神の使徒にTS転生したので、最強美少女と旅します! 作:光の道筋
ゴーレムという人型の岩塊が、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。身長は2mくらいか。壁や天井と同じ、灰色がかった岩肌をしていた。
この岩塊に表情というものは無い。頭部に鼻や目、口などは存在せず、ただ無機質な丸い岩が頭代わりになっているだけだ。
「スーフェリア、人に戻るか? ここなら他の冒険者もいないし───」
そう言い終わる前に、ゴーレムが俺を目掛けて走りだした。今までの緩慢な動きが嘘のような速さだ。ゴーレムは走った勢いのまま、俺に向かって両腕を振り下ろした。その腕を両手で受け止める。
「ぐっ! お、重っ!」
めちゃくちゃ重い。以前、デカい狼の爪を受け止めたことがあるが、それよりも重く感じた。このままだと潰されそうだ。ゴーレムの両腕を横に逸らして、俺は後ろに下がる。
あの重すぎる腕が地面に叩きつけられた。衝撃音が鳴り響き、地面はひび割れる。
「スーフェリア! こいつ危険だ! 人に戻ってくれ!」
「リズなら大丈夫だって。ゴーレムくらいなら余裕で倒せるよ」
「今どういう状況なんですか? ゴーレムに襲われてるんですか? 見えなくて分からないのですが」
「そうだ! ゴーレムが───」
またもや言い終わる前にゴーレムが走ってきた。ゴーレムは両腕を振り下ろして叩き潰そうとしてくる。先程と全く同じ攻撃だ。
受け止めるのは諦め、右へ跳んで回避した。デカい狼に比べれば、ゴーレムの動きはそれほど速くない。もしゴーレムがもっと速かったら、今頃俺はミンチになっていただろう。
「お前ちょっと待てって! 話してるだけだから!」
「ゴーレムに会話する知能は無いよ。何で怒ってるの?」
「怒ってない!」
「怒ってんじゃん。あ、また来るよ」
再度、ゴーレムが同じ攻撃をしてきた。俺はもう一度右に跳んで避ける。反撃しなければ一生この状況が続くだろう。俺はゴーレムの左腕に渾身の右ストレートを放つ。
「ふんっ!」
ゴーレムの左腕は粉々に砕け散った。この岩塊の硬度では使徒の筋力に勝てなかったようだ。ゴーレムはよろけて後ろに数歩下がる。逃げるかと思いきや、そうではなかった。ゴーレムは再び俺に向かって走り、残った右腕を振り下ろしてくる。
今度は左に避け、右ストレートでゴーレムの右腕を破壊する。ゴーレムはその衝撃で倒れた。これで倒したかな? しかし、ゴーレムは立ち上がって俺に突進してくる。それを避けると、ゴーレムは壁に突っ込んで止まった。
「まだ生きてるのか」
「胸にある核を壊さないと駄目だよ。止まってるうちに壊しちゃおう」
「どういう状況なんですか? ゴーレムを倒したのですか?」
「今トドメを刺すところだ。ちょっと待っててな」
立ちあがろうとしているゴーレムに急いで近づき、胸に向かって拳を振り下ろした。ゴーレムの胸が砕かれ、やっと動きを止める。しぶとかったな。
「お、死んだね」
「やっと動かなくなったか。リーシェ、今出すからな」
「お願いします。ずっと同じ体勢でいるの大変で」
リュックを地面に下ろし、周囲に冒険者がいないことを確認してから開く。中には辛そうな顔をしたリーシェが座っていた。
「リュックの外も暗いですね……暗闇に目が慣れてなかったら何も見えてませんでした」
「ん? 暗い?」
「え? 真っ暗ですよ?」
リーシェがリュックから出ながら話す。スーフェリアも人間の姿に戻った。言われてみれば、この洞窟に光源など無い。暗いのは当たり前だった。冒険者も松明を持っていた気がする。俺とスーフェリアは使徒の体だからはっきりと見えているだけか。
「使徒の目だと明るく見えてるんだよね。リーシェってさ、炎をだす魔法とかピカピカ光る魔法とか使えないの?」
