【改稿版】お兄ちゃんができました   作:ちびっこ

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お兄ちゃんです。

 トラブルに巻き込まれることなく日本に着いたヒナは、早速並盛に向かうためにタクシーに乗り込んだ。電車の方が安いだろうが、全く知らない場所に自力でたどり着く自信もなく、母親から預かったメモにもタクシーを使うようにと書かれていたのだ。

 

 そして、ついにヒナは目的地である家の前についた。

 

「ふわぁぁ、凄い」

 

 それが家を見たヒナの第一声だった。

 

 ヒナはまず塀の長さ、次に塀があっても見える立派な松の木に、そして由緒正しいような和風な造りに驚いたのだ。

 

 塀があるため全てが見えるわけではなかったが、とても大きな家だとヒナでも理解できる。そのためドキドキしながらチャイムを鳴らす。

 

「……あれ?」

 

 もう1度押してみる。しかし返事はなかった。

 

「うーん、いないのかな?」

 

 首を傾げながらヒナは呟く。この家には表札がない。タクシーの運転手と母親から預かったメモに表札がないと書いてあったことだけが頼りなので、口に出さないと不安でしょうがないのだ。

 

「す、すぐ帰ってくるよね! 待つぐらい出来るもん!」

 

 母親に電話しようかと迷ったが、意地がある。1人でこれぐらい大丈夫という意味を込めて、ヒナは気合を入れたのだった。

 

 

 

 

 

 辺りも暗くなり、足も疲れたヒナは家の前でしゃがみこみ今では泣きそうである。実は何度か不安になり、通りかかった人に声をかけようとても逃げられるのだ。

 

「……何してるの?」

 

 ヒナは顔をあげた。今まで誰も話しかけてこなかった。声をかけた人物は自身と同じような年齢の少年だったが、ヒナには救世主に思えた。

 

「あのね! 雲雀恭弥さんっていう人を待ってるの! 手紙渡さなきゃ!」

 

 頭の中はグチャグチャで、ただ必死にこれからすることをヒナは声を出しただけだ。すると少年はヒナの手に握られていた紙を奪い取り、勝手に中身を読み始めた。

 

 ヒナは焦る。それは大事な手紙だ。もし封が開けられていたら、雲雀恭弥という人は信じてくれるかわからない。

 

「ダ、ダメだよ! それは雲雀恭弥さんに渡す手紙なの!」

 

 取り返すために手を伸ばすが、少年は手紙に目を通しながらも交わし歩きだす。そして門を開け家の中へ入っていった。慌ててヒナは少年を追いかける。手紙を取り返そうとする一心で。

 

「って、あれ……?」

 

 気付けば、ヒナは玄関に居た。

 

 どうして?と頭の中では疑問がいっぱいだ。ヒナの疑問を他所に少年はスタスタと家の中に入っていく。勝手にあがるのはおかしいとヒナは考え、その場から動けなくなった。

 

 そんなヒナに気付いたのか、少年は部屋らしき扉に入る前に「はぁ……入ってきなよ」と声をかけたのだった。

 

「お、お邪魔します」

 

 靴を揃え、恐る恐るヒナは家にあがる。外観から想像した通り、家は和風だった。

 

 キョロキョロと見渡しながら少年が入った部屋にたどり着き、顔を覗かせる。少年は難しそうな顔で座っていた。

 

「あ、あの……」

「そこ、座って」

 

 言われた通りに机を挟んで少年の目の前に座る。正座のするのは初めてだったが、やり方は知っていた。

 

「ここに住むにはルールがある」

「ちょ、ちょっぴり待ってほしいの。もしかして雲雀恭弥さん……?」

「そうだけど?」

 

 今更何を確認しているのかという視線を感じ、ヒナは心の中で「母さーん! 私と同じぐらいの年って教えといてよーー!」と文句を言っていた。ヒナは子どもなので、一緒に住む相手は大人としか考えていなかったのだ。

 

「僕の邪魔をしないこと」

「邪魔しない……」

 

 充分待ったと判断したのが、雲雀は話を進める。出来るだけ早く終わらせたいのだ。相手も復唱しているため、問題ないと判断し次にうつる。

 

「僕の前で群れないこと」

「む、群れない?」

「そうだよ。群れてる人を見ると咬み殺したくなるんだ」

 

 カ、カミコロス……?

