神の使徒にTS転生したので、最強美少女と旅します! 作:光の道筋
いまだに地響きが鳴り続けている。その影響で桟橋が揺れ動き、波が足にかかった。そんな桟橋の上で、俺とスカレアは対峙していた。
「貴様のせいで何人死んだと思っておる! とっとと失せろ!」
「わかった。君、この手を離して──」
「お前は黙ってろ! スカレア! 俺はバルバを死なせないからな!」
「何を言っておる! 何故そいつの味方をするのじゃ!」
スカレアは憎々しげにバルバを睨んでいる。彼女が正しいのは分かってる。バルバの味方をする意味なんてない。
それでもバルバを死なせたくない。殺したくないんだ。
「俺自身もよく分かんないけど! わざわざ殺す必要はないだろ!」
「生かす必要もない! そいつさえ! そいつさえいなければ!」
「あ、あの! 避難しませんか! 早く逃げないと死んじゃいます!」
俺とスカレアの口論にリーシェが割り込む。その顔には焦りと恐怖が表れていた。
「あ!? リーシェもこのクソボケに殺されかけたのじゃぞ!」
「そ、そうですけど! 避難の方が先です! もう時間ありませんよ!」
「そうだね。この人はいつでも殺せるしね。ちょっと冷静になろうよ」
「…………そうじゃな。頭に血が上っていた。妾はスカレアじゃ。スカレアは冷静でなければな」
スカレアは腰に手を当てながら下を向き、大きく息を吐く。顔を上げると、彼女は無表情になっていた。
まるで作り物のような、感情を失ってしまったような顔だった。
「じゃ、じゃあ、早く船に乗りましょう」
「いや、こいつをこの帆船には乗せん。スーフェリア、小舟を作ってくれんか。妾達は小舟に乗って脱出するとしよう」
「え、なんで?」
「こいつが船内で暴れ出す可能性があるじゃろう。皆を巻き込む訳にはいかん」
「なるほどね。ふふ、なら作ってあげちゃおうかな」
スーフェリアは木製の小舟を作り、海へと放った。小舟は水飛沫を上げて着水する。
「じゃ、避難しようね」
「はい、早く逃げましょう」
スーフェリア、リーシェ、スカレアの3人が小舟に乗り込む。スカレアは小舟の上で、じっと俺を見つめていた。
「俺とバルバも乗っていいのか?」
「……うむ、貴様らも乗れ」
「僕も……?」
「そうじゃ。話だけは聞いてやる。いいから乗れ」
「……ありがとう」
俺はバルバを抱えたまま小舟に乗り込み、彼と並んで座った。対面にはスカレア達が座っている。
全員が座ると、小舟に6丁の櫂が生えてきた。櫂は自動で漕ぎ始め、小舟が前進していく。
「わ! 勝手に動いてます!」
「ふふ、これは私が動かしてるんだよ」
「え!? どうやってるんですか!?」
「この船と私は一体化してるからね。もう体の一部みたいなものなんだよ。凄いでしょ」
「凄いです! 流石スーフェリア様ですね!」
スーフェリアとリーシェがスカレアを挟んで会話している。2人に挟まれているスカレアは腕を組み、貧乏ゆすりをして苛立っていた。
「おい、それどころじゃないじゃろうが……」
「あ! そうですね! まずはこの人に色々聞きましょうか!」
「そうだね。ねぇ、あなたは何でブギロギ島に来たのかな?」
「僕は村長さんの還暦を祝いに来ただけなんだ。君達と会ったのは偶然だ」
「ふーん、そうなんだね」
スーフェリアはバルバについて興味無さそうだ。バルバがここにいる理由は案外どうでもいいのかもしれない。
「なぁ、悪魔はダンジョンにいるとか言ってたよな? どうしてバルバはここにいるんだ。悪魔を倒しに行かないのか?」
「騎士団と討伐隊は別組織なんだ。僕はダンジョンには行かない。ダンジョンにいるらしい、って情報しか聞いてないんだ」
バルバはダンジョンで戦った人達とは桁違いの強さだったが、悪魔を討伐しには行かないのか。まぁ、ダンジョンに悪魔なんていないんだけど。
「本当に申し訳ない。君達は神の使徒、というやつなんだよね? 僕が勘違いしたせいで、噴火させてしまった」
「貴様、その謝罪1つでなんとかなると思っておるのか? 謝ったところで死人は生き返らん」
「……思ってないよ。僕はもう生きてる価値も無い。殺してくれて構わない」
