冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第50話

雪が降る。

 

静かな夜だった。

 

聖杯。

 

穢れ。

 

器。

 

救済。

 

その全てを語った後で。

 

セイバーは、

静かに全員を見回した。

 

ギルガメッシュ。

ライダー。

ランサー。

切嗣。

 

本来なら、

互いを殺すはずの者達。

 

だが今だけは、

誰も口を挟まない。

 

セイバーは小さく息を吐き――。

 

そして、

ぽつりと言った。

 

「聖杯が、

穢れていた場合――」

 

眼帯へ触れる。

 

「ただの剣士の私だけでは、

手に余る」

 

その言葉に。

 

ウェイバーが目を見開く。

 

ケイネスですら、

一瞬言葉を失った。

 

“ただの剣士”。

 

この怪物じみた男が、

本気でそう言っている。

 

だが。

 

それは謙遜ではない。

 

セイバーは本当に、

自分を万能だと思っていない。

 

どれだけ強くても。

 

どれだけ戦場を渡っても。

 

出来ない事はあると理解している。

 

だからこそ――。

 

セイバーは、

静かに頭を下げた。

 

「手を貸してくれ」

 

雪が落ちる。

 

沈黙。

 

その場にいる全員が、

一瞬固まった。

 

英雄王。

征服王。

騎士。

魔術師。

 

その誰もが、

この男の異常性を知っている。

 

冷酷。

合理的。

圧倒的。

 

怪物。

 

なのに。

 

この男は、

必要なら頭を下げる。

 

目的の為なら、

自分一人で背負おうとしない。

 

それが何より、

人間らしかった。

 

ライダーが最初に笑った。

 

「ハッハッハ!!」

 

豪快な笑い声。

 

「良い!!

実に良いぞセイバー!」

 

征服王は杯を掲げる。

 

「世界を救うだの、

聖杯を壊すだの!

そういう話は嫌いではない!」

 

ウェイバーが慌てる。

 

「ちょっ、

ライダー!?

軽く乗るなよ!?」

 

「何を言う坊主!」

 

ライダーは笑う。

 

「夢とは、

一人で見るものではない!」

 

そして。

 

その大きな手で、

セイバーの肩を叩いた。

 

「もし災厄なら、

余も共に叩き潰そう!」

 

雪が舞う。

 

次に口を開いたのは、

ディルムッドだった。

 

「……私も力を貸そう」

 

ケイネスが目を見開く。

 

「ランサー!?」

 

ディルムッドは静かだった。

 

「聖杯が真に穢れているなら、

騎士として見過ごせん」

 

そして。

 

セイバーを見る。

 

「それに――」

 

小さく笑った。

 

「貴殿一人へ、

全てを背負わせるのは気分が悪い」

 

ケイネスは苦い顔をする。

 

魔術師としては、

到底受け入れ難い話だった。

 

だが。

 

今この場で、

“聖杯が絶対に安全だ”と断言出来る者も居ない。

 

それが厄介だった。

 

その時。

 

ギルガメッシュが、

静かに笑った。

 

「クク……」

 

黄金の王は、

ゆっくり立ち上がる。

 

空気が震える。

 

「余へ助力を求めるとは、

随分と贅沢な願いだなセイバー」

 

セイバーは薄く笑った。

 

「断るか?」

 

「まさか」

 

紅い瞳が細まる。

 

「もし聖杯が、

余の目に値せぬ汚物なら――」

 

黄金の魔力が揺れる。

 

「この世から消す」

 

その声は、

絶対だった。

 

王の宣告。

 

そして。

 

英雄王は、

愉快そうに口元を歪める。

 

「何より――」

 

セイバーを見つめる。

 

「貴様がどこまで人間で居続けるか、

最後まで見届けたくなった」

 

沈黙。

 

その時。

 

全員の視線が、

自然と切嗣へ向く。

 

衛宮切嗣。

 

セイバーのマスター。

 

最も現実的で、

最も冷酷な男。

 

切嗣は煙草の煙を吐き――。

 

しばらく黙っていた。

 

雪が降る。

 

静寂。

 

そして。

 

「……最初から、

そのつもりだ」

 

低い声。

 

「聖杯が本当に救済なら利用する」

 

目が細まる。

 

「違うなら壊す」

 

その答えに。

 

セイバーは静かに笑った。

 

ほんの少しだけ。

 

安堵したように。

 

その瞬間。

 

奇妙な連帯感が、

その場に生まれていた。

 

本来なら敵同士。

 

殺し合う英霊達。

 

だが今だけは。

 

“もし聖杯が災厄なら、

叩き潰す”。

 

その一点だけで、

全員の意思が重なっていた。

 

そして――。

 

誰よりもその光景を、

遠くから静かに見ていた男がいる。

 

冬木教会。

 

暗い礼拝堂。

 

言峰綺礼は、

静かに笑っていた。

 

「……なるほど」

 

愉悦とも、

興味とも違う。

 

もっと深い何か。

 

「衛宮切嗣。

そしてセイバー。」

 

静かな声。

 

「お前達は、

聖杯へ辿り着いた時――」

 

目を閉じる。

 

「本当に壊せるのか?」

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