神の使徒にTS転生したので、最強美少女と旅します!   作:光の道筋

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第35話

 潮の香りと海鳥の賑やかな声の中、ブギロギ島行きの船は進んでいた。現在、俺たちは船の甲板にいる。未だに俺とスーフェリアはピアスと化しており、リーシェの耳に装着されていた。

 

「うっ、ゔぉえっ! ゔぉろ、ぺっ」

 

  リーシェは船酔い中だ。顔色を青くしながら、甲板から海面に向かって吐瀉物を落としていた。出航してから2時間ほど経過しただろうか。馬車でも酔って吐いていたし、酔いやすい体質なのかもしれない。

 

「嬢ちゃん、大丈夫か? 全部吐いちまえよ。そしたら楽になる」

「お、お気遣い無く……おえっ」

「ほら水だ。口をゆすいでから飲め」

「ありがとうございます……」

 

 リーシェが船酔いしてから乗組員のおっさんがずっと看病してくれている。頭に巻いたタオルともじゃもじゃの髭が特徴的なおっさんだ。

 リーシェとおっさんの距離が近いため、俺とスーフェリアは喋ることができない。ピアスが喋るなんてバレたら大騒ぎになってしまう。

 

「んっ……少し楽になりました……」

「それはよかった。後は部屋で寝ておけ。案内してやるよ」

「お願いします……」

 

 リーシェはおっさんの後に続いて船内に入っていく。薄暗く狭い廊下では他の乗組員たちが忙しそうに行き来していた。波に揺れる船内を、リーシェはよろめきながら一歩ずつ進む。先導するおっさんは彼女を気遣い、歩調を合わせてゆっくりと歩いていた。

 

「ここだ。この部屋で休んでろ」

 

 到着地は狭い個室だった。家具は机と椅子、それと簡易なベッドしかない。壁には丸い窓があり、差し込む日光が唯一の光源となっていた。

 

「ありがとうございます……助かります……」

「じゃあな。何かあったら声かけてくれ」

 

 案内してくれたおっさんは颯爽と去っていく。リーシェはお辞儀をしてから扉を閉め、よろよろとベッドに寝転んだ。

 

「あぁ……気持ち悪い……」

「大丈夫か? ゆっくり休むんだぞ」

「私とリズは静かにしてようかな。耳元で会話されたら鬱陶しいでしょ」

「いえ、むしろ会話してくれたほうが嬉しいです。気が紛れます」

「そうか? じゃあ、スーフェリアに聞きたかったことがあるんだけどいいか?」

「私は全然いいけど」

「あたしも大丈夫です。早く陸に立ちたい……」

 

 苦しんでいるリーシェには悪いが、スーフェリアにスカレアの特徴について聞きたかった。

 スカレアという人物について俺はほとんど知らない。知っているのは、かつて「ブギロギ」と名乗っており、人々に崇められていたことだけだ。これからスカレアを探すというのに、知っている情報がこれだけというのは心許ない。

 

「スーフェリア、スカレアってどんな人物なんだ? セラフィオスみたいに島を治めているのか?」

「ブギロギは人じゃないよ。スカレアに改名したらしいけど、それは変わらないんじゃないかな」

「人じゃない?」

「うん。ブギロギは島で一番大きい樹木なんだよ。それがブギロギ様って呼ばれてたね」

「樹木……」

 

 ブギロギは樹木だったのか。てっきり人であると思い込んでいた。島で一番大きいなら探すのも簡単だろう。しかし、樹木から姿を変えている可能性もある。もしそうなら捜索が難しくなるな。

 

「ん? 樹木なら水晶で見られても悪魔だってバレないんじゃないか?」

「そうだね。それでも情報は共有しときたいんじゃない? セラフィオスって優しいからさ、知らない間に友達が死ぬのは嫌なんでしょ」

「友達が死ぬのは誰でも嫌だろ。スーフェリアはブギロギと仲が悪かったのか?」

「仲は悪くないよ。樹木になってるのが気に入らないだけ」

「まあ、俺も人間の姿のほうが便利だと思うけど」

 

 樹木なら歩くことすらできないだろう。俺は元々人間として生きてきたのだから、できることなら人間の姿でいたい。

 

「リズは異世界で人間だったんでしょ?」

「ああ、人間だったよ」

「なら樹木にならないほうが動きやすそうだね。私たち使徒も人間の姿で現世に来たんだよ」

「今と同じ姿か」

「うん。私は生まれてから全く変わってないね。セラフィオスはちょくちょく変わってるけど」

「そういえばセラフィオスのことも気になってたんだ。何代も領主をやってるんだよな? どうやってるんだろう」

 

 セラフィオスとは仲良くなったが、まだ彼女をよく知らない。子どもを産んで、その存在に成り代わる、そんなことだろうか? そもそも使徒が子どもを産めるのかどうかもわからないが。

 

「さあ? 私も知らないね。興味ないし」

 

 スーフェリアがそう答えた時、コンコンと扉がノックされた。俺はスーフェリアに話しかけようとした口を噤む。

 

「あ、どうぞ……」

「嬢ちゃん、元気か? 食べ物持ってきたぞ」

 

 扉が開かれると、そこにいたのは先程案内してくれたおっさんだった。その手には乾パンと干し肉、革の水筒がある。

 

「申し訳ありません……こんな事までしていただいて……」

「いいんだよ。嬢ちゃん何も持ってねえじゃねえか。最初っから船の食いもん貰うつもりだったんだろ?」

「それは……はい、そうです……たかろうとしてました……」

「はっはっは! 子どもはそんくらいでいいんだよ。俺は息子が3人いるんだけどな、揃いも揃って食いもんを奪うんだよ。ガキ共に比べたら嬢ちゃんは大人みてえな礼儀正しさだぜ」

