冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第24話

地下水路最奥。

 

狂気の工房。

 

そこは既に戦場ですらなかった。

 

肉片が飛び散り。

 

血が水路へ流れ込み。

 

異形の断末魔が反響する。

 

キャスターが生み出した魔物達は、次々と斬り裂かれていた。

 

一撃。

 

ただ一撃ごとに。

 

首が飛び。

胴が裂け。

肉塊が崩れる。

 

ブラッドレイの剣は、あまりにも正確だった。

 

迷いが無い。

 

躊躇が無い。

 

必要最小限で、最大効率の殺しだけを行っている。

 

それは剣技というより、“処理”だった。

 

だが。

 

キャスターはまだ立っていた。

 

肩口を深く断たれながらも。

 

腹を裂かれながらも。

 

肉を蠢かせ。

 

魔力で強引に繋ぎ止め。

 

狂ったように笑っている。

 

「アハ、アハハハハハハ!!」

 

血塗れの顔で両腕を広げる。

 

「素晴らしい!! 実に素晴らしいですぞセイバー!!」

 

肉が再生していく。

 

骨が鳴る。

 

皮膚が盛り上がる。

 

人間とは思えぬ速度。

 

ウェイバーが青ざめる。

 

「な、なんだよあれ……」

 

「高位の魔術補強だ」

 

ケイネスが低く言う。

 

だが、その顔にも僅かな驚愕があった。

 

異常過ぎる。

 

通常の魔術師では有り得ない。

 

魔導書――『螺湮城教本』。

 

あの反則級の魔力供給があるからこそ成立している再生。

 

だが。

 

ブラッドレイは静かだった。

 

むしろ。

 

少し愉快そうですらある。

 

「ほう?」

 

隻眼が細まる。

 

「しぶといな」

 

次の瞬間。

 

再び踏み込む。

 

斬。

 

キャスターの左腕が飛ぶ。

 

遅れて血飛沫。

 

だが。

 

キャスターは笑っていた。

 

「アアアアッ!! その剣!! その速度!!」

 

狂喜。

 

もはや痛覚すら快楽へ変わっている。

 

ブラッドレイは冷静に観察していた。

 

再生速度。

魔力流動。

核位置。

 

そして結論する。

 

「不死性だけなら、死徒上位と言ったところか」

 

その一言に。

 

ケイネスの眉が動く。

 

ディルムッドも僅かに視線を向けた。

 

再びだ。

 

“死徒”という単語。

 

しかも今度は、明確に比較している。

 

まるで過去に何体も相手にしたことがあるように。

 

イスカンダルが笑う。

 

「ぬう? セイバーよ、貴様、随分妙なものを知っておるな!」

 

「長く生きると色々見る」

 

ブラッドレイは淡々と答える。

 

その瞬間。

 

巨大な触手が横薙ぎに襲い掛かった。

 

だが。

 

ブラッドレイは見もしない。

 

ただ僅かに首を傾ける。

 

触手が鼻先を掠める。

 

直後。

 

斬。

 

巨大触手が真っ二つになる。

 

速い。

 

速過ぎる。

 

まるで未来でも見えているような動き。

 

キャスターの顔から、初めて笑みが消えた。

 

「な……」

 

理解できない。

 

攻撃が当たらない。

 

視界外からの攻撃すら回避される。

 

ブラッドレイは軍刀を振り払い、血を落とす。

 

「ふむ」

 

その瞬間。

 

彼の隻眼が僅かに細まった。

 

「ようやく、このサーヴァントの身体に慣れてきたな」

 

切嗣の目が動く。

 

「……何?」

 

ブラッドレイは軽く肩を回す。

 

「最初は違和感が酷かった」

 

軍靴が水を踏む。

 

「軽過ぎる」

 

「軽い?」

 

ウェイバーが呟く。

 

ブラッドレイは笑った。

 

「生前の私は、もっと重かった」

 

その場の空気が変わる。

 

ディルムッドが目を細める。

 

「……どういう意味だ」

 

「そのままの意味だ」

 

ブラッドレイは軍刀を構え直す。

 

「筋肉、骨格、重心、視界」

 

静かな声。

 

「英霊の器は完成され過ぎている」

 

普通なら有り得ない台詞。

 

サーヴァントの身体は、人間時代を超越した神秘の肉体。

 

それを“軽い”と言う。

 

つまり。

 

この男は生前から異常だった。

 

ブラッドレイは少しだけ笑った。

 

「皮肉な話だ」

 

隻眼が細くなる。

 

「生前の生身の身体の方が強かったなんてな」

 

沈黙。

 

ウェイバーが絶句する。

 

ケイネスですら顔をしかめた。

 

馬鹿げている。

 

人間が、英霊の器を上回る?

 

そんな話があるはずがない。

 

だが。

 

目の前の光景が、それを否定できなくしていた。

 

ブラッドレイは既に、サーヴァントの身体性能へ完全適応し始めている。

 

そして適応するほど、動きが加速していた。

 

キャスターが叫ぶ。

 

「ば、化け物……!」

 

その瞬間。

 

ブラッドレイの笑みが消えた。

 

「違うな」

 

一歩。

 

踏み込む。

 

空気が裂ける。

 

「私は人間だ」

 

斬。

 

銀光。

 

次の瞬間。

 

キャスターの首が宙を舞った。

 

遅れて血柱。

 

地下空間が静まり返る。

 

キャスターの身体が崩れ落ちる。

 

だが。

 

まだ終わらない。

 

首だけになったキャスターが、なお笑っていた。

 

「ア……アハ……!!」

 

再生。

 

肉が蠢く。

 

血管が伸びる。

 

ウェイバーが悲鳴を上げる。

 

「まだ生きてんのかよ!?」

 

ブラッドレイは静かに見下ろした。

 

そして。

 

ゆっくり軍刀を構える。

 

「なら」

 

隻眼が冷たく光る。

 

「死ぬまで斬るだけだ」

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