仲良し男子高校生4人組(俺以外の3人がボーイッシュな美少女JKということに俺だけが気付いている)。 作:麻倉(あさくら)
俺のクラスは男女比が女性側に極端に偏っている。
しかしながらその理由は「この学校が元女子校で俺が今年度から共学になった記念すべき男子生徒の第1号」というわけでも「俺が男子であるにも関わらず可愛すぎて女子校に入学してしまった」わけでもない(というか俺の容姿はごく平均的な男子高校生の範疇だ。恐らく、多分……)。
そしてもちろん「男女比が極端に偏った世界」というSF染みた都合の良い世界線で生きているわけでもない。
この学校で、俺のクラス”だけ”は男女比が女性側に極端に偏っているのである。そして、その事実に“俺だけは気付いている”のだ。
それは一体どういうことなのかというとーー。
「ねーねーゆらちん。アレなんて言うんだっけ、なんかいきなりみんな踊り出す傍迷惑なやつ」
「んーーーーーっとね。……あれ?何だっけ。えっと確か……、マッチポンプ?」
「はあー!? そんなわけねーじゃん。ハニートラップだって! ハニートラップ!」
「……なあお前ら。俺映画でも観たいからそろそろ自室に帰ってくれないか? それと、空茉音の言っているのはフラッシュモブだ。色仕掛けしてどうする」
ここは帝王学園高等学校の男子寮。4人部屋で寝室には二段ベッドが2つ備わってはいるもののプライベートな空間が1人1室与えられているため各部屋に寝具の持ち込みを行い自室で寝泊まりをしている生徒も少なくない。
そんな男子寮のプライベートな俺の空間になぜか女子生徒が3人、無防備な姿で中身のない会話をしながらテレビとソファを占領してパーティーゲームで遊んでいる異様な光景がそこにはあった。
「はー!? お前みたいなクソ陰キャは俺らみたいな超☆絶☆美少女に囲まれている幸せをありがたく享受しといた方がいーぞ、ガチで!」
そう言いながら部屋の隅で壁にもたれかかりながらスマホを弄っていた俺の右半身側に椿がにじり寄ってくる。
彼女の名前は砂利椿(ざりつばき)。金髪ショートのオタクに厳しいタイプのバンギャである。彼女自身もバンド活動をしており、公害レベルの音漏れが響くことも少なくない。
「日がな一日クソ目立つお前らとつるんでいる俺が陰キャ扱いされるわけねーだろ。せいぜい1軍に取り入ることに成功したキョロ充くらいにしか思われてねーよ」
「はーかわいそかわいそ。負け犬根性染み付いちゃってるねー。もしかして慰めて欲しいのかな?」
椿は前屈みになりながら俺の頬を上下左右にいじくり回す。すると、それをソファの手すりに顔を乗せながら黙ってこちらを見ていた空茉音が椿とは反対の左半身側ににじり寄ってきた。
古湊空茉音(こみなとあまね)。ベリーショートに近い髪型にも関わらず男女問わず骨抜きにしてしまう妖艶さを高校生ながら常時発動している。ちなみに水泳選手としての実力も筋金入りで、学校の部活には入らず少し離れたスイミングスクールに通っているガチ勢である。本人曰く「国体一歩手前」だそうだが、この間結蘭とこっそりホームページを確認したら普通に国体に出場していた。
「もーやめてあげなよ椿。竜宮君はせっかくの据え膳をよし!ってしてあげないと自分からは食べることすら始められない完全受動型の受け身人間なんだからさ」
そう言い終えると空茉音は俺の耳にフッと息を吹きかけると、左頬にちゅ、ちゅと唇を落とし始める。それを見た椿は「あー俺も俺も!」と言って俺の右頬に乱暴に唇を押し付け始めた。
「……お前ら煽りたいのかアオハりたいのかどっちかにしろよ……。俺の自己肯定感をグッチャグチャにする人体実験でもやってんのか?」
「そーだよー。せっかくの私の特等席がめちゃくちゃじゃん。暑苦しいよー」
そう言いながら俺の膝の上に座っていた結蘭が身体を捩って俺の正面に向かって座り直す。
塔乃結蘭(とうのゆら)。ボブに近い黒髪のショートカットである彼女は大人しい性格も相まってか空茉音や椿と違いこの中では唯一の女の子らしい女の子である。
結蘭は空茉音と椿にガッチリホールドされていて身動きの全く取れない俺に向かって目を閉じ唇を突き出すと、俺は空茉音と椿の肢体に絡まっていた両手を何とか結蘭の背中に回して引き寄せた。
パーティーゲームの軽薄な音楽を文字通りのBGMに、淫靡なリップ音が流れ続ける。
4人の唾液が完全に混ざり切った段階でようやく我に帰ってきた俺は3人の顔をゆっくりと引き離す。
「……ここじゃ全身筋肉痛になっちまう。せっかくソファが空いたんだしそっちに移動しようぜ」
俺は蒸気した顔でコクリと頷く3人の背中を支えたままゆっくりと立ち上がると、彼女たちの体温を感じながらゆっくりとソファに向かって歩き始めるのだった。
