神の使徒にTS転生したので、最強美少女と旅します!   作:光の道筋

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領主の秘密はバレている

 スーフェリアに「セラフィオス」と呼ばれた女性が空高く浮かぶ。彼女は空中で受け身を取り、華麗に着地した。物凄い力で殴られたのに何事も無かったかのような振る舞いだ。

 

「どうやら喧嘩を売りにきたようだな。我もうぬを叩き潰したいと以前から考えていた。今、殺してやろう」

 

 20歳くらいの見た目の割に古風な口調だ。セラフィオスは明らかにブチ切れており、スーフェリアに殺気を放っていた。出会った途端に殴られたから、この反応は当然だろう。

 

「喧嘩を売りにきたんじゃなくてね、話をしに来たの。それにね、セラフィオスは弱いから私を殺せないでしょ」

「……喧嘩を売りにきたのか、話をしに来たのかはっきりせよ」

「セラフィオス様! ご無事ですか!?」

 

 2人の衛兵がスーフェリアとセラフィオスの間に入る。セラフィオスに背を向け、彼女を守る体勢だ。

 これ、事情を知らなかったらスーフェリアが悪者だよな? 犯罪者として追われても一緒に逃げてあげよう。スーフェリアなら1人で大丈夫な気もするが。

 

「うぬらもいたのか。下がれ。無駄な死は好かん。此奴は躊躇せず殺してくるぞ」

「いえ、私たちも戦わせていただきます! 敵からは逃げません!」

「いや、本当に話をしに来ただけなんだけど……」

 

 相手方は何やら盛り上がっている。スーフェリアは危険人物だから仕方がない。

 

「はぁ、わかった。まずは話を聞かせてもらおう。ついてこい」

「セラフィオス様! 危険です!」

「問題ない。スーフェリアは我の旧友だ。嫌いだが、信用できる。此奴が嘘を吐くことはない」

「……了解しました。お気をつけください」

 

 衛兵は渋々了承し、セラフィオスは小さい扉の前へ歩く。俺たち3人もついていくが、セラフィオスは扉の前で俺の顔を見つめてきた。

 

「……先程から気になっていたが、うぬは何者だ?」

「リズだ。スーフェリアの親戚だな」

「それは知っている。親戚とはどういうことか。うぬの顔がスーフェリアに酷似している理由を教えてほしい」

「それも後で話すよ。早く中入らない?」

「……わかった。どうせろくなことでは無かろう。そちらのエルフの娘、うぬも入れ」

「リーシェです」

「……リーシェも入れ」

 

 4人で小さな扉を通る。その先には綺麗な庭園があった。色とりどりの花と整えられた低木、中央には噴水まである。白い石畳の道が奥の屋敷まで伸びていた。

 

「わぁ、すごく美しいお庭ですね」

「リーシェよ、わかってくれるか。この庭園は我も気に入っておる」

「このお庭は丁寧に手入れされていますね。お花の配置もよく考えられています」

「なかなか見る目があるな。色々と説明してやろう」

 

 セラフィオスは意気揚々と草花について解説し、リーシェも楽しそうに聞いていた。庭園の良さがわからない俺とスーフェリアは放置である。暇なのでスーフェリアに話しかけた。

 

「あの人が神の使徒?」

「うん、神の使徒だよ。人間だったら私が殴った時点で死んでるね」

 

 そりゃそうだ。もしセラフィオスが人間なら頭が粉砕しているだろう。上空からの着地も人間には不可能だ。

 

「見た目は普通の女性だな。口調は変だけど」

「普通の女性なのは私たちもそうでしょ。口調はなんだろうね。前に会った時はあんな感じじゃなかったんだけど」

「昔は我とか言ってなかったのか?」

「言ってなかったね。ほんと、なんで変わったのかな?」

 

 長生きしていると一人称が変化するのだろうか。お爺ちゃんになってから「わし」を使い始めるのと同じかな。俺も渋くてカッコいい爺さんには憧れてしまう。将来は爺さんの姿にもなりたい。使徒は思い通りの姿に変えられるのだろうか。

 

 その後も、楽しそうに庭園トークをしているセラフィオスとリーシェの後ろを歩いていった。

 石畳を進み、ようやく豪勢な白い屋敷に辿り着く。大きな扉の前には、黒の燕尾服を来た老齢の男性が待ち構えていた。白い髪と顎髭、それに鋭い目つきをしている。これだよ、これ。渋くてカッコいいお爺さんだ。この人の佇まいに憧れてしまう。

 

「セラフィオス様、突然出ていかれましたが、どうなされましたか?」

「見ればわかるであろう。客人だ」

「そのようなご予定はありませんでしたが」

「旧友が久しぶりに訪ねてきた。我とこの者たちのみで話す。部屋には誰も入れるな」

「はっ、承知しました」

 

 渋いお爺さんが礼をしている横を俺たちは通り過ぎる。このお爺さんかっけえ……。俺も主君に対して「はっ!」とか言ってみたい。

 

 屋敷に入ると広いホールに出た。天井には巨大なシャンデリア、床にはふかふかの赤いカーペットが敷かれている。正面には先に続く廊下があり、その左右に大きな階段があった。セラフィオスが右の階段を上っていくので俺たちもついていく。3階まで上り、金の模様が描かれている豪華な扉の前まで来た。

