香取は攻撃手→銃手→万能手とポジションが変わっており、今回の時系列では現在は銃手ということになっています。
「ボーダーのみなさん、こんにちは。海老名隊オペレーター、武富桜子です! いよいよB級ランク戦ROUND4が始まります!」
弱冠14歳にして、ランク戦実況解説システム運営主任である武富の声が、会場に心地よく響いた。
ボーダーの新たな取り組みとして、今期からB級ランク戦に実況と解説がつくことになっている。
そして現在はラウンド4。下位・中位・上位の各ランク帯で昼の部・夜の部ごとにランク戦があるので、ラウンド3を終えた今、既に18試合分の実況解説が行われたことになる。
そのため導入当初に漂っていた手探りの雰囲気はすっかり消えていた。
突発バトルロイヤルで飛び入り実況をした武富は、C級の頃から技術者と上層部に粘り強くプレゼンをし続け、ついに念願叶って実況システムを作り上げることができた。
だから一戦一戦に込める熱量は凄まじく、それは解説役に呼んだ二人にも伝わっている。
「本日の解説者は、ボーダーの広報部隊こと、嵐山隊の隊長、嵐山隊長!」
「どうぞよろしく」
「そして諏訪隊のラッキーガールでおなじみ、招木隊員です!」
「どうも」
紹介された二人が頭をぺこりと下げる。ボーダーいち有名なカップルが並んだことで、会場はどよどよと騒がしかった。
嵐山と招木が交際していることは公然たる事実であり、せっかくだからお二人セットで! という流れからこの場が出来上がったらしい。
しかも日付にも何かしらの意図が感じられる。ちょうどこのシーズンのROUND4前後はバレンタインと重なる日程になり、今日はバレンタインデーの翌日だ。
バレンタイン。最近付き合い始めたカップル。外野が下世話な妄想をするにはうってつけの話題性があった。
誰かあの二人にその話題をぶつけないかな、と訓練生たちは心の中で期待している。
「転送まであとわずか! MAPはすでに市街地Cが選択されています!」
しかし武富はそれらを綺麗にスルーし、自分の仕事に専念している。
それもあってか、嵐山は普段以上に丁寧に振る舞うことを心がけていた。解説役としてまずはMAPの解説に入る。
「市街地Cは狙撃手有利なステージですね。道路を間に挟んで階段状の宅地が斜面に沿って続く地形です。登るにはどこかで道路を横切る必要があるので、狙撃手が高い位置を取るとかなり有利です」
そこで一旦言葉を切ると、ちょうど良いタイミングで招木が口を開いた。
「逆に下からは建物が邪魔になり、身を隠しながら相手を狙うのが難しいです。射程がなければなおさら。だから狙撃手を二人揃えている荒船隊にとっては有利ですね」
「……!?」
観客席にて招木の初解説を聞きに来ていた諏訪が無言で驚いた。
あの招木が敬語を使っている!? 普段誰に対してもタメ口呼び捨てのくせに? つか敬語とか使えたのか、知らんかった。俺は一度も敬語を使われたことがないから。
ソワッとして落ち着きがなくなる隊長に苦笑した堤が、こそっと言う。
「招木、解説について相談してましたからね。一緒に解説に回る嵐山を参考にすればいいってアドバイスが、まさかこの形で出力されるとは」
「俺らが言ったのは中身の話だろ。ガワを真似てどうすんだよ」
「まあいいじゃないですか。これはこれで。思ったより様になってるし」
二人はまるで授業参観に来たお父さんみたいな気分だった。招木の発言に「おっ」と沸き立っている。
なんであれうちの人間が活躍するのはとても嬉しいことなのだ。
「まー、あの調子なら大丈夫そうだな。いらん一言ポロッと言うかと思ったけど。何かあっても嵐山がフォローするだろ」
諏訪はすっかり安心しきって背もたれに身を預け、脱力した。ラフに楽しむ姿勢になる。堤も穏やかに笑って似たような雰囲気を醸し出すが。