「うん。じゃ、殺そうか」
「スーフェリア! 待て! 殺すな!」
スーフェリアがバルバに手を伸ばすが、俺はバルバとスーフェリアの間に割って入って止める。危ない。止めなければバルバの頭を握り潰していただろう。
「さっきから気になってたんだけどさ、何でこの人を殺さないの? リズ達はこの人に攻撃されたんだよね?」
「確かに攻撃されたけど! もう戦いは終わったんだ! 殺さなくてもいいだろ!」
「……よく分かんないな。スカレアはどう思う?」
「………………」
「スカレア?」
スーフェリアがスカレアに問いかけるが、彼女は黙ったままだ。思い詰めた表情で、何かを考えている。
「ねぇ、無視しないでよ」
「あぁ、すまんのぅ。考え事をしていた……なぁスーフェリア、妾はスカレアじゃな?」
「ん? スカレアがそう名乗ってるんでしょ」
「そうじゃ。ブギロギではないよな?」
「……は?」
スーフェリアは怪訝そうな顔でスカレアを見ていた。俺もスカレアが何を言っているのか分からない。
彼女はスカレアであり、尚且つブギロギでもあるはずだ。何の確認をしているのだろう。
「妾はスカレアに憧れてたんじゃ。あいつは妾にはない高尚な精神を持っていた。妾もあいつみたいになりたかった」
「急にどうしたの? ちょっと様子が変だよ」
「そうじゃな。妾は変じゃ。スカレアになろうとしてるんじゃからな」
「ブギロギはブギロギのままでいいよ。私はずっとスーフェリアだし」
「そうじゃな。スーフェリアはスーフェリアのままじゃな」
スカレアは段々と穏やかな優しい顔になっていく。一方、スーフェリアはそんなスカレアを理解できないようだった。
「じゃ、じゃあ、ブギロギはこの人を殺すんだよね!?」
「……ブギロギなら殺す。島を壊滅させたこいつは許せん。絶対に殺すじゃろう」
「な、なら!」
「じゃが、スカレアなら殺さん。スカレアは優しい。スカレアは過ちを許す。スカレアは人を殺さん」
「な、何を言ってるの……」
「バルバといったな。妾は、スカレアは貴様を許す。今後は村の皆の為に力を尽くせ」
スカレアはバルバと視線を合わせる。バルバは彼女を見て、今にも泣きそうになっていた。
「……僕は殺した方がいい。どうせ僕はまた失敗する」
「今度は失敗しないよう気をつければいいだけじゃ。村の復興の為に働いてもらうからのぅ」
「……わかった。残りの人生をブギロギ島の為に使うよ」
「そうじゃ。それでいいんじゃ」
「ねぇ、本当にそれでいいの? この人、また襲ってくるかもしれないよ。襲ってきたら危ないよ」
スーフェリアの言う通りだ。彼女は非情で、合理的だ。
これまでも襲ってきた敵は全て殺してきた。今回も同じようにしようとしているのだろう。
「そうじゃな。でも、妾は許す。そうしないと、高尚な精神になれん」
「リズは? 何で殺したくないの?」
「……死んだ方がいいなんて、思ってほしくないからだ。綺麗事かもしれないけど、バルバに生きてほしいんだ」
「リーシェは? 殺した方がいいと思う?」
「ゔぉええっ! うっ、ゔぉえ! おえっ!」
スーフェリアがリーシェに問いかけると、リーシェが盛大に嘔吐した。俺の足が吐瀉物まみれになる。
「リーシェ!? 大丈夫か!?」
「だ、だいじょ……ゔぉえっ!」
「大丈夫じゃないじゃろ! 海に吐け海に! 船内にゲロを出すな!」
「うっ、すみません……おえっ」
「無理に返事しなくていい。ほら、海に向いて、ゆっくり吐き出していこう」
「ゔぉろ……かはっ」
俺はリーシェの背中を撫でて吐き出させる。その後、リーシェが嘔吐してからはバルバを殺すという話題は無くなった。この点はリーシェに感謝すべきかもしれない。
それからずっと、スーフェリアは上の空だった。今回の件を経て、彼女は何を思ったのだろう。
俺としては、もう人殺しなんてしてほしくない。でも、襲われる以上は戦闘を避けられない。なんとかして悪魔呼ばわりをやめさせないと。
数時間ほどボートで移動してると、陸地が見えてきた。真っ白な建物が目立つ。ピュリノスだ。俺たちはピュリノスに帰ってきた。