【改稿版】お兄ちゃんができました   作:ちびっこ

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校長室にて。

 草壁は風紀を乱さない速度で歩く。走りたい気持ちを抑えるのに必死だった。屋上のフェンスの老朽化が進み、立ち入り禁止の紙を貼るために屋上に向かった時には、このようなことになるとは思いもしなかった。

 

 草壁は風紀委員に不満がある人物がいることは知っている。しかし、まさか教師の根津が、委員長の妹であるヒナを狙うとは考えもしなかった。

 

「失礼!」

 

 ノックや返事を待たずに校長室に草壁は足を踏み入れる。声すらかける必要もないとは思っていたが、効率よく話を進めるためには先に声をかけた方がいい。雲雀の代理でよく草壁が行くので、校長が草壁の顔を知っているのも声をかけた理由の1つだ。

 

「ど、どうかしましたか?」

「問題を起こした生徒を退学にするという噂を聞きましたが?」

 

 草壁が威圧するように尋ねれば、校長は顔を真っ青にして頭を下げた。

 

「申し訳ございません! 雲雀君に相談もせずに話を進んでしまい……」

 

 この言葉に草壁は疑問を感じた。雲雀の妹であるヒナを退学するという話を雲雀に通せば、一体どうなるのか想像するのは容易のはずだ。

 

「で、ですが……退学は取り下げようかと……泣くまで反省していましたし、根津君が落ち着いてから話そうと思いまして……」

 

 いつまでたっても返事をかえさない草壁に言い訳するように言葉を付け加える。しかしそれは草壁の顔を強張らせる結果になった。ヒナが長時間も泣いていたと知ったのだから。

 

「雲雀君が退学と決めたなら私は反対をしません!」

 

 ピシッと頭を下げる校長の姿を見て、草壁はほんの少し平常心を取り戻す。なぜなら今の言葉で、校長がシロとわかったからだ。校長は草壁の顔を強張ったことに対し、問題を起こした生徒を処罰しないことに怒ったと勘違いしたのだろう。

 

 すると、校長が何をしてしまったのかわかっていない理由にも気付く。校長が見ただろう転入手続きの書類にはヒナの写真はなかった。彼女がヒナだということに気付いていないのだろう。

 

「では、根津銅八郎の解雇を要求します」

「はい! ……え?」

 

 要求の内容があまりにも予想と違い、校長は草壁の前にも関わらず間の抜けたような顔をする。そのことを草壁は咎めたりはせず、話を進めることを優先させた。

 

「校長、問題の起こした生徒の名は?」

 

 淡々と話す草壁に、校長は我に返り正直に答える。

 

「も、申し訳ございません。数名いまして……男子生徒が2名と女子生徒が1名しか……」

 

 軽く目を伏せる。予想はしていたとはいえ、退学させようとする生徒の名を知らないのは明らかに問題だ。しかし、ヒナから雲雀には話さないでほしいと縋られた。ヒナの頼みを一蹴するのは簡単だが、理由が雲雀に心配かけたくないからだ。草壁は昨日雲雀にテストの件で慰めてもらったこともヒナから聞いたのもある。

 

 余談だが、前日の内容はヒナが美化した状態で話し、それを聞いた草壁がなんと妹思いなんだろうと更に美化されていた。

 

「……校長、その女子生徒の名は雪宮ヒナです」

 

 決断し目を開ければ、この世の終わりを表現している顔があった。

 

「も、申し訳ございません!!!!!」

 

 校長はここに草壁が来た理由を完全に理解した。根津が……校長が何をしてしまったのかわかってしまった。

 

「今、雲雀は出かけています。そして彼女は穏便に済ませることを望んでいます」

 

 僅かな光を見た。根津を解雇さえすれば、校長の失態は雲雀の耳に入れないと草壁は遠まわしに話している。しかし報告義務を怠れば、草壁もただではすまないはずだ。危険を冒してまですることではない。

 

 もちろん校長は自身が助かるために、余計なことを言わず根津を解雇するだけだ。しかし気にはなる。ふと校長の頭の中で先程の『彼女は穏便に済ませることを望んでいます』という言葉を思い出した。

 

 雪宮ヒナが望んだから助かった。と取れる。

 

 ここで注目すべきは、ヒナが望まなければ校長も助からなかったことだ。果たして風紀委員の副委員長の草壁が、ただの一般生徒の望みを雲雀より優先することがあるのだろうか。当然、間接的に関わった校長を見逃しただけであって、問題を起こした根津は解雇だけではなく処罰もあるだろう。つまり草壁は互いの要望に叶える形を提案したのだ。

 

 はっきりいって校長から見たヒナの印象は普通の生徒と然程変わらない。容姿が整っていると言っても、その程度の話だ。風紀委員のような怖さや強さも感じられない。

 

 草壁がヒナに惚れこんだという可能性もあるが、風紀委員からの『紹介』で彼女は転入している。その線は薄いだろう。草壁が愚かな行為をするわけがないと校長は確信していた。今まで接した時間は雲雀よりも草壁の方が長いのだ。

 

 まさか……雲雀の彼女なのだろうか。

 

「校長」

 

 ゴクリとツバを呑み込む。

 

「……賢明な判断を」

 

 校長は草壁の言葉に頷くしかなかった。

 

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