「逆に狙撃手のいない部隊にとってはクソMAPです」
招木がズバッと言い切った。明らかにどこかの誰かさんの言い方にモロに影響を受けている。
突然ぶっ込まれたいらん一言にザワっとする会場。即座にフォローに入る嵐山の声が遠くに聞こえてくる。
諏訪は頭を抱えていた。堤はそんな諏訪を気遣うように見ている。
「諏訪さん……」
「いらん一言の原因俺だった……」
「中身まんま諏訪さんじゃないですか」
「言うな、この空気俺のせいになるだろうが」
だけどちょっぴり嬉しい。
諏訪は喜びを隠せていないニヤケ面で招木の後頭部を見下ろした。
「お二人とも、今日はお忙しい中ご協力くださりありがとうございました!」
「こちらこそ。良い経験になったよ」
「うん。武富の実況も面白かった」
ランク戦終了後、観客がいなくなった会場にて武富が元気いっぱいにお礼を言った。二人が穏やかに応じる。
実際良い勉強にもなった。リアルタイムで繰り広げられる局地戦を、訓練生にもわかるように言語化して伝える。それには脳みその色んな部分を使うから、招木は正直疲れてしまった。
普段から那須隊や笹森など比較的入隊時期が新しい隊員を指導していたが、ピカピカの訓練生となれば話は別だ。
話を噛み砕き、かつ初手でやらかした失言のこともあり、発言にずっと気をつけていたからクタクタだった。
嵐山の適切な解説がなければ招木一人ではとてもこなせなかっただろう。
「ここって飲食OKだったよね?」
「ああ。前のラウンド、迅がぼんち揚を食べながら解説してたぞ」
「またあの男は。……こんなこともあるかと思って余りのチョコを持ってきてたんだ。武富にもあげる」
「えっ、いいんですか?」
「しばらく運営主任で忙しいと思うし、休憩時間はちゃんと休むんだよ」
「わーいっ、嬉しい! 大事にします!」
「大事に食べてね」
「えへへ、はいっ」
招木が簡易ラッピングされたチョコレートを武富に渡すと、可愛らしく喜んでくれる。その様子に微笑ましさを感じながら、自分の分を袋から取り出して一つ口に含んだ。「あま」と招木が目を閉じて言う。甘さが脳に沁み渡る。
溶けてしまったチョコレートを追加するように、もう一つを指で摘む。そのまま二個目を食べようとしたが。
「芽依。俺のは?」
嵐山が招木の肩をツンツンと指で突いて自分の顔を指差した。
「昨日あげたでしょ」
「ダメか?」
招木はパチリと一度まばたきをすると、自然な動作で摘んだチョコレートを嵐山の口に押し込む。
目の前でさらっと行われた恋人同士のスキンシップに、武富がポッと頬を染めた。
「きゃっ」
「あ。ごめん、昨日のくせで」
「き、きのう?」
「悪いな。気にしないでくれ」
チョコレートを舐める嵐山が眉を下げて笑った。武富はドキドキして「昨日のバレンタインで何があったんだろう」と気になってしまう。
さっきまでは実況解説の時間だったから皆が意識している話題にまったく触れなかった。けれど今は休憩時間のようなもので、この場にいるのは三人だけ。
招木も嵐山も無理に隠している感じはない。聞いてもいいのかもしれない。
「すまない。そろそろ時間だ。俺は先に戻るよ」
「わかった。お疲れ様。フォローしてくれてありがとうね」
「お疲れ様です! またよろしくお願いします!」
「お疲れ様。解説役、いつでも呼んでくれ」
招木が持ち込んでいた手作りチョコレートをすべて受け取ると、爽やかに笑って嵐山が先に部屋を出ていく。
残された招木には直近の予定はしばらくないが、武富も忙しいだろうしと解散する素振りを見せる。
しかし乙女の武富が指をもじもじ動かしながら、とうとう好奇心を抑えきれず口を開いた。
「あの〜、これは好奇心なので、嫌だったら全然答えなくていいんですけど」
