神の使徒にTS転生したので、最強美少女と旅します! 作:光の道筋
俺は巨大なスーフェリアを見上げている。彼女に顔というものは無いが、なんとなくこちらを見つめている気がした。
「まだ避難は終わってない! スーフェリアに船を作ってほしいんだ! 今すぐ来てくれ!」
「うーん、行きたいんだけどね、まだ敵を殺せてないんだよ」
「えっ! 敵は逃げたのか!?」
「違う違う。今はね、私の中にいるよ」
「中!?」
俺が驚くと同時に、もう一度スーフェリアの内側から爆発した。そして、すぐに元通りになる。爆発なんて無かったかのようだ。
「な、なんで」
「あの人さ、結界がすんごい硬くて壊せないんだよね。だから窒息させて殺そうとしてるんだよ。餓死でもいいね」
「なるほど……いや! そんな時間無いんだ! 避難を手伝ってくれ!」
「そう? じゃ、手伝っちゃおうかな」
スーフェリアがそう言うと、巨大なナメクジのような彼女が消えた。代わりに現れたのは人型のスーフェリアと、膝を突いて満身創痍なバルバだ。
バルバは全身がボロボロになっていた。服は焼け焦げ、両腕は真っ赤に火傷している。彼は息を整えながら俺を見た。その目に生気はない。死んだ魚のような、世界に絶望しているような、そんな目だった。その目は見たことがある。何度も何度も、嫌になる程見た。
「お、お前……」
「どうして僕を殺さない……もう結界を維持できる力もない……早く殺してくれ……僕は、僕が嫌いなんだ……」
「うん、さっさと殺しちゃおうか」
「ス、スーフェリア! 待ってくれ!」
「え? どうしたの?」
思わず叫んでしまった。バルバを殺そうと歩き出していたスーフェリアが立ち止まる。
俺は何がしたいんだ。こんなもの偽善だ。俺はもう何人も殺したんだぞ。こいつは俺たちを殺そうとしてきて、しかも火山を噴火させたんだ。殺してしまえばいい。こいつ自身もそれを望んでる。
……でも、こいつに悪気はなくて、ただ職務を遂行しただけで。それに、あの目。死を望んでる目だ。あの目を見たら母親を思い出してしまった。
忘れようとしてたのに。なんで今思い出すんだ。…………あの人は俺がいなくなったことを悲しむかな。1人でも大丈夫かな。俺は何も、まだ何もできてない。何もできないまま、この世界に来てしまった。
「……リズ?」
スーフェリアが首を傾げながら俺を見つめる。そうだ。今はそんな場合じゃない。俺はこの世界に来てしまって、帰る手段も無いんだ。だったらこの世界で生きなければならない。今できることで、最善を尽くすんだ。
「こいつは、バルバは殺さない。殺してくれなんて、自分が嫌いなんて言わないでくれ」
「……本当にどうしたの? ちょっと様子が変だよ」
「そんなことない。スーフェリアは先に村に行ってくれ。俺がバルバを運ぶ」
「……うん、わかった。先に行ってるよ。何かあったらすぐに言ってね。約束だよ」
「あぁ、約束だ」
スーフェリアが心配そうな顔をしながら走り去っていった。俺はいつも通りだ。変なところなんてない。その筈だ。
「な、なんで僕を助ける……僕は取り返しのつかないことをしてしまったんだ……こんな人間死んだ方がいい……」
「お前ッ!」
衝動的にバルバを殴ってしまった。バルバは無抵抗にそれを受け入れた。彼は殴られた衝撃で吹き飛ぶ。そのまま横たえて動かなくなってしまった。俺はバルバに近づき、胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「お前ッ! まだ生きてるだろ! 生きるんだよ! 死んだ方がいい人間なんていないんだよ!」
「僕は死んだ方がいい……だから君も殴ったんじゃないのか……」
「ごちゃごちゃとうるさいな! とにかく生きるんだよ!」
「何が副団長だ、何が責務だ……くだらない……どうしたら、僕はどうしたらいいんだ」
バルバの目は死んだままだ。俺だって、どうしたらいいのか分からない。
「とにかくお前を助けるからな! 助かってから死ね!」
「何を……」
「早く避難するぞ! 無理矢理連れてくからな!」
「待ってくれ……剣が……あの剣は貰ったもので……」
「剣!? 剣なんていらないだろ!」
先程までバルバが膝を突いていたところに彼の剣が落ちている。こんなもの必要ない。俺はバルバを引き摺りながら剣まで歩き、そして踏み潰す。剣が刀身の根元から折れた。
「き、君! これは大事なもので!」
「剣なんていらないんだよ! お前はまだ戦うつもりなのか!?」
「いや、そんなつもりはないけど……」
「じゃあいいだろ! 騎士団なんて辞めちまえ! ほら! さっさと行くぞ!」
「わかった! わかったよ! 自分で歩けるから!」
バルバが抵抗するので、俺は彼から手を離した。バルバはヨロヨロと歩き始める。遅い。こんな速さでは村に着くまでに1日かかる。俺は左腕でバルバを抱えた。この方が速い。
「自分で歩けるって言っただろ!」
「お前が遅すぎるのが悪い!」
バルバを抱えたまま、村を目指して全力で走る。あっという間に村に到着した。建物の上部から、一隻の帆船がチラッと見える。あれがスーフェリアの作ってくれた船か? 取り敢えず、俺たちもあの船を目指そう。
「は、速……」
「よし、あの船に乗り込むぞ」
「……なぁ、船に乗り込む前に1つ聞いてもいいかい?」
バルバが腕の中から俺を見つめてくる。俺は一旦立ち止まり、彼に返事した。
「なんだよ。別に船でも聞けるだろ」
「周りに人がいない方がいい。君たちは悪魔なのか? 僕に教えてくれ」
「神の使徒だって、スカレアが言ってただろ。悪魔なんかじゃない」
「そうか……」
「まだ信じてないのか? 俺もよくわかんないけどさ、戦争を起こさせないために頑張ってるらしいぞ」
「信じるよ。ごめん。僕は……また何も考えずに行動してしまった」
「俺じゃなくてスカレアに謝れよ。赤い髪の美人がスカレアだ」
「もちろん全員に謝る……まずは君に謝りたかったんだ……」
バルバはそう言ったきり黙ってしまった。俯いているため、その表情は見えない。俺は港に向かって歩く。周囲に救助活動を行なってる人はいない。一応、建物の下敷きになっている人がいないか探すが、人の気配は全くなかった。もう全員救助された、ということか。
港では、船に乗り込んでいる最中の人が何人かいた。その人数は少ない。沖に目を向けると、何隻かの船があった。既に多くの人が逃げれたのだろう。
「貴様ッ! どの面下げてここに来た!」
憤慨しているスカレアが、船の桟橋からこちらに向かってくる。その後ろにはスーフェリアとリーシェもいた。スカレアはバルバを許してくれるだろうか。もし許してくれなくても、俺はバルバを助ける。死んだ方がいいなんて、二度と思ってほしくないから。
次回、スカレアと話します。