「――サーヴァント、マスター諸君。」
黒泥が荒れ狂う。
地下霊脈炉は既に崩壊寸前だった。
天井が軋み。
術式が砕け。
霊脈そのものが黒く染まりつつある。
世界の裏側。
その裂け目から、“人類悪”が半ば身を乗り出していた。
巨大な瞳。
無数の腕。
黒泥の海。
その存在だけで、空間法則そのものが歪み始める。
だが。
セイバー――キング・ブラッドレイは、一歩も退かなかった。
軍帽を深く被る。
右手の剣を構える。
令呪による魔力供給が、その肉体を限界以上へ押し上げている。
筋肉が裂ける。
骨が軋む。
それでも。
彼は笑った。
戦場へ立つ兵士のように。
「押し切るぞ!」
轟音。
その瞬間、全員が動いた。
まず最初に飛び出したのは、ライダー――I
「征くぞ、神威の車輪!!」
雷霆。
黄金の戦車が地下空間を裂き、黒泥の津波へ真正面から突撃する。
ドォォォォォン!!
稲妻が炸裂。
数百の泥人形が蒸発。
だが、その奥からさらに無数の腕が伸びる。
ライダーは笑う。
「ハハハハ!!その程度か怪物!!」
雷光を纏ったまま、深淵へ突っ込む。
続くのはランサー――
「穿て!!」
紅槍。
黄槍。
双槍が嵐のように回転する。
因果切断。
魔力破壊。
黒泥内部の“循環”を次々に断ち切っていく。
人類悪が絶叫した。
再生速度が落ちる。
アサシン――達は、完全に捨て身だった。
令呪強化。
自壊覚悟。
数十の影が四方から飛び込み、黒泥へ封印杭を突き刺していく。
爆散。
侵食。
消滅。
それでも止まらない。
まるで、“死ぬために戦っている”ようだった。
綺礼――、その様子を静かに見ていた。
恍惚とした表情で。
ギルガメッシュ――の背後では、“王の財宝”が完全展開。
空間を埋め尽くす神代宝具。
剣。
槍。
斧。
鎖。
数百。
数千。
「跪け、雑種。」
次の瞬間。
黄金の雨が降った。
ズドドドドドドドドド――――ッ!!
神造兵装が黒泥を貫く。
空間ごと爆散。
人類悪が初めて“後退”した。
だが。
それでも消えない。
霊脈から無限に湧き続ける。
その時。
ブラッドレイの究極の眼が、“一点”を捉えた。
深淵の奥。
巨大な瞳のさらに先。
黒泥全体を制御する、“最後の核”。
「見つけた。」
瞬間。
黒泥全体が反応。
無数の腕。
呪詛。
怨念。
その全てが、ブラッドレイへ殺到した。
まるで。
“そこへ行かせまい”とするように。
だが。
遅い。
ブラッドレイが消える。
神速。
次の瞬間には、黒泥の内部へ突っ込んでいた。
人類悪が悲鳴を上げる。
呪いが絡みつく。
肉体が腐食する。
それでも。
止まらない。
切嗣――が叫ぶ。
「セイバー!!」
ブラッドレイは振り返らない。
ただ前だけを見る。
究極の眼が、“終わり”を見据えていた。
「道を開けろ!!」
ライダーが咆哮。
雷撃が炸裂。
ランサーが泥を切り裂く。
ギルガメッシュの宝具群が空間を貫く。
アサシン達が封印線を形成。
全員が。
一人の剣士を、“核”へ送り届けるために動いていた。
そして。
ブラッドレイは、ついに辿り着く。
深淵の中心。
世界の穴。
人類悪、その核へ。
黒泥の最深部。
そこは既に、“世界の裏側”だった。
上下もない。
空気すら存在しない。
ただ、無限の悪意だけが渦巻いている。
憎悪。
絶望。
怨嗟。
人類が積み重ねてきた負感情の残滓。
その中心。
巨大な“核”が脈動していた。
まるで世界そのものの心臓。
黒く。
醜く。
禍々しい。
セイバー――キング・ブラッドレイは、その目前へ辿り着いていた。
だが。
その代償は大きい。
軍服は裂け。
身体は黒泥に焼かれ。
神剣を握る腕すら血に濡れている。
令呪強化によって無理やり動いている状態だった。
それでも。
彼の眼だけは死んでいない。
究極の眼が、“切るべき一点”を捉え続けている。
その時。
背後で、黒泥が爆ぜた。
無数の腕。
呪詛。
怨霊。
ブラッドレイへ襲い掛かる。
だが。
次の瞬間。
黒い斬撃が、それらをまとめて叩き斬った。
ズバァァァァッ!!
泥の波が両断される。
ブラッドレイが僅かに目を向ける。
そこに居たのは――。
ランスロット。
満身創痍だった。
全身は侵食され。
黒鎧は砕け。
霊核すら軋んでいる。
先程まで最前線で、人類悪の奔流を食い止め続けていたのだ。
本来なら、とうに消滅していてもおかしくない。
それでも。
騎士は立っていた。
黒い剣を握り締めながら。
その姿を見た瞬間。
ブラッドレイは、僅かに笑った。
軍人の笑み。
戦場で、信頼できる兵を見つけた男の顔。
「……ランスロット。」
狂気は、もう無い。
そこに居るのは、一人の騎士。
忠義に殉じた男。
ランスロットは無言のまま、ブラッドレイの隣へ並ぶ。
その視線は前。
巨大な核を睨み続けている。
背後では、黒泥の津波が再び迫っていた。
世界そのものが、二人を排除しようとしている。
だが。
ブラッドレイは静かに剣を構える。
「ランスロット。」
黒騎士が僅かに顔を向ける。
ブラッドレイは前を見たまま言った。
「背中は任せた。」
その瞬間。
ランスロットの目に、確かな光が宿った。
騎士として。
戦士として。
それ以上の言葉は不要だった。
彼は一歩前へ出る。
黒い魔力が噴き上がる。
砕けた鎧が軋む。
霊核が悲鳴を上げる。
それでも。
円卓最強の騎士は剣を構えた。
『―――。』
声にならない咆哮。
次の瞬間。
ランスロットが単身、黒泥の奔流へ飛び込む。
ズドォォォォォン!!
斬撃。
暴風。
黒泥が吹き飛ぶ。
無数の呪詛が、騎士へ殺到する。
侵食。
腐敗。
絶望。
だが、止まらない。
ランスロットはただ斬り続ける。
一歩も通さぬように。
背後の男へ届かせぬように。
その姿は、まるで。
罪を背負いながらも、最後まで騎士で在ろうとする亡霊だった。
ブラッドレイは静かに息を吐く。
そして。
再び、“核”へ視線を向ける。
究極の眼が見抜く。
あれを断てば終わる。
世界の穴は閉じる。
聖杯は消える。
だが。
同時に。
凄まじい反動が来る。
この場にいる誰が生き残るかすら分からない。
それでも。
ブラッドレイは笑った。
「……上等だ。」
サーベルを握る。
概念断裂。
令呪によってブーストされ、概念すら断ち切る。
二振りの神造兵装まで格上された、サーベルが唸りを上げる。
そして。
人類悪の核が、ゆっくりと脈動した。