冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第13話

『最初の脱落者』

 

冬木市。

 

聖杯戦争開始から数日。

 

依然として表向きには平穏だった。

 

だが、水面下では既に情報戦が始まっている。

 

誰が強いのか。

 

誰が危険なのか。

 

誰が最初に死ぬのか。

 

魔術師達は互いを探り合い、牽制し、監視し続けていた。

 

そして。

 

その均衡を最初に崩したのは――。

 

遠坂時臣と、言峰綺礼だった。

 

 

■遠坂邸

 

『策略』

 

深夜。

 

工房。

 

蝋燭の火だけが静かに揺れている。

 

遠坂時臣はワインを傾けながら、静かに口を開いた。

 

「綺礼」

 

「はい」

 

「準備は整ったか」

 

綺礼は頷く。

 

「アサシン各個体、配置完了」

 

時臣は目を閉じる。

 

そして、深く息を吐いた。

 

「始めよう」

 

それは策だった。

 

極めて単純。

 

そして極めて効果的な。

 

“アサシン脱落の偽装”。

 

監督役である言峰璃正。

 

そして言峰綺礼。

 

彼らがアサシンを使役していることは、いずれ露見する。

 

ならば。

 

先に“死んだことにする”。

 

そのために。

 

アーチャーによる公開処刑を演出する。

 

綺礼は淡々と確認する。

 

「本当に宜しいのですか」

 

「必要だ」

 

時臣は即答した。

 

「アサシンという駒は、情報戦において強力すぎる」

 

「……」

 

「だからこそ、“消えた”と思わせる価値がある」

 

綺礼は沈黙する。

 

合理的。

 

極めて魔術師らしい判断。

 

その時。

 

黄金の光が部屋へ満ちた。

 

「フン」

 

英雄王ギルガメッシュ。

 

王は退屈そうに笑う。

 

「茶番だな」

 

時臣は静かに頭を下げる。

 

「申し訳ありません、我が王」

 

「だが」

 

ギルガメッシュは笑う。

 

「見世物としては悪くない」

 

黄金の瞳が細まる。

 

「せいぜい雑種共を踊らせよ」

 

 

■埠頭地区

 

『演出された死』

 

冬木港。

 

深夜。

 

海風。

 

倉庫街。

 

誰も居ないはずの場所。

 

だが今夜だけは違った。

 

各陣営の使い魔。

 

監視の目。

 

気配。

 

皆、“それ”を見ていた。

 

屋上。

 

アサシンが立っている。

 

黒装束。

 

静かな殺気。

 

そして。

 

その前へ現れる黄金の輝き。

 

アーチャー。

 

英雄王ギルガメッシュ。

 

「雑種風情が」

 

王は嗤う。

 

「余を覗き見るとは、不敬にも程がある」

 

アサシンは無言。

 

当然だ。

 

これは演技。

 

だが。

 

その殺気だけは本物だった。

 

なぜなら。

 

ギルガメッシュは本気で不快だからだ。

 

「死ね」

 

次の瞬間。

 

空間が開く。

 

王の財宝――ゲート・オブ・バビロン。

 

無数の宝具。

 

黄金の雨。

 

アサシンが跳ぶ。

 

だが避けられない。

 

爆音。

 

閃光。

 

倉庫街が揺れる。

 

使い魔越しに見ていた各陣営が息を呑む。

 

速い。

 

強い。

 

圧倒的。

 

アサシンは抵抗する。

 

だが。

 

それすら演出の一部だった。

 

「終わりだ雑種」

 

ギルガメッシュが退屈そうに腕を振るう。

 

次の瞬間。

 

宝具の奔流がアサシンを呑み込んだ。

 

轟音。

 

爆発。

 

そして。

 

黒い影は完全に消滅する。

 

沈黙。

 

冬木港へ、静寂が戻った。

 

アーチャーは鼻で笑う。

 

「下らん」

 

そして黄金の光と共に消える。

 

それを。

 

無数の視線が見ていた。

 

 

■各陣営の反応

 

