【改稿版】お兄ちゃんができました   作:ちびっこ

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初めての休日!

 今日はヒナが日本にきてから初めての休日で、朝からヒナは張り切っていた。

 

「今日は掃除日和なの!」

 

 日頃から掃除はしているが、やはり細かいところは手が届かない。まして生活に慣れることにいっぱいで、そこまで出来なかった。気になっていたヒナは今日こそは!とヤル気に満ちていたのだ。

 

 一通りの家事をこなしたヒナは庭から手をつけることにした。朝からしないと暑さにやられる。

 

「何してるの……」

 

 聞こえた声にヒナは振り返る。雲雀が起きてきたようだ。

 

「おはよう、お兄ちゃん!」

「……何、その格好」

 

 よれよれのジャージで首にタオルを巻き、これまたよれよれの帽子をかぶったヒナはかなりダサい。雲雀からすれば、並中のジャージをなぜ着なかったと言いたくなるぐらい酷かった。

 

「草むしりするの!」

「……週に何度か庭師がくるからいい」

「そうなの!?」

 

 驚きながらもヒナは帽子を脱いだ。……帽子しか脱がなかったともいう。

 

「じゃ、他のところ掃除するね!」

「待って」

「大丈夫! お兄ちゃんのご飯は作ってるよ!」

「そっちじゃない」

 

 コテンと首をかしげるヒナ。朝から雲雀は大きな溜息を吐いた。

 

「風紀を乱すような服装はしないで」

「ええっ!?」

 

 この服装は雲雀との約束を破ることになるらしい。ヒナの常識が壊れた。

 

「人に見られてもいい服装で過ごすこと」

「大丈夫だよ!」

「……咬み殺されたいの?」

 

 しょぼーんとヒナは肩を落とした。動きやすくて良かったのに。

 

「でもね、今日は許して欲しいの。服がないの」

 

 そう言われ、初めて会った時のヒナの荷物が少なかったことを思い出す。小柄なヒナが持ち運ぶことを考えるとあまり持ってこれなかったのだろう。昨日までは問題なかったのだから、洗濯中ということだ。なぜそのよれよれジャージを持ってくる中に入れたのかは謎だが。

 

「……ちょっと待ってて」

 

 仕方なく雲雀は自室へと引き返し、ヒナが着れそうな服を探す。多少不恰好になるかもしれないが、雲雀は細身なので着れなくはないだろう。それに今のヒナよりも格段に良くなるのは確実だ。

 

 雲雀が戻れば、今度は頭にタオルを巻いていた。首のタオルもあのまま残っているので、これまたダサい。

 

「これを着て、スカートは制服でいい」

「え? でも……」

「はやくして」

 

 苛立ったのを感じたのかヒナは慌てて着替えに行った。雲雀はそれを確認してから洗面所へと向かった。

 

 見られる姿になったヒナは雲雀のご飯を温めなおしていた。廊下を雑巾掛けしようとして止められたのだ。スカートでするのはダメだったらしい。

 

 雲雀がご飯を食べている間、手持ち無沙汰になるヒナ。掃除しようと意気込んでいただけにすぐに切り替えることは出来ない。

 

「そうだ、お風呂!」

「僕の服、ビショビショにする気?」

 

 ショボーンとヒナは肩を落とす。雲雀や外から見えない場所ならスカートで掃除してもいいと思いついたが、借り物の服だった。雲雀が危惧した通り、たまに失敗してお湯がかかる。

 

「それとあの服はもう着ないでね」

 

 薄々察していたヒナは素直に頷いた。着心地が良かっただけで特に思い出もないので、今日でさよならだ。

 

「失礼します!」

 

 聞こえた大きな声にビクッとするだけじゃなく、アワアワと手まで動かすヒナ。すぐに雲雀は視界から外し、庭へと顔を向ける。両手に荷物を抱えた草壁の姿が目に入った。

 

「お待たせしました、委員長!」

「いつものようにして」

「はい! では、失礼します!」

 

 ヒナが忙しそうに2人の顔を見比べていることに気付いた草壁はすぐさま声をかける。

 

「おはようございます、雪宮さん」

「お、おはようございます!」

 

 ニコニコと返事をするだけで、ヒナは頭を下げなかった。草壁が頭を下げなかったからである。この辺りの修正をきっちり行うところは流石であろう。

 

 ヒナには申し訳ないが、手を動かさなければ雲雀に咬み殺されるので草壁についてきてもらうしかない。それにヒナに目を通してもらった方がいいだろう。草壁が声をかければ、ヒナは嫌な素振りもせず、立ち上がった。

