冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第51話

雪が静かに降る。

 

奇妙な同盟。

 

奇妙な酒宴。

 

そして――。

 

“聖杯が災厄なら壊す”。

 

その一点だけで、

本来なら敵同士の英霊達が、

一瞬だけ同じ方向を見ていた。

 

セイバーは小さく息を吐き、

静かに頭を下げる。

 

「……すまないな。

助かる」

 

その言葉に、

ライダーは豪快に笑った。

 

「気にするな!」

 

ディルムッドも静かに頷く。

 

だが。

 

セイバーは次に、

黄金の王へ視線を向けた。

 

「だが良いのか? 英雄王」

 

ギルガメッシュは酒を傾ける。

 

「何がだ」

 

「アサシン陣営とは、

仲間なのだろう?」

 

沈黙。

 

その瞬間。

 

空気が、

僅かに冷えた。

 

ケイネスが目を細める。

 

ディルムッドも警戒する。

 

ウェイバーは「うわぁ……踏み込んだ……」みたいな顔をしていた。

 

そして。

 

ギルガメッシュは――笑った。

 

「クク……」

 

低い笑い。

 

「仲間?」

 

黄金の王は、

まるで滑稽な言葉でも聞いたように目を細める。

 

「余と雑種共を同列に語るなセイバー」

 

「……違うのか?」

 

「利用しているだけだ」

 

即答。

 

一切の迷い無し。

 

「言峰綺礼も、

遠坂時臣も、

アサシンも。」

 

黄金の瞳が冷たく光る。

 

「全て余の暇潰しに過ぎん」

 

ウェイバーが引いていた。

 

「うわぁ……」

 

ライダーは豪快に笑う。

 

「相変わらず傲慢だな黄金王!」

 

「当然だ」

 

ギルガメッシュは平然としている。

 

「王とはそういうものだ」

 

だが。

 

セイバーは静かに目を細めた。

 

「では、

言峰綺礼を信用していないのか?」

 

その瞬間。

 

ギルガメッシュの笑みが、

少しだけ深くなる。

 

「信用?」

 

雪が舞う。

 

「面白い男だとは思っている」

 

その声音には、

微かな興味が混じっていた。

 

「空っぽの癖に、

己を知ろうともがいている」

 

切嗣の目が僅かに細まる。

 

綺礼。

 

やはり、

英雄王も気付いている。

 

あの男の異質さに。

 

ギルガメッシュは続ける。

 

「だが、

だからこそ危うい」

 

「……」

 

「空虚な人間は、

時に自分でも理解出来ぬ方向へ壊れる」

 

セイバーは静かに酒を飲む。

 

「なるほど」

 

「それに――」

 

ギルガメッシュは愉快そうに笑った。

 

「余は貴様の方が気に入っている」

 

沈黙。

 

ウェイバーが固まる。

 

ケイネスが嫌そうな顔をする。

 

ライダーだけが爆笑した。

 

「ハッハッハ!!

口説いておるのか黄金王!!」

 

「黙れ征服王」

 

だが。

 

ギルガメッシュは否定しなかった。

 

紅い瞳が、

真っ直ぐセイバーを見る。

 

「貴様は面白い」

 

静かな声。

 

「怪物でありながら、

最後まで人間で在ろうとする」

 

雪が降る。

 

「そんな歪な存在、

そう居らぬ」

 

セイバーは苦笑した。

 

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

「好きにしろ」

 

そして。

 

ギルガメッシュは酒を飲み干し、

静かに続ける。

 

「それに、

アサシンなどどうでもよい」

 

その声は、

冷たかった。

 

「影に潜み、

他人の視線を盗み見るだけの存在だ」

 

黄金の瞳が細まる。

 

「王の器ではない」

 

セイバーは少し黙り――。

 

そして、

ぽつりと呟く。

 

「……なら、

容赦なく狩れるな」

 

その瞬間。

 

空気が僅かに張り詰めた。

 

ギルガメッシュは笑う。

 

ライダーもまた、

獰猛に笑った。

 

ディルムッドは静かに槍へ手を添える。

 

聖杯の本質を見る為。

 

災厄かどうか確かめる為。

 

その為に、

次はアサシンを狩る。

 

束の間の平穏は、

確実に終わりへ近付いていた。

 

そして。

 

その全てを、

遠く冬木教会から見下ろす男が居る。

 

言峰綺礼。

 

彼は静かに笑っていた。

 

「……来るか、セイバー」

 

まるで。

 

