【改稿版】お兄ちゃんができました   作:ちびっこ

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応接室を探せ

 ふわふわと軽い足取りでヒナは学校に向かっていた。今日は朝から電話があったのだ。相手はディーノである。

 

 元々、ディーノとは日本についてから毎日メールをしていた。しかし昨日の夜に緊張していると送ったので電話をかけてきてくれたのだ。時差があるのに電話してくれたディーノの優しさにヒナはほっこりしていたのである。ちなみに母親からの連絡はまだない。ケイタイを見忘れてるだろうとヒナは予想している。よくあることなのだ。

 

 ヒナの軽い足取りは心の影響だけではない。

 

 教科書がないので荷物が少なく本当に軽いのだ。ヒナのカバンに入ってるのは2人分の弁当だけである。1つはもちろんヒナの物。もう1つは雲雀の物だ。

 

 ヒナの味付けが気に入ったようで、週2で頼まれたのである。1人分も2人分もたいして変わるものではないので、ヒナは二つ返事で引き受けた。ただし雲雀が出る時間には間に合わないので、昼までに届けることになったが。

 

 この2つの理由でヒナはすぐに学校にたどり着いた。昨日は校門の外から眺めるだけだったため、入るのは初めてである。ついキョロキョロと見渡してしまう。まだ時間が早いため、人の姿はない。だが、グランドから声が聞こえるので、誰もいないということではない。ちょうど朝練のある生徒と一般的な登校時間の間に来たようだ。

 

 つい人の声が聞こえるグランドに進もうとしたヒナだったが、雲雀から応接室に来るように言われていることを思い出した。しかしなぜ教科書を渡すために職員室ではなく、応接室に行くことになるのかヒナにはわからない。ヒナの記憶では応接室は生徒が入っていい場所じゃなかった。

 

 疑問に思いながらも校舎に入って行く。だが、正面玄関で立ち止まった。

 

「場所がわかんない……」

 

 右と左、どっちが正しいのだろうかとヒナは右往左往する。正解は二階に通じる階段なのだが、ヒナの目には入らなかった。そして正面玄関で右往左往すれば、邪魔になるのは必然だ。

 

「うわっ」

 

 ヒナは鼻を押さえる。誰かと勢いよくぶつかってしまった。

 

「ご、ごめんなさい」

 

 すぐにヒナは頭を下げる。相手はただ入ろうとしただけで、ヒナからぶつかりに行ったようなものだ。そして相手の怪我の具合を診ようと顔をあげて固まった。

 

 お、怒ってる……!

 

 怪我はないようだが、男に思いっきり睨まれてヒナは一歩後ろに下る。が、相手をよく見ると学ランだった。雲雀と同じ委員だと気付き、恐怖が薄れる。

 

 今度は一歩踏み出す。応接室の場所を教えてもらおうと考えたのだ。

 

「風紀委員さん、応接室はどこ、ですか?」

 

 ヒナは更に男から睨まれることになり、困惑する。

 

「君、何が目的だ」

 

 目的といわれても……と思いながら、ヒナは返事をする。

 

「応接室に行きたいの」

「君には関係ない場所だ」

 

 それだけ言うと男はヒナを無視し、歩き出そうとする。これに慌てたのはヒナだ。正面玄関で話をしているのに彼以外に誰も来ない。

 

「で、でも……!」

 

 手を伸ばし服を掴んで引き止めれば、睨まれた時より強い視線を感じ、ヒナは縮こまる。顔が怖い人はディーノの部下で見慣れているが、このような視線は向けられたことはない。

 

「何かあったのか?」

 

 第三者の声がして、ヒナはパッと手を離す。何も無理してこの人に聞く必要はない。声がした方を振り向けば、自然とヒナは見上げる形になった。大きい。

 

「副委員長!」

 

 またしても雲雀と同じ学ランである。中学生でディーノと同じぐらいの身長だ。ヒナは凄いと思いながらも『副委員長』という言葉に反応していた。副委員長ならば、雲雀のことを知っている可能性がある。ほんの少し希望が生まれた。

 

「ふ、副委員長って、風紀委員の副委員長さんなの? じゃなくて……ですか?」

 

 日本語ってこんなにも難しかった?と思いながら、ヒナは言葉にした。年上であるディーノとは、いつもの口調で話していたため、すぐに出てこない。

 

 相手は気にした様子もなく、「そうですよ」と答えた。だからヒナは期待をした目で見て言った。

 

「雲雀恭弥って人を知ってる? あのね、風紀委員に居るの!」

 

 興奮しながら言ったため、口調がいつもと同じに戻ってることにヒナは気付かない。そして、そんなヒナの様子に2人は困惑した。

 

 何を当たり前のことを聞いているのか、と。

 

 この学校で……否、この並盛で風紀委員は有名だ。だが、それは風紀委員というより、雲雀恭弥が風紀委員だから有名なのだ。それを証明するかのように、風紀委員の副委員長である草壁の名前はあまり知られていない。

 

「知っていますが……」

 

 それでもヒナの答えを無視するわけにはいかなかった。

 

 元々、草壁は見るからに風紀委員と関わりがなさそうな生徒が、恐れられているはずの風紀委員の袖を掴んでまで何か伝えようとしていたのだ。とても大切なことだと推測できる。そうでなければ、初めから優しく対応していない。

 

「良かった!!」

 

 手を上げそうなぐらい喜ぶ少女は、ふざけているように見えない。草壁がこの場に居合わせたことに、この生徒の幸運を感じる。他の風紀委員では、手を出していただろう。

 

「……委員長に何か?」

「委員長?」

 

 ヒナは首を傾げる。雲雀の名を出したはずなのに、なぜ委員長の話になるのだろう。そんなヒナの態度に2人は顔を見合わせた。あまりにもこの生徒はズレている。

 

「……雲雀恭弥は風紀委員の委員長です」

「委員長なの!?」

 

 まだ理解していないヒナのために草壁は教えたが、ますます困惑することになった。

 

「ごめんなさい。そこまで聞いてなかったの」

 

 ヒナはちょっと恥ずかしそうに頭を下げる。2人が困惑していることにヒナは気付いていた。ただし、ヒナは風紀委員の2人に委員長の名を知っているかと不安そうに聞いたことが変だと思ったが。

 

「……君、応接室の場所を聞いていたよな?」

「本当なのか!?」

 

 現在、応接室が風紀委員の部室と知っている人物は極僅か。だからこそ、無関係に見えるヒナを遠ざけようとした。しかし、ヒナは応接室を訪ね、その後に雲雀恭弥の名前を出した。関係者の可能性が一気に高まった。何の関係者かはわからないが。

 

「……委員長に用事ですか?」

「うん。応接室にきてって。でも今日転校してきたから場所がわからないの」

 

 肩を落とし下を向いたヒナを草壁はまじまじと観察する。

 

 いや。まさか。そんな。

 

 そう思いながらも口にする。

 

「雪宮ヒナさんですか……?」

「あれ? なんで知ってるの?」

 

 不思議そうに草壁を見上げる顔は、可愛いと言っていいだろう。だが、雲雀が興味を持つとは思えない。彼女という可能性も考えていたが、雲雀が好むタイプには見えなかった。

 

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