 

「君を咬み殺すさずに面倒みてほしいって書いてたよ。僕は君のような女子と話さないことを知ってるのにね」

 

 ヒナは雲雀のペースについていくことに必死で、雲雀の嫌味には気付かなかった。

 

「まぁだけど……これで僕の好きにしていい」

「好きにしてもいい?」

「君には関係ないよ」

 

 ヒナは素直に頷いた。いっぱいいっぱいで必要がないことを覚える余裕はないのだ。

 

「群れるのは許してあげるけど、僕の前で群れると咬み殺してしまうからそっちが気をつけてよ」

「ええっと、邪魔しちゃダメ、目の前で群れちゃダメ」

 

 簡単な言葉に置き換えると、雲雀が頷いた。間違って覚えてないようだ。

 

 そして雲雀が次に進まなかったので、ヒナはわからなかったことを質問する。

 

「カミコロスって?」

 

 ヒナはトンファーがいきなり出てきたことに目を丸くする。ヒナの目ではどこから出したのか全く見えなかったのだ。

 

「これで咬み殺す」

 

 ブンっと目の前で風を感じ、ヒナは理解したと必死に首を縦に振った。一刻も早く片付けてほしい。

 

 ヒナの祈りが通じたのか、気付けばトンファーがなくなり話が進みだす。

 

「風紀を乱さないこと」

 

 ヒナは明るい顔になる。一般常識のため今まで通り過ごすだけの簡単なものに思えたのだ。しかし続く雲雀の言葉に考えが甘かったと気付く。

 

「乱せば咬み殺す」

「邪魔しちゃダメ、目の前で群れちゃダメ、風紀を乱しちゃダメ」

 

 呪文のようにヒナは呟いていた。

 

「後は……その時にいうよ」

 

 ふぅ、と息を吐く。変わってると聞いていたが、まさかこれほどまでとはヒナは思っていなかった。それでも内容はヒナが気を遣えば問題ないものだ。後から増えるかもしれないが、何とかなる可能性が見えた。

 

「何か質問ある?」

 

 その言葉にヒナは目を輝かせる。カミコロスという謎の言葉のせいで1番最初に質問しようとしていたことが出来なかった。

 

 やっと口に出せる。

 

「名前!! なんて呼べばいいの? お兄ちゃんでいい?」

 

 一人っ子だったヒナは兄妹にずっと憧れていた。ディーノを兄のように慕っているが目の前にいる人物は特別だ。本当の兄妹になるかもしれない人物なのだ。

 

 これからのことを考えると名字で呼ぶことはおかしい。

 

 そのため「恭弥さん」とヒナは呼ぶつもりだった。だが、実際会ってみると年が近い。変わっているが親しみやすい「お兄ちゃん」と呼びたくなったのだ。

 

 期待を込めてヒナは雲雀を見ていたが、いつまでたっても返事がない。今までサクサクと話を進めていたただけに心配になる。

 

「お、お兄ちゃん……?」

「……はぁ……もうそれでいいよ」

 

 やった!とヒナは喜んだ。

 

 一方、慣れないことに疲れた雲雀は風呂に入りたくなった。これを終わらさなければ、再び疲れるとわかっているので質問は終了し話を進める。

 

「手続きは僕がするから、学校は明後日から通ってね」

「わぁ! ありがとう!」

 

 手続きの仕方がよくわかっていないヒナは、学校に行けばなんとかなるのかな?と考えていた。それをあっさりと進める雲雀に尊敬の眼差しを送る。

 

 一部の部下から同じような視線を送られることがある雲雀だが、女子から送られるのは珍しい。一般的に考えると嬉しいはずだが、雲雀はどうでもいいことだった。

 

 そんなことより次に話す内容の方が自身の行動が縛られそうで嫌だった。しかし面倒を見ることも条件だったので、避けることは出来ない。

 

「……これ、僕のケイタイ番号とアドレス。問題が起こらない限り連絡しないでよ」

 

 嬉しそうに受け取ったヒナに雲雀は釘を刺すのを忘れなかった。しっかり頷いたヒナを見て、大丈夫だろうと判断し次に進める。

 

「お金はそこにあるのを使っていい」

「え……?」

「生活費いるでしょ。それに手紙に書いてる」

 

 ヒナの言葉を待たず、話を進める。雲雀の限界は近いようだ。

 

「部屋は隣の部屋を使って、後は勝手に覚えて」

 

 指をさした方を見たので問題ないだろうと判断し、ついに雲雀は立ち上がる。

 

「どこ行くの?」

「……お風呂、入る」

 

 再び雲雀が方向を指したので、大丈夫だろうとヒナは判断する。念のため一緒に行くべきなのだろうが、今立ち上がると足が痺れて動けないだろう。待ってもらうのは『邪魔するのはダメ』に入る気がして見送ることにしたのだ。

 

「じゃ今のうちに登録して送っておくね。いってらっしゃーい」

 

 やっと終わったと思い雲雀は風呂に向かったが、雲雀が気付かないだけでまだまだ話すことが残っている。

 

 意外にも頼りなさそうなヒナより、雲雀の方が共同生活を甘くみていたのだ。

 

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