異次元のガンマン   作:チキンうまうま

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峰理子という女

 

 冬の東京でも朝の日差しは眩しいものがある。それが深夜まで任務(しごと)をしていた後だとすれば尚更だ。低い気温を誤魔化すように燦々と輝く太陽が今は心底恨めしい。そんな鬱々とした気持ちを抱きながら俺は寮から校舎までの短い道のりを歩いていた。

 

「今日もいいお天気になりそうだなこりゃ…」

 

 呟いてから日差しを誤魔化すべく被っていた中折れ帽子を深く被り直した。それから朝食代わりのロリポップ─今日はストロベリー味─取り出して咥えた時、

 

「へーくーん!おっはよぉー!」

 

 後ろから知った声が聞こえて思わず顔を歪ませた。相手をするのも面倒だという感情を隠しもせず、猫背気味の背中をさらに丸める。

 

「…なんのようだ、理子ぉ」

「なんのようも何もないよ!全くへーくんったら理子りんのおはようにお返事してくれないなんて、ぷんぷんがおーだよ!」

「…ああ、そう」

 

 朝からハイテンションに声をかけて来た金髪の小柄な女子─峰理子に対して平介はため息をついた。どうもこの手の女子は自分と生きる世界がとことん違うので苦手なのだ。なので話しかけられるたびに割とぞんざいな扱いをしている…のだがそれにしたってこいつは─妙に俺に絡んでくる。

 

「むー!やっぱり挨拶してくれない!」

「あーはいはい、おはようおはよう」

「もーそんなんじゃダメ!誠意がないよ誠意が!」

 

 背中をバンバンと叩いてくる理子に隠しもせずにだっる、と吐き捨てる。専攻も俺は『強襲科(アサルト)』と『狙撃科(スナイプ)』のゴリゴリの戦闘職、理子は『探偵科(インケスタ)』の情報職とまるっきり違っているというのに、だ。

 

 これが所謂男女の仲、的なのだったらまだ理解はできるが…こいつの目は違う。一見明るげなこいつの瞳の奥からはもっとドロリとしたなにかが、それどころか悪人の気配がする。演技では到底誤魔化せないそれが、こいつに深入りするのを躊躇わせる。

 

(…どうしたもんかね)

「ねーへーくん、どうしたの?考え事?」

 

 背中の痛みから逃避しつつ考え事に耽っているとそんな俺の顔を理子が覗き込んでいた。

 

「…大したことじゃねえさ」

 

 誤魔化しの意味を込めてロリポップを咥え直す。

 

「キンジの野郎はいつになったら部屋から出んのかと思っただけだ」

「あー、お兄さん亡くなったんだっけ?」

 

 話題に出すのは自分たちのクラスメイト。昨年末のクリスマスイヴに尊敬する兄を亡くし、それ以降無気力になってしまった俺の宿敵(ライバル)

 

「…俺じゃあいつに熱を与えてやれねえ」

 

 これでもキンジのことは買っている。普段は根暗でボンクラ、いまいちパッとしたところのない男だが─あいつは俺の射撃を()()()()()()

 

 どうやったのかとかの理屈は知らねえ。ただあいつは入試の時に絶対の速度と精密さを持つ俺の早撃ちを見てから撃ち落としやがった。入試に混ざっていた教師すら届かなかった俺の間合いを、父親にも認められた必殺の射程(キリングレンジ)をあいつだけが切り抜けて見せた。それが響いたのか入試の査定は俺がAであいつがS。完敗だった。言い訳のしようもねえほどの。

 

 それからはリベンジを果たすべく訓練に励み─今度こそ勝てると自信を持った時に起こったのがあの事故だ。あの事故以来キンジは塞ぎ込むようになった。学校にも来ず、それどころか部屋からも出ない日々。

 

「あいつは─武偵を辞めるらしい」

 

 見るに見かねて部屋に押しかけたときに言われたその一言に唖然としたが俺は何も言い返せなかった。俺だってもし養父が任務中に殉職したら、その上で世間から糾弾などされたら同じことになっていただろうから。その時の俺はただ立ち去ることしかできなかった。

 

 だから、もうあいつへのリベンジなどは考えていない。俺たちの道が別れた以上、どんな道を歩むにせよあいつが立ち直ることを祈るばかりだ。

 

「ふぅん」

「…なんだその態度は。てめぇから聞いておいて」

「いやぁ?へーくんは随分とキーくんにお熱ですなあと思いまして?理子りんなんて眼中にもなさそうで妬けちゃいそう!」

「心にもねえことをよくもまあそんなベラベラと…」

「くっふふー?ほんとだよー?」

 

 そう言って理子はクルクルとその場で踊るように回る。それに合わせてよくわからんフリフリの改造制服と長い金髪も揺れて、

 

「へーくんがそんなに熱心だなんて─ほんとに妬けちゃいそう」

 

 ゾクリ、と背中に氷柱を突っ込まれたような感覚。一瞬だけ髪の隙間から見えた瞳は、今まで見たことがないほどドロリと濁っていた。だがそれも一瞬のこと。回るのをやめて再び俺の方に向いたその顔は無垢と形容するに相応しい笑みが浮かんでいた。

 

「…なーんて!理子りんはその辺りにも理解が深いのです!」

「…何言ってやがる?」

「なにって…へーくんは目の前の理子りんのことよりもキーくんのことで頭がいっぱい。つまりこれは…恋!男の子同士の、薔薇の花が咲き乱れる熱い恋だよ!」

「鼻の穴もう1個増やしてやろうか?」

「きゃーこっわーい!」

 

 ベルトに挟んでいたコルトM1877.41(サンダラー)を即座に理子の方へと向けると、理子は笑いながら足音を立てて校舎の方へと走っていく。お互いに本気じゃないとわかっているからこそのお遊びだ。

 

 5メートルほど駆けていった理子はそこでくるりと振り返ると俺にぶんぶんと手を振った。

 

「へーくーん!今度理子といっぱい()()()しようねー!」

 

 それだけ言い残して今度こそ理子は走っていく。その様子を見送って俺はまたもため息をついた。

 

「ったくわからんヤツだ…」

 

 苦手じゃあるがほっとけねえ。俺が峰理子という女子に対して抱いているのはそんな感想。面倒だとは思っているが、なぜか不思議とあいつのことは嫌いにはなれない。

 

 そんな感想を抱いて、先ほどよりも柔らかく感じた陽光の下を俺は1人で歩いて行った。

 

 





コルトM1877.41(サンダラー)
 平介の愛銃。100年以上前に作られた最早骨董品のリボルバー拳銃。
 見た目が気に入った、とのことでこの銃を愛用している。
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