冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第12話

『戦争前夜の足音』

 

冬木市。

 

未明。

 

空はまだ暗い。

 

だが、街は既に眠っていなかった。

 

一般人には分からない。

 

だが魔術師達には感じ取れる。

 

空気が違う。

 

霊脈が軋み。

 

街そのものが、“殺し合い”を受け入れ始めている。

 

第四次聖杯戦争。

 

それは派手な開幕など無い。

 

宣言も無い。

 

号砲も無い。

 

ただ静かに。

 

水面下で始まる。

 

そして気付けば、誰かが死んでいる。

 

それが聖杯戦争だった。

 

 

■アインツベルン陣営

 

『狩人達』

 

アインツベルン城、地下。

 

切嗣はモニターを見つめていた。

 

舞弥が各所の監視映像を確認している。

 

「遠坂邸、動きあり」

 

「内容は」

 

「使い魔の展開。監視範囲拡大」

 

「ケイネスは」

 

「ホテル周辺の結界強化を継続」

 

切嗣は煙草へ火をつける。

 

「順当だな」

 

その背後。

 

ブラッドレイは静かに地図を見ていた。

 

「キャスター陣営はまだ不明か」

 

「痕跡が少なすぎる」

 

舞弥が言う。

 

「アサシンも同様です」

 

ブラッドレイは小さく笑った。

 

「見えない敵ほど厄介だ」

 

切嗣は頷く。

 

「だから先に潰す」

 

それが衛宮切嗣。

 

理想ではなく、結果で動く男。

 

ブラッドレイはそんな友人を見ながら呟く。

 

「相変わらずだな」

 

「悪いか」

 

「いや」

 

セイバーは静かに笑う。

 

「嫌いではない」

 

その時。

 

イリヤが眠そうに部屋へ入ってきた。

 

「……みんな起きてる」

 

切嗣の空気が少しだけ柔らかくなる。

 

「まだ寝てろ」

 

「やだ」

 

イリヤはブラッドレイの隣へ座る。

 

「おじさん、戦争始まるの?」

 

ブラッドレイは数秒考えた。

 

そして。

 

「もう始まっている」

 

静かな声。

 

イリヤは少しだけ俯く。

 

怖いのだ。

 

だが。

 

ブラッドレイは頭へ手を置いた。

 

大きな手。

 

戦場を生き抜いた男の手。

 

「大丈夫だ」

 

低く穏やかな声。

 

「少なくとも、お前が泣くような終わり方はさせん」

 

切嗣は黙った。

 

その言葉が。

 

妙に重かった。

 

 

■遠坂陣営

 

『魔術師と英雄王』

 

遠坂邸。

 

時臣は工房で魔術回路を調整していた。

 

赤い宝石が淡く光る。

 

高度な結界。

 

監視網。

 

迎撃術式。

 

遠坂家の全てが戦争用へ切り替わっている。

 

「綺礼」

 

「はい」

 

「アインツベルンの監視は継続しろ」

 

「承知しました」

 

綺礼は静かに頷く。

 

その時。

 

背後から笑い声。

 

「退屈だな」

 

黄金の光。

 

ギルガメッシュ。

 

英雄王はソファへ座りながら不満そうにワインを飲んでいた。

 

「雑種共、いつまで隠れている」

 

時臣は慎重に答える。

 

「今は情報戦の段階です、我が王」

 

「下らん」

 

王は鼻で笑う。

 

だが。

 

その目には明確な期待があった。

 

「黒い剣士はどうした」

 

綺礼が答える。

 

「現在、城内待機中」

 

「そうか」

 

ギルガメッシュは笑った。

 

「ならば、そのうち余自ら会いに行くとしよう」

 

時臣の胃がまた痛くなった。

 

絶対駄目だ。

 

だが止められない。

 

綺礼は静かに王を見る。

 

「興味があるのですか」

 

「あるとも」

 

黄金の瞳が細まる。

 

「人間風情が怪物を斬る」

 

「滑稽だ」

 

「だが美しい」

 

綺礼は目を伏せた。

 

理解できない。

 

だが。

 

その感覚は少しだけ分かる気もした。

 

 