■ケイネス陣営

 

ホテル上層。

 

ケイネスは映像を見ながら顔を歪めた。

 

「……馬鹿な」

 

ソラウが呟く。

 

「アサシン、死んだの?」

 

「恐らくな」

 

ケイネスの顔色は悪い。

 

問題はそこではない。

 

「アーチャーが異常だ……」

 

あの火力。

 

あの宝具数。

 

完全な規格外。

 

ディルムッドは静かに目を閉じる。

 

「強い」

 

武人として理解する。

 

真正面から戦ってはならない相手。

 

そして。

 

ケイネスはさらに嫌な予感を覚えていた。

 

「アサシンが消えた……?」

 

監視役が居なくなる。

 

つまり。

 

これからは正面衝突が始まる。

 

戦争が次段階へ移行したのだ。

 

 

■ライダー陣営

 

「うおおおお!!」

 

イスカンダルは大爆笑していた。

 

「派手よなぁ!!」

 

ウェイバーは青ざめている。

 

「笑い事じゃない!!」

 

「良いではないか!」

 

征服王は豪快だった。

 

「王とはああでなくては!」

 

「いやいやいや!!」

 

ウェイバーは頭を抱える。

 

「アサシン死んだんだよ!?」

 

「うむ!」

 

「なんで楽しそうなの!?」

 

イスカンダルは笑う。

 

だが、その目は鋭かった。

 

「だが妙だな」

 

「え?」

 

「アサシンにしては随分簡単に死んだ」

 

ウェイバーが顔を上げる。

 

「……どういう意味?」

 

「分からん」

 

征服王は腕を組む。

 

「だが、違和感がある」

 

王の勘。

 

戦場を生き抜いた者の直感。

 

それが告げていた。

 

“まだ何かある”と。

 

 

■アインツベルン陣営

 

アインツベルン城。

 

切嗣は映像を見終え、静かに煙草を消した。

 

「……」

 

舞弥が問う。

 

「どう見ますか」

 

切嗣は即答しなかった。

 

その代わり。

 

ブラッドレイが口を開く。

 

「嘘だな」

 

即答だった。

 

舞弥が目を細める。

 

「理由は」

 

「殺気が薄い」

 

ブラッドレイは静かに言う。

 

「あれは本気の暗殺者ではない」

 

切嗣も頷いた。

 

「同感だ」

 

映像を止める。

 

アサシン。

 

その動き。

 

間。

 

逃げ方。

 

全てが妙だった。

 

「わざと死んでいる」

 

切嗣は低く呟く。

 

イリヤが不安そうに聞く。

 

「なんでそんなことするの?」

 

ブラッドレイが答える。

 

「見えない敵ほど怖いからだ」

 

「?」

 

「“居ない”と思わせた方が、都合が良い」

 

イリヤは理解できていない。

 

だが。

 

切嗣とブラッドレイだけは理解していた。

 

言峰綺礼。

 

あの男は。

 

想像以上に危険だ。

 

 

■冬木教会

 

『消えた影』

 

地下。

 

綺礼は静かに目を閉じていた。

 

その周囲には、まだ気配がある。

 

アサシン達。

 

消えていない。

 

生きている。

 

だが表向きには脱落。

 

つまり。

 

今後、誰もアサシンを警戒しなくなる。

 

綺礼は静かに呟く。

 

「戦争は次段階へ移行した」

 

その時。

 

背後から声。

 

「フン」

 

ギルガメッシュ。

 

黄金の王は退屈そうに笑った。

 

「雑種共、まんまと騙されおったな」

 

綺礼は目を伏せる。

 

「ですが」

 

「うむ?」

 

「一人だけ、恐らく気付いています」

 

ギルガメッシュが笑う。

 

「黒い剣士か」

 

「ええ」

 

綺礼は静かに頷いた。

 

「あの男だけは、恐らく」

 

王は愉快そうに嗤う。

 

「面白い」

 

そして。

 

黄金の瞳が細くなる。

 

「実に面白いぞ、キング・ブラッドレイ」

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