冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第11話

『開戦』

 

冬木市、深夜二時。

 

雪は止んでいた。

 

空は曇天。

 

月明かりすら無い。

 

街は静まり返り、人々は眠りの中にいる。

 

だが。

 

魔術師達だけは違った。

 

空気が変わったのだ。

 

街そのものが、僅かに軋んでいる。

 

霊脈。

 

魔力。

 

大聖杯。

 

それら全てが、“最後の鍵”が揃ったことで動き始めていた。

 

最後の一騎。

 

バーサーカー。

 

その召喚が、ついに完了した。

 

第四次聖杯戦争。

 

正式開戦。

 

 

■間桐邸

 

『狂戦士』

 

地下室。

 

赤黒い魔力が、まだ空気へ残っていた。

 

間桐雁夜は床へ膝をついている。

 

荒い呼吸。

 

全身を食い荒らす刻印虫。

 

血走った目。

 

だが。

 

その視線の先には、一騎の英霊が立っていた。

 

黒い鎧。

 

漆黒の魔力。

 

人型でありながら、人ではない。

 

狂気そのもの。

 

バーサーカー。

 

その姿を見上げながら、雁夜は震える声で呟く。

 

「……これで」

 

桜を救える。

 

遠坂時臣を殺せる。

 

その執念だけが、彼を支えていた。

 

「ほっほっほ……」

 

間桐臓硯が嗤う。

 

「良い、実に良い」

 

地下室に満ちる狂気。

 

バーサーカーは何も喋らない。

 

ただ。

 

そこに居るだけで空気が歪む。

 

理性が砕ける。

 

英霊でありながら、既に壊れている存在。

 

臓硯は細い目を歪めた。

 

「さて」

 

聖杯戦争。

 

ようやく役者が揃った。

 

「始まるのう」

 

 

■冬木教会

 

『監督者』

 

言峰綺礼は静かに立ち上がった。

 

地下室。

 

無数のハサン達が跪いている。

 

百貌。

 

影。

 

暗殺者。

 

その全てが、一斉に顔を上げた。

 

「バーサーカー召喚を確認」

 

綺礼は目を閉じる。

 

感じる。

 

冬木の霊脈が動いている。

 

聖杯が“戦争”を認識した。

 

「……始まったか」

 

低い声。

 

感慨は無い。

 

だが。

 

胸の奥が、僅かに熱を持っていた。

 

それが何なのか、綺礼自身にも分からない。

 

「継続監視を」

 

「――了解」

 

ハサン達が消える。

 

影へ。

 

街へ。

 

戦場へ。

 

綺礼は静かに教会の窓を見る。

 

遠く。

 

夜の冬木。

 

そのどこかに、黒い軍服の男が居る。

 

「キング・ブラッドレイ……」

 

あの男は何を斬るのか。

 

何を守るのか。

 

何故、壊れないのか。

 

綺礼は未だ理解できない。

 

だからこそ。

 

興味が尽きなかった。

 

 

■遠坂邸

 

『王の愉悦』

 

「ほう」

 

黄金の瞳が細まる。

 

アーチャー――ギルガメッシュは、夜景を眺めながら笑った。

 

「ようやく始まるか」

 

時臣は静かに頷く。

 

「ええ、我が王」

 

「長かったな」

 

王は退屈そうに杯を揺らす。

 

だが。

 

その表情には明確な愉悦があった。

 

「綺礼」

 

「はい」

 

「黒い剣士はどうしている」

 

綺礼は淡々と答える。

 

「現在、アインツベルン城にて待機」

 

「そうか」

 

ギルガメッシュは笑う。

 

「楽しみだ」

 

時臣の胃が痛くなる。

 

本当にやめてほしい。

 

だが王は止まらない。

 

「人でありながら怪物を斬るか」

 

黄金の王は夜空を見る。

 

「その生き様、少しばかり興味がある」

 

綺礼は静かに目を伏せた。

 

彼もまた。

 

興味を持っている。

 