待ち望んでいた何かが、

ようやく動き出したかのように。

 

その場に漂っていた空気は、

既に“戦場前夜”のものへ変わっていた。

 

酒瓶は空になり。

 

みかんの皮だけが、

段ボールの横へ積まれている。

 

束の間の談笑は終わった。

 

次に来るのは、

殺し合いだ。

 

セイバーは静かに立ち上がる。

 

軍服の裾を払い。

 

雪を踏み締めながら、

ぽつりと呟いた。

 

「さて――」

 

眼帯の奥。

 

黄金の魔眼が、

静かに細まる。

 

「アサシンとバーサーカーを狩るか」

 

その瞬間。

 

空気が変わった。

 

先程までの穏やかな男ではない。

 

戦場の怪物。

 

埋葬機関の処刑人。

 

数多の死地を渡り歩いた、

“人間のまま化物へ至った剣士”。

 

ライダーが豪快に笑う。

 

「ハッハッハ!!

ようやく始まるか!」

 

ウェイバーは顔を引き攣らせた。

 

「いや始まるかじゃないよ!?

軽いんだよアンタら!!」

 

ギルガメッシュは愉快そうに目を細める。

 

「クク……

良い」

 

黄金の王はゆっくり立ち上がる。

 

「では見せてみろセイバー」

 

紅い瞳が妖しく輝く。

 

「王でも英霊でもない、

“人間の兵士”の戦いをな」

 

ディルムッドも静かに槍を取った。

 

「……バーサーカーは私も気になっていた」

 

ケイネスが眉を顰める。

 

「待てランサー、

本気で乗る気か?」

 

「放置すれば被害が広がる」

 

ディルムッドの目は真剣だった。

 

「あれは戦場を壊す類だ」

 

セイバーは小さく頷く。

 

「ああ。

優先順位としてはバーサーカーが先だ」

 

切嗣が低く問う。

 

「理由は?」

 

セイバーは即答した。

 

「アサシンは逃げる」

 

雪が舞う。

 

「だがバーサーカーは違う。

必ず正面から来る」

 

戦場を知る者の声。

 

「暴れる獣ほど、

居場所が分かりやすい」

 

切嗣は煙草を捨て、

雪へ踏み消した。

 

「……確かに」

 

セイバーは続ける。

 

「それに、

バーサーカーを落とせば戦場全体の圧力が減る」

 

「アサシン狩りにも移りやすい」

 

切嗣は静かに頷いた。

 

既に頭の中で、

地図と配置が組み上がっている。

 

バーサーカー。

 

恐らく夜間行動。

 

市街地。

 

高所。

 

視界を利用した強襲。

 

そして。

 

その背後には、

必ずマスターが居る。

 

セイバーは静かに言う。

 

「バーサーカーのマスターは、

恐らくこちらへ強い執着を持っている」

 

ギルガメッシュが笑う。

 

「気付いていたか」

 

「あの殺気は分かりやすい」

 

セイバーは平然としている。

 

「何度か見られている」

 

ウェイバーの背筋に寒気が走る。

 

“見られている”。

 

それを、

この男はとっくに察知していた。

 

ライダーが笑う。

 

「ならば誘い出すか?」

 

「いや」

 

セイバーは静かに首を振る。

 

「向こうから来る」

 

断言。

 

雪が降る。

 

「バーサーカーは、

そういう類の敵だ」

 

その時。

 

不意に。

 

セイバーの魔眼が、

夜の彼方を見た。

 

ピタリと動きが止まる。

 

切嗣の目が細まる。

 

「……どうした」

 

セイバーは静かに空を見上げる。

 

「来たな」

 

瞬間。

 

――ゾワリ。

 

全員の背筋を、

凍るような殺気が撫でた。

 

ウェイバーが息を呑む。

 

ケイネスが魔力を展開。

 

ディルムッドが槍を構える。

 

そして。

 

冬木の夜空。

 

雪雲の向こう。

 

黒い影が、

静かに浮かんでいた。

 

まるで。

 

“こちらをずっと見ていた”かのように。

 

ギルガメッシュが、

愉快そうに笑う。

 

「クハハ……!

噂をすれば来たか!」

 

セイバーはゆっくり剣へ手を掛ける。

 

その目は、

既に戦場の色へ変わっていた。

 

「……切嗣」

 

「ああ」

 

「城を壊すなよ」

 

沈黙。

 

次の瞬間――。

 

轟音。

 

黒い影が、

凄まじい速度でアインツベルン城へ降下した。

 

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