地下水路最奥。
狂気の工房。
そこは既に戦場ですらなかった。
肉片が飛び散り。
血が水路へ流れ込み。
異形の断末魔が反響する。
キャスターが生み出した魔物達は、次々と斬り裂かれていた。
一撃。
ただ一撃ごとに。
首が飛び。
胴が裂け。
肉塊が崩れる。
ブラッドレイの剣は、あまりにも正確だった。
迷いが無い。
躊躇が無い。
必要最小限で、最大効率の殺しだけを行っている。
それは剣技というより、“処理”だった。
だが。
キャスターはまだ立っていた。
肩口を深く断たれながらも。
腹を裂かれながらも。
肉を蠢かせ。
魔力で強引に繋ぎ止め。
狂ったように笑っている。
「アハ、アハハハハハハ!!」
血塗れの顔で両腕を広げる。
「素晴らしい!! 実に素晴らしいですぞセイバー!!」
肉が再生していく。
骨が鳴る。
皮膚が盛り上がる。
人間とは思えぬ速度。
ウェイバーが青ざめる。
「な、なんだよあれ……」
「高位の魔術補強だ」
ケイネスが低く言う。
だが、その顔にも僅かな驚愕があった。
異常過ぎる。
通常の魔術師では有り得ない。
魔導書――『螺湮城教本』。
あの反則級の魔力供給があるからこそ成立している再生。
だが。
ブラッドレイは静かだった。
むしろ。
少し愉快そうですらある。
「ほう?」
隻眼が細まる。
「しぶといな」
次の瞬間。
再び踏み込む。
斬。
キャスターの左腕が飛ぶ。
遅れて血飛沫。
だが。
キャスターは笑っていた。
「アアアアッ!! その剣!! その速度!!」
狂喜。
もはや痛覚すら快楽へ変わっている。
ブラッドレイは冷静に観察していた。
再生速度。
魔力流動。
核位置。
そして結論する。
「不死性だけなら、死徒上位と言ったところか」
その一言に。
ケイネスの眉が動く。
ディルムッドも僅かに視線を向けた。
再びだ。
“死徒”という単語。
しかも今度は、明確に比較している。
まるで過去に何体も相手にしたことがあるように。
イスカンダルが笑う。
「ぬう? セイバーよ、貴様、随分妙なものを知っておるな!」
「長く生きると色々見る」
ブラッドレイは淡々と答える。
その瞬間。
巨大な触手が横薙ぎに襲い掛かった。
だが。
ブラッドレイは見もしない。
ただ僅かに首を傾ける。
触手が鼻先を掠める。
直後。
斬。
巨大触手が真っ二つになる。
速い。
速過ぎる。
まるで未来でも見えているような動き。
キャスターの顔から、初めて笑みが消えた。
「な……」
理解できない。
攻撃が当たらない。
視界外からの攻撃すら回避される。
ブラッドレイは軍刀を振り払い、血を落とす。
「ふむ」
その瞬間。
彼の隻眼が僅かに細まった。
「ようやく、このサーヴァントの身体に慣れてきたな」
切嗣の目が動く。
「……何?」
ブラッドレイは軽く肩を回す。
「最初は違和感が酷かった」
軍靴が水を踏む。
「軽過ぎる」
「軽い?」
ウェイバーが呟く。
ブラッドレイは笑った。
「生前の私は、もっと重かった」
その場の空気が変わる。
ディルムッドが目を細める。
「……どういう意味だ」
「そのままの意味だ」
ブラッドレイは軍刀を構え直す。
「筋肉、骨格、重心、視界」
静かな声。
「英霊の器は完成され過ぎている」
普通なら有り得ない台詞。
サーヴァントの身体は、人間時代を超越した神秘の肉体。
それを“軽い”と言う。
つまり。
この男は生前から異常だった。
ブラッドレイは少しだけ笑った。
「皮肉な話だ」
隻眼が細くなる。
「生前の生身の身体の方が強かったなんてな」
沈黙。
ウェイバーが絶句する。
ケイネスですら顔をしかめた。
馬鹿げている。
人間が、英霊の器を上回る?
そんな話があるはずがない。
だが。
目の前の光景が、それを否定できなくしていた。
ブラッドレイは既に、サーヴァントの身体性能へ完全適応し始めている。
そして適応するほど、動きが加速していた。
キャスターが叫ぶ。
「ば、化け物……!」
その瞬間。
ブラッドレイの笑みが消えた。
「違うな」
一歩。
踏み込む。
空気が裂ける。
「私は人間だ」
斬。
銀光。
次の瞬間。
キャスターの首が宙を舞った。
遅れて血柱。
地下空間が静まり返る。
キャスターの身体が崩れ落ちる。
だが。
まだ終わらない。
首だけになったキャスターが、なお笑っていた。
「ア……アハ……!!」
再生。
肉が蠢く。
血管が伸びる。
ウェイバーが悲鳴を上げる。
「まだ生きてんのかよ!?」
ブラッドレイは静かに見下ろした。
そして。
ゆっくり軍刀を構える。
「なら」
隻眼が冷たく光る。
「死ぬまで斬るだけだ」