冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第63話

「――サーヴァント、マスター諸君。」

 

黒泥が荒れ狂う。

 

地下霊脈炉は既に崩壊寸前だった。

 

天井が軋み。

術式が砕け。

霊脈そのものが黒く染まりつつある。

 

世界の裏側。

 

その裂け目から、“人類悪”が半ば身を乗り出していた。

 

巨大な瞳。

 

無数の腕。

 

黒泥の海。

 

その存在だけで、空間法則そのものが歪み始める。

 

だが。

 

セイバー――キング・ブラッドレイは、一歩も退かなかった。

 

軍帽を深く被る。

 

右手の剣を構える。

 

令呪による魔力供給が、その肉体を限界以上へ押し上げている。

 

筋肉が裂ける。

 

骨が軋む。

 

それでも。

 

彼は笑った。

 

戦場へ立つ兵士のように。

 

「押し切るぞ!」

 

轟音。

 

その瞬間、全員が動いた。

 

まず最初に飛び出したのは、ライダー――I

 

「征くぞ、神威の車輪!!」

 

雷霆。

 

黄金の戦車が地下空間を裂き、黒泥の津波へ真正面から突撃する。

 

ドォォォォォン!!

 

稲妻が炸裂。

 

数百の泥人形が蒸発。

 

だが、その奥からさらに無数の腕が伸びる。

 

ライダーは笑う。

 

「ハハハハ!!その程度か怪物!!」

 

雷光を纏ったまま、深淵へ突っ込む。

 

続くのはランサー――

 

「穿て!!」

 

紅槍。

 

黄槍。

 

双槍が嵐のように回転する。

 

因果切断。

 

魔力破壊。

 

黒泥内部の“循環”を次々に断ち切っていく。

 

人類悪が絶叫した。

 

再生速度が落ちる。

 

アサシン――達は、完全に捨て身だった。

 

令呪強化。

 

自壊覚悟。

 

数十の影が四方から飛び込み、黒泥へ封印杭を突き刺していく。

 

爆散。

 

侵食。

 

消滅。

 

それでも止まらない。

 

まるで、“死ぬために戦っている”ようだった。

 

綺礼――、その様子を静かに見ていた。

 

恍惚とした表情で。

 

ギルガメッシュ――の背後では、“王の財宝”が完全展開。

 

空間を埋め尽くす神代宝具。

 

剣。

槍。

斧。

鎖。

 

数百。

 

数千。

 

「跪け、雑種。」

 

次の瞬間。

 

黄金の雨が降った。

 

ズドドドドドドドドド――――ッ!!

 

神造兵装が黒泥を貫く。

 

空間ごと爆散。

 

人類悪が初めて“後退”した。

 

だが。

 

それでも消えない。

 

霊脈から無限に湧き続ける。

 

その時。

 

ブラッドレイの究極の眼が、“一点”を捉えた。

 

深淵の奥。

 

巨大な瞳のさらに先。

 

黒泥全体を制御する、“最後の核”。

 

「見つけた。」

 

瞬間。

 

黒泥全体が反応。

 

無数の腕。

 

呪詛。

 

怨念。

 

その全てが、ブラッドレイへ殺到した。

 

まるで。

 

“そこへ行かせまい”とするように。

 

だが。

 

遅い。

 

ブラッドレイが消える。

 

神速。

 

次の瞬間には、黒泥の内部へ突っ込んでいた。

 

人類悪が悲鳴を上げる。

 

呪いが絡みつく。

 

肉体が腐食する。

 

それでも。

 

止まらない。

 

切嗣――が叫ぶ。

 

「セイバー!!」

 

ブラッドレイは振り返らない。

 

ただ前だけを見る。

 

究極の眼が、“終わり”を見据えていた。

 

「道を開けろ!!」

 

ライダーが咆哮。

 

雷撃が炸裂。

 

ランサーが泥を切り裂く。

 

ギルガメッシュの宝具群が空間を貫く。

 

アサシン達が封印線を形成。

 

全員が。

 

一人の剣士を、“核”へ送り届けるために動いていた。

 

そして。

 

ブラッドレイは、ついに辿り着く。

 

深淵の中心。

 

世界の穴。

 

人類悪、その核へ。

 

