あっ幸運体質だ、ラッキー!   作:睡眠人間

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指導

「招木……なんかおまえ、」

「何?」

「いや……それウマいか?」

「うん。美味しい」

 

 招木がバナナをモグモグ食べている姿を見て、諏訪はとある言葉を飲み込んだ。

 おめー最近太ったな、という女子への禁句ワードを。

 最近いつ見ても何かを食べている気がする。鶏胸肉とかブロッコリーとかゆで卵とか筋トレに向いている食事メニューから、ハンバーガーとかピザとかラーメンとかの背徳メニューまで。

 おかげで招木の体つきがどんどん丸くなってきている。出会った初期はものすごく痩せていたから、あまりの変化にこちらがたじろいでしまう。

 これでは懐いてきた犬どころかデブ犬に片足突っ込んでいるみたいだ。

 

「木崎に何を食べればいいか聞いたら、体力をつけるためにも高タンパク質を摂取しろって。けどそれだけじゃモチベーションが続かないから、好きなものも食べろって」

「それでバカ正直にブタみてーに食ってんのか」

 

 やべぇブタみたいって言っちゃった。

 露骨に顔を引き攣らせた諏訪だが、招木はまるで動揺していない。

 

「だって食べたことないものばかりだったから、止まらないんだ」

「前アイス食いまくってたのもそういうことかよ」

「最近ずっと小南や嵐山とご飯行ってるから、胃が大きくなったのかな。食べても食べてもお腹が空く」

「減量しろ」

 

 まずい。このままだと招木がデブ犬になってしまう。そうなると諏訪は犬の世話もまともにできないアホ飼い主になるだろう。

 運動を日課にしている招木は、一人で取り組むこともあれば、木崎や嵐山ともタイミングを合わせてランニングや犬の散歩に行っている。諏訪も時折付き合うようにしていた。だがそれだけでは相殺できないカロリーを摂取しているようだった。

 多分こいつトリオン体のままでもガンガン食ってるだろ。食堂でもすごい見かけるし。

 

「よし招木。ダイエットだ、ダイエットすんぞ」

「ダイエット」

「痩せろ。このままだと戦闘にも影響出る」

「わかった」

 

 こくり、と頷いて招木は最後の一口を飲み込んだ。

 その素直な様子に、逆に諏訪は不機嫌そうな顔になる。

 

「わかったって……なんでそう全部言われたことに従う。オメーにゃ断る権利がある。俺が言ったからって言われた通りにする必要はねーよ」

 

 前々から気にしていたことだった。

 招木は諏訪に言われたことを断らない。生身を鍛えるためと突然木崎を連れてこられた時も、弱音ひとつ吐かずに従った。

 これが諏訪には疑問だった。ブタと呼ばれても怒らないし、何を言われても感情が乱れることはない。

 例外は、初対面で諏訪が地雷を踏み抜いた時だけだった。

 

「諏訪は物好きだから、私にとって大事なことを教えてくれる。だから受け入れるべきだと思う」

 

 招木の答えは淡々としていた。資料を読み上げるみたいに機械的である。

 

「それに諏訪と話すようになって、私は今すごく満たされている。こんなに日常的に人と話すようになったのも、ご飯を食べるのも運動できるのも、私にとっては幸運そのものなんだよ。君たちにとっては当たり前なんだろうけど」

「……。……なんで俺なんだ? 他にも気にかけてるヤツはいんだろ」

「君は私に、持っているものを誇ればいいと言った。それがすごく嬉しかった。見せ物にしたことを謝ってくれたし、関わりを持とうとしてくれた」

 

 あの時の諏訪の行動が、招木にとってクリティカルヒットしたらしい。だから招木は諏訪によく懐き、彼が紹介するもの、人、情報全てを信頼しインプットしているようだ。

 そのこと自体は、まあ、いい。懐かれてるのは悪い気はしないし。諏訪が招木に情がわいているように、招木も諏訪に親しみを覚えているのだろう。多分兄貴分とか師匠とか先輩としてではなく、親みたいな気持ちなんだろうけど。

 だけど、だからといって言われたことを100%承諾すべきとは思えなかった。

 

「俺を信じているのはよ〜くわかった。わかったけど、やっぱ受け入れるべきとはならねーよ。自分で考えた上でのことなら文句はねーけど、招木は脳死で言うことに乗っかってるだけだ」

