神の使徒にTS転生したので、最強美少女と旅します! 作:光の道筋
長い船旅を経て、ようやくピュリノスが見えてきた。もう太陽が沈みかけている。海とピュリノスの街が橙色に染め上げられていた。
リーシェはスカレアに膝枕をしてもらい、横になって休んでいる。彼女の船酔いは治りそうにない。早く上陸したいが、その前に気になることがあった。
「なぁバルバ、まだピュリノスに聖教国の人はいるのか?」
「多分、いるよ。そろそろ討伐隊がダンジョンに潜るはずだから」
「じゃあ人型じゃないほうがいいか。また襲われたら困るしな」
「人型じゃない……? よく分からないけど、君達が悪魔じゃないって僕が討伐隊に説明すれば、襲われないんじゃないかな」
「その言葉を信用できるわけないじゃろ。貴様みたいに問答無用で襲いかかってくるかもしれん」
「それは……ごめん」
バルバには申し訳ないが、説明しても襲われる可能性のほうが高そうだ。ピュリノスで戦闘したら街が壊れてしまう。出来る限り戦闘は避けたい。
「妾達が別の姿になってることを他言しなければよい。それはわかっとるじゃろ?」
「あぁ、勿論。君達との約束ならどんな事でも守るよ」
「それならいいんじゃ。ほれリーシェ、起き上がるんじゃ。ピュリノスに着いたら妾達を持ってもらうぞ」
「う、うぅ……はい……頑張ります……」
「……君、大丈夫か?」
リーシェはスカレアの言葉を聞いて起き上がった。その顔色は青白くなっている。大丈夫じゃなさそう。今すぐにでも倒れてしまいそうだ。
「大丈夫です……健康です……」
「いや、明らかに大丈夫じゃないんだけど……」
「本人が言ってるなら大丈夫じゃ。妾は帽子にでもなるかのぅ」
スカレアはそう言うと、自身の姿を麦わら帽子へと変えた。リーシェがその帽子を弱々しく手に取って頭に被る。
「うおっ、君達は色んな姿になってたけど、帽子にもなれるんだね」
「これが使徒の力じゃ。スーフェリアとリズもさっさと人間をやめろ」
「そうだな。スーフェリア、俺たちはピアスになるか」
「うん。ピアスになっちゃおうか」
もうスーフェリアはバルバを殺そうとはしていない。普段と変わらない様子だ。彼女がピアスになるのを見届けた後、俺もピアスになった。俺たち2人をリーシェが拾い上げ、耳に装着する。この姿ならば悪魔と呼ばれることはないだろう。
「……僕はもう驚かなくなってきたな。君は人のままでいいのかい?」
「あたしですか? あたしはただのエルフです。神の使徒ではありません」
「そうなのか。君の魔法は脅威だったよ。まだ子どもなのに凄い腕前だ」
「こ、子ども? 一応、成人なのですが……」
「えっ? それは済まない。人は見た目によらないね」
「いえ、エルフと人では成長速度が異なるので、勘違いするのも無理はないと思います」
マジか。俺も子どもだと思っていた。リーシェは小学生くらいの外見だが、それでも成人だったのか。
今までは子どもだと思って接していたからな。これからは大人として接するべきかもしれん。
そんなことを考えていたらピュリノスに到着した。ブギロギ島で見た帆船が何隻もある。村人達も無事に避難できたのだろう。リーシェとバルバは小舟から下りて港に上陸した。港では多くの人がひしめいている。
悲痛な表情をしている人はブギロギ島から避難してきた村人か。
スカレアが何か反応するかと思ったが、リーシェの頭上から声は聞こえなかった。スカレアは麦わら帽子として鎮座しているだけだ。
「僕は騎士団を辞めるために一旦聖教国に帰る。君はどうするんだい?」
「えーと、親戚を頼ります」
「そうか……改めて、本当に申し訳ない。僕は騎士団を辞めて、ブギロギ島の人達のために力を尽くすよ」
バルバはリーシェに深くお辞儀をした。リーシェはその姿を見て慌てふためいている。
「も、もういいですって! 目立ってますから! 頭を上げてください!」
「しかし……」
「本当に大丈夫ですから! あたしは行きますからね! さよなら!」
バルバはまだ顔を上げない。リーシェは彼を放置して、街へと早歩きで向かった。バルバは反省しているようだし、もうあいつを気にしなくてもいいだろう。それよりもこれからどうするかが大事だ。
「とりあえず、セラフィオスの屋敷に行くか?」
「そうだね。セラフィオスもスカレアに会いたいだろうしね。行ってみよっか」
「わかりました。そうしますね」
リーシェはセラフィオスの屋敷を目指して歩く。夕焼けに照らされている白い街並みが幻想的だ。数日しか離れていなかったのに、なんだか懐かしく感じた。
屋敷に辿り着くと、門番はリーシェを快く通してくれた。もう顔パスになっている。リーシェが屋敷の中に入ると、近くにいたメイドに話しかけられた。
「あ、リーシェさん。お久しぶりでーす」
「お久しぶりです。セラフィオス様はいますか?」
「いますよー。まずはお部屋に案内しますね」
「お願いします」
リーシェはメイドの後ろを歩いて階段を上がっていく。案内された部屋はセラフィオスの私室だった。
「セラフィオス様はお仕事中なので、この部屋で待っててくださいね」
「わかりました。ありがとうございます」
「うふふ、リーシェさんと話してるセラフィオス様は楽しそうですから。セラフィオス様の巣の性格が出てて嬉しいんです」
「あ、知ってるんですね」
「皆知ってますよ。セラフィオス様はバレてないと思ってますけど」
セラフィオスの演技はバレているのか。もう演技しなくてもよくない?
