ようこそ実力至上主義の教室へ※   作:ラム肉

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人は平等であるか否か※

 

 垂金 権造。

 

 全国中学校即興型ディベート大会優勝の立役者。チーム全体を牽引し、非凡な頭脳により優勝へ導いた。けれども世の中には馴染み深いとも呼べないその大会で優勝したところで彼が有名になることはなかった。校区内で少し話題になった程度で同級生からはからかい交じりの祝福を受けた程度で済んだ話。

 

 次の話題は助っ人として入ったハンドボールが全国三位に入ったことだった。この垂金少年、文だけではなく運動神経も抜群であり英会話部でありながら多方面に助っ人として呼ばれる程度には運動神経が抜群の少年であった。その中でもひと際成績が良かったのがハンドボール部での成績だ。小さいものを合わせれば弱小野球部が開校初の三回戦突破なる代物がある。

 

 けれども少年は満足していなかった。できるわけがなかった。

 

 大人たちからは天才少年ともてはやされ、同級生からは凄いやつと一目置かれているにも関わらず何一つとして満足してなかった。

 

 ここまで結果を挙げて、ここまで上り詰めてもーー彼女ができない。

 

 少年はそれはもう、すごい、なんというか――すごく頑張っていた。協調性や他人との接し方、距離感にはひと際気を付けて、傍から見れば善性に一切の曇りなき良識人であり、口を開けばウィットに富んだ冗談を口にすれば、相談事を受ければ見事な返しで、時には行動を伴い様々なトラブルを見事な手腕を持って解決してきた。

 

 にも拘わらず、彼女ができない。できないのだ。色んなやつには彼女が出来たのに少年だけには彼女が出来なかった。

 

 人は平等ではない。

 

 ディベート大会で優勝した時の副部長(メス)は彼氏ができた。ハンドボール部で部長をしていたゴリラにも番ができた。

 

 垂金少年にだけできてない。恋愛相談もされた。たくさんされた。だが登場人物であっても主演であったことはただの一つとして存在しなかった。

 

 恋愛相談成就率百パーセント。そんな噂を聞きつけて下級生から同地区の別高校のお姉さままで問題解決に奮闘したにも関わらず、一切彼女ができなかった。

 

 ただ――そうブサイク。空前絶後天上天下唯我独尊不細工。イラストレータート◯セの中にほるひすが混じる暴挙のような造形。ただのほるひすなら許された。キモカワイイ感じであった。そこに可愛さなどない。ただのキモいだけが残った。

 

 だがあくまでほるひすは比喩表現である。その不細工たる由縁は生まれし時から始まった。この世に産声を挙げた瞬間に看護師が悲鳴を挙げて落としたという逸話を持っている。

 

 ついでに我が子を落とされたことに怒髪天をつく勢いでキレ散らかしてた母親。出産後の意識朦朧とした状態でありながらも母親としての自覚から怒りの炎を灯した少年のマミーも手渡された瞬間に小さな悲鳴を挙げて落とした。怒りも消沈して看護師は許された。許されたどころか「これは……しかたないわね……」と理解までされた。職業倫理的に絶対許されないはずなのに病院側からも「これは……仕方ない……かもね……」と言われたくらいである。

 

 そんな幼少期は化け物扱いだった少年も持ち前の高スペックと努力から見るも耐えない化け物からギリギリ見るくらいは許される汚いおっさんみたいな見た目の十五歳となった。これが彼の見た目の限界到達点である。ルフィで言う所のギア5。見た目の限界到達点がエロゲーの竿役っぽいおっさんである。

 

 わずか十五歳にして。ルックスの伸び代なし。世の中の不細工やブスと呼ばれる人間はルックスの努力をしてないとか言う説はあるけれどルックスの努力をして眉毛を整えて、髪を整えたら同級生が笑いの末過呼吸起こして入院した。三人も。

 

 その上、一見すればでっぷりしているが骨太と密集した筋肉による造形。運動神経が良ければモテると夢を見た兵どもの夢の跡である。

 

 その上、身長は一五六センチと小柄である。この身長でバスケではダンクシュート決めるのだから跳躍力は限界突破している。

 

 抜群の運動神経を誇ることから運動するとちょっとした怪異と呼ばれていた。英語で流暢にディベートすると竿役みたいな見た目の教師が学生のコスプレをして替え玉で出場してると会場の誰かから警備員に通報された。全国大会も一時審議入った。事前情報があったにも関わらず審議が入ったのだ。

 

 彼は悪くない。遺伝子。そう、遺伝子レベルでの問題が垂金少年の高スペックを潰していた。ちょいブスな母親と結構な不細工の父の悪魔合体の合体事故により、将来性だけで考えれば女子アナから狙われるプロ野球選手のようなスペックをもってしても彼女を出来ない存在が生み出されたのだ。

 