危険なほどに。

 

 

■ホテル・ハイアット

 

『魔術師達』

 

ケイネスは窓際に立っていた。

 

結界。

 

魔力探知。

 

監視網。

 

全てを展開済み。

 

「バーサーカー召喚確認」

 

ソラウが呟く。

 

ケイネスは鼻を鳴らす。

 

「狂戦士か。厄介だな」

 

だが。

 

本当に警戒しているのは別だった。

 

「ランサー」

 

「は」

 

ディルムッドが跪く。

 

「セイバーと遭遇した場合、単独戦闘は避けろ」

 

「……」

 

「奴は異常だ」

 

ケイネスは苛立たしげに言う。

 

「白兵戦において完成しすぎている」

 

ディルムッドは静かに目を閉じた。

 

武人として理解する。

 

強い。

 

恐らく。

 

自分がこれまで戦った誰よりも。

 

「だが」

 

ディルムッドは小さく笑う。

 

「楽しみでもあります」

 

ケイネスは頭を抱えた。

 

だから騎士は面倒なのだ。

 

 

■ライダー陣営

 

『征服王』

 

安宿。

 

イスカンダルは豪快に笑っていた。

 

「ガッハッハッハ!!」

 

ウェイバーは耳を塞ぐ。

 

「うるさい!」

 

「良いではないか坊主!」

 

ライダーは楽しそうだった。

 

「戦が始まるぞ!」

 

「僕は胃が痛いよ!」

 

征服王は立ち上がる。

 

巨体。

 

圧倒的存在感。

 

そして。

 

王は笑う。

 

「黒剣のセイバー、か」

 

その目が細まる。

 

「会いたいものだな」

 

ウェイバーが絶望顔になる。

 

「絶対ロクなことにならない……」

 

「良いではないか!」

 

イスカンダルは豪快だった。

 

「英雄とは、語り合ってこそよ!」

 

「相手、埋葬機関の怪物だよ!?」

 

「だから良い!」

 

ウェイバーは泣きそうだった。

 

 

■アインツベルン城

 

『黒剣』

 

夜。

 

静寂。

 

暖炉の火だけが揺れている。

 

切嗣は窓際に立っていた。

 

煙草。

 

白い煙。

 

その背後。

 

ブラッドレイは静かに座っている。

 

「……来たな」

 

切嗣が呟く。

 

セイバーは目を閉じたまま答えた。

 

「ああ」

 

感じる。

 

街全体の魔力。

 

戦争の気配。

 

殺意。

 

英霊達。

 

全てが、目覚め始めている。

 

「バーサーカー」

 

ブラッドレイが低く呟く。

 

「随分と歪な気配だ」

 

「分かるのか」

 

「狂っている」

 

その一言だった。

 

だが。

 

それだけで十分だった。

 

セイバーは静かに立ち上がる。

 

黒い軍服が揺れる。

 

その姿は。

 

まるで戦場へ赴く死神だった。

 

イリヤが不安そうに見上げる。

 

「……おじさん」

 

ブラッドレイは視線を落とす。

 

少女を見る。

 

赤い瞳。

 

震える小さな肩。

 

彼は、ほんの少しだけ表情を和らげた。

 

「安心しろ」

 

低く。

 

穏やかに。

 

「すぐには終わらん」

 

イリヤは少しだけ笑った。

 

切嗣はその背中を見る。

 

黒い軍服。

 

二振りの軍刀。

 

人類側の怪物。

 

だが。

 

今、この瞬間だけは。

 

頼もしかった。

 

セイバーは窓の外を見る。

 

冬木市。

 

静かな街。

 

これから多くの血が流れる。

 

多くの人間が死ぬ。

 

英雄達が殺し合う。

 

その戦場へ。

 

黒剣の英霊は静かに笑った。

 

「さて――」

 

その眼が開く。

 

最強の眼。

 

獣のような黄金の視線。

 

「始めようか」

 

第四次聖杯戦争。

 

ここに開幕。

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