「春」、それはどんな季節だろうと、私は思う。
卒業式とか、入学式だとか、色々なイベントがあるけれど、結局は「別れ」と「出会い」の2つになる、と思う。
どちらがいいかと言われればもちろん「出会い」のほうがいいだろう。人間とは、一人では生きにくいものなのだから。
そんな哲学的な思いを巡らせながら、私、「黒瀬紅羽」は近くの河川敷で花見をしていた。
ここは毎年春になるとたくさんの人で賑わう超人気お花見スポットだ。以前の私であれば来るどころか近寄ることすらもなかっただろう。だが、今は違う。
「キレイだねー!」
「ニケ」が隣で無邪気に感嘆の声を上げる。
ニケと出会ったのが去年の9月だから、ニケにとっては初めての春ということになる。初めての春でこんなに綺麗な桜が見れたら感動だろう。
「今年は例年より綺麗に咲いてるらしいからな。」
強制休暇を言い渡されてもう半年以上になる。ホワイト企業なんてレベルではないだろう。だが、局員を一から育てる労力を鑑みれば、働きづめで倒れた局員への待遇はこれくらいやるべきなのかもしれない。
なぜ私がお花見に来ているのかと言うと、テレビドラマを見たニケが興味を持ったらしく、この付近で有名なスポットを調べあげ、私を説得しに来たからだ。別にそこまでしなくても「行きたい」と言ってくれたら連れて行ったのに、と言うと驚いた顔をされた。
それに関連して、ニケとお花見に行くことを同僚の「アレクセイ・ギルダー」に伝えた時に頭の病院を勧められた事にはさすがに驚いた。揃いも揃ってコイツらは私をなんだと思ってるんだか。私は別に仕事だけの人間じゃない。
…と、言いたいところだが、そうも言い切れないのが悲しいところ。実際、働き詰めで一度倒れている私が言ったところで説得力の「せ」の字も無い。クソが。
そこまで考えたところで私は桜に目を向ける。いけない、本来の目的を逸脱していた。こんなときは桜でも拝んで心を落ち着かせよう。
それにしたってお花見なんか子どもの頃に日本で数回やったことがあるくらいだったが、まさか異国の地で再びやることになるとは思いもしなかった。それよりも近未来都市である“エテルナ”で「お花見」という文化があり、桜の木もあることには驚いた。
こういう何気ない発見が日常を豊かにするという格言?を何処かで聞いた事がある。
人並みの生活を送れば、今まで少しも気にしてこなかった些細な事が分かるようになる。
そんなことを見つけていくのが、この強制休暇の楽しみ方なのかもしれない。