仕事が嫌そうだったし、無理に演じていると苦しいだけだと思うんだけど。
「では、セラフィオス様にリーシェさんが帰ってきたと報告してきますね」
「すみません。お願いします」
メイドが立ち去り、リーシェは部屋へと入る。扉を閉めると同時に、スーフェリアが話し始めた。
「ねぇ、人間に戻ってもいい?」
「リーシェ1人で来たのに人が増えてたらおかしくないか? メイドさんに見られたら騒動になるかもしれないし、ピアスのままでいいだろ」
「まぁ、それもそうだね」
「リーシェは座って休むのじゃ。まだ船酔いで辛いじゃろ」
「はい、ちょっと休ませていただきます」
リーシェは麦わら帽子となったスカレアをテーブルに置くと、ソファに寝転んだ。麦わら帽子に口が作られ、そこからスカレアの声が発せられる。
「セラフィオスはまだ馬鹿みたいな口調をしておるのか? 口調だけ取り繕っても意味ないと何度言えばわかるんじゃ」
「いやいや、スカレアも馬鹿みたいな口調でしょ」
「あ!? 妾を馬鹿にしておるのか!?」
「馬鹿にしてないって。ただ、『のじゃ』とか『妾』とかが意味不明ってだけで。リズもそう思うでしょ?」
「何で俺に振るんだよ……喋り方なんて何でもいいんじゃないか?」
「何でもよくないわ! この高貴な口調が理解できない馬鹿どもが!」
「私を馬鹿って言った? 私は馬鹿じゃないから。天才だから」
その後もスーフェリアとスカレアの口喧嘩は続いた。耳元で話されているリーシェは唸っている。寝ようとしているが寝付けないらしい。可哀想。
「皆おかえり!」
しばらくして大声と共に扉が開け放たれた。セラフィオスだ。
「あ、セラフィオス様。お邪魔してます」
「あれ? スーちゃんとリズちゃんはピアスのままなの? 人間になっていいよ」
「なら人間に戻るか」
「そうだね。戻っちゃおうね」
リーシェはピアスを外して床に置く。その後、俺とスーフェリアは人間に戻る。スカレアも人間になった。テーブルの上で仁王立ちしている。
「え!? スカレアも来てたんだね!」
「そうじゃ! 妾も来た!」
「火山が噴火したんだってね! 大丈夫だった!?」
「大丈夫じゃないわ! 全員でピュリノスに逃げてきたわ!」
「大変だったね! とりあえず座ってよ! お茶淹れてくるから!」
「んなもん要らん! 話すことがある!」
「要らないの!? 美味しいよ!」
「要らん! 座れ!」
スカレアはリーシェの向かいにあるソファに勢いよく座り、セラフィオスはスカレアの隣に座った。俺とスーフェリアはリーシェの隣に座る。
「聖教国のクソボケに襲われたんじゃ。使徒が悪魔と呼ばれてるなんて聞いてないのじゃ」
「え!? ブギロギ島で襲われたの!?」
「そうじゃ。戦闘の影響で噴火もした」
「そうだったんだ……ごめんね。わたしのせいだよね……わたしが聖教国で暴れたせいだよね……」
セラフィオスの表情が曇る。スカレアはその顔を見て慌てふためいた。
「お、おいおい! 貴様のせいではない! 貴様は使命を全うしただけじゃろ!? 皆もそう思うじゃろ!?」
「いやいや、スカレアは皆殺しにしなかったセラフィオスのせいだって──」
「スーフェリアは黙ってろ! リズとリーシェに聞いておる!」
「そ、そうだな。セラフィオスのせいじゃないよ」
「そうですよ! セラフィオスは悪くありません! 自信持ってください!」
「そうなのかな……」
「そうじゃ! それで妾はな、悪魔と呼ばれないために船の上で考えてたことがあるんじゃ!」
スカレアは自信満々に胸を張っている。悪魔と呼ばれない方法とは何だろう。すごく気になる。
「悪魔と呼ばれない方法があるのか?」
「ある! それはな、妾達が悪魔のふりをして殺されれば良いのじゃ!」
「え? 殺される? どういうこと?」
スカレア以外の面々は不思議そうな顔をしている。俺もよく分からない。殺されてしまったら駄目なんじゃないのか?
今回で3章は終わりです。
4章では聖教国が悪魔を討伐します。
次回、スカレアの作戦についてです。