 

 お願いされてついてきたヒナはジッと草壁の手を見ていた。重そうなので声をかければ断られてしまったが、袋から見えているのは食材である。向かっている方向が台所なこともあり、鈍いヒナでもこの家の物と勘付いた。

 

「今まで副委員長さんが買い出ししてくれてたの?」

「はい。今後は週に2度ほどと予定していますが、よろしいでしょうか?」

「え!? ヒナがするよ!」

 

 必死にヒナが首を振っているので草壁はヒナが納得するような言葉を瞬時に探す。

 

「委員長から任された私の仕事なのでお気になさらずに」

「……わかった。でも片付けはヒナもする!」

「ありがとうございます」

 

 手伝えることで落ち込んだ空気が消え、嬉しそうにヒナは笑っていた。全て断らなくて良かったと草壁もホッとする。そのまま和やかな空気のまま食材の片付けが終わった。

 

 雲雀に報告した後、草壁は仕事に戻るか、雲雀からの新たな命令で動くかの二択である。今日は後者の方だった。しかし命令は命令でもいつもとは少し違う。

 

「これ、半分は使ってね」

 

 ポンっと渡されたのは現金で10万円。何かを買ってきてならわかるが、使ってとなると雲雀の行動に慣れている草壁でもすぐにのみこめない。それも最低で5万円だ。

 

「ボーッとしてないで、出かける準備しなよ」

 

 雲雀の視線はヒナにむいていた。なので、ヒナは自分に指をさした。雲雀は呆れながらも肯定するように頷く。

 

「出かけるの?」

「僕の服、また借りる気?」

 

 借りていたんだった、というようにヒナが笑って誤魔化せば、今度こそ雲雀は溜息を吐いた。

 

「足らなければ、後で言って。出すから」

「はい。わかりました」

 

 ヒナと雲雀の会話だけで、草壁は現状を把握したため、任せてくださいというように意気込んだ。

 

「あの、ヒナ1人で大丈夫だよ」

 

 意気込んだものの、ヒナからのお断りの言葉である。が、即座に雲雀が却下する。

 

「しっかり見張ってて。頼んだよ」

 

 雲雀の邪魔は出来ないヒナはショボンと肩を落としながら、出かける準備をする。といっても、最低限の物があればいいので、リュックを持ってくるだけだが。そして置きっ放しだった帽子に手を伸ばす。が、これもダメ出しされた中に入る気がする。日差しが心配だが、諦めるしかない。

 

「うわっ」

 

 突如視界が悪くなったので、慌てて頭に手を伸ばす、頭に何かのったから見えなくなったのだから。

 

「帽子? なんで?」

「……使っていいから」

「お兄ちゃんのなの!? ありがとう!」

 

 他に誰がいるんだと思いながらも、雲雀はわかったからと頷く。ヒナは鏡を見ながらセットをしているので、頭の回転といい、この感じで買い物をしていれば時間がかかりそうだ。

 

「草壁、それで君もお昼食べてきていいから」

 

 荷物持ちというのもあるが、草壁がいればダサそうな服を選べば止める。草壁の性格上、ヒナからは付かず離れずの距離にはいるというのも見越していたのだ。雲雀なら死んでも嫌なことを長時間任せ、さらに風紀とは関係ないことである。食事代ぐらいは出そうという気になった。

 

 断ろうと仕掛けた草壁を雲雀はひと睨みで黙らせる。雲雀の好意と受け取った草壁は、今度こそ素直に感謝を述べた。

 

 そんなやり取りをしている間に、やっとヒナの準備が終わる。雲雀は鏡を見た意味があったのかわからなかったが、口に出すことはなかった。

 

 2人が出て行った後、雲雀はお茶を入れた。しばらくのんびりしよう。朝から疲れたから、と。

 

 

 門を出た途端、ヒナは草壁と向き合いガバッと勢いよく頭をさげる。

 

「ヒナのせいでごめんなさい!」

 

 草壁はヒナに謝罪されたが、今回はホッとしていた。薄々ヒナの性格から迷惑をかけることを嫌がっていたと察していたのだ。しかし本人の口から説明があるかないかでは、まるで違う。やはりどこかで草壁が嫌だと思われている可能性を捨てきれなかったようだ。

 

「大丈夫ですよ。ついで……といっては何ですが、街中を案内しますよ」

「あ、ありがとう!」

 