「脳は死んでいないよ?」

「たりめーだろ。思考停止っつー意味だ」

 

 招木は諏訪と出会ってから、自分で何かを考える機会を減らしてしまったようだった。

 彼に言われたからトレーニングをしているし、ダイエットもするらしい。基本的に人間関係は受け身で、誘われたらOKするというスタイルで自分から何かをしようとはしなかった。

 初めは「対人関係がヤバいぐらいヘタクソだからか?」と思っていたが、改善されてきた現在も傾向は変わらずだ。

 となるとこれが招木の本質なのだろう。

 自分から何かをするという選択肢が頭に浮かんでこない。それが許される環境にいた。あるいは、そう"育てられてきた"人間だ。

 

「……」

 

 こうして一緒に過ごすようになってから、諏訪は招木の過去に暗いものがあることを察していた。だが不用意に突っつく必要はないと考えている。

 過去を無理やり暴きたいとは思わないし、今の彼女が幸せに生きているのならそれでいいと思ったのだ。

 それはそれとして指摘すべき部分はするが。

 

「おまえ昇格目指してんだよな」

「うん」

「つーことは防衛任務にも入るし、いずれは部隊にも所属する気なんだよな」

「そうだね。幸運体質というイロモノを引き入れる豪胆な人がいればだけど」

 

 招木の目標はB級昇格だ。

 諏訪と出会う前は、誰かに話しかけることもなく黙々と訓練に励んでいたらしい。一人で記録を見て勉強はしていたが、学びを発揮するトリオン体の操作がボロボロなので、結果は振るわなかった。

 努力の方向性が間違っていたのだ。だが彼女は人に相談する発想がなかったし、彼女を気にかけるような誰かもいなかった。ずっと足踏みしていたのである。

 だから諏訪をきっかけに風間と出会い、正解の道筋を走れるようになったのは幸運だった。結果は着実に出ている。時間をかければポイントも貯まってB級隊員になれるだろう。

 だがそれだけだ。

 

「じゃあこの際ハッキリ言うぞ。今のおまえは、どの部隊にもいらねーよ」

 

 厳しい言葉に、やはり招木はぱちりとまばたきをするだけだった。

 

「防衛任務も任せられねーから、おめーの役目はなしだ」

「どうして? B級に昇格すれば、シフトに入るし隊も組めると聞いたけど」

「ルール上はな。だが、わざわざ招木と組む物好きはいない」

「諏訪も?」

「ああ。俺もおまえとは組みたくない」

 

 すると招木がクッと眉根を寄せる。悲しそうな表情だ。

 全幅の信頼を寄せている飼い主に裏切られた時の顔。ぐさっ! と罪悪感が胸に突き刺さるが、それでも心を鬼にする。

 物好きには物好きの線引きが存在する。

 全部を懇切丁寧に教えるのではだめだ。成長するには自分の足で立つ必要がある。いずれ二本足で歩けるように導くのが自分の役目だと、諏訪は思っていた。

 

「それは、私がサイドエフェクトを持っているから?」

「違う。そういうのとは別の話だ」

 

 招木は幸運体質のことを好ましく思っていない。だからその能力をズルい・便利そう・羨ましいなどという言葉ではなく「持っているものを誇れ」と言った諏訪を気に入っている。

 それに諏訪は幸運体質を評価している。今回はそれを抜きにした、隊員としての招木の評価の話だった。

 

「おめーとはある程度普通に会話できるようになったけどな。日常生活のコミュニケーションと戦場でのコミュニケーションは全くの別物だ。おまえが培ってきたのは前者。圧倒的に欠けているのが後者」

「別物? コミュニケーションに違いがあるの?」

「目的に差があるってことだ」

 

 日常でのコミュニケーションは、ざっと言えば親しくなることを目的としている。

 だが戦場では全く別の意図に変わる。戦場ではあらゆる情報が重要だからだ。

 味方と敵の位置、武器の種類、地形、戦闘の目的、逃走経路、移動予想、戦術展開など、隊員たちは瞬時に判断して情報として把握する。

 それらを共有することを戦場でのコミュニケーションとし、連携して敵にあたるのだ。

 

