雪を踏み締める音。
森の奥から、
鋭い魔力が接近する。
それは隠密ではない。
むしろ――。
「警戒態勢だな」
セイバーが呟いた。
次の瞬間。
木々の間から、
蒼い槍兵が姿を現す。
ランサー――ディルムッド・オディナ。
その後方には、
魔術礼装を展開したケイネス。
そしてソラウ。
完全な臨戦態勢だった。
空気が張り詰める。
ギルガメッシュの目が細まり。
ライダーは愉快そうに笑い。
ウェイバーは「終わった……」みたいな顔をした。
そして。
ランサー陣営は固まった。
「…………」
「…………」
そこに居たのは。
雪の庭でみかんを食っている、
最強クラスの英霊三騎。
しかも、
セイバーが段ボール抱えている。
意味が分からない。
ケイネスが思わず口を開いた。
「な、何をしている貴様ら……」
ライダーは豪快に笑う。
「宴会だ!」
「違うだろ絶対!」
ウェイバーが即座に突っ込む。
ギルガメッシュは腕を組み、
不機嫌そうに言った。
「騒がしい雑種がまた増えたな」
ケイネスの眉が引き攣る。
本来なら。
ここは戦場になるはずだった。
セイバー陣営。
ライダー陣営。
アーチャー。
もし衝突すれば、
大混戦。
その隙を突き、
漁夫の利を得る。
ケイネスはそれを狙っていた。
だが――。
現実は。
みかん。
沈黙。
妙な和やかさ。
意味が分からない。
その時。
セイバーが面倒臭そうに言った。
「まったく……
ランサー陣営まで来るのか」
段ボールを抱え直す。
「大方、
乱戦狙いだったんだろうが――」
セイバーは静かに続ける。
「ハズレだ」
雪が降る。
その声音には、
殺気が一切無い。
「今宵は誰もやる気が無い」
ギルガメッシュは鼻で笑い。
ライダーはみかんを咀嚼しながら頷いた。
「うむ!
今日はそういう気分ではない!」
「貴様と一緒にするな征服王」
「ハッハッハ!」
そして。
セイバーはディルムッドへ、
みかんを一つ放った。
ランサーは反射的に受け取る。
「ランサー。
お前達も、みかんを食え」
沈黙。
ディルムッドは、
手の中のみかんを見た。
それからセイバーを見る。
……本当に戦う気が無い。
少なくとも今は。
ケイネスが低く唸る。
「馬鹿にしているのか……?」
すると。
セイバーの目が、
静かにケイネスを向いた。
それだけで。
空気が変わる。
圧。
重圧。
まるで巨大な刃を首筋へ当てられたような感覚。
ケイネスの背筋に、
冷たい汗が流れた。
セイバーは淡々と言う。
「もし本当に馬鹿にするなら、
私は既に斬っている」
「……!」
「今日は休戦だ。
少なくとも私はそうしたい」
その言葉は、
驚くほど真っ直ぐだった。
打算ではない。
虚勢でもない。
本気でそう言っている。
だから逆に恐ろしい。
この男は、
自分が戦えばどうなるか理解している。
理解した上で、
戦わないと言っている。
ライダーが笑った。
「良いではないかランサーのマスター!
折角だ!
食え!」
「誰が食うか!」
「美味いぞ?」
「問題はそこではない!!」
ウェイバーが吹き出しそうになる。
ギルガメッシュは、
そんなやり取りを眺めながら静かに笑った。
「くく……」
愉快だった。
実に。
本来なら、
ここは殺気と血に満ちた場になるはずだった。
だが。
中心にいるセイバーが、
それを許していない。
剣で制圧しているのではない。
存在感そのもので、
場を支配している。
それは王とも違う。
覇者とも違う。
まるで――。
“戦場を終わらせる側”の人間だった。
そしてその時。
城の上階。
窓際で全てを見ていた切嗣は、
深く煙を吐いた。
「……何なんだこれは」
聖杯戦争開始以来、
最も意味不明な光景だった。