「使えません……あたしが使えるのは地面と木と風を操る魔法と、水をだす魔法だけです。まだ未熟で……」
「それでも充分凄いから誇っていいぞ。俺とスーフェリアは全く使えないし」
「そうだね。私も魔法使ってみたいんだけどさ、魔力が無いから不可能なんだよね」
「凄いですかね……? でも、どうしましょう。松明を持ってくるべきでした」
「ふふ、私に任せてよ」
スーフェリアは胡座をかいて座ると、20cmくらいの木の棒と浅い窪みのある木の板を作った。棒の先端を窪みに合わせ、棒を真っ直ぐに立てた状態で擦り始める。錐揉み法だ。魔法のある世界でこのやり方を見るとは思わなかった。
「スーフェリア様、何をしているのですか?」
「火起こしだよ。私は魔法が使えないからね、どうしても火が欲しいときはこうやってたんだよ」
「なるほど。村では火魔法を使える人に頼んでいたので、こんな方法は知りませんでした」
魔法が使えない使徒なりの工夫というわけか。使徒は人外じみた力を持っているが、こういう部分は人間らしい。
「俺も手伝うよ」
「やり方わかる? 教えようか?」
「以前いた世界にも同じやり方があったから大丈夫」
「へー、どこも似たようなこと考えるもんだね」
「あたしも手伝います! 松明が必要なのはあたしですし!」
「ありがとね。これ使って」
「はい! 頑張ります!」
スーフェリアがリーシェに火起こしセットを渡す。俺も同じものを作り出した。3人で輪になって座り、棒を擦り続ける。しかし、全然火がつかない。やり方が合っているのか不安になる。
「これ難しいですね」
「棒と板をもっと硬くしてみるか。このままだと何時間もかかりそうだ」
「リズ天才。それ試してみよう」
棒と板を硬くしてから再度擦り始める。思いっきり擦り続けると煙が出てきた。
「お、煙出てきたな」
「早くない? ちょっと貸して、私はここからの作業が得意だから」
「あたしはまだ煙出てません……」
スーフェリアは擦るのを止め、俺の目の前まで来る。麻の繊維のようなものを作り出し、それを窪みに近づけた。そして、そっと息を吹きかける。何度か息を吹きかけると繊維が赤く光った。
「ふふ、火が付いたよ」
「お二方とも凄いです!」
「もうできたのか。早いな」
「まあ私だからね、当然だね」
火起こしを始めてから5分も経っていない。1時間以上かかると思っていたが、経験と使徒の力があればこんな短時間で火を起こせるのか。
スーフェリアは赤く光る繊維に枯れ枝を乗せていく。その間も息を吹きかけることは忘れない。熟練の技だ。火種は次第に大きくなり、やがて炎となった。スーフェリアは松明を作り出し、先端に火を灯す。それをリーシェに渡した。
「はい、これがあれば大丈夫かな? 私にはどのくらい明るくなってるのか分からないんだけど」
「はい! 大丈夫です! ありがとうございます!」
「それなら良かった。で、リズはいつまでその姿なの? 早く私の作ったすんごい美しくて可愛い顔に戻ってよ」
「あ、戻すの忘れてたな。もうこの姿じゃなくてもいいか」
「帰るときに戻れば大丈夫でしょ。早く戻って」
「私も可愛いリズお姉さまに戻ってほしいです!」
俺もこの盗賊は好きではないので、すぐに元の姿に戻す。このすらりとした体型に戻ると安心するが、顔がちゃんと戻っているのか不安だ。
「ちゃんと戻ってる? 顔変わってない?」
「いつものリズお姉さまです! 可愛いですよ!」
「うん、いつも通りだね。じゃ、出発しようか」
俺は「リズ」の姿に戻り、ダンジョン探検を再開した。冒険者がいる道を避け、ひたすら下っていく。魔物はいない。たまに見かける冒険者が殲滅していそうだ。
「魔物いませんね」
「もう他の冒険者が倒しちゃってるのかもな」
「ちょっと2人とも、前にゴーレムいるよ。気をつけてね」