 今度は勢いよく顔をあげたヒナ。ちょろい。

 

「では、行きましょうか」

「うん」

 

 ヒナの歩調に合わせ、ゆっくりと草壁は歩き出したのだった。

 

 ヒナは上機嫌で買い物していた。買い物自体が好きというのもあるが、この店はこの商品が有名などと草壁の説明はわかりやすかったのだ。さらに全部覚えれそうになかったため、メモする時間がほしいと頼めば、歩きながらは危ないので、草壁が街の地図に書いて今度にでも渡してくれるという至り尽くせりな状況にご機嫌にならないわけがない。

 

 一方、草壁もこの買い物を楽しんでいた。雲雀についていくためにつけた知識を雲雀の妹のために活用でき、また草壁の説明の1つ1つにヒナの反応がいい。雲雀ならまだしも、一般的な感覚を有している草壁が気を悪くするはずがない。特にヒナは異性なのだから。

 

 しかし、ヒナは上機嫌で気付いていなさそいだが、やはり視線が集まる。群れることを禁ずる雲雀の部下にあたる草壁が堂々と歩いているのだ。当然といえば当然の反応である。時折、同じ風紀委員のメンバーが遠目から様子を伺っているのも見える。草壁を心配している目をしているが、ヒナから目を離して説明出来るわけもなく、後で委員長の指示だったと教えることになるだろう。

 

 本当はもっと大々的に雲雀の妹と広めたいところだが、ヒナの性格上、かしこまられるのは苦手なようで風紀委員にも根回しをしゆっくりと広げている状況だ。一般は後回しになる。もっともこれについてはヒナの身の安全を考えると自然に広がる方がまだ対処しやすい。雲雀はヒナに被害がいく可能性に至っていなかったことから、この件は全面的に草壁に任されているので、雲雀の期待を裏切らないようにしなければ。

 

「副委員長さん、どっちがいい?」

 

 周りを警戒しながらも、2着の服を持ちながらどうしようというヒナの悩みに答える。……どちらも悪くはない。普通ならここで悩むことになるが、雲雀に5万円は使うようにと言われているのでどっちも買うという答えになる。このペースなら使いきれないので。

 

 このようにサクサクと決まればいいが、悪くはないだけで良いとは言い切れない物が多い。さらに度々ヒナはちょっと変わった服を持ってくるので時間がかかる。例えば動物?と、つい最後に疑問をつけたくなるような柄が入ったTシャツとか。ヒナなら似合うかもしれないが、雲雀は絶対に嫌だろうというの類のものでその場合は草壁がやんわり忠告している。買っても着れなくなるので。

 

 草壁が女心というより、実用性で選別しているとヒナが突如声をあげた。

 

「あ! 愛ちゃんだ!」

 

 突然、名を呼ばれた愛は周りを見渡す。そして声をかけてきた人物……の後ろにいた草壁を見て、頬を引きつらせた。頼りないヒナはともかく、風紀委員とは関わりたくない。

 

 ヒナが嬉しそうに駆け寄る行動と愛に向けられた視線から察した草壁はヒナから少しだけ距離を取る。案の定、草壁が近づかないのを見て、愛とヒナは話し始めた。

 

「何してるよ……」

 

 チラッと草壁に視線を向けながら愛は言ったが、ヒナは察しなかった。察しなかったが、素直に受け取っても今回の場合は問題なしである。会話が成立する。

 

「服がないから買いに来たの!」

 

 服がない理由はわかる。ただわざわざ目立つ方法を取らなくていいのに。そう思いはするものの距離を取りながらも草壁がヒナから目を離さないので、何も言わない。……言えないといった方が正しいだろう。

 

「愛ちゃんも買い物?」

「……まぁそうね」

 

 ヒナ達と会ったせいで、そんな気分じゃなくなってしまったが。会話しながらも愛は周りをよく見ていた。だから草壁の視線も気付いたし、ヒナの手にある良いとは言い切れないが悪くはない服が目に入る。

 

「ないわ」

 

 愛からすれば、アウトだったようだ。

 

「愛ちゃん?」

「あなたはボケっ……ほんわかしているし顔も幼いのよ。もうちょっと年相応の服を選びなさい。小学生に見られるわよ」

 

 慌てて言い直したが、ほぼ言ったのも当然。幸い、コソコソと話していたので草壁には聞こえなかったようだ。

 

「向こうじゃヒナはこんな感じだったよ?」

 

