者達のインタビューに答えているものだ。

 自分を嫌ってるはずなのに、なんで。嵐山が立ち止まる。招木は嵐山に気づいていない。ジッと映像を食い入るように見つめていて、根付のコメントのターンになると巻き戻した。

 

『次に大規模な近界民の襲撃があったら、街の人と自分の家族、どっちを守りますか?』

『それはもちろん家族です。家族を守るためにボーダーに入ったので』

 

 また自分の声が聞こえてくる。映像が流れて、巻き戻されて、また進む。

 家族。守る。無事。戦える。そんなワードが積み重なった。

 その様子を固まって見る嵐山に、じわじわと一つの仮説が生まれていく。

 もしかして、自分は嫌われていないんじゃないか。もしくはインタビュー動画のおかげで好感度が上がったんじゃないか。そんな希望的観測だ。

 どちらにせよ話しかけやすくなったのは事実。この機会を逃すわけにはいかない。勇気を振り絞って声をかけに行く。

 招木と普通に喋ってみたい。消えたと思っていた気持ちが蘇っていた。

 

『招木、』

『これが放送された当時、他の隊員たちの士気が軒並み上がった』

『んっ?』

 

 タブレットから顔を上げることなく、招木が滑らかに喋り出した。向こうから一方的に言葉を投げられると思っていなかったので、慌てて傾聴の姿勢になる。

 

『すごいと思った』

『え! あ、ありがとう』

 

 いきなり褒められるなんて。面食らった嵐山は後頭部をガシガシかいた。じんわりと胸に温かい気持ちが広がる。

 よかった、俺は嫌われていなかった。これなら友達になれそうだ。

 安心して笑顔をつくったが、敵意剥き出しの眼差しに射抜かれて顔が強張る。一瞬にして指先が冷えた。

 

『でも、私は到底君を受け付けない』

『!』

『その顔を見ると、イライラする』

 

 頬を殴られたような衝撃だった。招木が冷たく言い放ち、タブレットを置きっぱなしにして立ち去っていく。

 ここまでの悪意を人に向けられたのは初めてで、しばらくの間放心した。

 やがて我に返った嵐山は、タブレットに映る自分の中途半端な笑顔を見下ろす。電源ボタンを押せば画面が暗くなり、傷ついた表情の自分が見つめ返していた。

 

『……』

 

 それから嵐山が招木に話しかけることはなかった。

 完全に嫌われていたし、かといって謝るのも違うと思ったのだ。世の中には決して交わらない人間がいて、それがきっと彼女なのだろうと悲しく思った。

 進学して同じ高校に通うことになっても、二人が対面することはない。

 招木は相変わらず弱い訓練生のままだし、嵐山は広報隊員として注目を浴びる正隊員だった。

 ただ同期として仲良くなることはできなかったが、互いの目的のために努力していることだけは信じていた。

 

 

 

 

 

『ラッキーガール?』

 

 そして例の噂を知った。入隊歴の長い嵐山が何か知っていないか、気にかけている佐鳥と時枝が尋ねてきたのである。

 

『嵐山さん、聞いたことないですか? チートみたいなサイドエフェクト持ちがいるんですって!』

『チートって。そんな都合のいいものじゃないでしょ』

『迅さんのだってヤベーじゃん』

『まあ確かに?』

『運がいいって最高じゃん! 女の子にモテまくれるのかなー』

『いやその人女の人って聞いたし、モテてたらあんな孤立してないって』

 

 二人は中学で同じクラスになって仲良くなり、一緒に入隊してきたと教えてくれていた。同い年かつ同期でありながら、互いを鼓舞し合う素晴らしい友情を結んでいる。

 嵐山が最初に招木に求めていた関係だ。そうなれなかっただけに、時枝と佐鳥が少しだけ眩しい。

 ……というか、招木は幸運体質の能力を持っていたのか。知らなかった。本人の陰鬱としたイメージにはそぐわない。

 

『まあ、あまり噂に振り回されないようにするんだぞ』

 

