【改稿版】お兄ちゃんができました   作:ちびっこ

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応接室に到着です。

 草壁は疑問に思いながらも、ヒナに転入手続きの書類を見せてもらったことを説明し応接室に案内することにした。先程まで一緒に居た委員には見回りを指示し、この場にはいない。危うく雲雀の行動を妨害するところだったので顔色が悪く、ヒナから遠ざけたのだ。

 

 応接室の扉の前につくと、ヒナは草壁に頭を下げた。

 

「ありがとうございました!」

「……大丈夫ですよ。雲雀にあなたが来ていると伝えますね」

 

 ヒナの行動に驚いたが、草壁は出来るだけ怖がらせないように話しかける。慣れない言葉遣いだが、草壁は自分の顔が怯えさせる可能性を理解している。雲雀の客を泣かせるわけにはいかない。

 

 ヒナが目を輝かせるので了承と判断し、ノックする。すぐに雲雀の声が聞こえたので、部屋に入った。

 

「失礼します! 雪宮ヒナさんが外でお待ちしています」

「外でずっと待っていたの?」

「いえ、応接室の場所がわからず困っていたところにお会いし案内しました」

「そう。入っていいって言って」

 

 何気ない会話にも見えるが、草壁は雲雀がヒナを気にかけていることに気付いた。普段の雲雀ならば、外でずっと待っていたとしても何も思わない。

 

「雪宮さん、どうぞ」

 

 草壁の言葉を聞き、ヒナはドアから覗くように顔をだす。そして雲雀の姿を見て安心し笑った。雲雀は一瞬だけ視線を向けたが、手元にある書類に視線が戻る。そんな雲雀の様子に草壁は出て行くべきだと判断する。しかし、雲雀の言葉で足を止める。

 

「それ、説明してね」

 

 この場に残っててもいいのだろうかと思いながらも、草壁は指示通りに動く。まずヒナにソファーにかけてもらい、教材を一つ一つ説明していく。ヒナは話を熱心に聞きながら、教科書にサインしていく。随分英語で名を書くことに慣れているようだ。

 

「ありがとう!」

 

 全て説明し終わると再びヒナは草壁に礼を言う。雲雀の命令で動き、感謝されるのは滅多にない経験だ。

 

 少し動揺していると雲雀がヒナに声をかけていた。

 

「今日の授業に必要な分だけ持って行けばいいよ」

「良かった。どうしようって思っていたの」

「それとクラスは1-Aだから。今日もう1人転校生が居るから一緒にした」

「もう1人転校生がいるんだ!」

「みたいだよ」

 

 会話している。雲雀を恐れることなくヒナは会話している。草壁は思わず目を見張ったが、すぐに気を取り直し2人の邪魔をしないように移動する。

 

「あ! そうだった! お弁当持ってきたよ!」

「そこに置いといて」

 

 ガッ。

 

 音に反応し、ヒナが振り向く。しかし何が起きたのかわからなかった。

 

 動揺し足をぶつけた草壁だったが、気合いでヒナには気付かれないようにしたのだ。もちろん雲雀には気付かれている。……学校を傷つけたので後で咬み殺されるかもしれない。

 

 草壁はこれは昨日の時点で予測していただろう!と反応してしまった自分を心の中で叱った。

 

「じゃぁ今から職員室行ってくるね」

「……場所わかるの?」

「うん。ここに来る時に副委員長さんがいろいろ教えてくれたの」

 

 ニコニコとヒナは話すが、草壁は余計なことをしたのかもしれないと冷や汗を流していた。しかしそれは杞憂だったようで、雲雀から圧力は感じなかった。

 

 それに安堵したのが、草壁の最大の失敗だったのかもしれない。次のヒナから放たれた言葉に思いっきり動揺してしまった。

 

「いろいろ準備ありがとう、お兄ちゃん」

 

 ガタタタタタッ!

 

 あまりの大きな音でヒナはビクっとする。ちょうどヒナの視界に入っていなかったのも大きい。

 

 恐る恐る振り返るとファイルが地面に散らばっており、草壁が拾ってる姿が目に入った。

 

「大変!」

 

 すぐにヒナは立ち上がり、草壁を手伝う。ヒナの行動に草壁は慌てるしかない。

 

「だ、大丈夫です!」

 

 委員長の妹にそんなことをさせるわけには……!

 

 草壁の心の叫びに気付いたのか、ヒナは草壁を見た。しゃがんでいても身長差でヒナが見上げる形になり、さらに物を拾っているので距離が近いのもあり、草壁は見るからに動揺していた。

 

「ヒナもよく失敗するんだ」

 

 少し恥ずかしそうに話すヒナは可愛い。そして今の言葉はミスをした草壁のために言ったのだろう。

 

 草壁はヒナの顔を見て、つい雲雀を見てしまった。……否、見比べてしまった。

 

「……っ!」

 

 雲雀の機嫌の悪さに顔が強張る。見比べたことが悪かったのか、書類を落としたのが悪かったのか、あるいは両方か。わかっているのはただ1つ、咬み殺される未来が見える。

 

「大丈夫だよ! ほら、もう拾い終わるの」

「……ありがとうございます」

 

 殺気に気付かないのか、ヒナは草壁を励ましていた。そのため草壁は礼を言うしかない。今すぐ雲雀が咬み殺さないのはヒナに見せないようにしているからだとわかっているから。

 

「うん! じゃ、いってきます」

 

 拾い終わり、ちょうど立ち上がったので、ヒナは職員室へ向かう。

 

 パタンっ。と閉まるドアの音。

 

 そして――

 

「覚悟はいいかい?」

 

 逃げられない未来に草壁は目を閉じた。

 




一週間ほど更新お休みします。
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