「どうしたの」
「昨日のくせって何ですか? バレンタイン、やっぱりお二人で過ごしたんですか?」
そんな質問をされるとはまったく思っていなかった招木は、少し考えるように腕を組んでから。
「二人で過ごしたし、准には家族と一緒にくつろぐ時間もあげたかな」
「は、はぁ」
「くせについては……その、くせになるくらい、繰り返したってだけだよ」
「きゃーっ」
「あまりこういうことは言わないほうがよかったかもしれないね」
「言いません誰にも!」
「ありがとう。お礼にジュースを奢っちゃおう」
年齢にそぐわないランク戦実況解説システムを運営する責任感に急かされていた武富だったが、今この瞬間だけは一人の女の子に戻り、甘いココアとチョコレートを手に、恋バナに花を咲かせるのだった。
─────────
「あんた……」
ショッピングモールにて香取と対峙する招木は、何やら不穏な気配を感じ取った。モールというが彼女らがいるのは本物の場所ではなく、再現された街だ。
B級中位のランク戦にて、選択されたのは市街地D。
MAP自体は狭いが建物がどれも大きく、縦に広いステージとなる。大型ショッピングモールの中もそこそこ広い空間があり、屋内戦が発生しやすいMAPと言える。
そして通常通り、このラウンドでも屋内戦が勃発した。
移動中だった招木は、目の前に飛び出してきた香取と即座に距離をとりキューブを散らした。
「香取か」
「ちょうどいいわ。ぶち抜いてやる」
招木がバイパーを放つと同時に、香取がシールドを展開しながら拳銃で反撃する。
今頃実況席は諏訪隊・香取隊のエース対決に沸いている頃だろうが、二人の間に広がるのは苛烈な空気感である。香取からは剣呑な視線が向けられ、招木は無関心の顔であった。
これには理由があり、以前から招木は香取に嫌がられていた。
加古の弟子だからである。
『私の部隊は頭文字"K"で揃えたいの』
加古は自分の部隊を頭文字「K」で揃える独特の美学を持っており、「K」で才能のある子を見つけると声をかけずにはいられない。
個人で光を放つタイプが好きなので、小南や影浦、木虎、風間、はたまた鬼怒田までも勧誘している。
しかし香取は誘われていなかった。開発室長がOKなのにアタシはスカウトされないの? という苛立ちを抱えており、それは弟子である招木に突き刺さっていた。
「鬱陶しいのよ、ずっと……!」
香取が強い恨みのこもった眼差しで招木を射抜く。ただでさえ目の上のたんこぶだったのに、最近は嵐山の彼女になったそうじゃないか。
香取の大親友の染井が嵐山のファンだから、それも気に食わなかった。
染井が嵐山のファンになったのは、入隊試験の際、突然取材を仕掛けてきた報道関係者からさりげなく守ってくれたことがきっかけだった。それ以来、ずっと憧れ続けている。
だからこそ香取が「あの人彼女できたみたいじゃん」と話を振った時、染井があっさり「祝福する」と答えたのが、どうにも面白くなかった。もし烏丸に彼女ができたら香取は素直に祝福できる気がしないからだ。
華。どうして平然としていられるのよ。
どうしてアタシだけが、こんなにイライラしなきゃいけないのよ。
なんであんたはいつもいつも───アタシたちが気にしてる人の、大切なところにいるのよ。
「ああ、もう! 普通に戦ればアタシが勝つのに!」
ドッドッ、と腹の奥底に響くような銃撃音を響かせる。しかし招木はシールドを展開せずにそれらを見切って軽々と回避した。
「その通り。私は君より弱い。でも運の要素で負ける気はしないな」
「……は?」
次の招木の行動に、香取のこめかみのあたりがピクリと引き攣った。
なんと招木は両攻撃でバイパーを放ったのだ。防御を完全に捨てて攻撃で押し切ろうとしている。
