雪が降る。
静かな夜だった。
聖杯。
穢れ。
器。
救済。
その全てを語った後で。
セイバーは、
静かに全員を見回した。
ギルガメッシュ。
ライダー。
ランサー。
切嗣。
本来なら、
互いを殺すはずの者達。
だが今だけは、
誰も口を挟まない。
セイバーは小さく息を吐き――。
そして、
ぽつりと言った。
「聖杯が、
穢れていた場合――」
眼帯へ触れる。
「ただの剣士の私だけでは、
手に余る」
その言葉に。
ウェイバーが目を見開く。
ケイネスですら、
一瞬言葉を失った。
“ただの剣士”。
この怪物じみた男が、
本気でそう言っている。
だが。
それは謙遜ではない。
セイバーは本当に、
自分を万能だと思っていない。
どれだけ強くても。
どれだけ戦場を渡っても。
出来ない事はあると理解している。
だからこそ――。
セイバーは、
静かに頭を下げた。
「手を貸してくれ」
雪が落ちる。
沈黙。
その場にいる全員が、
一瞬固まった。
英雄王。
征服王。
騎士。
魔術師。
その誰もが、
この男の異常性を知っている。
冷酷。
合理的。
圧倒的。
怪物。
なのに。
この男は、
必要なら頭を下げる。
目的の為なら、
自分一人で背負おうとしない。
それが何より、
人間らしかった。
ライダーが最初に笑った。
「ハッハッハ!!」
豪快な笑い声。
「良い!!
実に良いぞセイバー!」
征服王は杯を掲げる。
「世界を救うだの、
聖杯を壊すだの!
そういう話は嫌いではない!」
ウェイバーが慌てる。
「ちょっ、
ライダー!?
軽く乗るなよ!?」
「何を言う坊主!」
ライダーは笑う。
「夢とは、
一人で見るものではない!」
そして。
その大きな手で、
セイバーの肩を叩いた。
「もし災厄なら、
余も共に叩き潰そう!」
雪が舞う。
次に口を開いたのは、
ディルムッドだった。
「……私も力を貸そう」
ケイネスが目を見開く。
「ランサー!?」
ディルムッドは静かだった。
「聖杯が真に穢れているなら、
騎士として見過ごせん」
そして。
セイバーを見る。
「それに――」
小さく笑った。
「貴殿一人へ、
全てを背負わせるのは気分が悪い」
ケイネスは苦い顔をする。
魔術師としては、
到底受け入れ難い話だった。
だが。
今この場で、
“聖杯が絶対に安全だ”と断言出来る者も居ない。
それが厄介だった。
その時。
ギルガメッシュが、
静かに笑った。
「クク……」
黄金の王は、
ゆっくり立ち上がる。
空気が震える。
「余へ助力を求めるとは、
随分と贅沢な願いだなセイバー」
セイバーは薄く笑った。
「断るか?」
「まさか」
紅い瞳が細まる。
「もし聖杯が、
余の目に値せぬ汚物なら――」
黄金の魔力が揺れる。
「この世から消す」
その声は、
絶対だった。
王の宣告。
そして。
英雄王は、
愉快そうに口元を歪める。
「何より――」
セイバーを見つめる。
「貴様がどこまで人間で居続けるか、
最後まで見届けたくなった」
沈黙。
その時。
全員の視線が、
自然と切嗣へ向く。
衛宮切嗣。
セイバーのマスター。
最も現実的で、
最も冷酷な男。
切嗣は煙草の煙を吐き――。
しばらく黙っていた。
雪が降る。
静寂。
そして。
「……最初から、
そのつもりだ」
低い声。
「聖杯が本当に救済なら利用する」
目が細まる。
「違うなら壊す」
その答えに。
セイバーは静かに笑った。
ほんの少しだけ。
安堵したように。
その瞬間。
奇妙な連帯感が、
その場に生まれていた。
本来なら敵同士。
殺し合う英霊達。
だが今だけは。
“もし聖杯が災厄なら、
叩き潰す”。
その一点だけで、
全員の意思が重なっていた。
そして――。
誰よりもその光景を、
遠くから静かに見ていた男がいる。
冬木教会。
暗い礼拝堂。
言峰綺礼は、
静かに笑っていた。
「……なるほど」
愉悦とも、
興味とも違う。
もっと深い何か。
「衛宮切嗣。
そしてセイバー。」
静かな声。
「お前達は、
聖杯へ辿り着いた時――」
目を閉じる。
「本当に壊せるのか?」