英語のテストを終え、ヒナはすぐさま理科の教科書を開いた。声をかけられないようにするために。ヒナの必死さが伝わったのか、休憩時間に必死に覚える経験をしたことがある者は誰も声をかけなかった。
しかしそんな経験をしたことがないもう一人の転校生……獄寺はヒナに近づいてく。
「おい」
覚えることにいっぱいいっぱいのヒナは気付かない。ヒナの態度にイラついた獄寺は音量をあげ、もう一度呼んだ。
「おい!」
「スイ!」
思わずイタリア語で返事をし、顔を真っ赤にしたヒナだったが、獄寺の顔を見て落ち着いた。イタリアに住んでいた獄寺には通じる。
「付いて来い」
どこにだろうとヒナは首を傾げる。声をかけようとすれば、もう獄寺は教室の扉の前にいた。ヒナは慌てて追いかける。獄寺とヒナは転校生という繋がりものある。呼び出されたと思ったのだ。
獄寺はスタスタと歩いていくので、ヒナは小走りになる。距離がなかなか縮まらないので話しかけれない。それでも完全に走らなかったのは雲雀がいったルールを守るためだ。
「ご、獄寺君……!」
獄寺の足が止まったので、やっと追いついたヒナは声をかけた。が、ヒナの耳に入ってきたのは獄寺の声ではなかった。
「あっぶねー。愛もボーっとせずに逃げてよ!!」
「でもツナ君が助けてくれたわ」
「いや……オレのせいだったし……。でもヘタしたら半殺しになるところだよ!! 愛は運動神経いいんだから自力で逃げてよ!!」
声に反応して振り向けばツナと愛が手を繋いでいたので、思わずヒナはその手をジッと見つめる。その視線に気付いたのか、ツナは慌てて手を離した。しかし既に遅く、ヒナは2人を温かい目で見守っていた。
誤解だ、ただ不良に絡まれそうになって慌てて逃げただけ。
京子と同じような雰囲気を持つヒナに勘違いされたままなのは耐えられない。否定しようとしたが、思いのほかショックを受けたツナは声にすることが出来ない。
どうせオレはダメダメなんだ……と諦めに入った時、ツナは獄寺と目が合った。
「うわぁっ!」
睨まれ、ツナは情けない声をあげながらもどうしてヒナと獄寺が一緒に居たのかと気になった。
「目に余るやわさだぜ。おまえみたいなカスを10代目にしちまったらボンゴレファミリーも終わりだな。オレはおまえを認めねぇ。10代目に相応しいのはオレだ!!」
獄寺の声を聞き、ヒナはここに居た理由を思い出す。しかし獄寺はヒナではなく、ツナに向かって話していた。話の内容についていけないヒナはボンゴレファミリー?と首をコテンと傾げるしかない。
「目障りだ。ここで、果てろ」
「んなぁ!? バ、爆弾!?」
ボンゴレって日本語でアサリのことだよね!と、のんきに考えていたヒナはツナの声に驚き、そして獄寺を見た。ツナの言うとおり、本当に爆弾――ダイナマイトを獄寺が持っている。
一歩、後ずさる。
ヒナが意思を持って動けたのはそれだけだった。ヒナが一歩下がった間に、もうダイナマイトは地面に向かって落ちていたのだ。後は反射的に目をつぶることが出来た程度である。
母さん……!
ヒナは心の中で叫んだ。すると、ヒナを安心させるかのように、肩をポンッと叩かれた気がした。
「……あれ?」
いつまでたっても痛くない。恐る恐る目を開けた。
「ちゃおッス」
「……ちゃおッス」
ヒナは挨拶されたので、挨拶し返す。相手の言葉を繰り返しただけとも言う。
目をつぶっていたヒナには何が起こったのかわからないが、ずっと肩に重みがあるので叩かれたのではなく、肩に乗った衝撃だったことはわかった。
「リボーン、なんで雪宮さんと一緒に!?」
「オレは女に優しいんだぞ。紳士だからな」
「はぁー!?」
「リボーン! 私も守ってよー!」
「愛は怖がってなかったじゃねぇか。それにボスの妻になるにはある程度の度胸も必要だぞ」
「わかった!! 頑張るわ!!」
周りが何か話しているが、ヒナはただ肩に乗っている人物を見つめていた。黒いスーツを着た赤ん坊が流暢に話す姿についていけないのだ。
その赤ん坊と目が合ったので、泣かしてしまわないように笑いかける。しかし先程の爆弾の影響もあってか、ヒナにしては珍しく作った笑顔だった。
「オレだけじゃなく、他のファミリーも呼んでるとはどういうことだ?」
獄寺から視線を向けられ、恐怖で一歩後ずさる。
「オレはおめぇしか呼んでねぇぞ」
「この女はファミリーじゃないのか?」
「ちげぇぞ」
「ちっ、まぎらわしい」
ヒナはよくわからなかったが、スーツを着た赤ん坊のおかげで誤解が解けたたとわかる。一体何の誤解を生んでいたのかはわからなかったが。
「ありがとう、えーと……」
「リボーンだぞ」
「ありがとう、リボーンちゃん」
ヒナが礼を言うと、リボーンは肩から飛び降りた。危ない!と手を伸ばすが間に合わない。息を呑んだヒナだったが、リボーンは何事もないかのように着地した。
「……え? え?」
「危ねぇからもう行っていいぞ」
本当にいいのかなと思いながらも、リボーンの言葉に従う。先ほどからのリボーンの行動で、ヒナの中にある赤ん坊の概念が崩れだしているのだ。
「雪宮さん、ちょっと待ってー!!!」
ツナは必死に叫んだ。ここでヒナが行ってしまったら、更なる身の危険を感じる。半泣きにまでなって叫んだ甲斐があったのか、ヒナの足は止まった。
一方、呼び止められたヒナはリボーンと獄寺、そしてツナの顔を見てどうすればいいのかわからなくなってしまった。
「しょうがねぇ。オレが守ってやるぞ」
軽くジャンプしただけで、再びヒナの肩に乗るリボーン。
その行動にヒナは目をぱちくりさせた後、ふわりと笑って言った。
「ありがとう!」
驚きより、安心の方が上回った瞬間だった。