草壁と別れたヒナは授業を受けるために教室へ向かっていた。本音をいうと今すぐにでもグランドを掘りたいのだが、授業を受けなければ風紀を乱すことになるし、スコップもない。次の休み時間までに草壁が用意してくれるということもあり、ヒナは大人しく席に座ることにしたのだ。
教室に一歩踏み出せば、ヒナに視線が集まる。校長室に呼び出されたこともあり、クラスメイトはどうなったのかと興味津々な者や同情する者が多かった。
そんな中、いち早くヒナが現れたことに反応した生徒が居た。
「なんでここにいるのよ!」
ビシッと愛に指をさされ、ヒナは首を傾げた。察しの悪いヒナに愛が詰め寄る。
「タイプカプセルを探すんじゃないの!?」
「あれ? なんで知ってるの?」
愛はすぐに言葉を返せなかった。まさかマンガに似た世界に転生し、未来を知っているとは言えない。普段察しが悪いくせに、余計なところに気がつくヒナに焦りながらも、なんとか返事をする。
「……ツ、ツナ君から聞いたのよ!」
「そうだったんだー。えっとね、次の休み時間までにスコップの準備してくれるんだって。だから頑張る!」
気合の入ったヒナの返事に、愛は呆れたような視線を送る。たとえ本当にタイムカプセルが埋められていたとしても、そんな簡単に見つかるものではない。
原作には存在していないヒナに探りを入れた愛だったが、ヒナの能天気ぶりに脱力する。昨日からヒナの存在が気になり、数えれないぐらいの失態をおかした自身がバカに思えたのだ。もっとも、その分だけツナに心配されたので幸せだったのだが。
「愛ちゃん、心配してくれてありがとう!」
ツナの優しさを思い出し軽くニヤニヤしていた愛は、ヒナの声で我に返る。そしてあまりにも純粋な笑顔で言われたお礼にお節介をしてしまう。
「……し、心配しなくても大丈夫よ!! ツナ君が頑張ってくれて退学はなくなるわよ!!」
言葉にしてから自身の失言に気付くが、もう取り消すことが出来ない。
先程の失言は愛の頭が悪いというより、愛の性格が問題だった。口調は強いが、愛は根っからのお人よしタイプなのである。伊達に長年ダメツナと呼ばれてるツナの幼馴染をしているわけではない。もう条件反射といっていい。余談だが、もしツナと結ばれなかった時に、ダメ男に引っかかりそうだと両親から心配されているレベルである。
そんな愛が、いかにも能天気そうなヒナに声をかけ、お節介という名の失言をしてしまうのは、遅かれ早かれ決まっていたことだった。
動揺する中、なんとかそれっぽい言い訳を考えようとした愛だったが、ヒナの言葉で思考が止まる。
「愛ちゃんは沢田君のことを信頼してるんだね!」
ニッコリと微笑みながら話すヒナに、考える気も失せたともいう。愛はごっそり気力を奪われたため、返事だけはかえし席に戻ったのだった。
大人しく授業を受けてるヒナだが、やはり日本語がわからない。難しい漢字や慣用句などが少しでも入ると、追いつかなくなる。もちろんヒナは食らいつこうとするが、何せ土台がない。ノートを移すだけでいっぱいいっぱいだ。
ヒナもこれには危機感が募る。イタリアの時は家に帰った後、母親に質問して何とか乗り切ったのだが、今回は母親がいない。雲雀に頼りたいが、毎日帰ってくるのが遅いので気が引ける。しかしそうも言ってられない状況なので、家に帰って相談することにしようと決めた。小学校の教科書を借りることが出来れば御の字である。
よくわからない日本語には丸をつけ、後で見た時にどこでつまずいたのがわかりやすいノートを作っていると、大きな音がグラウンドから聞こえ肩が跳ねる。クラスメイトは窓からグラウンドを覗いてるが、ヒナはそんな勇気もなく怯えるだけだった。
そんなヒナを見て再び愛はお節介にはしる。見ていられずヒナの手を握り、グラウンドに向かおうとしたのだ。
「ふぇ!? あ、愛ちゃん!?」
「退学になりたくないんでしょ! 黙ってついてくる! 急がないとツナ君の勇姿が見れなくなっちゃうのよ!」
ほんのちょっぴり本音が混じった愛の勢いに、ヒナは流されるようについていく。グラウンドについた時には、昨日のようにツナはパンツ一丁だった。
