神の使徒にTS転生したので、最強美少女と旅します!   作:光の道筋

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頑張ります!

 扉を開け、スーフェリアと並んでセラフィオスの私室に入る。部屋の中には、右耳を布で覆いながら手で抑えている涙目のリーシェと、慌てふためいているセラフィオスがいた。セラフィオスは俺たちを見て安心したのか、ほっと一息ついている。

 

「あ、2人ともおかえり」

「これ、とんでもなく痛いです! 何ですかこれ!」

「穴2つ開けた?」

「まだ1つだけ。今から2つ目開けるところなの」

「2つ目なんて無理です! 痛すぎて死んじゃいますよ!」

「これくらいじゃ死なないって」

「リーシェちゃん大丈夫だよ。痛いってのがよく分からないけど、死ぬわけじゃないしね」

 

 痛覚を知らないスーフェリアとセラフィオスには、リーシェが大騒ぎしている理由が理解できないようだ。その様子に人間と使徒の違いを痛感する。ここは俺がリーシェを庇うべきだろう。リーシェ以外に痛覚を知っているのは俺しかいない。

 

「ピアス穴は1つだけでいいんじゃないか? スーフェリアがピアスになって道案内して、俺はリュックにでもなってるよ」

「え、3人でお喋りしながら行こうよ。寂しくない?」

「寂しいけど、リーシェが可哀想だ。そこまでしてピアスにならなくていいよ」

「ッ! リズお姉さま! あたしはリズお姉さまに寂しい思いなどさせません! どうぞ開けてください!」

「いや、本当にそこまでしなくていいんだけど……」

「いえ! やります!」

「そうか……頑張って……」

「頑張ります!」

 

 リーシェがすっかりやる気になってしまった。ものすごく痛そうにしているけど、本当に大丈夫なのか? 本人がやると決めた以上止めはしないが、無理だけはしないでほしい。

 

「じゃ、右耳にもう1つの穴を開けようね」

「右耳に!? 左耳じゃ駄目ですか!?」

「それだと私とリズが会話できないでしょ。セラフィオス、針貸して」

「はいスーちゃん」

 

 セラフィオスから針を受け取ったスーフェリアは、リーシェの右耳を覆う布を取り外す。その布は血が滲んでおり、耳珠には1つの穴が開いていた。

 

「はい、穴開けるよ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 心の準備が!」

「早く準備しちゃおう。セラフィオス、リーシェのために応援してて」

「うん、応援するよ。頑張れ! 頑張れ! 頑張れ! 頑張れ!」

「私もするね。頑張れ! 頑張れ! 頑張れ! 頑張れ!」

「「頑張れ! 頑張れ! 頑張れ!」」

「頑張ります! 頑張ります! 頑張ります!」

 

 何だこの状況は……。涙目で震えている幼女を2人が大声で応援している。スーフェリアとセラフィオスの表情は大真面目だ。この異様な空間では黙って眺めている俺の方が異端に思えた。

 

「ほらリズも応援して! 頑張れ! 頑張れ!」

「あ、あぁ……頑張れ、頑張れ、頑張れ」

「もっと大声で!」

「頑張れ! 頑張れ!」

「「「頑張れ! 頑張れ! 頑張れ!」」」

「頑張ります! あ、あの! まだですか!? いつ開けますか!?」

「準備できた!? 頑張れ! 頑張れ!」

「できました! 頑張ります! 頑張ります!」

 

 俺たちは全力でリーシェを応援する。リーシェは目を瞑って震えながら、その応援に応えていた。スーフェリアは何の前触れもなく、唐突にリーシェの耳珠を一気に貫いた。掛け声すらない。

 そして、そのまま針を引き抜く。針にはリーシェの血が付着していた。

 

「いっっった!」

「「「頑張れ! 頑張れ! 頑張れ!」」」

 

 針で貫かれたリーシェは床を転げ回っている。俺たち3人は転げ回っているリーシェを取り囲んで応援していた。もうヤケクソだ。その場の熱気に流され、全力で応援していた。

 

「リ、リズお姉さま! もう頑張れしなくて大丈夫です! 元のお姉さまに戻ってください!」

「だ、大丈夫か? よく耐えられたな。すごく痛かっただろ」

「リズお姉さま!」

 

 リーシェが俺に抱きついてくる。俺はリーシェの背中をさすった。少しでも痛みを紛らわせてあげたい。あと、さっきの頑張れ空間から引き戻したかった。

 

「よし、穴開いたね。ピアスを付けるのは明日かな」

「そうだね。リーシェちゃん、一緒に耳を洗おうね。わたしについてきて」

「わかりました。皆さん、応援ありがとうございました」

 

 リーシェはスーフェリアから布を受け取り、お辞儀をしてからセラフィオスと一緒に部屋を出た。俺は部屋に戻って休もう。精神的に疲れた。

 

「スーフェリア、俺たちも部屋に戻るか」

「うん、もうやる事も無いしね」

 