ここはショッピングモールの中。他の階では別の隊員たちが戦っている。バッグワームで隠れる者もいるだろう。それなのに招木は警戒をやめた。香取を仕留めることだけに集中し出した。
それはつまり、香取の攻撃などわざわざシールドを出す必要がないということ。このターンで倒せると判断したということ。
これらを招木の凄まじい煽りだと彼女は受け取った。しかも渾身の攻撃をあっさり躱されるのも腹立たしい。
「!」
縦横無尽な弾道が香取の視界を埋め尽くす。威力・射程・弾速・弾道の全てを個別に設定した、通常の倍の変化弾が大群となって香取に襲いかかった。
しかし。
「舐めるのもいい加減にしなさいよ」
床を蹴って招木から離れた香取は冷静にシールドで防ぎ、拳銃で弾を撃ち落とした。
両攻撃だろうが招木の攻撃力なんてたかが知れている。致命傷を負わせることもできないくせに、安易に弾数に頼るなんてお粗末だ。
相手が回避能力の高さに優れていても、こちらだって攻撃力の高さには自信がある。
一度招木の攻撃を捌き終えると、今度は香取の猛攻が始まった。グラスホッパーを駆使して的確に相手を翻弄する動きをする。
「ほら。アタシはあんたなんかに倒されない」
「うん。私じゃ足止めだけで精一杯だ」
「……」
こうやって淡々と認めてくるのも腹が立つ。招木程度の実力で自分が足止めされてるのもムカつく。
早く倒し切って他のところに行きたいのに。
「逃げないでね」
「は? 逃げる? アタシが? あんたから?」
面倒だから撒こうとした途端、動きの変化に気づいた招木に指摘され、香取は頭に血がのぼった。
逃げるつもりはない。このままだと決着がつかず時間を浪費させられるだけだから、ロクに有効な攻撃もできないくせにズルズルと戦闘時間を引き延ばしてくる招木を引き剥がそうとしただけだ。
戦略的に撒こうとしただけ。倒せないから逃げるわけじゃない。
それなのに招木のたった一言に、あっという間に心が掻き乱される。
「上等よ。気づいてないとでも思ってんの?」
屋内戦は他の階でも起こっており、レーダー上では香取の近くに招木を含めた複数のアイコンが表示されている。
パッと見ではどの階に誰がいるかわかりづらいが、三浦や若村が遭遇したのを含めて染井がタグ付けしてくれているので、消去法で大体の相手はわかった。
「さっきからアタシの視界を奪うようにバイパーを撃ってる。弾道も複雑に見えて、一人分綺麗に空けてるのがわかった。そこにいるんでしょ? カメレオンで隠れてる新人が!」
「!」
言い終わると同時に香取が狙いをつけて狙撃すれば、攻撃を中断した招木が遠隔シールドを展開した。何もいない空間が守られ、弾丸が防がれる。
立体的なショッピングモールでは、レーダー上の位置が合っていても、同じ階にいるとは限らない。けれど招木の動きと必ず空けられた弾道を見れば、そこに笹森が潜んでいると考えるのが自然だった。
ニッと強気に笑う。
「ほらね。お粗末なのよ、何もかも」
笹森の場所はわかった。諏訪隊にカメレオンを装備した新人が入ったという情報と、今の招木の動きで、間違いないと判断する。
となれば弱いやつから先に落とす。招木が邪魔立てをしてくるだろうが、香取にとっては招木を直接倒すよりも、ちょっかいをかけられてでも他のやつを倒す方が楽なので、そっちを選んだ。
グラスホッパーを張り一呼吸の間に詰め寄る。逃亡の隙を与えない即座の判断力が香取の武器だ。
───そしてそれが、致命的だった。
「!?」
笹森がいると断定した位置に香取が弾丸を撃ち込むと、それらはそのまま床を破壊するだけだった。
空振り? 逃げられた? いやそんなわけない。レーダーの位置は合っている。
でも当たらなかった。他のトリガーで反撃もしてこなかった。
アタシは何を撃った?