「うおおおお!」
ツナの気合いの入った声とともに、地面に振り下ろされる腕。そんなことをすれば腕を痛めるだけだが、ツナは地面を割った。ヒナはこのありえない状況に驚く暇もなく、地震のような揺れに腰を抜かしそうになる。愛と手を繋いでいたので、お互いに支えあうような形で何とか転ぶことはなかった。
「獄寺と沢田と雪宮だな! グランドで何をしてるかーっ」
突如聞こえた怒鳴り声にヒナはビクリと肩を跳ねる。そして愛の手を離し、一歩ずつ下がっていく。ヒナ自身は何もしていないのに、なぜか必ず怒られる。ヒナの中で根津は苦手人物になっていたのだ。実際、ヒナの名前は呼んでも、一緒に居た成績優秀な愛の名前は呼ばなかった。ヒナが根津を好きになる要素は皆無である。
そしてヒナが愛の手を離した隙に、愛はツナに駆け寄った。テスト返却時のミスを取り返すために、ツナにアドバイスをしにいったのだ。
「ツナ君」
「愛!?」
どうしてここに愛がいるのか。疑問に思いながらも、ツナは自身が放った技で愛に怪我がないことにホッとする。
「あのテストを校長先生に持っていけば、退学が免れると思うわよ?」
愛は獄寺が根津に詰め寄ってるところを指をさし、たとえ愛がアドバイスしなくてもたどり着いた未来を教えた。それを聞いたツナは名案というように目を輝かせる。
「愛!! ありがとう!!」
ツナから満面の笑みのお礼を言われ、愛は幸せいっぱいだ。神から原作は簡単には壊せないと聞いているのもあり、誰かさんと違って要らぬ心配をしなくていいため素直に喜べるのも大きい。
だが、ほんの少し引っかかることもあった。原作には登場しないヒナの存在だ。演技でもない限り、ヒナは原作のことを知らない。神も愛以外に転生者はいないと言っていた。そのためイレギュラーな愛がいるため、増えた人物なのだろうと予想している。
しかしはっきり言って、ヒナが愛の行動を抑えれるとは思えない。まだ出会って数日しか立っていないが、ヒナが状況把握が遅いのはわかる。現に今も、獄寺が根津を詰め寄ってるのを見て、オロオロしているだけだ。リボーンの世界では致命的だろう。
「……ツナ君、お願いがあるの」
「どうしたの?」
「あの子も、一緒に連れて行ってあげてほしいのよ」
「う、うん。もちろんだよ!」
愛がお節介を発揮する時点で行動を抑えられてることになるのだが、そのことに愛は気付かなかった。
一方、ツナは愛がツナに頼み事をすることに驚いていた。愛は運動神経もよく頭もいい。さらに愛はツナの頼みは断らないので、世話になるのはいつもツナの方なのだ。もっとも、ダメツナとまで呼ばれているツナだが、愛に頼りっぱなしになるのは情けない気持ちと、嫌われたくないのもあり、本当に困ったときにしか頼らないことにしている。
ツナは普段世話になってる分、愛の頼みを叶えたいと思っていた。内容を聞けば、難しいことではない。それにヒナを救うためにツナに頼んでいる。自分にはもったいないぐらいの優しい幼馴染である。ツナが二つ返事するのは当然のことだった。
ヒナの存在のおかげで、ツナの好感度がうなぎのぼりになってる愛だったが、残念ながら他のところに意識を向けていて気付かなかった。
その原因は校長がグラウンドに向かって慌てて走ってくる姿を見えたからだ。愛の記憶では、この後にツナ達が校長室に行き、退学を免れた。このタイミングで現れる人物ではない。
「根津君、探したよ!!」
「こ、校長……」
「君はなんてことをしてくれたんだ! はっ、雪宮様!」
愛は心の中で雪宮様って何よ!とつっこんでいた。そして、呼ばれた人物を見てみれば、情けないような声をあげていた。
「数々のご無礼申し訳ございません!! それなのに穏便に済ませてもらい……雪宮様のおかげで私は命を救われました!! 感謝しきれません!!」」
「なにこれーー!?」
ビシッと頭をさげ、礼を伝える校長に先ほどまで話を聞いていなかったツナ達も気付き、驚きの声をあげる。
「あ、あなた何したの!?」
たまらずヒナに愛は問いかけた。しかし肝心のヒナは首を横にふり、目に涙を浮かべていた。