リーシェとのんびり会話していると、いつの間にかスーフェリアが魔物を発見していた。道の先には黄色い宝石のゴーレムがいる。先程倒した灰色のゴーレムと大きさは変わらない。ゴーレムはどんな石からでも生まれるのだろうか。
「あのゴーレムは私が殺してもいい? スッキリしたいし、2人はここで待っててよ」
「ストレス発散しないとな。俺たちは見学してるよ」
「あいつを口喧嘩の相手だと思って倒してください! 応援してます!」
「ふふ、鮮やかな勝利を見せてあげるよ」
スーフェリアはゴーレムに向かって歩いていく。俺とリーシェはここで待機だ。俺はゴーレムを倒すのに手間取ったが、彼女なら一撃で倒すだろう。そんな確信がある。
スーフェリアが宝石ゴーレムに近づくと、ゴーレムがチカチカと光り始めた。あれは何だろう。さっきのゴーレムは全く光っていなかった。個体差があるのかもしれない。
そんな事を考えていたら、光り輝くゴーレムから電撃が放たれた。それに直撃したスーフェリアは全身が黒焦げになっている。
「スーフェリア!」
「スーフェリア様! 無事ですか!?」
「大丈夫だよ。すんごく元気」
黒焦げのスーフェリアはこちらに振り向いて手を振っている。その間も電撃を食らい続けていた。少し焦ってしまったが、使徒はマグマに飛び込んでも死なないのだ。電撃で死ぬはずがない。
「ゴーレムが雷魔法を使うんですね……」
「あれも魔法なのか?」
「おそらく。昔、お父様に魔法を使う魔物もいると教えてもらいました。ゴーレムも使えるとは思いませんでしたが」
「魔法を使う魔物か。恐ろしいな」
スーフェリアが使徒じゃなかったら即死している。あの電撃を至近距離で回避するのは不可能だ。リーシェが離れていて本当に良かった。
「刮目せよ! 凶刃の翼、雷霆スタイル!」
スーフェリアは右腕をチェーンソーに変えて叫んだ。そんなに凶刃の翼を気に入っていたのか。雷霆スタイルと言っているが、あの姿が雷霆なのか? 彼女は全身が黒焦げだ。チェーンソーも焦げている。全然カッコよくない。
「凶刃の翼を喰らえ! はあぁぁぁぁー!」
スーフェリアはゴーレムの腹にチェーンソーを斬りつけた。だが、全く斬れていない。表面を削っているくらいだ。あのゴーレムは結構硬いらしい。
「……はあぁぁぁぁぁー!」
もう一度力を込めてチェーンソーを押し付けている。しかし、状況は変わっていなかった。ゴーレムは電撃を放っているだけだ。殴ってはこない。攻撃手段が電撃しかないらしい。
「……雷霆の拳っ!」
スーフェリアは飛び上がり、左手でゴーレムの胸を殴った。雷霆の拳という技名だが普通のパンチだ。ゴーレムは吹っ飛んでいき、再度動くことは無かった。一撃で……いや、一撃ではない。三撃でゴーレムは倒れてしまった。ゴーレムを倒したスーフェリアはこちらに戻ってくる。
「ふぅ、雷霆の強さ、見てくれた?」
「スーフェリア様大丈夫ですか!? 黒焦げですよ!」
「大丈夫だよ。ほら、元通り」
「わ、凄いですね! 跡も残っていません!」
スーフェリアは一瞬で黒焦げからいつもの体に戻った。凶刃の翼、雷霆スタイルも人間の腕になっている。
「ゴーレムが魔法使うんだな。雷霆スタイルが無ければ危なかったな」
「そうでしょ。本当は私も雷を放ちたいんだけどね、使徒も魔法を使えるようにならないかな」
「スーフェリア様ならいつか使えるようになりますよ!」
「ふふ、ありがとね」
俺も魔法を使ってみたい。魔力は無いが、使徒の能力で再現できないか?
雷なら、電気ウナギを再現すれば生み出せそうだ。人間にも発電する細胞は存在するが、電気ウナギはその細胞が数千枚も集まっているらしい。使徒の能力ならその細胞も作れるだろう。
そこまで詳しくないが、取り敢えず試してみよう。発電する細胞をイメージし、数を増やしていく。その細胞をプラスとマイナスを意識して直列に繋いだ。
その瞬間、俺の視界は闇に包まれた。
次回、電気を生み出します。