 

「我の私室だ。入ってくれ」

 

 セラフィオスの私室に入る。室内には、木製のテーブルを挟んで向かい合うように紺色のソファが2つ置かれていた。嫌味にならない程度の調度品が壁際に置かれており、穏やかな気持ちになる優雅な部屋だった。

 セラフィオスが上座に座り、俺たち3人は反対側に座る。中央がスーフェリア、左に俺、右がリーシェだ。

 

「まずは自己紹介をしよう。我はセラフィオス=ピュリノス。ここピュリノスの領主だ。一応貴族だが、無礼講で構わない」

 

 自己紹介を終えたセラフィオスはスーフェリアの顔をじっと見つめている。何かを待っている様子だ。

 

「何? 私の自己紹介いる?」

「いや、そうではない。スーフェリアの秘密とでもいえばよいのか、それは2人に話しているのか?」

 

 神の使徒だとバレているのか不明だから、スーフェリアに確認していたのか。スーフェリアはその意図を察することができなかったようだ。

 

「秘密って何?」

「……秘密は秘密だ」

 

 スーフェリアは、それを秘密だとすら思っていなかった。察することができなくても無理はない。セラフィオスはスーフェリアに聞くのを諦め、俺に顔を向ける。

 

「……知っているのか?」

「スーフェリアとセラフィオスが神の使徒だってことなら」

「……そのことだ」

「え? セラフィオスは秘密にしてるの? なんで?」

「むしろ我がうぬに聞きたい。リズとやらは明らかに使徒の関係者だからいいとして、リーシェはただのエルフであろう。何故教えた」

 

 彼女は呆れながらスーフェリアに尋ねる。スーフェリアは不思議そうに首を傾げていた。

 

「困ってたから食糧を作ってあげたんだよ。それでバレちゃったね」

「そういう事情なら仕方がなかろう。知っているのはリーシェだけか?」

「いえ、我々の村の全員が知っています。スーフェリア様は我々を絶望から救ってくださった恩人です」

「……そうか。大変だったのだな」

 

 リーシェの答えに同情したのか、セラフィオスはリーシェに慈しみの目を向けている。庭園トークで仲が良くなったのかもしれない。

 

「そんなことはどうでもいいんだよ。それよりもね、私はセラフィオスに質問があるの」

「どうでもよくはないが……質問とは何だ」

「その喋り方、何? 前は我とかうぬとか言ってなかったよね?」

「…………」

 

 黙ってしまった。気まずそうに視線を逸らしている。これは聞いてはいけないことだったか。そういうのは誰にでもあるよね。思春期的なやつがさ。

 

「え? 何で答えないの? 私とセラフィオスの仲じゃん」

「……これはだな、その、元々こういう口調だ」

 

 わかりやすい嘘だ。人の心など理解していないスーフェリアはどんどん踏み込んでいく。セラフィオスは人ではないが。セラフィオスが可哀想だから助け舟を出そう。

 

「スーフェリア、人には聞いちゃいけないこともあるんだって。ほっといてやるのも優しさなんだ」

「でもさ、こいつ偽物かもしれないじゃん。セラフィオスの偽物だったらどうするの」

「それは……その通りだな。領主に化けるなんて許せねえよ。根掘り葉掘り聞いてやろうぜ」

「……うぬは止めてくれるのではないのか」

 

 一瞬で論破されてしまったのでスーフェリアの味方をする。勝ち馬にはさっさと乗るのが生きるコツだ。

 

「偽物なら殺しておこうか。ふふ、ピュリノスを救った英雄になっちゃうね」

「待て! うぬが言うと冗談に聞こえん!」

「冗談じゃないしね」

「本物だ! 理由を言うから待て!」

 

 本当に殺されると思ったらしいセラフィオスが慌てて降参した。降参していなかったら絶対に殺していた。スーフェリアにはそういうところがある。

 

「理由って何?」

「……威厳をつけるためだ」

「何で威厳をつけようとしたの?」

「……貴族たちに舐められないようにするためだ」

「そっか、頑張ったんだね」

 

 セラフィオスの回答をスーフェリアは優しく聞く。俺は貴族社会というのものがどれくらい大変なのか知らない。神の使徒であることを隠しながら人と関わるのは、相当な苦労だったのかもな。

 

「じゃ、今は前の喋り方に戻ってもいいよ」

「え?」

「ずっとその喋り方だと大変でしょ。リズもリーシェも優しいからね、セラフィオスを受け入れてくれるし秘密を喋ったりなんてしないよ」

「……そうなのか?」

 

 俺とリーシェの顔をセラフィオスが交互に見る。もちろん俺は頷いておいた。この流れで首を横に振れるわけがない。

 

「ほら、2人とも優しいでしょ。だからね、大丈夫だよ」

「……本当にいいのか?」

 

 セラフィオスは今にも泣き出しそうな表情だ。スーフェリアは聖母の如き微笑みを浮かべながら頷く。

 

「久しぶりの再会だからね、今日くらいはいいんじゃないかな」

「スーちゃん!」

 

 セラフィオスはテーブルを飛び越えてスーフェリアに抱きつく。その顔は歪み、涙でぐしゃぐしゃになっていた。涙を流さないように体をコントロールすることも忘れている。先程までの威厳はすっかり無くなっていた。

 

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