 嵐山が穏やかに言う。今更自分が何かするには、あまりに二人の関係が冷え切っている。

 嵐山から招木に話しかけることはないし、逆も然り。二人はどこまでいっても学校・年齢・入隊時期が重なっただけの他人だった。

 新しい噂の中心になった彼女のことは気にかかったが、冷えた双眸が目に焼き付いていて、どうすることもできなかった。

 

 噂は次第に変化した。

 夢のようなサイドエフェクトを持つ隊員がいる。

 太刀川さんと模擬戦をして惨敗したらしい。

 幸運なんて大したことないっぽいよ。

 ヘンテコな挙動で試合を掻き回す変人だ。

 風間さんとも練習したみたい。

 諏訪さんに気にかけられてるんだって。

 木崎さんと走ってるのを見たことがある。

 

 そんな話を耳にするたびに、嵐山の心が騒いだ。

 彼の知っている招木という少女は、殺気だった印象で骨格が刃物のように鋭く、誰に対しても警戒心が強かった。

 そんな彼女が見知った人たちと対戦し交流している噂は、かなり信じがたい内容だったのだ。

 

『ちょっと聞いてよ准! こないだ招木ちゃんとご飯行ったんだけどー、って知らないわよね』

 

 ついには従姉妹の小南までもが彼女の話題を出してきたのである。

 ここまで来ると好奇心は抑えられない。封じ込んでいた「仲良くなりたい」という欲求がむくむく顔を出していて、嵐山はついに招木を探すことにした。

 そして冒頭の通り、あまりの変貌ぶりに激しく動揺したのだ。

 

 

 

 

 

 

「ここでいい?」

「あ、ああ」

 

 招木は人気のない場所に辿り着くと、くるりと振り向いて嵐山と目を合わせた。

 恐る恐る彼も見つめ返す。そこに敵意はなかった。

 今、招木と普通に対面している。それだけで緊張にも興奮にも似た何かが迫り上がった。

 

「私に話があるんだよね」

「そう、だな」

 

 正直話しかけるつもりはなかったので、口をついて出る言葉も途切れ途切れだ。

 まずい。どれだけカメラに囲まれても硬直することはなかったのに。思考がまとまらない。話したいことはたくさんあるのに、言葉にならない。

 嵐山は頭を真っ白にさせて、口をぱくぱくと開閉するばかりであった。その様子に痺れを切らしたのか、招木がずっと手を上げる。

 

「あの、嵐山。私から先に言ってもいい?」

「! どうぞ」

「うん。ありがとう」

 

 ありがとう!? あの招木が俺に感謝の言葉を放った! とんでもない衝撃に思わずよろめく。

 しかし驚きはまだ続く。こくりと頷いた後、招木が嵐山に頭を下げたのだ。

 

「!?」

「前に君を傷つけたことを謝るね。本当にごめん」

「は!? あ、いや、全然い、えっ!?」

 

 凄まじい取り乱し方である。しかしそのくらい招木の態度は別人のようだったし、招木と謝罪の二つの要素が結びつかなかった。前の彼女なら謝る前に立ち去っている。

 ずっと振り回されてばかりの嵐山。その苦労のせいでなかなか「いいよ」や「わかった」という言葉を言えず、事情を説明した方がいいのかなと招木がより詳細に語った。

 

「あの時は、あまりに自分の考えと違ったものだから君が受け付けなかったんだ。本当に、生理的に無理とはああいうことを言うのかな。うん、とにかく嵐山のことが苦手だったんだ」

「そ、そんなに言葉を尽くさなくていいよ。十分伝わったから……」

 

 あっ本当に嫌われてた。今は違うらしいけど、あの嫌われっぷりは本当だったんだ。

 嵐山がなんだか冷静になる。だんだん心が落ち着いていく。

 

「……いいんだ、前のことだし。それよりも俺は……ずっとおまえと話がしたかった」

「そうなの? 言えばよかったのに」

 

 さっくり返す招木に、言えるわけがないだろう、と口元がひくつく。大分話せるようになったとはいえ余計な一言はあるらしい。まあそのくらいの毒がなければ、記憶封印措置を疑うくらいだ。

