冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第15話

遠坂・言峰陣営

 

遠坂邸。

 

地下工房。

 

遠坂時臣はワインを傾けながら静かに目を閉じていた。

 

「まずは成功、か」

 

その声に感情は少ない。

 

だが内心では確かな手応えを感じていた。

 

アサシンの“死”は完璧だった。

 

多くの陣営が信じる。

警戒が薄れる。

情報網が生きる。

 

理想的な滑り出し。

 

だが。

 

「綺礼」

 

「はい、師よ」

 

暗闇から言峰綺礼が現れる。

 

黒衣の神父。

その顔に感情は薄い。

 

時臣は彼を見る。

 

「衛宮切嗣は恐らく気付いている」

 

「でしょうね」

 

綺礼は否定しなかった。

 

むしろ当然だと思っている。

 

「あの男は“信じない”」

 

情報をそのまま受け取らない。

必ず裏を読む。

 

だからこそ危険。

 

綺礼は静かに微笑した。

 

「ですが、それでいい」

 

「……何?」

 

「彼は慎重になる」

 

それこそが狙い。

 

アサシンの恐怖は、敵の行動を鈍らせる。

 

動けば見られる。

話せば聞かれる。

隠れても監視される。

 

疑念そのものが武器になる。

 

綺礼は窓の外を見る。

 

夜の冬木。

 

その各地に、既にアサシン達が潜んでいた。

 

高層ビル。

路地裏。

下水道。

橋梁。

教会の鐘楼。

 

数十の視線が戦争を見ている。

 

そして綺礼の脳裏には、一人のサーヴァントが浮かんでいた。

 

セイバー。

 

キング・ブラッドレイ。

 

「人でありながら、人を超えた剣」

 

綺礼は理解できなかった。

 

なぜあれほど冷徹で。

合理的で。

怪物のような男が。

 

なお人間として在ろうとするのか。

 

それが気になる。

 

知りたい。

 

壊したい。

 

「……興味深い」

 

綺礼は静かに呟いた。

 

そして地下の闇で、アサシン達が無数の目を開く。

 

戦争は、まだ始まったばかりだった。

 

――――――――――

 

ケイネス陣営

 

ハイアットホテル最上階。

 

ロード・エルメロイⅡ世の前身――ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは苛立っていた。

 

「馬鹿げている」

 

葉巻の煙が荒々しく吐き出される。

 

「サーヴァントを衆目の前で失うなど三流の失態だ」

 

だが本心では違う。

 

彼は理解していた。

 

この戦争は妙だ。

 

静か過ぎる。

 

誰も本気を見せない。

 

その中で唯一、港で暴れたのがアーチャー。

 

そして言峰。

 

「……胡散臭い」

 

ソラウも険しい顔をしていた。

 

ランサーは沈黙したまま主を見ている。

 

「君はどう思う、ディルムッド」

 

「罠でしょう」

 

即答だった。

 

「私も、あれほど簡単に終わるとは思えません」

 

ケイネスは鼻を鳴らす。

 

「当然だ」

 

だが厄介なのは、疑心暗鬼そのもの。

 

真実が分からない以上、全陣営が慎重になる。

 

つまり大規模衝突が起きにくい。

 

それはケイネスにとって不快だった。

 

彼は“正統な勝利”を望む魔術師だからだ。

 

「……ならば先に主導権を取る」

 

ケイネスは決断する。

 

工房強化。

結界拡張。

索敵範囲増大。

 

そして。

 

「セイバーを探せ」

 

その言葉にランサーの目が鋭くなる。

 

騎士として、彼もまた強敵を求めていた。

 

――――――――――

 

ライダー陣営

 

冬木市某所。

 

征服王イスカンダルは豪快に笑っていた。

 

「ハッハッハ! 面白いではないか!」

 

ウェイバーは頭を抱える。

 

「何が面白いんだよ!」

 

「全部だ!」

 

酒瓶を片手にライダーは笑う。

 

「誰も信用できん! 誰も腹を見せん! だからこそ戦争よ!」

 

彼は楽しんでいた。

 

策略。

駆け引き。

英霊達の思惑。

 

その全てを。

 

だが。

 

「特にセイバーだ」

 

その瞬間、イスカンダルの目が鋭くなる。

 

「アレは良い」

 

経歴だけで感じた圧。

 

理性。

殺意。

老獣の風格。

 

王というより戦争そのもの。

 

「あの男、余に似ておる」

 

「どこが!?」

 

「覇気だ」

 

イスカンダルは笑う。

 

「いずれ語り合わねばならんな!」

 

ウェイバーは嫌な予感しかしなかった。

 

――――――――――

 

キャスター陣営

 

そして。

 

最も危険な陣営だけは。

 

既に、別の意味で動き始めていた。

 

薄暗い地下水道。

 

腐臭。

 

血。

 

子供達の泣き声。

 

キャスター――ジル・ド・レェは恍惚としていた。

 

「おお……おおお……!」

 

雨生龍之介は笑う。

 

「ヤバ、最高じゃん!」

 

彼らは聖杯戦争を理解していない。

 

勝敗にも興味が薄い。

 

ただ“愉悦”だけを求めている。

 

それこそが最悪だった。

 

既に冬木では行方不明者が増え始めていた。

 

まだ誰も気付かない。

 

だが切嗣だけは察知している。

 

この怪物だけは。

放置してはいけないと。

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