「ふぁ……」
本日何度目かも分からない欠伸を噛み殺し、次の授業の教科書を机の中から探り当てる。
「おいおいそれ何度目の欠伸だよ。どうせまたアイツらと夜通し騒いでたんだろ? 良いよなー、俺の部屋先輩が混じってるからあんまり表立って騒げないんだよな」
「ん、まあそんなとこ……」
俺はチラリと横目でアイツらを確認すると結蘭はくぅくぅと穏やかな寝息を立てていて、椿はオールのテンションで女子たちと会話、空茉音は一見凛とした表情で澄ましているが今朝方ゾンビのような表情でクマをファンデーションで隠している姿を目撃している。
「それにしても竜宮君が椿君たちと仲良いの、未だに信じらんないなー。全然タイプ違くない?」
俺の左後ろの席、俺が先ほどまで会話をしていた友田僕(ともだぼく)の後ろの席に座っている烏丸最叶(からすまもかな)が不思議そうにそう呟く。
「確か塔乃君とは幼馴染だって言ってたよね。他の2人ともそんな感じなの?」
「いや、空茉音とは中学からの付き合いだけど椿はここに入学してからだな。去年クラスが一緒で色々とアイツの尻拭いをさせられてるうちに同じグループの人間と思われて……って感じだ。要は爆弾処理班として同部屋にさせられたんだと思う」
後ろの席に座る四月一日紋匁(わたぬきあやめ)がくすくすと笑う。黒髪ロングで古風美人の紋匁と茶髪ショートでギャルっぽい雰囲気のあるモナカ(こう呼ぶと本人は怒るが最叶の語呂が悪すぎて紋匁以外誰も最叶とは呼んでいない)は正反対の性格をしていてあまり合いそうにないのだがそこが逆に良いのか2人は意外なほどに仲が良い。昼休みや放課後はアイツらと連んでいてそこまで頻度は多くないが、日中は席替えで近くの席になったことをきっかけに仲良くなったこの3人と過ごすことの方が多い。
というか、本来あの3人が居なければ俺の立ち位置はここだったのだろう、とすら思う。
陽キャでも陰キャでもない、その中間層。男女分け隔てなく接し、誰に対しても良い意味でも悪い意味でも大きな影響を与えない無害な人間。そんな自分が同室にクラスメイトの美少女3人を侍らせ(多少の上下関係はあれど)ハーレムを築いている。
その理由は、ひとえに俺が唯一無二のポジションを確立していたおかげであった。
「ーーみんな楽しそうだね。一体何の話をしてるの?」
いつの間にか睡眠状態から回復していたのか、結蘭が椅子の背もたれに両腕を乗せていた俺の背中に抱き着いてくる。
「確かに津海君って僕たちには見せない顔をこの3人には見せるよね。何だか妬けちゃうな」
「んだよお前ら昨日散々一緒に過ごしたっていうのによく飽きないもんだなー。ーーってよく見たら四月一日ちゃんってめっちゃ美人だね!? 良かったら今度烏丸ちゃんと3人でどこか遊びに行かない? 何だったらコイツも連れてダブルデートって形でも良いからさ」
いつの間にか俺の席の周りを結蘭、空茉音、椿の3人が取り囲み、それぞれが俺に過剰なスキンシップを取る形になる。
本来であれば何の取り柄もない男子生徒である俺を3人の美少女が取り囲むこの構図は大きな耳目を集めるようなビッグディールとなるだろう。しかし、まるでそれが日常茶飯事であるが如く教室内は何の変化も起きていない。
それが一体何を示しているかというとーー。
「ほんっと竜宮君たちって仲良いよねー。少年漫画に出てくる仲良し男子高校生4人組って感じ! そういうの憧れちゃうなー」
モナカが俺たちを見てそう呟く。ーーそう、結蘭と空茉音、椿の3人は女子であるにも関わらず、この学校では男子生徒として日常を過ごしているのである。
そして、俺を含めて仲良し男子高校生4人組として扱われているこの男子グループの俺以外の3人がボーイッシュな美少女JKだということに俺だけが気付いているのだ。
授業が終わり、放課後。皆それぞれ用事があるらしく、久しぶりに1人で下校することになった俺は下駄箱で上靴を履き替えようとしたその瞬間、ヒラヒラと可愛らしい便箋が舞う光景を視界に入れる。
「……まあ、俺もアイツらと一緒にいるおかげで知名度も上がっているだろうしこういうことも無くはないと思っていたけど」
とはいえ、アイツら3人の秘密を守る必要のある俺にとって、安易にリスクを増やすべきかどうかは考えどころであるがーー。
とりあえず送り主が誰であるか確認しないことには何も始まらない。俺はキョロキョロと周りに誰もいないことを確認すると、膨らみ続ける期待を胸に便箋を綺麗に開き、その内容を確認する。
『あなた方4人の秘密を知っています。秘密をバラされたくなければ明日の放課後、視聴覚室へ来てください』
あ、絶対思っていたのと違うやつだこれ。