 同級生からは「え? 垂金くん? いやいい人だよ、本当にマジで! 感謝超してるし! おかげで三年間楽しかった! え? 彼女に、あ、それは無理」「垂金さんのおかげで顔面兵器と呼ばれた私でも素敵な彼氏ができました。いじりから助けてもらったのは本当に感謝してます。え? 垂金さんを男として? 普通に無理です」「トドくん? えっ、めっちゃいい男だよ。頭いいし、運動できるし、気遣いできるし、身だしなみもめっちゃ気にしてるから服のセンスめっちゃお洒落さん。でも服のセンスがよくても自分で着れないんじゃ可哀そうだよね……いや、本当、高校でいい人めぐりあえるといいよね、本当……」「いやー垂金にはハンドボールでも助けてもらったし頭あがんねーわ。勉強もめっちゃ見てもらったし。なんか全国模試でも一桁だったらしいじゃん。将来東大? いまのうちサインもらったほうがいいかもなー。あ? 彼女……? あー、うん、あー……できるといいな。人間って七十億いるらしいし! 神様、頼むよ……」

 

 

 高度育成高等学校調査部は追加の調査を経て――彼の所属を八時間にも渡る激論の末に決定づけた。

 

 紛糾する会議を結論づけたのはたまたま目に入った写真。擁護し、疲れた時に目にしたソレは公平であるべき聖職者の心さえもへし折った。

 

 垂金 権造――天衣無縫のDクラス行きッ……。

 

 

――――――――

 

 

 五月一日。Dクラスの担任である茶柱はこの学校の裏、真の意味での実力主義の説明を終えて立ち去ろうとしていた。

 

 そこへ後方側、窓際の席。ゆっくりと静かに手が挙がった。恐る恐ると、しかしながらしっかりと意思を持って。

 

 一ヶ月経った教室でDクラスの主要メンバーと化した一人。未だ定まっていない個性的な面子のリーダーとして最有力候補の生徒が挙手をしていた。

 

 それを見て茶柱は嫌な予感がした。というかこの件に関して口を開くのは嫌だった。この一ヶ月間、Dクラスの動物園という惨状を何とか持ち直し様々な苦労をかけて死に物狂いで『129pt』を残した立役者に事実を告げるのは流石に良心が咎めた。

 

 ヨシ。

 

 気づかなかったことにしようと立ち去ろうとすれば男子のリーダー格である平田洋介が「先生! 垂金くんが質問があるみたいなんですが……」とハッキリ告げる。

 

 余計なことを、と歯噛みして観念をして振り向く。

 

「なんだ、垂金」

 

「……あのぅ、そのぅ、その……非常に聞きにくいのですが、わしがDクラスの理由、ちょっと……いや些か、納得いかなくて」

 

「ふむ、お前も堀北や幸村と同じく自分がDクラスなのに不満があるということか……」

 

「いえ、その……ハッキリ言ってワシ、学力だけで言えば全学年合わせても一桁に入るでしょうし、運動能力も非常に優れた成績ですのじゃ。その……学区内でのボランティア活動や慈善作業をしており、中学生徒会の副会長も務めていましたから決して低くないかと……げへへ」

 

「その喋り方が評価に繋がったとは考えないのか?」

 

 視線を彷徨わせて、口にする。

 

「これはあくまで学生同士の時のキャラ作りであって公的な場では場に合わせた受け答えをしています」

 

 何人かが「そーなの!?」と驚愕に口を開いていた。

 

「……申し訳ないが評価基準に関しては公開は出来ない」

 

 学校側が用意してあるテンプレートの言い訳を口にする。だが彼女は知っている、それを覆す方法があり、それを可能にする術があることを。そして、その汚いおっさん……じゃなく見た目が汚い少年は。

 

「それはポイントを払っても公開できませんか?」

 

 クラスメイトの半数が「何を言っているんだ?」と胡乱げな目で見ている。高円寺と綾小路と呼ばれる少年たちは興味深そうに、頭が回るものたちは「まさか、そこまで可能なのか?」と気付きを得る。

 

 この気付き、この思考力。この状況でなければ称賛したかった。希望に目が焼かれてもおかしくなかった。

 

 ただし、この状況下で無ければ。

 

「よく回るものだ。その答えであれば可能と答えておこう」

 

 その返答に「なら、私も――」と立ち上がり聞こうとした少女が居た。その声を遮るように茶柱は話を続ける。

 

「但しっ! その情報を得るのに三十万ポイントが必要だ。あくまで本人が聞きに来た場合に、のみ三十万ポイントだ」

 

 その答えに先ほど立ち上がった少女は口にする「そんなの払えるわけ――」と。

 

 だがここに例外が存在した。

 

「払います!」

 

 その声にクラスの殆どが「はぁぁぁぁぁ!?」と怒号。なんでそんなにポイントがあるのか、ズルい、俺にも寄越せとキーキーキャーキャーと騒ぎ立てる。

 

