神の使徒にTS転生したので、最強美少女と旅します! 作:光の道筋
「む? なんじゃ?」
「今の声、嬢ちゃんか?」
「は、はい。驚いてしまって、つい」
「貴様は妾を知っておるのか? 初対面の筈じゃが」
スカレアは釣りをやめ、釣竿を肩に担いで立ち上がった。傍に置いてあった木製のバケツを反対の手に持っている。
スカレアの身長はおよそ160cmで、『リズ』とほとんど同じくらいだ。見た目の年齢は18歳前後に見える。彼女は靴を履いていなかった。裸足のままリーシェに近づく。スカレアが歩く度にペタペタと小さな足音が響いた。
「いえ、初対面です。あたしはスカレア様に用があってブギロギ島に来たんです」
「妾に用じゃと?」
「おいおい嬢ちゃん、こいつに様なんて付けなくていいぜ。さっきみたいにスカレアって呼び捨てにしてやれよ」
「そういうわけには……」
「貴様はさっさと仕事に戻れ。妾は可愛らしいエルフと話すのじゃ」
「わかったよ。嬢ちゃんのことは任せたぜ」
グラガスというおっさんは俺たちに背を向けたまま、大きく手を振って船に戻っていった。この別れ方かっこいいな。俺も今度やってみようか。
「五月蝿いのが消えたな。貴様、名前はなんじゃ」
「リーシェです」
「リーシェか。改めて名乗るが、妾はスカレアという。今宵は妾の家に来るが良い。美味い鍋を食わせてやるのじゃ」
「ありがとうございます。御馳走になります」
「妾が作る鍋は世界一美味いからのぅ。楽しみにしておれ」
スカレアとリーシェは漁村に向かって歩く。この村はピュリノスよりも落ち着いた雰囲気だ。時の進みが遅く感じる。人口が少ないからだろうか。それとも、木造の建物が日本の田舎を彷彿させるからかもしれない。
「おうスカレア。今日は釣れたか?」
「2匹釣れたのじゃ。今日はこの娘に食わせるからな。貴様にはやらんぞ」
「スカレアちゃん、これあげる。うちの畑で採れたのよ。新鮮で美味しいわよ」
「有難い。今度、妾の野菜をお返しするからのぅ」
スカレアが村の中を歩いていると、沢山のお爺さんやお婆さんに声をかけられる。彼女は神の使徒らしいが、村に馴染んでいるようだ。人間との関わりが薄いスーフェリアとは全然違う。
「リーシェ、この野菜を持ってくれんか。流石に持てん」
「わかりました。任せてください」
リーシェは大根のような根菜を持つ。既にスカレアは大量の野菜を抱えていた。
「妾の家は村の外れにあるからのぅ。もうちょっとだけ頑張ってくれ」
「全然大丈夫です。これくらい余裕です」
「そうか。小さいのに立派じゃのぅ。それで、妾に用があると言っておったな。何用か話してみよ」
「その、神の使徒関係の話なんです」
「何ッ!? ……もしかして、貴様はセラフィオスか?」
「ち、違います! あたしはリーシェです! ただのエルフです!」
「……本当か?」
「本当です!」
スカレアは疑いの目でリーシェを見ている。リーシェは首をぶんぶんと横に振って必死に否定していた。
使徒はどんな姿にもなれるのだから、セラフィオスがリーシェの姿になっている可能性もあるのか。けれど、こればかりは説明しても限界がある。最終的には信じてもらうしかなかった。
「……この話は家でするのじゃ。外で話すことではない」
「そうですね。そうしましょうか」
「ね、スカレア。この声聞こえるよね」
スカレアとリーシェが会話を終えようとしていたが、次はスーフェリアが小さな声で話し始める。この話は家でしようってスカレアが言ったばかりだ。だが、スーフェリアはそんな事を気にしていない。
「む? さっき聞いた声と同じじゃな。何処かで聞いたことがある気もするが……」
「スーフェリアだよ。今はリーシェのピアスになってるよ」
「スーフェリアじゃと!?」
スカレアは俺とスーフェリアの至近距離まで顔を近づける。近い。めっちゃ近い。スカレアの長いまつ毛とリーシェの耳が触れそうだ。
「うん、私はね、スーフェリア。久しぶりだね。リーシェはセラフィオスじゃないから安心していいよ」
「……言いたいことは山ほどあるが、今はよい。続きは妾の家でじゃ。他の人には聞かれたくないからのぅ」
