神の使徒にTS転生したので、最強美少女と旅します! 作:光の道筋
体を全く再生できない。俺はここで死ぬのか。どれだけ再生しようとしても、俺は2本の足のままだった。
この状況を打開する方法はあるのだろうか。足の形を変えて小人にでもなるか? いや、それでも魔法で爆殺されるだけだろう。歩幅が狭すぎて魔法を避けられない。リーシェが無事に出口を塞げたのか心配だ。多くの魔法が俺に放たれていたから、俺は囮としての役目を果たせたと信じたい。
もし塞げてなかったらどうしよう。スーフェリアは敵を殺し尽くせるのだろうか。敵に逃げられたらセラフィオスに迷惑をかけてしまう。領主として忙しく働いている彼女に、これ以上余計な仕事を増やしたくない。
……全然攻撃されないな。もう死んだと思われてるのか? 頭を失ったせいで、周囲の状況が把握できない。足を頭に変形してみるか? でも、生きてることがバレたくない。バレたら確実に攻撃される。
耳だけでも生やしてみるか。内腿に小さな耳を作ってみよう。バレたらまずいが、この程度のリスクは覚悟しなければならない。バレないと信じよう。恐る恐る耳を作る。頼む。バレないでくれ。
「何なんだこれは! これも悪魔の仕業なのか!?」
「とにかく攻撃しろ! 魔法を一点に集中させるんだ!」
「出口が何故塞がっている!? 誰がやった!? 裏切り者がいるのか!?」
「黙れ! それどころではない! 悪魔と戦うんだ!」
聞こえてきたのは怒号と爆発音。どうやら敵は俺にかまっている余裕が無さそうだ。バレなくてよかった。
リーシェが出口を塞いだようだが、それ以外にも何かあるのか。多分スーフェリアの仕業だな。何をしているのかは分からないが。
「後ろにまで来たぞ!?」
「撃て! 撃ちまくれ!」
「いくら撃っても増え続けます! どうすればいいのですか!?」
「そんなこと知るか! 泣き言を言う前に手を動かせ!」
「この腕に掴まれるな! 斬りまくれ!」
「ぎゃぁ!」
「に、逃げ──」
「助けてくれ! 俺は──」
グシャッという鈍い音が響いた途端、彼らの声はぴたりと途切れた。これは頭が潰れる音だ。俺はこの音を何度も聞いているから分かってしまった。
現在、どのような状況になっているのか非常に気になる。もう見ちゃってもいいかな。この混乱の最中で俺に注目している人はいないだろう。
楽観的な思考かもしれないが、好奇心に勝てなかった。俺は太腿に瞳を作り出し、ひとまず真上を見上げてみる。
視界に広がっていたのは、地獄のような光景だった。天井一面に広がる白い泥が脈動し、そこから無数の白い腕が伸びていた。その腕が敵の頭を掴んで握り潰している。敵は腕を退けようと抵抗していた。剣で斬り払い、魔法を撃っている。
それでも腕は止まることなく再生し続け、確実に一人ずつ敵を仕留めていく。周囲には阿鼻叫喚が響き渡り、それはまるで神の裁きのように無慈悲に命を奪っていった。
地獄の様相を眺めていると、白い腕が俺に迫ってきた。俺まで潰されないよな? スーフェリアがそんなことをするはずがないと理解しているが、それでもつい不安がよぎる。
白い腕は俺の右足を掴んで持ち上げた。俺は潰されることなく、逆さまになってプラプラと空中を漂う。
空中だと周囲の状況がよく分かった。天井の白い泥は、正面の壁も覆い尽くそうと増え続けている。正面には、塞がれた出口の破壊を試みているいる魔法使い達がいた。リーシェが塞いだものだろう。しかし、無数の白い腕に邪魔され、壁を打ち砕くことができていない。
俺は塞がれた出口から離れるように運ばれている。スーフェリアとリーシェの元まで行くのか。彼女達の姿を確認するために後ろにも瞳を作る。そこに見えたのは白い壁だった。その壁は巨大な隔壁のようにそびえ立ち、野球場ほどの広さの空間を二分している。
スーフェリアとリーシェの姿は壁に阻まれて見えない。この壁もスーフェリアが作り出したものだろう。俺は壁にぶつかり、そのままズブズブと沈んでいく。
壁の中はうねうねとした触手が沢山あった。触手に圧迫されながら運ばれていく。イソギンチャクに囲まれてるみたいだ。外に出ると、もう一度腕に掴まれた。そして、ゆっくりと地上に降ろされる。
地上に降りると、スーフェリアとリーシェがこちらに駆け寄ってしゃがみこんだ。足だけとなった俺を覗き込んでいる。スーフェリアの腹から臍の緒のような管が伸び、白い壁と繋がっていた。離れていると無数の腕を操作できないからだろう。