 

「ああ、そうだな。恐れずぶつかればよかったんだ」

 

 きっと噂に出ていた人たちは、招木を恐れずぶつかった人たちだ。太刀川、風間、諏訪、木崎、小南など、嵐山の知らないところで招木には知り合いが増えた。 

 彼らにいい影響を受けたのだなと思う。だが嵐山も負けてはいられない。

 入隊初日からずっと上手くいかなかった。その分気持ちも強くなっている。

 空いた時間を埋めるように話をしたい。仲間や友人のように気楽なやりとりがしたい。

 

「知りたい。教えてくれ」

 

 そして一方的に嵐山がまくしたてるターンが続いた。ほぼマシンガントークである。招木は「うん」とか「へえ」とか返すばかりで、嬉しそうなのは嵐山だけだった。

 次に嵐山が質問して招木が答える時間がしばらく流れた。ほぼ一問一答形式で雑談と呼ぶには程遠いが、会話のラリーができる時点で感動する嵐山は気づかない。

 実に気になっていたサイドエフェクトについても深堀りした。

 

「じゃあ、自分にとって意味のある・利益のある事象の100%を引くというイメージで合ってるか?」

「そうだね。その事象に繋げるまでの行動が自分のスペックを超えていたら、変な形で出力されるけど」

 

 ものすごい能力だ。佐鳥が騒いでいたのも無理はない無茶苦茶性能である。

 勝負強い、読みが鋭い、勘が当たる。それの強化版みたいなものだろうか。無意識下での最善策を選択するとか。まあ毎回100%を引く時点でとんでもない合運だが。

 嵐山は少し沈黙して、ずっと聞きたいことを質問した。

 

「招木。君にサイドエフェクトがあるということはつまり、スカウトされてボーダーに入隊したのか?」

 

 いつから組織は彼女のサイドエフェクトを把握していたのだろう。自分はまるで知らなかった。寂しそうに嵐山が尋ねると、招木はあっさりと首肯する。

 

「うん。第一次近界民侵攻の後、ボーダーに保護されてそのまま」

「保護?」

「そう。家族全員殺されたから」

「……、」

 

 そうか、と嵐山が目を伏せる。

 そうだろうなと察していた。あの後学校に転入してきた彼女は、陰の差した瞳をしていたから。予想が的中したのに喜ばしいとは思えない。申し訳なさすら感じていた。

 

「あの日のことはよく覚えている。近界民が目の前にいて、周りにはたくさんの瓦礫と死体があった。家族は私に近づいて、それから……」

 

 招木が目を閉じる。

 

「私だけが無事だった。あの時、私が願った通りになったの」

 

 そして瞼を持ち上げて嵐山と視線が絡んだ。

 ゾッとするほど穏やかな目だった。

 

「ッ!」

 

 その瞬間、嵐山はとんでもない仮説を思いついた。

 爽やかな顔立ちから表情がごっそりと削げる。心臓がドッと大きく鳴って、足元がふらつくようだった。全身が総毛立ち、目の前の存在にピントが合わなくなる。

 フラッシュバックする言葉と記憶。

 

『この身がある限り、全力で守ります』

『家族を守るためにボーダーに入ったので』

『私は到底君を受け付けない』

『あまりに自分の考えと違ったものだから』

 

 信じがたいことだが。あまりに恐ろしい想像だが。

 家族を守りたいと願う嵐山の思想が、招木にとっての地雷だったとしたら。当時誰にでも無関心を貫いた招木が激昂するほど許せない感覚だとしたら。

 招木は家族を守りたいと思わず、無事でいることに強い拒絶感を覚えたのだとしたら。

 あの日。世界が地獄に変わった日。

 彼女は何を願ったのだろう。どうなることが自分の幸福だと認識したのだろう。

 近界民に侵攻されるより前から、ガリガリだった体つき。深い絶望を孕んだ眼差し。欠落した対人能力。生身では満足に走れなかった体。

 そして転校初日の自己紹介。

 

