神の使徒にTS転生したので、最強美少女と旅します! 作:光の道筋
「危ないッ!」
俺はリーシェを抱えて後方へ跳び、落下してきた大蜘蛛を避けた。スーフェリアも俺と同じ方向へ跳んでくる。
体高が3m、体長が5mほどだろうか。黒光りの体と赤い複眼、8本の脚を持つ大蜘蛛は俺たちを獲物として狙っているようだ。
「グ、グランドスパイダーです! 早く逃げないと! 食べられちゃいますよ!」
この大蜘蛛はグランドスパイダーという名前らしい。リーシェが腕の中で慌てている。
確かにこんな異世界産の大きすぎる蜘蛛に襲われたら、すぐに食べられてしまうだろう。だが、こちらにはスーフェリアがいる。そのおかげで全く怖くなかった。
スーフェリアはきらきらと輝く目で大蜘蛛を見ている。もう任せておけば大丈夫そうだな。こちらが何も言わなくても大蜘蛛と遊び始めそうだ。
「ふふ、ここは私に任せてよ。リーシェには使徒の力ってのを知ってほしいからね」
「スーフェリア様危険です! 逃げましょう!」
あ、そういえばリーシェはスーフェリアが戦っているところを見たことが無かったか。
まあ、俺も謎の四人組に襲われた一度しか見ていないんだけど。それも神官を潰す場面だけだ。
あの時は優男と戦っている間に、大男とローブ女の姿が消えて神官が無力化されていた。スーフェリアの強さは、きっと俺をはるかに上回っているだろう。
「ふふ、大丈夫だよ。私の真の姿を顕現させるからね」
そんなものがあったのか。非常に気になる。羽が生えたり、光輪が現れたりするのだろうか。
真の姿、なんとも男心をくすぐる言葉だ。俺もいつかは真の姿になってみたい。だってかっこいいじゃん。
「刮目せよ! 私の真の姿! 凶刃の翼、両翼スタイル!」
スーフェリアはそう叫ぶと、両手をチェーンソーへと変化させた。チェーンソーかっこいいって言ってたもんね。やってみたくなっちゃうよね。
……これが真の姿らしい。両手にチェーンソーはすごくかっこいいが、もっと神々しいのを想像していた。こんな猟奇殺人鬼みたいなのが神の使徒なのか?
様子見をしていた大蜘蛛が動く。大蜘蛛はスーフェリアのチェーンソーをみて危険だと判断したのか、ものすごい勢いでスーフェリアへと飛び跳ねて襲い掛かってきた。
というか、大蜘蛛がでかすぎて俺とリーシェも巻き込まれそうだ。
避けれなさそうなので、リーシェを抱え込んで大蜘蛛から庇う。体の密度を上げて固くすれば、リーシェを守れるはずだ。
飛び掛かる大蜘蛛に向かってスーフェリアが両腕を突き出す。
大蜘蛛は顔面から二つのチェーンソーに突っ込み、緑色の体液を飛び散らせた。
グロい。俺にも数滴かかる。汚い。
痙攣している大蜘蛛をスーフェリアが思いっきり蹴り上げる。
数m浮き、俺たちの前方に落下した。大蜘蛛はもうピクリとも動かない。
意外とあっけなく終わったな。リーシェを庇う必要もなかった。
「スーフェリア様ってお強いんですね……」
「ふふ、まあね。凶刃の翼、両翼スタイルにかかれば蜘蛛なんて敵じゃないよ」
スーフェリアは緑色の体液にまみれながら、誇らしそうに胸を張った。リーシェはその姿にちょっと引いてるように見える。
「この蜘蛛、私が吸収しちゃってもいい?」
「スーフェリアが倒したからな。聞くまでもないだろ」
「わーい。実は私の趣味はね、吸収して貯蓄を貯めることなんだよね」
人でいうと貯金が趣味みたいなものだろうか。俺もお金が口座に貯まっているのを眺めるのは楽しい。きっとそれと同じだ。
スーフェリアが体に付着した体液と大蜘蛛を吸収する。大蜘蛛は跡形もなく消えてしまった。
突如、左側から銀色の巨大な塊が現れた。それは俺に向かって襲い掛かる。速い。リーシェから手を放し、襲い掛かる何かを両手で掴んで受け止めた。
銀色の塊に見えたものは、体高2mほどある銀色の狼だ。俺は狼の凶悪な爪を受け止めている。
速すぎて動きを止めるまで狼だとわからなかった。受け止めることが出来たのは奇跡に近い。使徒の動体視力は優れていると思っていたが、そうでもないかもしれない。
