冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第14話

『魔術師殺しの答え』

 

アインツベルン城。

 

深夜。

 

暖炉の火だけが静かに揺れている。

 

部屋の中には重い沈黙があった。

 

アサシン脱落。

 

その情報は既に各陣営へ広がっている。

 

誰もが一つの結論へ辿り着こうとしていた。

 

“戦争が次の段階へ入った”。

 

だが。

 

衛宮切嗣だけは違った。

 

彼は最初から疑っている。

 

アサシンは死んでいない。

 

これは偽装だ。

 

つまり。

 

敵は未だこちらを監視している。

 

「さて――」

 

ブラッドレイがソファへ深く腰掛けながら呟く。

 

「切嗣、どうするかね?」

 

低い声。

 

だが。

 

その問いには重みがあった。

 

部屋の空気が静かに張り詰める。

 

切嗣は煙草へ火をつける。

 

紫煙。

 

僅かな沈黙。

 

そして。

 

「……静観だ」

 

舞弥が目を細める。

 

「動かないのですか」

 

「ああ」

 

切嗣は淡々としていた。

 

「今動くのは悪手だ」

 

ブラッドレイは小さく笑う。

 

「理由は」

 

「相手が“動かしたがっている”からだ」

 

その一言だった。

 

魔術師殺し。

 

衛宮切嗣。

 

彼は罠を読む。

 

戦場の流れを読む。

 

今回のアサシン脱落。

 

あれは明らかに不自然だ。

 

ならば。

 

狙いは何か。

 

「各陣営へ、“アーチャーが危険だ”と印象付ける」

 

切嗣が地図へ視線を落とす。

 

「同時に、“監視役が消えた”と思わせる」

 

舞弥が静かに頷く。

 

「つまり」

 

「自由に動かせる」

 

切嗣の声は冷静だった。

 

「情報戦で最も強い駒を、“死んだこと”にした」

 

「……厄介ですね」

 

「ああ」

 

ブラッドレイは楽しそうに笑った。

 

「良いな」

 

「何がだ」

 

「聖杯戦争らしい」

 

切嗣は呆れたように煙を吐く。

 

「お前、本当に戦場好きだな」

 

「嫌いではない」

 

ブラッドレイは静かに目を細める。

 

「特に、頭の回る敵はな」

 

 

沈黙。

 

暖炉が爆ぜる。

 

その時。

 

イリヤが小さく口を開いた。

 

「ねえ」

 

切嗣とブラッドレイが視線を向ける。

 

「そのアサシンって人、生きてるの?」

 

切嗣は少しだけ黙った。

 

そして。

 

「恐らくな」

 

「なんで嘘つくの?」

 

子供らしい疑問。

 

だが。

 

それは本質だった。

 

ブラッドレイが答える。

 

「戦争だからだ」

 

イリヤは首を傾げる。

 

ブラッドレイは続けた。

 

「戦争では、“知らない”ことが死に繋がる」

 

「……」

 

「敵が居ると分かっていれば警戒する。だが、“居ない”と思えば油断する」

 

静かな声。

 

経験から来る言葉。

 

「つまり、“死んだフリ”は強い」

 

イリヤは少し考え。

 

「ずるい」

 

と呟いた。

 

切嗣が苦笑する。

 

「戦争はずるい奴が生き残る」

 

「嫌だね」

 

「同感だ」

 

ブラッドレイが即答した。

 

その返答に、イリヤが少し笑う。

 

 

舞弥が新しい資料を机へ置く。

 

「港湾部周辺で魔力反応増加」

 

「キャスターか」

 

切嗣が呟く。

 

「可能性は高いです」

 

ブラッドレイの眼が細くなる。

 

「血の臭いがするな」

 

「分かるのか」

 

「嫌な気配には慣れている」

 

セイバーは静かに立ち上がった。

 

軍服が揺れる。

 

その姿だけで空気が変わる。

 

戦場の人間。

 

それも。

 

最前線を生き続けた怪物。

 

「キャスターは放置するな」

 

ブラッドレイが低く言う。

 

「いずれ民間人を巻き込む」

 

切嗣は煙草を灰皿へ押し潰した。

 

「同感だ」

 

衛宮切嗣は合理主義者だ。

 

だが。

 

同時に。

 

“子供が死ぬ光景”を何より嫌っている。

 

だから。

 

キャスター陣営だけは危険だった。

 

龍之介。

 

そして青髭。

 

あの手の狂人は必ず一般人を巻き込む。

 

「先に潰すか?」

 

ブラッドレイが問う。

 

切嗣は少し考える。

 

その沈黙は長かった。

 

もし動けば。

 

他陣営も動く。

 

戦争は一気に加速する。

 

だが。

 

放置すれば被害が出る。

 

「……まだだ」

 

切嗣が低く言う。

 

「証拠が足りない」

 

ブラッドレイは笑った。

 

「昔より慎重だな」

 

「歳を取った」

 

「違うな」

 

セイバーは静かに言う。

 

「背負うものが増えた」

 

切嗣は何も答えなかった。

 

ただ。

 

イリヤを見た。

 

その視線だけで十分だった。

 

 

その頃。

 

冬木教会。

 

綺礼は静かに報告を受けていた。

 

「――アインツベルン陣営、動き無し」

 

「……」

 

「――セイバー、アサシン生存を推測」

 

綺礼は小さく目を細めた。

 

やはり。

 

気付いている。

 

「――衛宮切嗣も同様」

 

「そうか」

 

綺礼は静かに笑った。

 

「流石だ」

 

その時。

 

黄金の光。

 

ギルガメッシュが現れる。

 

「見抜かれたか」

 

「ええ」

 

「ならば尚更面白い」

 

王は愉快そうだった。

 

「黒い剣士、実に良い」

 

綺礼は黙る。

 

そして。

 

静かに思う。

 

あの男は。

 

どこまで人間でいられるのか。

 

怪物を斬り続け。

 

血を浴び続け。

 

それでもなお。

 

“人間”を名乗れるのか。

 

綺礼には分からない。

 

だからこそ。

 

見届けたかった。

 

この戦争の果てを。

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