冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第44話

雪。

 

静寂。

 

そして――。

 

アインツベルン城の階段から、

セイバーは無造作に段ボール箱を抱えたまま歩いて来た。

 

中には大量のみかん。

 

どう見ても、

戦場に出る英霊の姿ではない。

 

そのまま。

 

ふっ――と。

 

音もなく、

十数メートル下の庭園へ飛び降りる。

 

着地。

 

雪が僅かに沈むだけ。

 

衝撃音すら無い。

 

ウェイバーが目を見開いた。

 

「うわっ……!?」

 

ライダーは豪快に笑う。

 

「ハッハ!

相変わらず身軽だなセイバー!」

 

ギルガメッシュは腕を組み、

愉快そうに眺めていた。

 

セイバーはそんな二騎を見回し、

淡々と言った。

 

「どうせ冷やかしに来たのだろう?」

 

段ボールを軽く持ち上げる。

 

「みかんなら、くれてやる」

 

沈黙。

 

冬木最強クラスの英霊達が、

雪の庭園でみかんを囲む。

 

異様な光景だった。

 

切嗣は窓の奥で頭を抱えた。

 

……何故こうなる。

 

だが。

 

ライダーは次の瞬間、

腹を抱えて笑い始めた。

 

「ハハハハハ!!

良い! 実に良いぞセイバー!」

 

牛のような大きな手で、

みかんを一つ掴む。

 

「戦場の只中だというのに、

貴様は妙に人間臭い!」

 

「そうか?」

 

「うむ!

そこが面白い!」

 

ライダーは豪快に皮を剥き始める。

 

一方。

 

ギルガメッシュは箱を見下ろし、

露骨に眉をひそめた。

 

「この我に施しか?」

 

「嫌なら食わねばいい」

 

「……ふん」

 

だが。

 

数秒後。

 

英雄王は当然のようにみかんを取った。

 

ウェイバーは思わず叫ぶ。

 

「食うのかよ!?」

 

「黙れ雑種」

 

ギルガメッシュは器用に皮を剥きながら、

セイバーを見る。

 

「貴様、

本当に妙な男だな」

 

「よく言われる」

 

「怪物のように強い癖に、

俗世に染まり過ぎている」

 

セイバーは薄く笑った。

 

「私は怪物ではないのでな」

 

その言葉に。

 

ギルガメッシュの目が、

僅かに細まった。

 

ライダーもまた、

笑みを消してセイバーを見る。

 

その一言は、

冗談ではない。

 

この男は本気でそう思っている。

 

怪物的な力を持ちながら。

 

数え切れぬほど人を殺しながら。

 

なお、

“自分は人間だ”と言い切る。

 

それが異常だった。

 

だが――。

 

だからこそ、

目が離せない。

 

ライダーはみかんを頬張りながら笑った。

 

「なぁセイバー!」

 

「何だ」

 

「貴様、

王ではないな?」

 

ウェイバーが凍りつく。

 

危険な問いだった。

 

だが。

 

セイバーは怒らなかった。

 

ただ静かに答える。

 

「違う」

 

「だろうな」

 

ライダーは頷く。

 

「覇気が違う。

貴様は支配者ではない」

 

「……」

 

「だが、

兵としては完成され過ぎている」

 

征服王の目が細まる。

 

「何を見て来た、セイバー」

 

雪が降る。

 

静寂。

 

セイバーは少しだけ空を見上げた。

 

そして。

 

「地獄だ」

 

短く答えた。

 

その瞬間。

 

空気が変わった。

 

冗談ではない。

 

誇張でもない。

 

本当に、

地獄を見続けて来た者の声だった。

 

ギルガメッシュは笑みを深める。

 

ライダーは静かに目を細める。

 

ウェイバーだけが、

背筋に寒気を感じていた。

 

この男は危険だ。

 

強いからではない。

 

“壊れていない”からだ。

 

普通なら狂う。

 

普通なら壊れる。

 

だがこのセイバーは、

壊れないまま戦場を歩き続けている。

 

それが何より恐ろしかった。

 

そしてその時――。

 

森の奥。

 

遠く。

 

微かな魔力反応。

 

切嗣の目が鋭く細まる。

 

「……来たか」

 

監視していた陣営が、

動き始めた。

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