【改稿版】お兄ちゃんができました   作:ちびっこ

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観察力・洞察力

 電気もつけず軒下の縁台に座り、ポツンと月を見上げるヒナの姿はどこか哀愁が漂っていた。どちらかというとヒナは綺麗というより、可愛い。だが、今のヒナを見れば、綺麗と答えるだろう。容姿も悪くないのもあり、普段のギャップで見惚れる者もいるレベルだった。

 

 家に帰ってきた雲雀はそんなヒナの姿を見て……電気をつけた。

 

「……あれ? おかえりなさい、お兄ちゃん!」

 

 電気がついたことで雲雀が帰ってきたことに気付いたようだ。パタパタと駆け寄ってくるヒナに、上着を渡す。当然のようにヒナは受け取りハンガーにかけ、ご飯の準備をし始めた。

 

 手を動かしながら兄妹っぽくないとヒナは思っているが、出会って数日と考えると関係は悪くないとも思っている。ヒナ自身ちょっとズレているのもあり、雲雀がヒナを家政婦のように見られているとは気付かない。

 

 料理が完成し、雲雀が食べ始めると、ヒナは席に座りお茶を飲み始める。一息ついたというのもあるし、1人でご飯を食べるのは寂しいとヒナは知っている。時間が合わず先に食べているが、一緒にいるのに1人にさせるのは違うとヒナは考えているのだ。

 

 会話はないが、次々になくなっていく料理にヒナは嬉しそうに笑う。特に雲雀は残さないので、見ているだけでも幸せなのだ。

 

 全ての料理が空になると、雲雀は箸を置いた。そして、ヒナに目を向けた。

 

「……それで、何?」

 

 コテンと首を傾げるヒナに、雲雀は溜息を吐く。気付かないと思っているのだろうかという意味で。

 

 観賞目的で月を見ていたわけではないことぐらい、一瞬もあれば誰でも気付くだろう。ましては雲雀は観察眼も洞察力もある。気付かないわけがない。……もっとも、気付いていても無視することが多いが。

 

「何かあったんだよね?」

 

 しょぼんと肩を落とすヒナを見て、雲雀は煩わしいという感情の方が強い。咬み殺さずに面倒を見るという交換条件を飲むんじゃなかったと後悔するほどである。だが、今から破棄するのは雲雀のプライドに関わる。負けた気がするのだ。

 

「あのね、今日テストだったよね……?」

「頭悪いんだ」

 

 さっさと終わらせるために、バッサリと切る。特に意外でもなかった。

 

「……理科と社会は20点ないと思うの。国語ももしかしたら同じぐらい……」

 

 ヒナはどんどん声が小さくなりながらも、話を続けた。

 

「……漢字が読めなかったの。社会は全くわかんないし、理科は英語で答えたのもあるけど……日本語がわからなかったの……」

 

 雲雀は瞬時に手紙に書いていたヒナの経歴を思い出した。そして、わからなくても無理はないと思った。まずカリュキラムが違いすぎる。イタリアにある日本人学校に通っていれば問題なかったが、ヒナはイタリアの学校に通っていた。つまり、全てイタリア語で習っていたはずだ。

 

「ふぅん。でも次は問題ないでしょ」

 

 雲雀は確信していた。ヒナはかなり頭がいい。日本語が疎かになったかもしれないが、日常語だけでなく、学術用語や専門用語も全てイタリア語で覚えたのだから。そして先程の話が本当なら、イタリア語だけじゃなく英語でも覚えている。

 

 しかし、ヒナはうんともすんとも言わない。

 

 母国語が読めなくなったのが、それほど堪えたのかと考え、雲雀は再び口を開いた。

 

「君なら次のテストまでに平均点はとれるよ」

 

 並盛中学は、ごくごく平均の学力の持つ者が通っている。雲雀がそのことを知らないわけがなかった。

 

「……お兄ちゃんは、大丈夫?」

 

 恐る恐る口に出したヒナの言葉に、雲雀は首をひねるしかない。

 

「だ、だから……ヒナのせいで、恥ずかしくならない?」

 

 ヒナは学校に通って知った。雲雀は風紀委員長を任せられ、紹介という言葉を使えるほど教師から信頼されていることに。

 

「ワオ。もしかして君、そんな程度のことで僕の足を引っ張れると思っていたの?」

 

 ハッと顔をあげる。そして、一生懸命に首を横に振った。

 

「この前のことを守っていれば、何も問題ないよ」

「うん!!」

 

 ヒナは元気よく返事した。一方、雲雀は何をそんなに嬉しそうにしているのか、わからなかった。ただ、事実を言っただけなのに。

 

 とにかく問題は解決したようなので、席をたつ。

 

「……お風呂」

「いってらっしゃい!」

 

 観察力も洞察力もある雲雀だったが、部屋から出る雲雀の背中を見ながら、ヒナが頼れるお兄ちゃんと目を輝かせているのことには気付かなかった。

 

 

 その後、途絶えていた母からの連絡もあり、ヒナは気持ちよく眠ることが出来たのだった。

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