 スーフェリアと共に自分たちの部屋に戻った。ふかふかのベッドが心地良い。翌朝、再びセラフィオスの私室に集まった。

 

「リーシェ、耳は大丈夫か? 痛くないか?」

「少し痛みますけど、ピアスは付けれます。多分」

「じゃ、ピアスになるから付けてね」

 

 スーフェリアがそう言い終えた瞬間、彼女の姿がふっと消えた。その代わり、床には小さな真珠のピアスが静かに転がっている。

 

「えっと、このピアスを付ければいいんですね」

「わたしが付けてあげるよ!」

 

 セラフィオスはピアスと化したスーフェリアを拾い上げ、リーシェの耳に付けた。傍目には普通のピアスにしか見えない。

 

「リズも早くピアスになってね。留め具に口を作るんだよ」

「うわっ! 耳元でスーフェリア様の声がします!」

「なるほど。早速ピアスになるか」

 

 ピアスからスーフェリアの囁き声が聞こえる。これくらい小さな声なら人間には聞こえないはずだ。留め具に口を作るのは、耳珠の裏側なら口の動きが他人に見えないからだろう。しかも耳の穴に近いので声も聞こえやすく、一石二鳥だ。

 

 俺は右手の上に真珠のピアスを作り出す。その後、人間の体を吸収してピアスだけの姿になった。スーフェリアのように一瞬で変身はできない。

俺は床に落ちる。視覚と聴覚は機能していた。床からの景色が見え、環境音が聞こえている。

 

「わたしが付けるよ!」

 

 セラフィオスが俺を拾う。彼女が巨人のように感じた。小蝿にでもなった気分だ。セラフィオスは俺をリーシェの耳珠に付けた。位置はスーフェリアの上だ。ピアスの下側がスーフェリアにぶつかっている。

 

「リズ、なんか喋ってみてよ」

 

 スーフェリアがそう言うので、俺は留め具に口を作ってみる。昨日作った顎無しの蟻の口だ。

 

「あ、あ……聞こえてるか?」

「わ! 変な声が聞こえます!」

「何この声。掠れすぎじゃない?」

「リズちゃんの声なのかな? いつもの声と全然違うね」

 

 俺の声は全く可愛くない。どうしても掠れた声になってしまう。早くリズの声で話せるようになりたいが、今はこれで十分だろう。

 

「ピアスのまま話すとこの声になっちゃうんだ。それよりもこれからどうするんだ? 港に向かうのか?」

「あ、リーシェちゃんに渡すものがあるの。はい、これ」

「何ですかこれ?」

「紹介状と船までの地図だよ。この封筒を船にいる人に渡してくれればいいからね」

 

 セラフィオスはポケットから一通の封筒と一枚の地図を出してリーシェに渡す。地図は手書きのようだ。わざわざ書いてくれたのか。有難い。

 

「ありがとうございます。助かります」

「わたしが頼んだ事だからこれぐらいはするよ。気をつけて行ってきてね」

「はい、気をつけます。では、いってきますね」

「じゃあねセラフィオス」

「セラフィオスも気をつけてな。聖教国の人には会っちゃ駄目だぞ」

「家に引き篭もるから大丈夫。皆行ってらっしゃい」

 

 寂しそうなセラフィオスと別れ、屋敷を出発する。手書きの地図は簡略化されており、とても分かりやすかった。リーシェはスーフェリアの道案内を必要とせずにスイスイと進んでいく。

 

 目的地に到着すると、そこには立派な帆船があった。白く大きな3つの帆はどこか誇らしげだ。船体は頑丈な木材で組み上げられていた。

 海賊船のようにも見えるが、それは地球の知識があるからだろう。積荷を運んでいる男たちは海賊には見えない。ただの人夫だ。リーシェは人夫に指示している男に近づいて話しかけた。

 

「すみません。この船に乗る方ですか?」

「あ? ああ、こいつに乗ってくよ。なんか用あんのか?」

「これを船に乗る人に渡せば、乗せてくれると聞いたのですが……」

「なんだ? 見せてみろ」

 

 男はリーシェが差し出した封筒を開く。鋭い目つきで紹介状を読み始めた。

 

「事情は理解した。乗れ」

「あ、ありがとうございます」

「半日でブギロギ島に着く。船内に入ったら空いてる部屋が無いか誰かに聞け。どこも空いてなかったら甲板にいろ」

「わかりました。失礼します」

「ああ、船旅を楽しめよ」

 

 男は笑ってリーシェを送り出す。リーシェは渡り板から船に乗り込んだ。

 

「すんなり乗れました」

「セラフィオスが領主で良かったね。のんびりできる部屋探さない?」

「そうですね。適当な人に尋ねてみますか」

 

 リーシェが船員に話しかける。これからブギロギ島への船旅が始まるのか。波の音とともに心が少し弾む。未知の島、そしてそこで待つスカレアという神の使徒はどんな人物なのだろうか。




次回、船旅です。
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