『私は神の子』

 

 全てが最悪の形となって、嵐山の頭の中で組み上がっていく。

 

「う、」

 

 怯えた顔で後退りした。一瞬でも恐ろしい妄想をしてしまった自分に驚いた。

 いや。……いや、違う。そんなはずはない。

 彼女のサイドエフェクトは幸運体質。本人にだけ適用される幸運を引き起こすもの。他者の死を導くなんてこと、あるわけがない。

 ───彼女がそう行動しない限りは。

 

「ぅあ、」

 

 たとえば。近界民に襲われそうになった時、家族が死んだらいいなと願ったら。それが彼女にとっての利益になるのだとしたら。

 家族が近界民に殺されるよう、逃げ惑う彼らに手を伸ばして妨害すれば、たまたま近界民の攻撃が当たるとか。

 あるいは転んだ彼女を助けようとして庇ったとか。

 過程はどうだっていい。結果が全てだ。彼女の家族の死を自分の都合のいいように解釈していないか? 嵐山はそう何度も自問する。

 芽生えた招木への明確な猜疑心。仮説が外れていたら、ごめんで済む話ではなくなる。人を殺したかどうかを疑っているのだから。

 

「───、」

 

 大事なのは、招木が家族に死んで欲しいと願ったかどうか。家族の死はサイドエフェクトによるものなのか。

 突拍子もない。どうかしている。

 そう完全には切り捨てられなくて、血の気が引いた。一気に恐ろしくなって身震いする。

 

「大丈夫?」

「っ、」

「顔が真っ青だよ」

「いや、……平気だ。急にすまない」

 

 招木は嵐山を心配して声をかけてくる。ビクッとしたが、ぎこちなく表情を取り繕った。

 

「それで、どうするの?」

「っなに、が」

「私と友達になりたいって言ってくれたよね」

 

 瞠目する。言った。マシンガントークの時に言った。ずっと友達になりたかったのだと。こうやって話ができて嬉しいと。

 その時は念願叶った気持ちで舞い上がっていたから。

 

「友達になる?」

 

 招木が手を差し出す。

 入隊式の時にはくれなかったもの。ずっと欲しかったもの。それが、今。よりにもよって、こんなタイミングで。

 変な感じに全身に力が入る。

 どうしよう……と戸惑って。

 すぐにここ一番で全てを飲み込み、嵐山は完璧な笑顔を貼り付けた。

 

「ああ! よろしく頼む!」

 

 にか! と太陽のように笑って、ぐっと握手を交わしたのだ。

 嵐山には守るものがある。家族だ。そのためにボーダーに入った。この世のあらゆる危険から家族を遠ざけるために。

 守るもののために揺るぎない強さを発揮できる、芯の通った男だった。だから不安や怯えを押し込めて、悠然と振る舞った。

 

「今日から俺と招木は友達だ」

 

 招木が目を細めた。笑顔ではないが、嬉しいと十分伝わってくるやわい表情だった。

 ……もし彼女が家族に死んで欲しいと願ったなら、そのサイドエフェクトはあまりに危険だ。

 もし「世界が滅べばいいのにな」と思ったら? 絶対にないとは言い切れるか? 

 日々彼女は成長している。太刀川や風間の攻撃を躱し、当てられるようにと実力を伸ばしている。そのうち破滅に繋がる事象を引いてしまったら?

 可能性がある限り、嵐山が招木を見逃す理由はない。

 

「うん。友達。よろしくね、嵐山」

 

 もし招木が自分の家族を害する存在になってしまったその時は。

 そうならないように、導かなくては。

 きっと彼女は被害者だ。憐憫を悟られてはならない。

 

「俺は幸せ者だな」

 

 嵐山は穏やかに言う。

 純粋な気持ちで友達になりたかった頃とはもう状況が変わった。そこまで彼が純粋になるには、あまりに背負うものが多過ぎる。

 

 

 







なんか嵐山さんが大変なことになっちゃった。賢い人は大変。
爽やかで精神が安定している人は崩してなんぼですよね。

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