冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第54話

雪が降り続ける。

 

アインツベルン城の中庭。

 

狂戦士との衝突の余韻。

砕けた石畳。

黒い虫の残骸。

 

その中心で。

 

セイバー―は、静かに空を見上げていた。

 

冬木の空。

 

その奥にある、“まだ現れていない何か”。

 

やがて。

 

セイバーは淡々と言った。

 

「聖杯戦争を一時中断して」

 

全員の視線が集まる。

 

「聖杯の本質を確認することにしないかね?」

 

静寂。

 

風の音だけが響く。

 

最初に反応したのは、ライダー――だった。

 

「……ほう」

 

征服王は腕を組み、興味深そうに笑う。

 

「戦争の最中に停戦協定か」

「実に面白い提案だ」

 

ランサー――は真剣な表情で周囲を見る。

 

「確かに、この戦争は異常だ」

 

「キャスターの暴走だけではない」

「何か根本的に歪んでいる」

 

切嗣が煙草を咥えたまま低く言う。

 

「問題は、誰がそれを信用するかだ」

 

現実的な意見だった。

 

聖杯戦争は殺し合い。

 

停戦など、本来あり得ない。

 

だが。

 

切嗣自身も理解している。

 

ここまで異常が重なれば、“確認”は必要だ。

 

セイバーは頷く。

 

「当然、全面的な信頼など期待していない」

 

「だから条件付きだ」

 

眼帯の奥。

 

魔眼が全員を静かに見る。

 

「バーサーカー陣営」

「ライダー陣営」

「ランサー陣営」

「アーチャー陣営」

 

「そして私達」

 

「互いに監視し合いながら、聖杯へ至る」

 

「その上で」

 

セイバーの声が僅かに低くなる。

 

「もし聖杯が災厄なら、その場で破壊する」

 

空気が重くなる。

 

誰も冗談だと思わない。

 

この男は、本当に斬る。

 

たとえ願望機であろうと。

 

たとえ奇跡であろうと。

 

災厄なら、迷わず壊す。

 

ギルガメッシュ――が酒杯を傾けながら笑った。

 

「ククク……」

 

「願望機を前にして、“壊す前提”で話す英霊など初めて見たぞ」

 

セイバーは平然としている。

 

「腐った水は飲まん」

 

「単純な話だ」

 

ライダーが豪快に笑う。

 

「ハハハ!!

嫌いではない!!」

 

「余も乗ろう!」

 

「もし聖杯が偽物なら、そんなものに征服される趣味はない!」

 

ランサーも静かに頷いた。

 

「私も異論はない」

 

「騎士として、災厄を見過ごす気はない」

 

切嗣は煙を吐き出しながら呟く。

 

「……奇妙な同盟だな」

 

「英霊同士が、聖杯破壊を前提に動くとは」

 

その時だった。

 

ギルガメッシュが不意に笑みを消した。

 

赤い瞳が、セイバーへ向く。

 

「だが雑種」

 

「一つ問題がある」

 

中庭の空気が張り詰める。

 

「アサシン陣営はどうする?」

 

その瞬間。

 

全員の空気が変わった。

 

偽装された死。

 

消えた気配。

 

教会。

 

言峰綺礼。

 

全てが繋がる。

 

切嗣の目が細まる。

 

「……やはり生きているか」

 

セイバーは静かに頷いた。

 

「十中八九な」

 

「だからこそ、放置出来ん」

 

ライダーが笑みを消す。

 

「なるほど」

「停戦の前に、まずは“影”を引きずり出す必要があるか」

 

セイバーはサーベルへ手を添えた。

 

中庭に沈黙が落ちる。

 

雪の降る夜。

 

停戦。

聖杯の調査。

アサシン狩り。

 

その異常な会談の中で。

 

セイバー――は、不意に黄金の王を見た。

 

「英雄王」

 

ギルガメッシュが酒杯を傾ける。

 

「なんだ、雑種」

 

セイバーは静かに言った。

 

「貴様なら、サーヴァントの代わりになる財を持っているだろ?」

 

その瞬間。

 

空気が変わった。

 

切嗣が目を細める。

 

ライダー――が興味深そうに笑う。

 

ランサー――は即座に意図を理解した。

 

「……まさか」

 

ギルガメッシュの赤い瞳が細くなる。

 

「ほう?」

 

セイバーは続けた。

 

「もし聖杯が、本当に“器”なら」

 

「サーヴァントの魂を満たした時、完成するはずだ」

 

雪が舞う。

 

静かな声だけが響く。

 

「ならば」

「代用品で満たせば、反応を見る事が出来る」

 

切嗣の顔色が変わる。

 

――試す気か。

 

聖杯そのものを。

 

ライダーが低く唸る。

 

「なるほどな……」

「英霊の魂を満たす前に、“別の神秘”を流し込むか」

 

セイバーは頷く。

 

「聖杯が本当に万能なら、拒絶しない」

「だが、もし“何か”を求めているなら」

 

眼帯の奥。

 

魔眼が細くなる。

 

「反応する」

 

ギルガメッシュは数秒沈黙した。

 

その背後。

 

黄金の波紋――『王の財宝』が静かに揺らぐ。

 

神代の秘宝。

失われた幻想。

原初の財。

 

その一つ一つが、下手な宝具を遥かに超える神秘を持つ。

 

黄金の王は、ゆっくり笑った。

 

「クク……」

「面白い発想だ」

 

「流石は現代の戦争屋」

 

セイバーは肩を竦める。

 

「戦争では、まず敵を調べる」

 

「正体も分からん物へ願いを預けるほど、私は夢見がちではない」

 

ライダーが豪快に笑う。

 

「ハハハ!!

気に入ったぞ!!」

 

「聖杯を“兵器検証”のように扱う英霊など初めてだ!」

 

ランサーも真剣な顔で頷く。

 

「だが理には適っている」

 

「確かに、あれが本当に万能機なら、代替神秘にも反応するはずだ」

 

切嗣が低く呟く。

 

「……危険だな」

 

「もしセイバーの予感通りなら、聖杯側も反応する」

 

セイバーは即答した。

 

「だからこそ確認する」

 

「災厄なら、なおさら放置出来ん」

 

その時だった。

 

ギルガメッシュが愉快そうに笑い始める。

 

「フハハハハハ!!」

 

黄金の波紋が広がる。

 

空間から現れる無数の財宝。

 

剣。

杯。

宝石。

呪具。

神代兵装。

 

周囲の大気そのものが悲鳴を上げる。

 

「よかろう」

 

王は玉座のように立ちながら宣言した。

 

「雑種共」

 

「貴様らに、王の財を見せてやる」

 

その瞬間。

 

セイバーの魔眼が僅かに細まる。

 

――多い。

 

神秘の密度が異常だ。

 

まるで、一つ一つが“小さな聖杯”に近い。

 

ギルガメッシュは笑う。

 

「さて」

 

「万能の器とやらが、本当に“願望機”なのか」

 

赤い瞳が夜を見上げる。

 

「それとも、ただの呪われた穴なのか」

 

空気が張り詰める。

 

そして。

 

冬木の夜の奥で。

 

ほんの僅かに。

 

“黒い何か”が脈動した。

 

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