黒泥の最深部。

 

そこは既に、“世界の裏側”だった。

 

上下もない。

 

空気すら存在しない。

 

ただ、無限の悪意だけが渦巻いている。

 

憎悪。

絶望。

怨嗟。

 

人類が積み重ねてきた負感情の残滓。

 

その中心。

 

巨大な“核”が脈動していた。

 

まるで世界そのものの心臓。

 

黒く。

醜く。

禍々しい。

 

セイバー――キング・ブラッドレイは、その目前へ辿り着いていた。

 

だが。

 

その代償は大きい。

 

軍服は裂け。

 

身体は黒泥に焼かれ。

 

神剣を握る腕すら血に濡れている。

 

令呪強化によって無理やり動いている状態だった。

 

それでも。

 

彼の眼だけは死んでいない。

 

究極の眼が、“切るべき一点”を捉え続けている。

 

その時。

 

背後で、黒泥が爆ぜた。

 

無数の腕。

 

呪詛。

 

怨霊。

 

ブラッドレイへ襲い掛かる。

 

だが。

 

次の瞬間。

 

黒い斬撃が、それらをまとめて叩き斬った。

 

ズバァァァァッ!!

 

泥の波が両断される。

 

ブラッドレイが僅かに目を向ける。

 

そこに居たのは――。

 

ランスロット。

 

満身創痍だった。

 

全身は侵食され。

 

黒鎧は砕け。

 

霊核すら軋んでいる。

 

先程まで最前線で、人類悪の奔流を食い止め続けていたのだ。

 

本来なら、とうに消滅していてもおかしくない。

 

それでも。

 

騎士は立っていた。

 

黒い剣を握り締めながら。

 

その姿を見た瞬間。

 

ブラッドレイは、僅かに笑った。

 

軍人の笑み。

 

戦場で、信頼できる兵を見つけた男の顔。

 

「……ランスロット。」

 

狂気は、もう無い。

 

そこに居るのは、一人の騎士。

 

忠義に殉じた男。

 

ランスロットは無言のまま、ブラッドレイの隣へ並ぶ。

 

その視線は前。

 

巨大な核を睨み続けている。

 

背後では、黒泥の津波が再び迫っていた。

 

世界そのものが、二人を排除しようとしている。

 

だが。

 

ブラッドレイは静かに剣を構える。

 

「ランスロット。」

 

黒騎士が僅かに顔を向ける。

 

ブラッドレイは前を見たまま言った。

 

「背中は任せた。」

 

その瞬間。

 

ランスロットの目に、確かな光が宿った。

 

騎士として。

 

戦士として。

 

それ以上の言葉は不要だった。

 

彼は一歩前へ出る。

 

黒い魔力が噴き上がる。

 

砕けた鎧が軋む。

 

霊核が悲鳴を上げる。

 

それでも。

 

円卓最強の騎士は剣を構えた。

 

『―――。』

 

声にならない咆哮。

 

次の瞬間。

 

ランスロットが単身、黒泥の奔流へ飛び込む。

 

ズドォォォォォン!!

 

斬撃。

 

暴風。

 

黒泥が吹き飛ぶ。

 

無数の呪詛が、騎士へ殺到する。

 

侵食。

腐敗。

絶望。

 

だが、止まらない。

 

ランスロットはただ斬り続ける。

 

一歩も通さぬように。

 

背後の男へ届かせぬように。

 

その姿は、まるで。

 

罪を背負いながらも、最後まで騎士で在ろうとする亡霊だった。

 

ブラッドレイは静かに息を吐く。

 

そして。

 

再び、“核”へ視線を向ける。

 

究極の眼が見抜く。

 

あれを断てば終わる。

 

世界の穴は閉じる。

 

聖杯は消える。

 

だが。

 

同時に。

 

凄まじい反動が来る。

 

この場にいる誰が生き残るかすら分からない。

 

それでも。

 

ブラッドレイは笑った。

 

「……上等だ。」

 

サーベルを握る。

 

概念断裂。

 

令呪によってブーストされ、概念すら断ち切る。

 

二振りの神造兵装まで格上された、サーベルが唸りを上げる。

 

そして。

 

人類悪の核が、ゆっくりと脈動した。

 

 

 

 

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