雪が静かに降る。
奇妙な同盟。
奇妙な酒宴。
そして――。
“聖杯が災厄なら壊す”。
その一点だけで、
本来なら敵同士の英霊達が、
一瞬だけ同じ方向を見ていた。
セイバーは小さく息を吐き、
静かに頭を下げる。
「……すまないな。
助かる」
その言葉に、
ライダーは豪快に笑った。
「気にするな!」
ディルムッドも静かに頷く。
だが。
セイバーは次に、
黄金の王へ視線を向けた。
「だが良いのか? 英雄王」
ギルガメッシュは酒を傾ける。
「何がだ」
「アサシン陣営とは、
仲間なのだろう?」
沈黙。
その瞬間。
空気が、
僅かに冷えた。
ケイネスが目を細める。
ディルムッドも警戒する。
ウェイバーは「うわぁ……踏み込んだ……」みたいな顔をしていた。
そして。
ギルガメッシュは――笑った。
「クク……」
低い笑い。
「仲間?」
黄金の王は、
まるで滑稽な言葉でも聞いたように目を細める。
「余と雑種共を同列に語るなセイバー」
「……違うのか?」
「利用しているだけだ」
即答。
一切の迷い無し。
「言峰綺礼も、
遠坂時臣も、
アサシンも。」
黄金の瞳が冷たく光る。
「全て余の暇潰しに過ぎん」
ウェイバーが引いていた。
「うわぁ……」
ライダーは豪快に笑う。
「相変わらず傲慢だな黄金王!」
「当然だ」
ギルガメッシュは平然としている。
「王とはそういうものだ」
だが。
セイバーは静かに目を細めた。
「では、
言峰綺礼を信用していないのか?」
その瞬間。
ギルガメッシュの笑みが、
少しだけ深くなる。
「信用?」
雪が舞う。
「面白い男だとは思っている」
その声音には、
微かな興味が混じっていた。
「空っぽの癖に、
己を知ろうともがいている」
切嗣の目が僅かに細まる。
綺礼。
やはり、
英雄王も気付いている。
あの男の異質さに。
ギルガメッシュは続ける。
「だが、
だからこそ危うい」
「……」
「空虚な人間は、
時に自分でも理解出来ぬ方向へ壊れる」
セイバーは静かに酒を飲む。
「なるほど」
「それに――」
ギルガメッシュは愉快そうに笑った。
「余は貴様の方が気に入っている」
沈黙。
ウェイバーが固まる。
ケイネスが嫌そうな顔をする。
ライダーだけが爆笑した。
「ハッハッハ!!
口説いておるのか黄金王!!」
「黙れ征服王」
だが。
ギルガメッシュは否定しなかった。
紅い瞳が、
真っ直ぐセイバーを見る。
「貴様は面白い」
静かな声。
「怪物でありながら、
最後まで人間で在ろうとする」
雪が降る。
「そんな歪な存在、
そう居らぬ」
セイバーは苦笑した。
「褒め言葉として受け取っておこう」
「好きにしろ」
そして。
ギルガメッシュは酒を飲み干し、
静かに続ける。
「それに、
アサシンなどどうでもよい」
その声は、
冷たかった。
「影に潜み、
他人の視線を盗み見るだけの存在だ」
黄金の瞳が細まる。
「王の器ではない」
セイバーは少し黙り――。
そして、
ぽつりと呟く。
「……なら、
容赦なく狩れるな」
その瞬間。
空気が僅かに張り詰めた。
ギルガメッシュは笑う。
ライダーもまた、
獰猛に笑った。
ディルムッドは静かに槍へ手を添える。
聖杯の本質を見る為。
災厄かどうか確かめる為。
その為に、
次はアサシンを狩る。
束の間の平穏は、
確実に終わりへ近付いていた。
そして。
その全てを、
遠く冬木教会から見下ろす男が居る。
言峰綺礼。
彼は静かに笑っていた。
「……来るか、セイバー」
まるで。
待ち望んでいた何かが、
ようやく動き出したかのように。
その場に漂っていた空気は、
既に“戦場前夜”のものへ変わっていた。
酒瓶は空になり。
みかんの皮だけが、
段ボールの横へ積まれている。
束の間の談笑は終わった。
次に来るのは、
殺し合いだ。
セイバーは静かに立ち上がる。
軍服の裾を払い。
雪を踏み締めながら、
ぽつりと呟いた。
「さて――」
眼帯の奥。
黄金の魔眼が、
静かに細まる。
「アサシンとバーサーカーを狩るか」
その瞬間。
空気が変わった。
先程までの穏やかな男ではない。
戦場の怪物。
埋葬機関の処刑人。
数多の死地を渡り歩いた、
“人間のまま化物へ至った剣士”。
ライダーが豪快に笑う。
「ハッハッハ!!