「リズが死ななくて良かった。ギリギリだったね」
「なっ! この足がリズお姉さまなのですか!?」
「そうだよ。目と耳はあるね。じゃ、口も作ってくれない?」
そう言われたので口を作る。壁の反対側からは悲鳴が絶えず聞こえているが、スーフェリアの様子はいつも通りだ。
「……作戦は成功したのか? 今はどういう状況なんだ?」
「リズお姉さま!」
「リーシェが出口を塞いでくれたよ。リズのおかげだね。後は私がやるからね」
「スーフェリア様! リズお姉さまは元の姿に戻れないのですか!?」
「戻れるよ。リズ、これを吸収して」
スーフェリアは俺の上に手をかざし、そこから白い泥を垂らしている。有り難く頂戴し、吸収して自分の体に変換していった。俺は元の体に戻る。仰向けの状態から起き上がると、リーシェが抱きついてきた。
「リズお姉さまっ!」
「リーシェとスーフェリアのおかげで助かったよ。ありがとう」
「ふふ、助けるのは当然だよ。2人が頑張ってくれたからね。後は私の仕事だよ」
「スーフェリア様、向こう側では何が起こっているのですか? 何となく想像はつくのですが」
「敵を逃がさないようにしながら殺してるよ。もうすぐ終わる───あ、いいもの見つけた」
「何があったのですか?」
「ちょっと待ってね。集中するから」
スーフェリアはそう言うと黙り込んでしまう。暫くの間待っていると、壁から白い腕が生えてきた。その手には何かを持っている。
「いいものってこれか?」
「ふふ、じゃーん、水晶だよ」
「水晶!?」
白い腕からスーフェリアに手渡されたそれは、悪魔呼ばわりしてくる人が持っていた水晶だった。水晶にはひびが入っている。俺が暴れてできた傷かもしれない。
「持っても大丈夫なのか!? なんか、魔法的な何かで攻撃されたりしないのか!?」
「何ともないね。でも、一応リーシェに持っといて貰おうかな」
「は、はい! 待っときます!」
スーフェリアはリーシェに水晶を渡す。見る限りではただの水晶だ。これでどうやって悪魔と判別しているのだろうか。
「じゃ、そろそろ終わらせるね」
スーフェリアのその一言をきっかけに、巨大な壁が縮小し始めた。同時に天井も沈み込むように下がり、空間全体が収縮していく。半円状のドームを形成しながら、じわじわと狭まっていった。
「これは何をやってるんだ?」
「敵が少なくなってきたからね。潰すんだよ」
「潰す……」
ドームはさらに縮小を続ける。中に閉じ込められた敵の混乱した叫び声が響き渡った。逃げ道を探しているのか、壁を叩く音や魔法の炸裂音が聞こえてくる。
「壊せ! 壊せェ!」
「死にたくない! まだ死にたくない!」
「何なんだこれは! 何が起こっているんだ!」
しかし、ドームの縮小は止まらない。鎧が擦れる音や人体が潰れる音を鳴らしながら、ドームは三階建ての一軒家ほどの大きさになった。
この狭さの中に本当に100人以上の人間がいるのか? そうは思えない。だが、確かに彼らの悲鳴と怒号が響いている。圧迫され、逃げ場を失った者たちの絶望が、この空間を満たしていた。
次第に声が少なくなる。やがて、彼らの悲鳴と怒号は一つも聞こえなくなった。
「終わったね」
「……全員死んだのですか?」
「うん、死んだよ。逃げた人もいないね」
白いドームが消滅する。その中には潰れた鎧や剣などの金属が溢れていた。人間は何処にもいない。スーフェリアが吸収してしまったのだろう。
「スーフェリア様ってとんでもなく強いですね……」
「ふふ、まあね。神の使徒だからね」
恐ろしい力だ。俺のようなただの人間にそんな力が宿っていることが、何よりも怖い。
「もう帰ろっか。セラフィオスに報告しないといけないし」
「……そうだな。ダンジョン探検してる場合じゃないな」
「帰り道の魔物退治はあたしに任せてください。あたしは全然活躍できなかったので」
「そんなことないけどね。敵を逃さなかったのはリーシェのおかげだし」
「いえ、あたしがやります。これくらいやらせてください」
「じゃあ、ゴーレムが現れたらリーシェに倒してもらうか。でも、危なかったら手伝うからな」
「はい! その時はお願いします!」
俺たちは来た道を引き返す。楽しいはずだったダンジョン探検は、思いがけず陰惨な結末を迎えてしまった。一先ず、ダンジョン内に聖教国の人間がいたこと、そして彼らに襲われたことをセラフィオスに報告しなければならない。
次回、セラフィオスに報告します。水晶がどのように悪魔を判別しているのか、その仕組みが判明するらしいです。