冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第18話

冬木教会。

 

深夜。

 

街を見下ろす高台に建つその礼拝堂は、今夜だけは普段とは別の空気に包まれていた。

 

静謐な祈りの場。

 

本来なら争いから最も遠い場所。

 

だが今、その空間には明確な殺気が満ちている。

 

聖杯戦争参加者達。

 

本来なら互いに殺し合う宿敵達が、“同じ場所”へ集まり始めていた。

 

理由は一つ。

 

キャスター討伐。

 

あまりにも外道。

 

あまりにも危険。

 

あまりにも目立ち過ぎた。

 

もはや放置は不可能。

 

そして何より。

 

誰もが理解していた。

 

キャスターを野放しにすれば、戦争そのものが成立しなくなる。

 

故に。

 

異例の共闘。

 

異例の停戦。

 

だが――。

 

誰一人として、“本当に信用”などしていなかった。

 

――――――――――

 

最初に現れた者

 

礼拝堂の長椅子へ、静かな足音が響く。

 

最初に現れたのは、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだった。

 

高級スーツ。

 

完璧な身なり。

 

そして、その背後にはランサー――ディルムッド・オディナ。

 

二本の魔槍を携えた騎士は、教会内部へ入った瞬間から周囲を警戒していた。

 

ケイネスは露骨に不快そうだった。

 

「……胸糞の悪い催しだ」

 

ソラウも険しい顔をしている。

 

彼らは長椅子へ座ることなく、壁際へ陣取った。

 

誰にも背を向けない位置。

 

完全に戦闘を想定している。

 

ディルムッドが低く言う。

 

「お気を付けを。既に複数の気配があります」

 

「当然だ」

 

ケイネスは鼻を鳴らす。

 

「ここは教会だぞ? “監視”されていない訳がない」

 

その言葉の直後。

 

教会奥の影が揺れた。

 

一瞬。

 

誰かの気配。

 

だが次の瞬間には消える。

 

アサシン。

 

綺礼の監視網は、この場にも当然存在していた。

 

ケイネスは舌打ちする。

 

「気に入らんな……」

 

――――――――――

 

征服王、現る

 

次の瞬間だった。

 

教会の扉が勢いよく開く。

 

「ハッハッハッハ!!」

 

豪快な笑い声。

 

空気が震える。

 

ライダー――イスカンダルが堂々と入ってきた。

 

その後ろではウェイバーが青ざめている。

 

「ちょ、ちょっと待ってよライダー!! ここ敵地だからな!?」

 

「構わん!!」

 

征服王は大股で進む。

 

まるで自分の城だ。

 

周囲の緊張など意に介していない。

 

だが。

 

その瞬間。

 

ランサーの視線が鋭くなる。

 

ライダーも笑みを浮かべたまま目を細める。

 

サーヴァント同士の圧。

 

空気が軋む。

 

ウェイバーは胃痛で死にそうだった。

 

「おお、槍兵よ!」

 

イスカンダルは豪快に笑う。

 

「貴様も来たか!」

 

「当然だ」

 

ディルムッドは静かに答える。

 

「騎士として、あの外道を見逃す訳にはいかない」

 

「うむ! 実に良い!」

 

ライダーは満足そうに頷いた。

 

だが。

 

その目は次の来訪者を待っている。

 

「……まだ来ぬか」

 

「誰が?」

 

ウェイバーが聞く。

 

その瞬間。

 

征服王の笑みが深くなった。

 

「決まっておろう」

 

「?」

 

「セイバーよ」

 

――――――――――

 

“魔術師殺し”の到着

 

教会の空気が変わった。

 

扉が開く。

 

だが。

 

入ってきた瞬間、誰も“気配”を掴めなかった。

 

まるで最初からそこにいたように。

 

衛宮切嗣。

 

無言。

 

無表情。

 

コート姿の男は、そのまま礼拝堂後方へ立つ。

 

舞弥は外部待機。

 

アイリスフィールも同行していない。

 

