雪。
静寂。
そして――。
アインツベルン城の階段から、
セイバーは無造作に段ボール箱を抱えたまま歩いて来た。
中には大量のみかん。
どう見ても、
戦場に出る英霊の姿ではない。
そのまま。
ふっ――と。
音もなく、
十数メートル下の庭園へ飛び降りる。
着地。
雪が僅かに沈むだけ。
衝撃音すら無い。
ウェイバーが目を見開いた。
「うわっ……!?」
ライダーは豪快に笑う。
「ハッハ!
相変わらず身軽だなセイバー!」
ギルガメッシュは腕を組み、
愉快そうに眺めていた。
セイバーはそんな二騎を見回し、
淡々と言った。
「どうせ冷やかしに来たのだろう?」
段ボールを軽く持ち上げる。
「みかんなら、くれてやる」
沈黙。
冬木最強クラスの英霊達が、
雪の庭園でみかんを囲む。
異様な光景だった。
切嗣は窓の奥で頭を抱えた。
……何故こうなる。
だが。
ライダーは次の瞬間、
腹を抱えて笑い始めた。
「ハハハハハ!!
良い! 実に良いぞセイバー!」
牛のような大きな手で、
みかんを一つ掴む。
「戦場の只中だというのに、
貴様は妙に人間臭い!」
「そうか?」
「うむ!
そこが面白い!」
ライダーは豪快に皮を剥き始める。
一方。
ギルガメッシュは箱を見下ろし、
露骨に眉をひそめた。
「この我に施しか?」
「嫌なら食わねばいい」
「……ふん」
だが。
数秒後。
英雄王は当然のようにみかんを取った。
ウェイバーは思わず叫ぶ。
「食うのかよ!?」
「黙れ雑種」
ギルガメッシュは器用に皮を剥きながら、
セイバーを見る。
「貴様、
本当に妙な男だな」
「よく言われる」
「怪物のように強い癖に、
俗世に染まり過ぎている」
セイバーは薄く笑った。
「私は怪物ではないのでな」
その言葉に。
ギルガメッシュの目が、
僅かに細まった。
ライダーもまた、
笑みを消してセイバーを見る。
その一言は、
冗談ではない。
この男は本気でそう思っている。
怪物的な力を持ちながら。
数え切れぬほど人を殺しながら。
なお、
“自分は人間だ”と言い切る。
それが異常だった。
だが――。
だからこそ、
目が離せない。
ライダーはみかんを頬張りながら笑った。
「なぁセイバー!」
「何だ」
「貴様、
王ではないな?」
ウェイバーが凍りつく。
危険な問いだった。
だが。
セイバーは怒らなかった。
ただ静かに答える。
「違う」
「だろうな」
ライダーは頷く。
「覇気が違う。
貴様は支配者ではない」
「……」
「だが、
兵としては完成され過ぎている」
征服王の目が細まる。
「何を見て来た、セイバー」
雪が降る。
静寂。
セイバーは少しだけ空を見上げた。
そして。
「地獄だ」
短く答えた。
その瞬間。
空気が変わった。
冗談ではない。
誇張でもない。
本当に、
地獄を見続けて来た者の声だった。
ギルガメッシュは笑みを深める。
ライダーは静かに目を細める。
ウェイバーだけが、
背筋に寒気を感じていた。
この男は危険だ。
強いからではない。
“壊れていない”からだ。
普通なら狂う。
普通なら壊れる。
だがこのセイバーは、
壊れないまま戦場を歩き続けている。
それが何より恐ろしかった。
そしてその時――。
森の奥。
遠く。
微かな魔力反応。
切嗣の目が鋭く細まる。
「……来たか」
監視していた陣営が、
動き始めた。