「静かにしろッ! いいのか、垂金……私の方でもお前のプライベートポイントは把握している。そのうえでそれを払えば他の不良品同様……いや、ソレ以下の生活を今月から余儀なくされるぞ」

 

 すると垂金と呼ばれたおっさんはいつもの口調に戻り、答える。

 

「構いませんのじゃ。もしもワシの予想通りでしたら今後、不要の産物になりますので」

 

「……?」

 

 茶柱にはその言葉の意味を理解できなかった。その言葉の意味に気づいたのは二人。そのうち一人は流石に嘘だよな? と垂金の表情を伺う。澄んだおっさんの顔だった。

 

「いいだろう。正式な解答は後ほどお前の端末に送るとして……えっ? ここで? 非常に言い難いのだが……いいのか? えっ? 本当にいいのか? みんな聞いているんだぞ? そうか……そっかぁ……じゃあ言うが……お前がその、その、な? もしも、もしもの話だぞ? もう少しルックスがよければ、せめて山内や池、外村くらいの容姿であったのなら一切の文句なく満場一致でAクラスだっただろう」

 

 少年は天を仰ぎ、そして窓の外を見る。なぜだろうか、晴れなのに曇ってるどころか雨が降っている気がする。

 

「それでは皆の衆、お世話になりました! 良い今世を!」

 

 窓際まで歩き、窓を開く、その動きに一切の淀みがなかった。そして溌剌と言い放つ。茶柱はようやく事の次第を理解し青ざめる。

 

 そして飛ぼうと窓枠に足をかけた瞬間に綾小路と呼ばれる少年が腰へタックルを仕掛けて止めようとする。けれども垂金少年は両の足に力を入れて踏ん張る。負の遺産からの解放のためにここぞとばかりに力をこめる。

 

「待て待て待て待て、俺も落ちる……」

 

「は、離せっ! 綾小路! 後正じゃ! もう生きてられん! 国から才能を凌駕する不細工と認定されたワシには肉体からの解放しかありえないじゃろ! というか関節を極めるな! 心折れる前に足首折れるじゃろ!」

 

 綾小路清隆は体制が悪いせいか止めるだけでも精一杯だ。そのため痛みによる制止すらも考えて足関節を極める。大抵の人間ならば痛みで動きが止まるが、垂金少年は人生最後の大一番。痛みに負けじと「むぎぎぎぎ」と顔を真っ赤にしながら必死の形相で飛び立とうとする。その相貌に女子生徒の何人かからは「ひいっ……」と小さな悲鳴が挙がった。

 

 同じ体格や同じ体重であったのなら静止することも可能だろうが体重差と異様なほどの骨太による小樽くらいの太さの足から繰り出される死への一歩は引き留めるだけでも一苦労だった。これが他の面子なら既にフライアウェイのワンチャンダイブマンしていた。

 

「た、垂金くん、大事に! 命を大事に! 本当に待ってくれッ……オエッ」

 

 クラスの男子のリーダー格である平田も止めようと動き始めたが彼の持つ諸事情によるトラウマのせいでえづきながらも制止に加わる。そこに慌ててやってきた須藤健も混じって止めればズルズルズルと引きずり降ろされて力無くその場にへたりこむ垂金少年。

 

 須藤の中での怒りなど既に鎮火していた。茶柱の手厳しい罵倒にイライラしていた赤い感情など霧散していた。他の奴らから馬鹿にされるなんてどうでもいいことのように感じてすらいた。勿論、この一ヶ月の間に仲良くなった新たな友人が目の前で悲惨なことになっている上で自分の不満を優先するような男ではもうないのだ。

 

 そして引きずり降ろされた垂金少年がハの字でへたりこむのを見て山内や池は「女の子座りの垂金、キモいな……」と思ったがかろうじて人の心が残ってたため口に出すことは無かった。以前の山内なら口にしていただろう。けれども今は口にしない。この光景でその感想が出るやつってほんまに人の心残っとるん……?

 

「ワシ、国が運営する公的な学校から学力や運動能力、協調性を帳消しにするほどのブサイクって認められたのと同義じゃろ、こんなん。ブサイク検定一級……」

 

 その光景を見ていた女子生徒はぽつりと呟く。

 

「帳消しじゃなくてマイナス……あっ、やばっ……」

 

 普段は空気の読める隠れハイスペ女である松下も目の前のあまりの出来事に脳と口が直結した。

 

 その言葉は垂金へのトドメとなった。宙空を見上げて、ヘラヘラと笑うその様は壊れた人形のよう。

 

「ふ、ふへへへ、ワシってば前世で何をしたらこんな事になるんじゃろ……」

 

 虚空を見て壊れたように笑う少年に誰も慰めの言葉なんてかけることは出来なかった。

 

 

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