冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第42話

深夜三時。

 

冬木の空気は、

骨の芯まで凍りつくように冷えていた。

 

だが――。

 

その夜の静寂は、

唐突に崩れる。

 

    ◆

 

遠坂邸。

 

時臣が魔術工房で結界を調整していた時だった。

 

「時臣」

 

不意に、

背後から声。

 

振り返る。

 

そこには、

黄金の王――アーチャー。

 

ギルガメッシュが立っていた。

 

酒杯を片手に、

いつものように不遜な笑みを浮かべている。

 

「どうなさいました、アーチャー」

 

「暇だ」

 

「……は?」

 

あまりに唐突だった。

 

ギルガメッシュは退屈そうに言う。

 

「雑種共の腹の探り合いには飽きた」

 

黄金の瞳が細まる。

 

「故に、会いに行く」

 

「誰に?」

 

王は笑った。

 

「決まっておろう」

 

その瞬間。

 

時臣の背筋に嫌な予感が走った。

 

「まさか――」

 

「セイバーだ」

 

空気が凍る。

 

「お、お待ちくださいアーチャー!」

 

時臣は珍しく声を荒げた。

 

「今は極めて危険な時期です!

下手に接触すれば――」

 

「だからどうした」

 

ギルガメッシュは鼻で笑う。

 

「余が誰に遠慮する必要がある?」

 

「……!」

 

「それとも貴様は、

余があの男に敗れるとでも思っているのか?」

 

時臣は言葉を失った。

 

違う。

 

問題は勝敗ではない。

 

“今”、

セイバーと接触すること自体が危険なのだ。

 

均衡が崩れる。

 

今は各陣営が互いを警戒し、

かろうじて動けずにいる状態。

 

そこへ英雄王が動けば、

戦争が加速する。

 

だが。

 

ギルガメッシュは既に興味を失っていた。

 

「案ずるな時臣」

 

黄金の粒子が舞う。

 

「少し話すだけだ」

 

そう言って――。

 

王は霊体化し、

闇へ溶けるように消えた。

 

「アーチャー!!」

 

静まり返る工房。

 

時臣は舌打ちした。

 

最悪だ。

 

よりによって、

このタイミングで。

 

    ◆

 

同時刻。

 

冬木大橋。

 

巨大な影が、

夜の道路を悠然と進んでいた。

 

牛車。

 

神威の車輪。

 

雷を散らしながら、

征服王イスカンダルが豪快に笑う。

 

「ハッハッハ!!

面白いではないか坊主!」

 

隣では、

ウェイバー・ベルベットが顔を青くしていた。

 

「ど、どこが面白いんだよ!?」

 

「決まっておろう!

戦の匂いだ!」

 

ライダーは愉快そうに空を見上げた。

 

「今夜は妙に空気が騒がしい!」

 

ウェイバーは頭を抱える。

 

嫌な予感しかしない。

 

ライダーは完全に勘で動いている。

 

だが。

 

その勘が異常に当たることを、

ウェイバーはもう知っていた。

 

「……で?

本当に行くのかよ、アインツベルン城」

 

「うむ!」

 

「死ぬかもしれないんだぞ!?」

 

「ならば尚良い!」

 

雷鳴。

 

イスカンダルは豪快に笑った。

 

「あのセイバー、

余は気に入っておる!」

 

「はぁ!?」

 

「戦場を知っている目だ。

覇者の目ではない。

だが――」

 

征服王は口元を吊り上げた。

 

「あれは“死地を歩き続けた男”の目だ」

 

ウェイバーは黙る。

 

キャスター討伐。

 

あの戦いを、

ライダーも見ていた。

 

まるで嵐だった。

 

無数の怪物の中を、

一直線に進み、

斬り、

殺し、

潰し、

止まらない。

 

恐怖ではなく、

技術と経験だけで戦場を支配していた。

 

あれは英雄ではない。

 

戦争そのものだった。

 

「……だからって、

わざわざ会いに行く必要あるか?」

 

「ある!」

 

ライダーは断言した。

 

「酒を飲みたい!」

 

「絶対それだけじゃないだろ!」

 

「ハッハッハ!!

当然だ!」

 

征服王は笑う。

 

「余は知りたいのだ!

あの男が何を背負って戦っているのかをな!」

 

    ◆

 

そして――。

 

アインツベルン城。

 

静寂。

 

暖炉の火。

 

切嗣は突然、

煙草を持つ手を止めた。

 

「……来るな」

 

セイバーはみかんを剥きながら答える。

 

「ああ」

 

「二騎」

 

「うむ」

 

切嗣の目が細まる。

 

索敵結界。

 

反応は明確。

 

一つは、

圧倒的な魔力。

 

隠れる気がない。

 

ライダー。

 

そしてもう一つ。

 

異様。

 

静かで、

だが底知れない。

 

まるで黄金そのものが歩いて来るような威圧感。

 

「……アーチャーか」

 

セイバーが笑った。

 

愉快そうに。

 

「今夜は賑やかだな、切嗣」

 

「笑い事じゃない」

 

「そうか?」

 

セイバーは立ち上がる。

 

二本の軍刀が、

静かに鳴った。

 

「私は少し楽しみだが」

 

その瞬間。

 

城の外。

 

雪の庭園に、

黄金の粒子が舞い始めた。

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