黒瀬紅羽の休暇日記   作:mikadzuki

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第3話:夏、それは薬。(1)

「あっつい…」

今年も夏がやってきた。忌々しい夏が。

私とニケは、「白凪島」に来ていた。なぜならエテルナよりも涼しいから。ただそれだけ。

エテルナよりは涼しいと言えど今は夏真っ盛り。いくら避暑地に来ているとしても限界がある。なら…

「うーみー!!」

何とかして涼むしかない。着たくもない水着を着て海に来てでも。

「ニケー!あんまり遠くに行かないようになー!」

「はーい!」

というわけで私とニケ、そして私の兄姉である蒼羽と桃羽の計4人は海に来ていた。黎はそもそもこの暑さの中外に出ることすら億劫なようで、家に残っている。その気持ちはよく分かる。

ここ「白凪島」は有名ではないものの、美しい海と砂浜を持つ島で、島の子どもたちは夏になると朝から集まって海で遊ぶ。それが白凪島の夏の風物詩だ。

私と蒼羽は慣れた手つきでパラソルやビニルシートを広げていく。

「これでよし…と。」

「紅羽は遊ばないのか?」

「いや、あんまり早くから遊ぶと疲れて動けなくなるからさ。」

「…なるほど。」

「そういう兄ちゃんは?」

「俺もそんなとこだ。」

実を言えば蒼羽は泳ぎがそこまで得意じゃない。昔から海でよく遊んでいた桃羽はちゃんと泳げるが、インドア派だった蒼羽は泳げないのだ。

「…そっか。」

「その憐れむような顔やめろ。」

バレたか。

「にしたって元気だね。姉ちゃんたちはさ。私にも少し分けてほしいよ。」

「近所のおばあちゃんみたいな台詞だな。」

「誰が年寄りみたいだって!?」

「言ってねえよ。」

はあ…こっちにいてもなかなか疲れるな。

 

ザアア、ザアア、という心地よい波の音を聞きながら私はビニルシートの上に寝転がっていた。パラソルを立てておいたおかげでかなり快適だ。

蒼羽は飲み物を買いに行くと言って数分前に付近のコンビニに行った。

海に来てから1時間以上経つが桃羽とニケはまだ遊び続けている。体力オバケか何かなんだろうか?

「戻ったぞ。」

「おかえり。」

蒼羽が帰ってきたのを確認して私は身体を起こし、飲み物を受け取る。

「桃羽たちはまだ遊んでるのか?」

「うん。ただ、私の予想だとそろそろ姉ちゃんがニケに運ばれてくると思うよ。」

「へえ、やけに自信あるんだな。でも、あの桃羽だぞ?」

桃羽は白凪島でも随一の運動神経の持ち主で、タクティカルな動きを得意とする私とはまた違うスポーツ的な運動が得意だ。

「その自信ありげな顔…何か根拠があるのか?」

「まあね、なんなら賭けても良いよ?」

「…いや、やめておく。こういう時の紅羽の予想は昔からよく当たるからな。」

そんな会話をしていると、

「クレハー!お姉ちゃんが足つったってー!」

海の方からニケの声が聞こえる。どうやら桃羽を背負っているようだ。

「ね?やっぱり運ばれてきた。」

「…まったく大したもんだ。それで、根拠は?」

海に入る前にニケに誘われて準備運動をせずに入っていったせいだろう。

「海に入る前に準備運動をしてなかったんだよ。で、疲れが出てくるだろうから、そろそろかなーって予想してただけ。」

「さすが、というべきか。よく見てたな、というべきか。」

「ニケ、姉ちゃんはそこのビニルシートに置いといて。」

「はーい。よっ…と」

まったくこの人は困った姉だ。

「痛い…」

「準備運動せずに海入ってずっと遊ぶから…」

私は桃羽がつった場所をマッサージでほぐす。さすがに兄妹といえど蒼羽にやらせるわけにはいかない。

その蒼羽は隣で憐れみと呆れが混ざったような表情を桃羽に向けている。

「うぅ…ありがとう紅羽ぁ、ニケちゃん…」

桃羽が体を起こし私とニケに抱きつこうとする。

私は身体を逸らして避けるが、ニケにだけ抱きついたせいでバランスを崩して「へぶっ」という情けない声を出して倒れる。

「分かったから抱きつこうとするのやめろ。」

「えぇ〜いいじゃん。減るもんじゃないし。」

「精神がすり減る。」

「相変わらず毒舌だなぁ。そういうところが可愛いんだけど!」

…なんか最近以前にも増してシスコンっぷりに磨きがかかっている気がする。気のせいであってくれ。

 

「それにしても暑いね。」

持ってきたスイカを抱えながら桃羽が言う。

「そりゃあ夏だからな。」

スイカ割り用のバットを用意しながら蒼羽が応える。

「でも半世紀前はもっと暑かったらしいよ?親父が言ってた。」

詳しい原理は知らないが、プロテリウムによってもたらされた技術でオゾン層を回復させることに成功したらしく、夏の暑さはかなりマシになっている。

「うげぇ…考えたくも無いね。」

ニケがイヤそうな表情で言う。

「そうだな、よく生き延びたもんだ。」

それは少し言い過ぎでは?

「よし。そろそろスイカ割りするか!」

「じゃあ、誰が最初にやる?ストックはたっぷりあるわけだけど。」

「やる!」

真っ先に手を挙げたのはニケだった。まあ最初にやりたいと言い出したのもニケだったから、当然といえば当然だ。

「そうこなくちゃ!えーっとじゃあ…あった。目隠しつけといてね。」

桃羽がニケにスイカ割り用の目隠しを渡す。スイカ割りなんてしたのはいつぶりだろうか?

桃羽がスイカを置き、ニケに声をかける。

「いいよー!」

「はーい!」

ニケが一歩ずつ、慎重に歩を進める。

砂浜という不安定な足場なうえ、目隠しをした状態であれほど器用に歩けるというのは珍しいことだ。よほどバランサーが優秀なのか、本人の短い人生の中で得た経験か。

「…ここだ!」

ニケは思い切りバットを振りあげると、そのまままっすぐ振り下ろす。

べシャア、という音とともにスイカが“破裂”し、なかの果肉が遠巻きに見物していた私の顔まで飛び散ってくる。

「…は?」

蒼羽が呆けた声を出す。そりゃあスイカが破裂するとは誰も予想できなかっただろう。

「スイカって…破裂するんだ…」

私は顔に飛び散った果肉を取りつつ、素直な感想を述べる。

桃羽は未だに状況を飲み込めていないらしく、口がパクパクしている。

「…あれ?スイカはどこに…え?」

目隠しを外したニケが無邪気に聞こうとした瞬間に私たちの顔についている物体を認識したらしく、きっちり10秒まじまじと私たちの顔を見ていた。

『ええええええ!?』

ようやく状況を理解できた桃羽とニケの叫び声が重なり、澄みわたる青い空に響いていた。

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