ようやく始まるか!」
ウェイバーは顔を引き攣らせた。
「いや始まるかじゃないよ!?
軽いんだよアンタら!!」
ギルガメッシュは愉快そうに目を細める。
「クク……
良い」
黄金の王はゆっくり立ち上がる。
「では見せてみろセイバー」
紅い瞳が妖しく輝く。
「王でも英霊でもない、
“人間の兵士”の戦いをな」
ディルムッドも静かに槍を取った。
「……バーサーカーは私も気になっていた」
ケイネスが眉を顰める。
「待てランサー、
本気で乗る気か?」
「放置すれば被害が広がる」
ディルムッドの目は真剣だった。
「あれは戦場を壊す類だ」
セイバーは小さく頷く。
「ああ。
優先順位としてはバーサーカーが先だ」
切嗣が低く問う。
「理由は?」
セイバーは即答した。
「アサシンは逃げる」
雪が舞う。
「だがバーサーカーは違う。
必ず正面から来る」
戦場を知る者の声。
「暴れる獣ほど、
居場所が分かりやすい」
切嗣は煙草を捨て、
雪へ踏み消した。
「……確かに」
セイバーは続ける。
「それに、
バーサーカーを落とせば戦場全体の圧力が減る」
「アサシン狩りにも移りやすい」
切嗣は静かに頷いた。
既に頭の中で、
地図と配置が組み上がっている。
バーサーカー。
恐らく夜間行動。
市街地。
高所。
視界を利用した強襲。
そして。
その背後には、
必ずマスターが居る。
セイバーは静かに言う。
「バーサーカーのマスターは、
恐らくこちらへ強い執着を持っている」
ギルガメッシュが笑う。
「気付いていたか」
「あの殺気は分かりやすい」
セイバーは平然としている。
「何度か見られている」
ウェイバーの背筋に寒気が走る。
“見られている”。
それを、
この男はとっくに察知していた。
ライダーが笑う。
「ならば誘い出すか?」
「いや」
セイバーは静かに首を振る。
「向こうから来る」
断言。
雪が降る。
「バーサーカーは、
そういう類の敵だ」
その時。
不意に。
セイバーの魔眼が、
夜の彼方を見た。
ピタリと動きが止まる。
切嗣の目が細まる。
「……どうした」
セイバーは静かに空を見上げる。
「来たな」
瞬間。
――ゾワリ。
全員の背筋を、
凍るような殺気が撫でた。
ウェイバーが息を呑む。
ケイネスが魔力を展開。
ディルムッドが槍を構える。
そして。
冬木の夜空。
雪雲の向こう。
黒い影が、
静かに浮かんでいた。
まるで。
“こちらをずっと見ていた”かのように。
ギルガメッシュが、
愉快そうに笑う。
「クハハ……!
噂をすれば来たか!」
セイバーはゆっくり剣へ手を掛ける。
その目は、
既に戦場の色へ変わっていた。
「……切嗣」
「ああ」
「城を壊すなよ」
沈黙。
次の瞬間――。
轟音。
黒い影が、
凄まじい速度でアインツベルン城へ降下した。