「で、だ。おめーの記録を見たけど、そういう報連相がほとんどできてねー」

「……」

「けどな、喋るのが苦手だからそうなってるわけじゃない」

「?」

「招木。おまえ自分から情報掴もうとしてねーだろ」

 

 目の前の少女の頭が揺れた。

 招木は知らなかったことを指摘されて、そうなのかと受け入れて改善する素直さがある。だから「こんな言い方をしたら傷つくかな……」とか悩む必要はなかった。

 太刀川や風間にボコボコにされても、きついトレーニングに逃げ出したいと思っても、招木は投げ出さず最後まで諦めずに取り組む。

 それをずっと見てきたから、諏訪は信頼して言葉をぶつけることができた。

 

「言われたことに従う。質問されたら答える。素直でいいことだ。でもそれは自分から何を伝えるべきかを考えてねーってことになる。相手に全部委ねてるだけ。さっき言った思考停止だな」

「思考停止……」

「ひとつ聞くが。招木、おめー防衛任務を何だと思ってやがる」

「近界民を対処する任務」

「違げーよ。あれは人を守るための任務だ」

「!」

「人ってのを、市民や仲間に置き換えてもいい。一番重要なのは、誰も死なないこと」

 

 一部の訓練生の誤解……というか偏った認識を、やはり招木も持っていた。それを正さなければ話は先に進めない。

 

「警戒区域を囲む境界線付近を巡回し、門が発生して近界民が現れたら対処する。これがオメーの認識する防衛任務だ。じゃあなんで近界民を倒す必要があるか」

「人に危険が及ぶから?」

「そうだな。結局ボーダーってのは戦争に勝つための組織で、俺たちは兵士。兵士の仕事は人を助けること。正隊員は緊急脱出があるから命の危機に瀕するこたァ基本ねーが、まあ、戦う以上誰かの命がかかってると思え。本質はそっちだ」

 

 これは防衛任務のその先、近界への遠征も視野に入れた話だ。

 諏訪は遠征に行ったことはないが、どんなものか話は聞くのである程度のことは理解している。

 彼は自分のことをあくまで駒の一つだと思っており、戦場でどう配置するか・どんな役割を持っているのかを俯瞰的に考える力があった。これは親しくしている風間の影響もあるのだが、本人は否定する。

 ともかく今の招木を戦場に放り込んだとして、戦闘技術以外でも足を引っ張ることはよくわかっていた。

 

「命懸けの戦場でさっさと味方から情報を共有してほしいのに、指示を待ってるだけのヤツがいたら大迷惑だろ。いちいちこういう情報が欲しいから教えてくれって言われるのを待つつもりか? わからないから詳しく聞きたいって解説を求めるのか? そんな暇ねーよ」

「その時間で、誰かの命が失われるかもしれない?」

「ああ。一つ一つの判断が命取りになるのに、クソみてーな仲間を持った時なんか最悪だな」

 

 諏訪の語りに熱が入り、どんどん口が悪くなっていく。招木はクソ呼ばわりされたが事実なので黙っていた。

 招木は諏訪と出会うまで、わからないことを放置していた。そして質問する習慣を覚えた代わりに自分で考える段階を飛ばすようになってしまったのだ。

 日常生活ならそれでもいい。けれど正隊員になるつもりなら、自分で考えて結果を出せるようになる必要がある。

 

「主体的な状況判断と情報共有。最低でもそんぐらいできるようになれ」

 

 それもできない能無しは、チームにはいらない。

 諏訪は招木に自分で考える力を身につけて欲しかった。だから彼女が目指している正隊員の任務と絡めて説明をした。その方が緊急性が高く見えて、急かされると思ったのだ。

 訓練でその辺の特訓はしているだろうが、招木は根本的な発想が欠けているのでそこを突けば伸びると考えていた。

 だから今までで一番キツい言葉を使った。

 

「……」

「……、招木?」

「わかった。それができるように、自分で考えてみる。アドバイスありがとう」

 

 招木は神妙な顔つきになると、頭を下げて立ち去った。

 やけにすんなり受け入れたな。いや指摘で右往左往されたことはなかったから、普段通りに過ぎないけど。

 少し引っかかるような気持ちで諏訪は無言で見送った。難易度が高いから困ったら何か言ってくるだろ、と軽い気持ちだった。

 しかし諏訪の予想に反して、それから二週間、諏訪がボーダー内で招木を見かけることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ〜〜〜〜クソが〜〜〜〜」