「っ、」
一瞬の戸惑い。その隙に横殴りのバイパーが叩きつけられ、そちらにぐるりと顔を向けた香取が咄嗟にガードする。
招木の顔を忌々しげに睨む。その香取の背中から、
「日佐人!」
「了解ッ」
「───!」
バッグワームを装備した笹森が出現し、香取の首を鮮やかに刎ねた。
驚いた顔の香取が緊急脱出し、ドン、と煙が発生する。招木と笹森がロータッチし、すぐに駆け出した。
「一点とってくれて助かった」
「招木さんがお膳立てしてくれてたからです」
「それでも辛抱強く隠れてくれないと無理だったから、君の得点だ」
「いえ、そんな」
謙遜しつつも笹森は嬉しい顔を隠せていなかった。その様子に招木は目尻を和らげる。彼に点を獲得させてあげられたことにホッとした。
笹森にも自分と同じように諏訪隊を選んで良かったと思って欲しいし、それには手っ取り早く勝たせてあげることが大事だ。
香取のような実力者をその手で倒せたことは、何よりの自信になる。
『二人とも、つつみんが限界っぽい。迎えにいったげて』
「了解。トドメは日佐人に任せるよ。私が囮になるから、奇襲お願いね。メテオラの置き弾もそのうち発動させる。巻き込むつもりはないけど注意して」
「はい!」
諏訪隊の二人が堤のもとまで走り抜く。その様子をモニター越しに見る香取が「おかしいでしょ!」と大きな声を出した。
ランク戦中に緊急脱出すると作戦室にて目が覚める。すぐにオペレーターのサポートに回ることが可能だ。
この試合、最初の脱落者となった香取はどうしても自分がやられたことが認められず、作業する染井の肩を掴んでいた。
「はぁ!? なんでアタシが落とされたのよ!」
「多分、葉子を斬った子はずっとバッグワームでレーダーに映らないようにしてた。葉子が彼だと思ったのは、別の階で戦う諏訪隊の誰かじゃないかな」
染井がPCから一切目を離さずに答える。香取はレーダーの位置に完璧に合わせて狙撃したのに、笹森が出現したのはそれとは全く別の方向だった。
つまり最初から別人だったと考えるのが自然だ。
市街地Dのショッピングモールは立体的だが、レーダーは平面的であり、アイコンで表示されてもそれが何階までかはわからない。
そのくらいのことは香取の頭にも当然入っている。だから納得がいかなかった。
「別の階!? でも、あいつはわざわざシールドを展開して、」
「それもブラフだった。……今は麓郎くんたちに集中しないと」
「! そう、ね」
試合はまだ続いている。香取隊が諏訪隊より上位にいけるかどうかは、生存している三浦と若村にかかっている。
染井に冷静に言われた香取は、すぐに思考を切り替えて指示を飛ばした。
自分が新人にやられたのはムカつくが、それ以上に香取隊として諏訪隊に負けるのが、もっと嫌だからだ。
─────────
「さて、香取隊長が落とされた原因についてだけど。太刀川くん。真面目にね」
「はい」
ランク戦の観戦会場にて、試合が終了したので実況と解説が局地戦の分析に入る。
今回の実況は武富の代わりに月見が担当した。おかげで解説役が三人になったようだった。
その月見に静かにお願いされ、太刀川がちょっぴり萎縮した声を出す。
「えー、まず香取がレーダーに映るアイコンを笹森と即断してたが、ありゃブラフだ。上階で戦ってる堤のだな。笹森はずっとバッグワームで隠れてた。招木にまんまと誤認させられたわけだ」
「誤認というと?」