「そんな事ないと思いますが……」

 

 おっさんは椅子に座ってリーシェと話し始めた。リーシェは体を起こし、乾パンと干し肉をちびちびと食べている。

 リーシェには船の食糧をたかるつもりなんて無かっただろう。俺とスーフェリアのハンバーガーでも食べる予定だったはずだ。それでも彼の持ってきてくれた善意を食べている。リーシェもおっさんも優しい人だ。

 

「俺は仕事に戻るぜ。ブギロギ島まではもうちょっと時間がかかるからな。寝て待ってとけよ」

「わかりました……食べ物、美味しかったです……ありがとうございました……」

「本当に礼儀正しいなぁ! 息子と結婚してほしいぜ」

「それは無理です……もう結婚相手は決まっているので……」

「はっはっは! なら仕方がないな! ゆっくり休んどけよ!」

 

 おっさんは豪快に笑いながら部屋を出ていく。リーシェは再び横になった。

 

「あたしは寝ちゃいます……お二方は談笑してて構いませんから……」

「いや、俺も寝るよ。スーフェリアも眠いよな?」

「え? 私は……うん、眠いね。もう早く眠りたいよ」

「そうですか……おやすみなさい……」

 

 リーシェはそう言うと、すぐに眠ってしまった。余程疲れていたのだろう。思えば、ダンジョン探索の翌日にすぐ船旅とはかなりハードなスケジュールだ。ピアスの穴あけの痛みもまだ残っているだろうし、リーシェには少し無理をさせすぎたかもしれない。

 ブギロギ島では休暇を取ろう。のんびりとバカンスして疲れを癒してほしい。

 

 リーシェに続いて、俺とスーフェリアも眠る。全く眠くないが、眠っているリーシェの耳元で会話はできない。それはスーフェリアも同じ気持ちだろう。幸い、使徒の体ならばいつでも眠れる。便利な体だ。

 コンコンと扉がノックされる音で目を覚ます。どれくらい眠っていたのだろうか。そう思って窓の外を見てみると、橙色の空が広がっていた。もう夕方になったらしい。

 

「嬢ちゃん、起きてるか? 入るぞ」

 

 リーシェの返事を待たずに先程のおっさんが部屋に入る。リーシェはまだ寝ているので返事はできない。

 

「おい、起きろ。島に着いたぞ」

「うぇ……? 島……?」

「そうだ島だ。さっさと起きろ」

「はい……起きます……」

 

 涎を垂らしているリーシェが起き上がる。顔色は悪いままだ。寝るだけでは疲れを取れなかったらしい。

 

「よし、俺についてこい。船から降りるぞ」

「はい……」

 

 リーシェは寝惚け眼をこすりながらおっさんについていく。おっさんとリーシェは狭い廊下を歩き、甲板に出る。

 そこから見えたのは、中央に大きな山がある島だった。茶色い山は島全体を見守るように聳え立っている。その麓に緑が広がっており、船の行き先には港があった。木造だと思われる家が建ち並んでいる。ここから見る限りでは、集落の規模は大きくない。町というよりは村に近いだろう。

 

「ここがブギロギ島だ。長閑で良いところだぜ」

「やっと到着したんですね……早く陸に行きたいです……」

 

 船は港に近づいていき、ブギロギ島に到着した。周囲の乗組員は忙しそうに積荷を運んでいる。

 そんな中、このおっさんは積荷を運ばずにリーシェの隣にいる。彼は仕事をしなくてもよいのだろうか。それとも、リーシェの世話をすることが仕事なのかもしれない。

 2人は渡り板を歩いて桟橋に降り立つ。リーシェは感動してるのか、涙を流していた。

 

「陸……! 陸です! 地面が揺れてません!」

「良かったなぁ。もう船酔いは起こらないぞ」

 

 おっさんはまるで娘を労るかのような優しい目でリーシェの見ている。実際、親と同じ優しさがあった。

 桟橋では釣りをしている人が何人かいる。桟橋に腰を掛け、木の枝に糸がついている釣竿を海に垂らしていた。一番手前には麦わら帽子を被った赤髪の女性がいる。鮮やかなロングヘアが陽の光に映え、否応なく目を引く。服は白のキャミソールと長ズボンだ。汚れていて灰色に近い。

 

 彼女は俺たちに気付き、こちらを向いた。その顔は貴族の令嬢のように美しさと気品さを兼ね揃えている。真紅の吊り目が相手を圧倒する威圧感を放っていた。

 

「グラガスか。久しぶりじゃな」

「一ヶ月ぶりだな。元気だったか?」

 

 このおっさんの名前はグラガスというらしい。初めて知った。

 

「元気じゃ。隣にいるのはエルフか。珍しいのぅ。顔色が悪いが大丈夫か?」

「船酔いしちゃってな。俺は仕事に行かなきゃいけねえから面倒見ててくれ」

「妾に任せるのじゃ。人助けは人として当然じゃからのぅ」

「ありがとなスカレア。頼んだぜ」

「スカレア!?」

 

 スーフェリアが思わず叫ぶ。俺も叫びそうになってしまった。目の前で釣りをしているスカレアは美しい女性だ。スーフェリアから聞いていた樹木の姿ではなかった。

 




スカレアが登場しました。スーフェリアの情報は古かったかもしれません。
次回、スカレアの家に行きます。色々と話します。
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