■ケイネス陣営

 

『ロードの焦燥』

 

ホテル上層階。

 

ケイネスは苛立っていた。

 

理由は単純。

 

情報が少ない。

 

「アサシンが厄介すぎる……」

 

ソラウが呆れたように笑う。

 

「珍しいわね、あなたがここまで慎重なの」

 

「当然だ」

 

ケイネスは鋭く言う。

 

「監視されている可能性が高い」

 

魔術師同士の戦争。

 

正面衝突だけではない。

 

情報こそ命。

 

そして今回。

 

言峰綺礼という存在が不気味すぎた。

 

「ランサー」

 

「は」

 

「単独行動は控えろ」

 

「……」

 

「特にセイバー」

 

ディルムッドは静かに頷く。

 

だが。

 

その瞳には熱がある。

 

ケイネスはそれを見て頭痛を覚えた。

 

「分かっているのか」

 

「ええ」

 

ディルムッドは小さく笑う。

 

「強敵なのでしょう」

 

「戦いたいとか思うな」

 

沈黙。

 

ケイネスが頭を抱えた。

 

「思っているな!?」

 

「武人ですので」

 

「最悪だ……」

 

 

■ライダー陣営

 

『征服王の夜』

 

安宿。

 

イスカンダルは地図を広げていた。

 

ウェイバーが驚く。

 

「珍しい……真面目だ」

 

「余を何だと思っておる」

 

「脳筋」

 

「ガッハッハ!」

 

征服王は豪快に笑った。

 

だが。

 

その目は鋭い。

 

「坊主」

 

「な、何」

 

「今回の戦、面白いぞ」

 

ウェイバーは嫌な予感しかしない。

 

「何がだよ」

 

「皆、“王”ではない」

 

イスカンダルは指で地図を叩く。

 

「理想に狂った男」

 

「空っぽの神父」

 

「怪物殺しの剣」

 

「そして魔術師殺し」

 

征服王は笑う。

 

「誰も彼も歪んでおる」

 

ウェイバーは少し黙った。

 

確かに。

 

今回の聖杯戦争は異様だ。

 

特に。

 

衛宮切嗣とキング・ブラッドレイ。

 

この二人が危険すぎる。

 

「……ライダー」

 

「うむ?」

 

「勝てるの?」

 

イスカンダルは即答した。

 

「分からん!」

 

「不安しかない!」

 

だが。

 

王は楽しそうだった。

 

「だから良いのだ!」

 

 

■キャスター陣営

 

『悪夢の準備』

 

廃工場。

 

血。

 

肉。

 

狂気。

 

龍之介は笑っていた。

 

「始まるねぇ!」

 

ジル・ド・レェは恍惚としている。

 

「ええ……ええ……!」

 

既に犠牲者は出始めている。

 

裏路地。

 

浮浪者。

 

行方不明者。

 

誰にも気付かれない死。

 

だが。

 

龍之介はふと真顔になる。

 

「でもさ」

 

「?」

 

「黒いセイバーには会いたくないなぁ」

 

ジルは静かに頷いた。

 

「賢明です」

 

「あれ絶対、“こっち側”殺すの慣れてるよね」

 

「ええ」

 

処刑人。

 

怪物狩り。

 

人類の剣。

 

だからこそ。

 

最も相性が悪い。

 

 

■冬木教会

 

『観測者』

 

言峰綺礼は一人、教会の窓から街を見ていた。

 

静かな夜。

 

だが。

 

その裏では無数の思惑が動いている。

 

アサシン達からの報告。

 

各陣営。

 

配置。

 

心理。

 

全てが少しずつ見えてくる。

 

だが。

 

綺礼の意識は別へ向いていた。

 

黒い軍服。

 

鋭い眼。

 

人間であろうとする怪物。

 

「……キング・ブラッドレイ」

 

綺礼は静かに呟く。

 

理解できない。

 

だが。

 

理解したい。

 

何故なら。

 

あの男には“芯”がある。

 

自分には無いものだ。

 

言峰綺礼は目を閉じる。

 

胸の奥が僅かに疼く。

 

それが何なのか。

 

まだ彼自身も知らなかった。

 

 

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