冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第45話

雪を踏み締める音。

 

森の奥から、

鋭い魔力が接近する。

 

それは隠密ではない。

 

むしろ――。

 

「警戒態勢だな」

 

セイバーが呟いた。

 

次の瞬間。

 

木々の間から、

蒼い槍兵が姿を現す。

 

ランサー――ディルムッド・オディナ。

 

その後方には、

魔術礼装を展開したケイネス。

 

そしてソラウ。

 

完全な臨戦態勢だった。

 

空気が張り詰める。

 

ギルガメッシュの目が細まり。

 

ライダーは愉快そうに笑い。

 

ウェイバーは「終わった……」みたいな顔をした。

 

そして。

 

ランサー陣営は固まった。

 

「…………」

 

「…………」

 

そこに居たのは。

 

雪の庭でみかんを食っている、

最強クラスの英霊三騎。

 

しかも、

セイバーが段ボール抱えている。

 

意味が分からない。

 

ケイネスが思わず口を開いた。

 

「な、何をしている貴様ら……」

 

ライダーは豪快に笑う。

 

「宴会だ!」

 

「違うだろ絶対!」

 

ウェイバーが即座に突っ込む。

 

ギルガメッシュは腕を組み、

不機嫌そうに言った。

 

「騒がしい雑種がまた増えたな」

 

ケイネスの眉が引き攣る。

 

本来なら。

 

ここは戦場になるはずだった。

 

セイバー陣営。

ライダー陣営。

アーチャー。

 

もし衝突すれば、

大混戦。

 

その隙を突き、

漁夫の利を得る。

 

ケイネスはそれを狙っていた。

 

だが――。

 

現実は。

 

みかん。

 

沈黙。

 

妙な和やかさ。

 

意味が分からない。

 

その時。

 

セイバーが面倒臭そうに言った。

 

「まったく……

ランサー陣営まで来るのか」

 

段ボールを抱え直す。

 

「大方、

乱戦狙いだったんだろうが――」

 

セイバーは静かに続ける。

 

「ハズレだ」

 

雪が降る。

 

その声音には、

殺気が一切無い。

 

「今宵は誰もやる気が無い」

 

ギルガメッシュは鼻で笑い。

 

ライダーはみかんを咀嚼しながら頷いた。

 

「うむ!

今日はそういう気分ではない!」

 

「貴様と一緒にするな征服王」

 

「ハッハッハ!」

 

そして。

 

セイバーはディルムッドへ、

みかんを一つ放った。

 

ランサーは反射的に受け取る。

 

「ランサー。

お前達も、みかんを食え」

 

沈黙。

 

ディルムッドは、

手の中のみかんを見た。

 

それからセイバーを見る。

 

……本当に戦う気が無い。

 

少なくとも今は。

 

ケイネスが低く唸る。

 

「馬鹿にしているのか……?」

 

すると。

 

セイバーの目が、

静かにケイネスを向いた。

 

それだけで。

 

空気が変わる。

 

圧。

 

重圧。

 

まるで巨大な刃を首筋へ当てられたような感覚。

 

ケイネスの背筋に、

冷たい汗が流れた。

 

セイバーは淡々と言う。

 

「もし本当に馬鹿にするなら、

私は既に斬っている」

 

「……!」

 

「今日は休戦だ。

少なくとも私はそうしたい」

 

その言葉は、

驚くほど真っ直ぐだった。

 

打算ではない。

 

虚勢でもない。

 

本気でそう言っている。

 

だから逆に恐ろしい。

 

この男は、

自分が戦えばどうなるか理解している。

 

理解した上で、

戦わないと言っている。

 

ライダーが笑った。

 

「良いではないかランサーのマスター!

折角だ!

食え!」

 

「誰が食うか!」

 

「美味いぞ?」

 

「問題はそこではない!!」

 

ウェイバーが吹き出しそうになる。

 

ギルガメッシュは、

そんなやり取りを眺めながら静かに笑った。

 

「くく……」

 

愉快だった。

 

実に。

 

本来なら、

ここは殺気と血に満ちた場になるはずだった。

 

だが。

 

中心にいるセイバーが、

それを許していない。

 

剣で制圧しているのではない。

 

存在感そのもので、

場を支配している。

 

それは王とも違う。

 

覇者とも違う。

 

まるで――。

 

“戦場を終わらせる側”の人間だった。

 

そしてその時。

 

城の上階。

 

窓際で全てを見ていた切嗣は、

深く煙を吐いた。

 

「……何なんだこれは」

 

聖杯戦争開始以来、

最も意味不明な光景だった。

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