「リーシェはセラフィオスじゃないからね」
「わかったわかった。さっさと行くのじゃ」
今度こそ会話を中断し、再びスカレアの家に向かう。村の中心から離れるにつれ、だんだんと建物が少なくなってきた。それに比例して、お爺ちゃんお婆ちゃんから声をかけられる回数も減ってくる。
「この奥じゃ」
目の前には防風林が広がっている。スカレアは木々の間を通っていった。リーシェもその後ろを追いかけて防風林に入る。やがて防風林を抜けると木造の平屋と井戸、畑があった。畑には草が青々と茂っている。何の野菜かは分からない。
「ここが妾の家じゃ」
「静かでいいところですね。これは何の野菜を育ててるんですか?」
「ブーギじゃ。そろそろ収穫の時期じゃな」
「ブーギ……初めて聞く野菜です」
「この島以外には自生してないからのぅ。知らなくても仕方がない」
「へぇ、ブギロギ島にしか生えてないんですね」
「そうじゃ。ブーギは根菜でな、葉も食えないことは無いのじゃが、根っこが美味いんじゃ」
「一度食べてみたいですね」
スカレアとリーシェは野菜トークで盛り上がっている。そういえばセラフィオスとも庭園トークで仲良くなっていたな。リーシェは神の使徒と相性が良いのかもしれない。
「ね、もう話していい?」
「む? あぁ、話してもよいぞ。今の時間に人が来ることはないじゃろう」
「よかった。じゃ、家に入らない? 畑の話はもういいよ」
「そうじゃな。もう暗くなる。スーフェリアの言う通りにするかのぅ」
スカレアは入り口の隣に釣竿を立て掛ける。その後、2人は扉を開けて平屋の中に入った。部屋の中央には囲炉裏がある。壁際には甕や木箱、釜などの雑貨が沢山置いてあった。
左側の壁には一枚の扉があるが、それ以外に入り口を除いて扉は存在しない。外観から判断すると、おそらく左の部屋が建物の終わりなのだろう。
「靴は脱いでくれ。部屋が汚れるのは嫌なのじゃ」
「スカレアは何で靴履いてないの?」
「靴履いてるとムズムズするのじゃ。裸足のほうが楽じゃからな」
「その気持ち、すんごくわかるよ。私も履きたくないから」
「おお、初めて共感されたのじゃ。こんなもの妾には必要無いのじゃ」
スカレアは床に置かれた布で足裏を丁寧に拭き、それから部屋に上がった。リーシェもそそくさと靴を脱ぎ、後に続くように部屋へ上がる。
「野菜は適当に置いといてくれ。一応客人じゃ。座って休んでていいぞ」
「わかりました。では、ここに置いときますね」
リーシェは持っていた野菜を床に置き、囲炉裏の前にちょこんと座った。居心地が悪そうにソワソワしている。スカレアは麦わら帽子を脱ぎ、魚の入ったバケツを置いて野菜の仕分けをしていた。壺にどんどん野菜を入れている。
「私もう人間の姿に戻っていい? ピアス飽きたんだけど」
「好きに戻れば良かろう。妾は何でピアスになっているのか理解できん。密航してきたのか?」
「密航してないって。セラフィオスの許可は取ってるから。ピアスになってる理由も説明するね」
スーフェリアがそう言い終わると、一瞬で人間のスーフェリアが現れた。相変わらず再生速度が速い。
「うおっ! スーフェリア! 久しぶりじゃのう! 全く顔変わってないな! 今までどこにいたんじゃ!」
「ふふ、大森林に居たんだよ。スカレアは全然違うね。前は樹木でブギロギだったじゃん」
「それは何百年も前の話じゃ! この姿になったのも理由があるんじゃが、そんなのは後で良い!」
スカレアはスーフェリアの肩を叩きながら笑っている。スーフェリアも嬉しそうだ。
「実はね、もう1人いるんだよ。リズ、出てきていいよ」
「もう1人? まだ使徒がいるのかのぅ?」
ここで俺が人間になるのか。盛り上がってるから少し気まずいな。「誰だこいつ」ってなりそう。それでも人間にならない訳にはいかない。俺は意を決して人間の姿になった。
「む? セラフィオスか? スーフェリアの顔……いや、母様の顔か。久々に見たのじゃ。懐かしいな」
スカレアは俺の顔をしみじみと見ていた。母様の顔って何のことだ?
今回、リズが一言も発していません……本当に主人公なのでしょうか……
次回、母様の顔とは何なのか、教えてもらいます。