「んなことより、校長! これを見ろ!」
唯一この異様な空気を無視出来た獄寺が、根津のテストを校長に見せつけた。
「そんなことは後だ! 大変申し訳ございません!」
「ああ!?」
獄寺は切れる寸前だった。ツナの退学に関わる内容を後回しにされれば、ツナを第一に考えてる獄寺が切れるのは当然だ。
ピリピリとした空気に気付いたヒナが、恐る恐る校長に声をかける。
「あ、あの……獄寺君の話を聞いてほしいなぁ……」
「はい! わかりました!」
頼んだのはヒナだったが、校長の態度に引き気味だった。
獄寺の話を聞いた校長は、ツナと獄寺の退学処分の話を取り下げた。校長の中では、ヒナはとっくに取り下げていたのだが、それを知らないヒナはツナと一緒に喜ぶ。
ヒナの様子を見る限り、校長の態度の原因は何も知らないと判断した愛は、直接校長に話を聞こうと決めた。
「根津君、君はクビだ!」
「そ、そんな……」
原作ではこのような裏を書いていない。話しかけづらいのもあるが、興味もあった。愛は2人の話が終わるまで待つことにした。
「言っておくが……この話を聞かなくても君はクビだったんだ」
この言葉には根津だけではなく、愛も驚いた。愛の知ってる根津の解雇理由は学歴詐称だけだ。
「風紀委員にケンカを売った君が悪い」
愛は呆れたように根津を見た。原作を知らなくても風紀委員にケンカを売るなんて馬鹿げていると判断できることなのだ。雲雀恭弥に逆らうなというのは並盛では常識だ。常識だからこそ、リボーンと獄寺の耳に入らなかったのだろう。ずっと並盛に住んでいるツナが知らなかったことが異常なのだ。それでも雲雀恭弥に目をつけられる時間は短い方がいいと判断し愛はツナに教えなかった。
「副委員長の草壁君が君の行動に目をつけている。この街から出て行くことになるだろう」
愛は怪しむ。このタイミングで草壁が根津の学歴詐称を知っている内容ではなかった。
「あれ? もしかして副委員長さんが校長先生に言ってくれたの?」
「はい!」
根津から絶望の空気が流れてるのにも関わらず、ヒナはのんきそうに言った。それもそのはず、ヒナは副委員長という言葉に反応して、ただ思ったことを言っただけなのだ。……当然、聞き流せる内容ではない。
「校長先生と副委員長さんって仲が良かったんだー」
しかしそんなことを知らないヒナは感心したように言う。風紀委員のことを知ってる愛と根津は、そんな生易しいものではないと察した。校長の顔が引きつってるのがその証拠だ。
だが、それが些細なことと言えるほど、ヒナの発言で引っかかることがあった。
「あなた……風紀委員の副委員長と知り合いなの……?」
「うん。学校の案内をしてくれたんだ。さっきもスコップを用意してくれるって言ったの」
新たな事実に驚きを隠せない。根津なんてこの世の終わりのような顔をしている。
「……あなたのお兄さんって誰?」
根津のことは自業自得なので放置し、愛はヒナに問いかけた。
愛は昨日ヒナの兄は優しい人物と聞き、雲雀恭弥は真っ先に除外され、初対面のような笹川京子との反応から、原作関係者ではない判断した。しかし今はそう思えない。
「名前を聞いてもわからないと思うよ?」
「いいわ」
ヒナのもったいぶるような返事に苛立ちながらも愛は先を促した。
少し恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうにヒナは言った。
「雲雀恭弥っていうんだ」
「………は?」
「え……?」
「……殺される」
ツナが声をかけるまで、不思議そうなヒナと時間が止まったように動かなくなった3人の姿があった。
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「……誰かさんって、もしかして私のことなのか?」
「元気を出すのだよ。僕がついてるよ!」
「…………一応、言っておく。ありがとう」
「くっ、悩んでる姿も可愛いと思っていたなんて言えないじゃないかっ」
「……思いっきり口に出してるぞ」
「睨んだ姿もいい!」
「……(もう何を言ってもダメだ)」