「うわどうしたどうした」

「諏訪が壊れた」

「話聞くぞ。というかやっと言ったな」

「いつ言い出すか待ってたからな」

「ここに来てからずっと心あらずだったしな」

 

 牌の山を腕でなだらかにしながら卓に突っ伏す諏訪。卓を囲んでいた太刀川、冬島、東の三人がガヤガヤと声をかけた。

 この四人は麻雀仲間であり時間を合わせて遊んでいたが、今日の諏訪はなんだか調子がおかしかったのでずっと様子を窺っていたのだ。

 心当たりがある太刀川がニヤニヤしている。

 

「あれか。招木か。招木だろ」

「うるせ〜〜〜」

「お。当たったな」

「誰だ? 招木って」

 

 唯一知らない冬島が東に聞けば「ラッキーガールの噂って知ってます?」と返された。

 

「ああ。幸運体質持ちか。それが諏訪と何の関係がある」

「個人的に親しくしているみたいですよ。この前ここに連れてきましたし」

「え! おまえ女学生に麻雀させたのかよ!」

「女学生て」

「高一ですよ彼女」

 

 諏訪が可愛がっている訓練生について、何か進展したらしい。詳しく聞かせろと男どもにせがまれ、渋々といった感じで諏訪は口を割った。

 彼女の欠点を指摘したら、その後姿を見せなくなったと。

 それを聞いた時、周りはそれだけ? と正直思ったが、諏訪が深刻そうなので相談に乗った。

 なお一名は面白がっている。太刀川である。

 

「えっまさかそれで自分が嫌われたとか思ってんの? え? 一丁前に避けられてるとか思ってる?」

「コラコラ太刀川、あまり言ってやるな」

「そうだぞ。女子高生は怖いんだから、諏訪の反応はごく自然のものだ」

「冬島さんのもちょっと違います」

「なんか楽しくなってきた。誰か風間さんか寺島さん呼んでくれ!」

「黙れ太刀川! 面白がってんじゃねーよ!」

 

 諏訪が吠えた。あの二人にオモチャにされるのは許せなかったらしい。今の諏訪を見たら無限に調子こいてくるのが目に見えているからだ。

 がば! と顔を上げた勢いのまま背もたれに身を預け、ため息一つ挟んで低く呟いた。

 

「……指導するのがこんなに難しいとは思わなかったんだ」

「諏訪……」

「ああ、だからこんなのが部屋にあったのか」

「あっ、ちょ」

 

 冬島がその辺にあった本を手に取る。ファンシーな子ども向けのイラストが表紙には描かれていて、なぜなぜ期の子どもとの接し方について書かれている書籍だった。

 諏訪は推理小説好きなので、部屋に散乱しているのはだいたい小難しそうなデザインの本ばかりだ。だから色とりどりの幼児向け丸出しの表紙は変に目立っていて、部屋の主の趣味にはそぐわない。

 粗野な男が育児本を買っている姿を想像してしまい、太刀川は大爆笑である。

 

「だははは!! 諏訪さんパパになんの!?」

「ちげーわ参考にしただけだ!」

「JKのパパになるのは問題大アリだろ」

「だからならねーって!」

 

 冬島も笑いを隠せない感じで乗っかるので、諏訪の機嫌はさらに下がっていく。

 まあまあと東が取りなせば、諏訪の視線が向けられた。

 

「東のおっさんは、あのクセ強えー面子の隊長じゃねーか。どんな感じで指導してんだよ」

 

 そっけない口ぶりに切迫感が込められている。

 クセ強い面子というのは、二宮、加古、三輪のことである。東はこの三人を指導する隊長だった。

 忍田本部長の計略によりチームを組まされたわけだが、東が上手いこと手綱を握ってやっと成立するほどの独特な隊員たちである。それだけ東の指導力や戦術眼が優れているとも言えた。

 質問を受けて、東は口元に手をやって考える。

 

「そうだなぁ。……隊を任されている以上、隊員たちには与えられるものを全部吸収していって欲しいと思っている。あの三人は隊長の素質を買われているから、いずれその立場になった時に役立つ経験も残してやりたいな。訓練の時もそれを意識して指導している」

