神の使徒にTS転生したので、最強美少女と旅します! 作:光の道筋
スーフェリアは冊子を開いて俺とリーシェに見せている。リーシェは気まずそうに視線を逸らしていた。
「あ、返信来てないよ! ふふ、やっと負けを認めたんだね」
「スーフェリア、その、どんなやりとりをしてたんだ?」
「この本には好きに書いてもいいらしいからさ、私の考えたかっこいい言葉を褒めて貰おうと思ったんだよね」
「……褒めて貰えたのか?」
「それがさ、私を馬鹿にしてきてね。だから喧嘩してイライラしてたんだけど、とうとう私が勝ったんだよ!」
スーフェリアは満面の笑みで、彼女が書いた最後の文章を見せる。勝利を喜ぶ純粋な笑顔だ。一方、リーシェの顔は青ざめている。スーフェリアが冊子を開いてから、視線はずっと床に向いていた。
「勝ったのか! おめでとう! スーフェリアを馬鹿にするなんて許せねえよ! リーシェもそう思うだろ!?」
「は、はい! 許せません! そんなやつはあたしが懲らしめてやります!」
俺たちは他人事のようにスーフェリアの味方をした。
スーフェリアの言葉は世界一かっこいいからな。煽るなんて考えられないぜ。
「ふふ、ありがとね。私が勝ったから懲らしめなくて大丈夫だよ」
「そ、その喧嘩相手のことをどのように思っているのですか……? 参考までに聞きたいのですが……」
リーシェが震えながらスーフェリアに尋ねる。明らかに怖がっていた。
俺も少し怖い。煽っていたのがバレたら容赦無く殴ってきそうだ。
「もう私が勝ったからね。何とも思ってないよ」
「喧嘩中はどうだったのでしょうか……?」
「そいつが私のセンスを最下層とか言い始めてね。ぶっ殺してやろうかと考えたんだけどさ、やめておいたよ。命を奪うのが好きなわけじゃないからね、攻撃されない限り殺したくないんだよ」
リーシェの顔色は真っ白に変わっていた。下手したらスーフェリアに殺されていたのか。
これまでの戦闘を思い返してみると、確かにスーフェリアは攻撃されてから相手を殺していた。彼女なりの考えがあって人を殺していたのか。その強さから暴力的な性格だと思っていたが、決してそんなことはなかった。
「……喧嘩相手は命拾いしましたね」
「ふふ、私の優しさに感謝してほしいね」
「……感謝してるはずです。その人は喧嘩するつもりはなかったと思います。本当に」
「そうかな? そうかも」
リーシェは神妙な面持ちで何度も頷いている。恩を返すべき相手であるスーフェリアを煽ってしまったのだ。リーシェは反省しているようだった。これでレスバ狂戦士を引退してくれるだろう。可愛いエルフに戻ってくれて良かった。
「じゃ、仕事をしようか。仲良し3人組でやる初めての仕事だね」
「はい、仲良し3人組です。あたしたちが口喧嘩するなんてあり得ませんよ」
口喧嘩などしない仲良し3人組なので、一緒に掲示板の前まで行く。今日は何の仕事をしようか。
「スーフェリアはいつも何の仕事をしてるんだ?」
「船の荷積みを手伝ってるよ。でも、今日はいつもと違う仕事したいな」
「では、酒場の手伝いをしませんか? あたしとリズお姉さまはいつもそこで仕事してるんです。この張り紙には最大3人来て欲しいって書いてありますし」
「それいいね。酒場の手伝いしちゃおっか」
リーシェが張り紙を剥がし、3人揃って受付に持っていく。受付のお姉さんが笑顔で応対してくれた。
「すみません。3人でこの依頼を受けたいのですが」
「はい、問題ありませんよ。今日も頑張ってください」
「ねえ、質問があるんだけどしてもいい? 忙しいなら後でいいんだけど」
「今なら構いませんよ。冒険者ギルドに関わる内容なら何でも質問してください」
スーフェリアがお姉さんに話しかける。質問とは何だろうか。酒場の業務内容や報酬についてか?