「両攻撃でバイパーをムチャクチャに引いてたろ。招木のバイパーはいつもあんな感じだから違和感を感じにくいが、あの場で両攻撃する意味は目眩しだけ。香取はそれをカメレオンで隠れた笹森から意識を逸らすためと決めつけた。でも実際はレーダーにかぶる位置でわざと一人分空け続けてたわけだな」
回避能力が高いといえども限度はある。香取を相手に防御を捨てたのは、舐めているからではなく、かなり警戒してるからだ。
あの時点で招木は香取を倒す算段をつけていた。
太刀川がそのように解説する。
「香取の狙撃をわざわざ招木が防御したのも、そこにいると確信させるため。最後にバイパーで香取の注目を集めて、確実に笹森が落とせるようにした」
「最初から最後まで油断しなかったということね。香取隊長への警戒度が見えるわ。彼女の判断の速さも逆手にとった作戦だった」
「じっくり考えるタイプが相手だったら、レーダーと動きが厳密には違うのに気づかれてたからな。スピード勝負が裏目に出たわけだ」
その解説を太刀川の隣で聞いているのは来馬だ。
彼もまた解説役で呼ばれていたのだが、横二人があまりに解説役として適任過ぎて(太刀川がふざけないように月見が目を光らせている)、半分リアクションも担当するような立場にいた。
月見と真面目モードの太刀川では場に緊張感が生まれる。攻撃手No.1に返り咲いた男というのは、訓練生にとってそれだけで威厳があった。
だから来馬が優しく穏やかに包み込むようにしてバランスをとっていた。観客席にいる訓練生たちは皆来馬に感謝の念を送っていた。
「勝負を決めるのは戦力・戦術、あとは運だ。そしてボーダーの中で、運で招木に勝てる奴は一人もいない」
「おお……! サイドエフェクトがあるからだね」
「今回で言えば戦術と、あとは人数差で戦力がギリ上回ったって感じだな。招木一人じゃ香取を落としきれない。だから笹森を使った」
「招木隊員が香取隊長の注意を引きつけて、笹森隊員が仕留める方針だね」
来馬が時折情報を付け加え、柔らかい言い方に変換していく。今回の試合中ずっと繰り返されるそれは、いつしか潤滑油の役割を果たしていた。
おかげで気持ちが楽だ。絶対に空気を悪くしないという信頼がある。
月見と一緒だったからどうなるかと思っていたが、来馬がいてくれて助かったな……と太刀川はのんびり頷く。
「そういうことだ。招木が全部やったわけじゃねえ。笹森が最後まで隠れて、仕掛けるタイミングを逃さなかったから成立したな」
「なるほど。お互いの得意なところを生かしたんだね」
「運だけでも、戦術だけでもねえ。全部揃って初めて勝てた試合だ」
諏訪隊、香取隊、那須隊を含めたランク戦を制したのは諏訪隊だった。この中で唯一のフルメンバーである諏訪隊が有利だが、それだけでは片付けられない戦いがある。
個人の実力だけでは届かない勝利を、戦術と連係で掴み取る。
それこそがチーム戦の醍醐味だった。
これ書いた後にどの部隊が市街地Dを選んだんだろとなりました。
狙撃手対策のMAPなので狙撃手のいる那須隊が選んだとは考えにくい。となると今回初参戦にして調子よく得点を稼いで順位を上げてきた那須隊に刺すべく、香取隊や諏訪隊がMAPを選んだ可能性はありますね。
もしくは実は四つ巴戦で描写のないもう一部隊が選んだとか。
ランク戦を最初から最後まで書いてみたさはありますが、そうなると考えることが多過ぎて絶対に書き上げられないのでこんな形になりました。
改めて原作でランク戦をきっちり書き上げて、なんなら40人vs55人を書いてる原作者はとんでもないなと思いました。