幸い、膂力はこちらが勝っているようだ。狼が俺の手を振りほどこうとして暴れるが、俺はがっちりと掴んだままだ。この狼はスピード特化なのか。
「スーフェリア! こいつを斬ってくれ!」
「え、やだ。リズが一人で戦ってよ。親としてはさ、子の成長を願うものだよ」
こいつ、可愛くて儚い娘が襲われているのに何もしないつもりか。
説得は……時間の無駄だろうな。俺は胴体が半分にされても死なないし、ぎりぎりまで手を出さないだろう。
そうなると、どうやってこの狼を倒そう。俺の一度しかない戦闘経験では、良い倒し方を思いつかない。
使徒の体の筋力は凄まじいから、持ち上げて地面に叩きつけてみるか。そのぐらいしか思いつかなかった。
爪を持ち上げると割れてしまいそうなので、狼の足へと持ち替える。
そして、そのまま狼を持ち上げた。やはりこの体の筋力は人間離れしている。可愛くて儚いムキムキ娘だ。
狼を地面に叩きつける。狼は痛そうに声を上げるが、まだ死んでいない。
数回繰り返すと、ようやく狼が動かなくなった。ふう、強敵だったな!
「うわ、惨い殺し方だね。私みたいにさ、スマートに殺しなよ」
「チェーンソーも惨くないか……?」
「凶刃の翼、両翼スタイルね」
「あ、はい」
スーフェリアに惨いと言われるとは、そこまでの殺し方だったのか。反論したいが、狼の死体が無惨な姿だったので反論が難しい。
言い訳を考えている俺の元にリーシェが駆け寄ってくる。
「リズお姉さま! これグランドウルフですよ! それを倒すだなんて! さすがリズお姉さまです!」
「へー、グランドウルフって名前だったのか。それより、リーシェは怪我してないか? 痛いところがあったらすぐに言うんだぞ」
「怪我などしていません! リズお姉さまが守ってくれたおかげです! ありがとうございます!」
リーシェは可愛らしく笑っている。元気そうで何よりだ。
「それにしても、この魔獣らは急に現れましたね。今までは魔獣なんて一体も見てなかったのに」
「ふふ、それについてはね、私が説明しようかな」
スーフェリアによると、大火から逃げてきた魔獣がここら辺に集まっているらしい。
何故、地下室から出発した頃は魔獣を見かけなかったのかを狼を吸収しながら尋ねてみると、あの近辺はスーフェリアが殺しつくしているとのこと。
この神の使徒はパワー系だ。
ちなみに、魔獣とは動物が魔素というよくわからんものを取り込んだ姿らしい。ただの動物とさほど変わらないから気にしなくていい、とスーフェリアが言っていた。
少し休憩してから再出発だ。その後も、歩いているとたびたび魔獣が襲ってきた。魔獣は俺とスーフェリアが交代しながら殺して吸収している。
危ないからリーシェには参加させなかったが、途中から自分も魔獣討伐に参加させてほしいとお願いしてきた。
リーシェが負い目に感じてしまうのも嫌なので了承したが、彼女の戦闘力の高さに驚くこととなった。
リーシェの魔法は次々と魔獣を殺していく。木と土を操る魔法で魔獣を拘束し、ウォーターカッターのような魔法でとどめをさす。
俺とスーフェリアの出番がなく、彼女の護衛と化していた。
スーフェリア曰く、マグマの壁で閉じ込めてきたローブの女よりもちょっと劣る程度の実力らしい。褒めているのかはわからない。
歩く。魔獣を殺す。歩く。魔獣を殺す。寝る。また歩く。
大体こんなかんじの日々を15日ほど送った。もう周囲の木々も一般的な大きさになっている。森から抜けだす日も近いだろう。
これから目的地であるテンピンで何をしようか楽しく会話していると、前方から何者かの気配がした。当然、スーフェリアも気づいているようだ。
数分歩き続けていると、そこには革鎧を着た二人の男女がいた。猪の血抜きをしているようだ。
「どうして女三人でこんなところにいる。お前らどうしたんだ。遭難者か?」
長い間魔獣としか出会わなかったが、ようやく人と会うことができた。