完全な戦闘態勢。

 

ケイネスの目が険しくなる。

 

「……貴様か」

 

魔術師殺し。

 

最も警戒すべき相手。

 

だが切嗣は視線すら向けない。

 

代わりに。

 

遅れて、もう一人が入ってくる。

 

重い軍靴の音。

 

静かな圧。

 

そして。

 

“殺気”。

 

セイバー――キング・ブラッドレイ。

 

その瞬間。

 

教会内部の空気が完全に変わった。

 

ディルムッドの瞳が鋭くなる。

 

イスカンダルは笑う。

 

ケイネスは息を呑む。

 

ウェイバーは本能的に震えた。

 

強い。

 

圧倒的に。

 

ブラッドレイはゆっくり周囲を見る。

 

隻眼が各サーヴァントを捉える。

 

ライダー。

ランサー。

 

そして。

 

天井の気配。

 

「……いるな」

 

低い声。

 

その瞬間。

 

教会梁の上に、黒い影が現れた。

 

アサシン。

 

誰も驚かない。

 

むしろ。

 

「やはり生きていたか」

 

切嗣が静かに呟く。

 

ケイネスが顔をしかめる。

 

ライダーは豪快に笑った。

 

「ハッハッハ!! やはり茶番であったか!」

 

アサシンは無言。

 

そのまま影へ溶ける。

 

だが、それだけで十分だった。

 

この場の全員が理解する。

 

遠坂・言峰陣営は、最初から全員を欺いていた。

 

空気が僅かに殺気立つ。

 

その時。

 

奥から声が響いた。

 

「お静まりを」

 

言峰璃正。

 

老神父が現れる。

 

その隣には、言峰綺礼。

 

綺礼の目は真っ直ぐブラッドレイを見ていた。

 

ほんの一瞬。

 

ブラッドレイも視線を返す。

 

二人の間に、静かな殺意が流れる。

 

だが綺礼は微笑した。

 

「今夜は休戦です」

 

「口で言うだけならな」

 

ブラッドレイが冷たく返す。

 

綺礼は否定しない。

 

当然だ。

 

ここにいる誰も、互いを信用していない。

 

璃正は重く口を開く。

 

「諸君」

 

礼拝堂へ響く老いた声。

 

「既に説明した通り、キャスター陣営は聖杯戦争の秘匿義務を著しく逸脱した」

 

沈黙。

 

「よって聖堂教会は、キャスター及びマスター・雨生龍之介を正式討伐対象として認定する」

 

空気が重い。

 

「討伐成功者には追加令呪を与える」

 

ケイネスの目が細まる。

 

切嗣は無言。

 

ライダーは腕を組む。

 

だが。

 

璃正が次に言った言葉で、空気が変わった。

 

「既に被害者は数十名規模に達している」

 

ウェイバーが息を呑む。

 

「子供も含まれる」

 

その瞬間。

 

教会内の空気が冷えた。

 

ブラッドレイの隻眼が細くなる。

 

ディルムッドは槍を握る。

 

イスカンダルの笑みが消える。

 

切嗣だけは、静かだった。

 

静か過ぎるほどに。

 

だが。

 

彼を知る者なら理解できた。

 

今の衛宮切嗣は、“最も危険な状態”だと。

 

綺礼はその横顔を見る。

 

そして理解する。

 

――来る。

 

この男は、必ずキャスターを殺しに行く。

 

どれほど危険でも。

 

どれほど不利でも。

 

子供を守るためなら。

 

綺礼の口元が僅かに歪んだ。

 

「……実に興味深い」

 

その呟きを。

 

ブラッドレイだけは聞いていた。

 

隻眼がゆっくり綺礼を見る。

 

まるで獣が獲物を見るような視線。

 

綺礼は笑う。

 

ブラッドレイも笑う。

 

その笑みには。

 

互いへの理解と。

 

明確な敵意が混じっていた。

 

そして。

 

冬木の怪物達は。

 

ついに同じ戦場へ集い始める。

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