「へー。そんなふうに考えてんだ」

「太刀川、おまえはもっと考える機会を増やせ」

「うるせーぞ外野」

 

 合いの手を入れる太刀川と冬島に、諏訪が手を振って引っ込めと言外に示す。仲良しな様子に小さく笑い、東は優しい声を出した。

 

「指導方針も諏訪と同じだな。直接答えを教えるんじゃなく、自分で考えさせる。考え方がわからないようならヒントをやって導く」

「同じ……っつーか俺が勝手に参考にしただけなんだが。今までと違って音沙汰ねーから、ちょい不安っつーか……」

「不安か」

 

 その不安を解消するべく、東は「これは俺の考えなんだが」と前置きする。

 

「自分で考えるといっても、最初は材料がないと難しいと思うんだ。考えるための情報が。これは経験を積むことで解消されていく。訓練や実践で情報を蓄積し、分析して自分のものにする。そうすればこの状況ならこれ、あの状況ならあれって感じで、分別がついた情報をもとに考えられるようになる。引き出しが増えていくわけだな」

「引き出し……」

「けど、招木にはまだ引き出しがない。大きな袋に全部がごちゃ混ぜになって入っていて……ひとつひとつを取り出すのが大変なんだ。まだ情報収集の段階で、考えに行き着くまでの材料がすごく少ないんだと思う」

「だから自分で考えろって言われて、スゲー時間がかかってんのか?」

 

 首を傾げる諏訪に頷く。

 諏訪にひっついてきた招木と初めて話した時、東は彼女を幼いと感じた。高校一年生と話している感じがなくて、小さな女の子を相手にしているような感覚になったのだ。

 彼女を周りの訓練生と同等に指導するのは適さない。だから現ボーダー設立時の第一期というかなり早い時期での入隊にも関わらず、招木はあまり成長できなかった。

 話を聞いた諏訪がギリと歯噛みする。

 

「つーことは、まだまだ情報をインプットさせる必要があったのか。クソ、早まった」

「いや。いずれ自力で考える段階には行かせるから、そう悪い判断じゃない。先のことを見せるという視点では有効だ」

「あー、いや。まあ、……そーだな」

 

 諏訪は納得していない様子だったが、東のフォローにより無理やり頷いた感じである。

 うーんと思った東がさらに言葉を重ねた。

 

「指導も訓練も焦っちゃダメだ。こういうのはすぐに結果が出るものじゃない。じっと待つのも大事だぞ」

「……大変だな」

「そうでもない。指導した相手が成長した時、こんなに喜ばしいことはないと思えるからな」

「東さん人生何周目?」

「俺実はおまえのが歳上って言われても驚かない」

 

 太刀川と冬島にそう言われて、やはり東は穏やかに「まだまだです」と返した。

 諏訪の相談が一段落し、今度こそ麻雀にも身が入るだろうということで再開する。しかしいざという場面で太刀川の携帯が鳴った。

 

「今からってとこなのに」

「出ろって」

「うーい」

 

 気怠そうに電話に出た太刀川だが、しばらくするとその顔に愉しげな色が浮かんでくる。「へえ」という単純な相槌にも喜色が滲んだ。

 何なんだろう、と三人はザワザワする。

 電話を終えてすぐに冬島が「何があった?」と聞くと、太刀川は諏訪の目を見ていた。

 

「や、招木が中央オペレーターんとこに突撃したって、月見が」

「は?」

「あー、なるほど。確かにオペレーターほど上手いヤツいないもんな。情報共有」

 

 考えたな、と冬島が感心して膝を打つ。

 固まる諏訪の背中をポンと押して東は笑った。

 

「な? 嬉しいだろ」







原作開始時点より前の話なので全員何かしら弱い部分がある…という気持ちで読んでください。


中高生の隊員たちがスムーズに情報共有や指示出し、報告ができているのやばいと思います。
訓練で身につけたものなのでしょうが、学生が大人の市民への避難指示を的確に出しているのはびっくりしました。

ワートリ読んだ最初の感想が「全員プラス10歳していい」だったくらいガキがいなくて恐れ慄きました。
なので香取が出てきてすごく安心した記憶があります。
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