 海外で日本人は若く見られやすく、ヒナは日本人の中でも童顔なのだ。誰も止めなかったのだろう。基本子どもっぽいのはここから来ている。ちなみに母がちょっと抜けていたりすることもあり、時折しっかりする一面も持つが、同級生からは温かい眼差しで見られていたので子ども扱いなのは変わらなかった。

 

「こっちじゃ浮くからやめときなさい」

「わかった!」

 

 愛の言葉に素直にヒナは返事し、服を戻す。

 

「愛ちゃんはどんな服にしたの?」

「見せるほどのものじゃないわ」

 

 口調ではバッサリときっているが、ちゃんと参考にできるようにと見せていた。胸元にレースが入っているものばかりなのは深くツッコミしてはいけない。危険なので。

 

 幸い、ヒナは察しなかった。が、ジッと服を見ていた。悩んでいるのは顔を見れば明白だったので、愛は再びアドバイスをする。

 

「難しく考えなくていいわよ。今きている服はいい感じじゃない」

「これ、お兄ちゃんの服なの」

 

 ヒナにはわかんないと、ショボンとしながら言った。……言ってしまった。

 

「ひ、雲雀恭弥の服……!?」

 

 愛が雷に当たったレベルの衝撃を受けているが、ヒナはのんきなもので、少しでもヒントを得ようと服の端を引っ張りデザインを見ていた。悲鳴ものである。

 

「伸びちゃうじゃない!?」

「あ」

 

 借り物ということをすっかり抜けていたヒナは慌てて手を離す。愛は一瞬にしてドッと疲れた。が、安心する間も無い。

 

「失礼」

 

 今まで会話に関わる気がなかった草壁が声をかけてきたからである。ヒナは嬉しそうにしているが、愛の胃は縮みそうだ。

 

「そろそろ食事の予約時間が迫ってきています」

「そうなの?」

「じゃ、じゃぁ、私はここで……」

 

 愛は空気を読んだ。予約の時間が迫っていたとしても、風紀委員の力ならどうとでもなる。つまり会話を中断させる口実に使っただけなのだ。このことからそもそも食事の予約すらしているかも怪しい。

 

「すみません」

 

 そう言って草壁が頭を下げた際に、「委員長の妹ということは内密に」とボソッと聞こえてきた言葉に愛は「はい!」としか言えなかった。怖すぎる。

 

 何事もなかったように顔をあげた草壁を見て、愛は引きつった笑みを浮かべながら、なんとかヒナ達と別れを告げた。

 

 ヒナに服を買うのかの最終確認をしながら、草壁は頭をフル回転させていた。

 

 ヒナとじっくり会話をしたことで勘違いしていることもあるかもしれないと疑った日に草壁は調べ直していた。その結果、生徒内では雲雀とヒナが兄妹という事実は広まっていないことが判明した。草壁だけでなく、雲雀までもが勘違いしていたことにまた驚きだった。

 

 ヒナが授業についていけないことと、雲雀の妹ということを抜きにしてもクラスから浮いていたので、真実を知ればどのような流れになるか読めないことや、草壁と一緒にいるところを全校生徒に知られていることから、応接室で勉強することに落ち着いたのだが、先程の会話から2人が兄妹と知っている人物もいることが判明した。

 

 未だに広まっていないことを考えれば、口止めは不必要だったかもしれない。しかし、いずれバレるにしてもそれは風紀委員の根回しが終わってからが好ましい。

 

 ヒナと他の生徒との接点は最低限に抑えているが、抑える前からバレていたようだ。誰がどこまで知っているのかを把握しなければならない。……また、黙っていた理由も。

 

 他にも確定していないので雲雀には報告していないが、ヒナにセクハラを仕掛けた男子生徒がいたという情報も掴んでいる。こちらも調べなければならない。

 

 正直、手が回らない。しかし雲雀から任されたことを出来ないとは言えない。何より草壁は雲雀の信頼を応えたかった。

 

 もちろん、これ以上ヒナに被害が行くと判断すれば草壁自身の心情は切って捨てるが。

 

「……どうしよう! わかんない!」

「では、一旦保留にして、食事をした後でも欲しい服があれば買うのはどうでしょう?」

「副委員長さん、すごい!」

 

 キラキラしたヒナの目を見て、優先順位は絶対に間違えないようにしなければ!と再確認した草壁だった。

 

 

 ちなみに、雲雀の趣味ならわかる草壁が全てヒナの服を選び直したのだった。




自分で書いてて思った。
草壁さん、仕事量多すぎww
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