「Fランクから上がるのって後どれくらいなのかな?」
「はい、Eランクに上がるには20回依頼をこなし、その上で人格に問題が無いことが条件です。スーフェリア様は真面目に仕事をしているので、あと16回ほど依頼をこなせば上がれますよ」
「そう……教えてくれてありがとね」
「いえいえ、これも仕事ですから」
俺の予想とは異なる質問だった。スーフェリアはお姉さんの回答を聞いて眉尻を下げている。
俺とリーシェも依頼を4回こなしているので、スーフェリアと同じくあと16回でEランクに上がれそうだ。焦る必要も無いし、のんびりやっていけばいいだろう。
俺たちはギルドを出て酒場へ向かう。もう見慣れた道なので迷うことはない。
「ダンジョンに入れるまで時間がかかりそうだね」
「こつこつと仕事していこうな。焦らなくていいぞ」
「うん、そうだね」
「あの、ダンジョンってどういう場所なんですか? あたし知らないんです」
「あ、俺も知りたいな。魔物が沢山いるところってラナが言ってたけど、使徒でも危険な場所なのか?」
「ふふ、私が教えてあげるよ。一度だけピュリノスのダンジョンに入ったことがあるからね」
スーフェリアによると、ダンジョンとは魔素という謎物質が溜まった洞窟を指しているらしい。高濃度の魔素によって魔物が凶暴になり、洞窟の奥に行くほど魔物の数と強さが上がっていくそうだ。
それでも使徒にとっては大した問題ではなく、リーシェ1人でも遊びに行けるくらい余裕だとスーフェリアは言っている。
危険なら行くのをやめようと考えていたが、そこまで危なくないのなら行ってみよう。面白そうだしな。一目見ておきたい。
そんなことを話している内に酒場に到着した。これから仕事の時間だ。
俺とスーフェリアは給仕、リーシェは皿洗いをしている。意外にも、スーフェリアはすごく真面目に働いていた。
敬語を使えと店主に叱られていたが、その後は敬語を使って真剣に給仕をこなしている。
ちょっと泣いてしまいそうだ。父親目線でスーフェリアを見てしまう。実際はスーフェリアのほうが何万倍も年上で、しかも俺は娘なのだが。夕方、仕事を終えて冒険者ギルドで報酬を貰った。スーフェリアは店主に褒められて嬉しそうだ。
俺も彼女を褒めた。一生懸命働いてたからね。慣れない敬語も使って頑張ってたからね。屋敷に帰って夕食を摂った後、3人でセラフィオスの執務室を訪ねる。リーシェは1人だけ別室にいるのが嫌でついてきた。
「スーフェリア! リズ! リーシェ!」
椅子に座っていたセラフィオスが立ち上がって叫ぶ。「スーちゃん」と呼んでいないということは威厳ありモードなのだろう。
執務室には幾つもの机が並べられており、会議室を連想させた。上座、所謂お誕生日席にセラフィオスがいる。他の机にも6人座っていて、全員の目の下に隈があった。
「こんばんは、約束通り来たよ」
「リズとリーシェも来てくれたのか。有難い」
「俺とリーシェもセラフィオスの励みになればと思って来たんだけど、ここに居てもいいか? 仕事の邪魔なら帰るけど……」
「全くそんなことない。居てくれるだけで我は嬉しい。さあ、こっちに来てくれ」
セラフィオスは部屋の端に置いてあった3脚の椅子を自身の横まで持ってくる。丁度3脚あってよかった。リーシェが立ちっぱなしでは可哀想だからな。俺たちはセラフィオスの横に座る。何か仕事を任されるのかと心配したが、流石にそんなことはなかった。
セラフィオスと部下達は黙々とペンを動かしている。たまに業務上必要な会話がされるだけだ。
……き、気まずい。会話を振ることを躊躇ってしまう冷たい空気感だ。俺はこの部屋に居ていいんだろうか。俺たち3人は座ってから一言も発していない。
スーフェリアはこの雰囲気に慣れているのか、無表情で虚空を見つめている。俺は彼女をこんな場所に送り込んでいたのか。スーフェリアへの罪悪感が押し寄せてきた。マジでごめん。
リーシェは、ペンの走る音だけが響く空間に戸惑っている様子だ。エルフの村でもこのような経験はしていないのだろう。
視線をキョロキョロと動かし、時折俺を不安げに見つめていた。その視線に俺は頷いて返す。こんなことしかできなくて申し訳ない。
でも、セラフィオスが嬉しそうな表情をしてるから帰るわけには行かない。ただ座っているだけだが、頑張っているセラフィオスの力になりたかった。
「お疲れ様でした。では、失礼します」
「ああ、今日は帰って休むが良い」
何時間か耐えた後、ようやく部下達が帰った。この部屋に時計はあるのだが、針が4本あるので正確な読み方はわからない。1から12までの数字の配列は同じだった。
今の時刻は深夜2時くらいだろうと予想している。多分、間違っているだろう。使徒の体は眠くならないため、体内時計も曖昧だ。
「や、やっと終わった……皆来てくれて本当にありがとう……わたし嬉しいよ」
「セラフィオスって頑張って仕事してたんだな。凄いよ。俺はあの空気に耐えられない」
「はい、本当に凄いです」
「ふふん、わたし頑張ってるんだよね。もっと褒めてね」
「偉い! 可愛い! 立派!」
「責任感と忍耐力があります! お庭が素晴らしく綺麗です!」
「2人とも大好き!」
セラフィオスは俺とリーシェに同時に抱きついた。セラフィオスの両腕の中で、ぎゅうぎゅうに押しつぶされるように密着する。そんな俺たちをスーフェリアは冷めた目で見つめていた。
「ねえ、明日やりたいことがあるんだけどね、ちょっと聞いてくれない?」
「スーちゃんがやりたいこと? 何でも言ってみて」
「皆でさ、ダンジョンにこっそり侵入しちゃおうよ」
予想外の答えに俺とリーシェ、そしてセラフィオスは思わず顔を見合わせた。
次回、ダンジョンに不法侵入します。
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