冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第74話

時計塔の門前。

 

 張り詰めていた空気の中、ブラッドレイは静かに肩を竦めた。

 

「ロード・エルメロイ、後は任せた」

 

 その言葉に、ケイネスは苛立たしげに眉を寄せる。

 

「当然だ。だから余計な真似はするな」

 

「善処しよう」

 

 ブラッドレイは平然と返した。

 

 そして、ふと周囲へ視線を巡らせる。

 

 赤い片眼――“究極の眼”が、霧の中を見通すように細められた。

 

「……それと、切嗣、言峰綺礼、ハサン」

 

 静かな声が響く。

 

「君達は、そろそろ殺気を抑えて、影から出てきてくれ。余計に話しづらくなるだろう?」

 

 その瞬間だった。

 

 時計塔側の魔術師達が、一斉に凍り付く。

 

「……は?」

 

 気付いていなかった。

 

 誰一人。

 

 そこに“居た”事に。

 

 次の瞬間。

 

 霧の奥、建物の影、街灯の上、石畳の隙間のような死角から――人影が現れる。

 

 音もなく。

 

 まるで最初からそこに存在していた亡霊のように。

 

 衛宮切嗣。

 

 言峰綺礼。

 

 そして。

 

 複数の“山の翁”――ハサン達。

 

 百貌。

 呪腕。

 静謐。

 そして名も無き影達。

 

 完全に気配を絶っていた暗殺者達が、静かに姿を現した。

 

 時計塔の魔術師達の顔色が、一瞬で青ざめる。

 

「な……っ」

 

「いつから……!?」

 

「馬鹿な、結界に一切反応が――」

 

 理解が追いつかない。

 

 時計塔の警備結界は、侵入者を感知する為のものだ。

 

 だが。

 

 彼らは、“最初からそこにいた”。

 

 結界を潜ったのではない。

 殺気も魔力も息遣いすら消し、認識から外れていた。

 

 だから、感知できなかった。

 

 ケイネスが額を押さえ、深々と溜息を吐いた。

 

「……貴様達、馬鹿か?」

 

 心底疲れた声だった。

 

「頼むから大人しくしていてくれ……」

 

 ロードとしての威厳より先に、本音が漏れている。

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 

 イスカンダルが腹を抱えて笑い出した。

 

「ハッハッハッハ!! 良い顔だぞロード・エルメロイ!!」

 

 隣では、ギルガメッシュまでもが口端を吊り上げる。

 

「ククク……貴様、本当に貧乏籤ばかり引く男だな」

 

「笑うな英雄王!!」

 

 ケイネスが怒鳴る。

 

 だが、その怒声すらどこか以前とは違っていた。

 

 殺気立ったものではない。

 

 半ば諦め混じりの、疲労した上官の声だ。

 

 ソラウが肩を震わせる。

 

「ふふ……」

 

「ソラウ、君まで笑うのか!?」

 

「だって、あなた、本当に苦労人みたいになってるもの」

 

 ウェイバーまで吹き出しそうになり、慌てて口を押さえる。

 

 そんな彼らを見ながら、切嗣は煙草を咥え、淡々と呟いた。

 

「警戒されるのは想定済みだ。なら、先に見せておいた方がいい」

 

「脅迫の間違いではないかね?」

 

 時臣が静かに突っ込む。

 

 綺礼が無表情のまま答えた。

 

「大差ない」

 

「あるわ!!」

 

 ケイネスの怒声が響いた。

 

 時計塔の魔術師達は、もはや完全に混乱していた。

 

 英霊。

 埋葬機関級の戦士。

 異常強化された魔術師。

 さらに気配遮断の達人達。

 

 その全員が、一つの集団として動いている。

 

 悪夢だった。

 

 しかも。

 

 誰一人として、互いを警戒していない。

 

 それが何より異常だった。

 

 本来、英霊など制御不能な災害に等しい。

 

 魔術師同士も利害で裏切り合う。

 

 なのに目の前の集団には、妙な統一感があった。

 

 血縁でもない。

 主従でもない。

 

 ただ。

 

 同じ地獄を生き残った者達だけが持つ空気。

 

 “戦友”。

 

 その形容が、異様なほど似合っていた。

 

 ブラッドレイが静かに前へ出る。

 

 その軍靴の音だけで、空気が張り詰める。

 

「安心したまえ」

 

 片眼の男は穏やかに言った。

 

「我々は、今日は殺しに来た訳ではない」

 

 その一言に。

 

 時計塔側の魔術師達は逆に背筋を凍らせた。

 

 ――“今日は”。

 

 その含みが、あまりにも重かった。

 

沈黙が落ちた。

 

 時計塔の門前。

 霧に包まれた石畳の上で、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、じとりとした目で“戦友達”を見渡した。

 

 イスカンダルは愉快そうに笑っている。

 ギルガメッシュは退屈そうに腕を組んでいる。

 切嗣は煙草を咥えたまま。

 綺礼は無表情。

 ハサン達に至っては、また半分ほど影へ沈みかけていた。

 

 ケイネスの額に青筋が浮かぶ。

 

(本当に、とんでもない連中を連れてきてしまった……)

 

 ロードとしての理性が頭痛を訴えていた。

 

 だが。

 

 今さら後戻りはできない。

 

 彼はゆっくりと息を吐く。

 

 そして。

 

 その瞬間、空気が変わった。

 

 先程まで疲弊した苦労人の顔をしていた男が、一瞬で“時計塔十二君主”の一人へ戻る。

 

 背筋が伸びる。

 瞳に宿る光が変わる。

 

 ロード・エルメロイ。

 

 魔術世界最高峰の権力者。

 

 その威圧感が、周囲の魔術師達を自然と黙らせた。

 

 ケイネスは静かに口を開く。

 

「――ロード・エルメロイの名において命じる」

 

 低く、よく通る声。

 

 命令に慣れた者の声だった。

 

「各学部代表、並びに時計塔上位陣へ緊急通達」

 

 周囲の魔術師達が姿勢を正す。

 

「本件は“聖杯戦争案件”を超える」

 

 その一言で、空気が凍った。

 

 時計塔において、“聖杯戦争”は極秘指定級の案件だ。

 

 その責任者たるロードが、“それ以上”と断言した。

 

 あり得ない事態だった。

 

 ケイネスは続ける。

 

「各代表達を、私の工房へ招集せよ」

 

 一拍。

 

「急げ」

 

 命令が落ちた瞬間、時計塔の魔術師達が一斉に動いた。

 

「はっ!」

 

「伝令急げ!」

 

「降霊科へ連絡!」

 

「法政科にも至急通達!」

 

 魔術通信が一斉に走る。

 

 使い魔が飛ぶ。

 術式回線が開かれる。

 地下深くの時計塔全域へ、“異常事態”が拡散していく。

 

 その光景を見ながら、ウェイバーは息を呑んでいた。

 

(これが……ロード……)

 

 ケイネスは傲慢だ。

 嫌味で、高慢で、面倒臭い。

 

 だが。

 

 今の姿には、確かに人を従わせる“格”があった。

 

 隣のイスカンダルがニヤリと笑う。

 

「ほう。やるではないか坊主の師よ」

 

「当然だ」

 

 ケイネスは鼻を鳴らした。

 

「私はロードだ。魔術師共を従わせる程度、出来なくてどうする」

 

 その言葉には、揺るぎない自負があった。

 

 ブラッドレイは静かに目を細める。

 

「頼もしい限りだ」

 

「フン。当然の役割分担だ」

 

 ケイネスは外套を翻し、一行へ振り返る。

 

「いいか、貴様ら」

 

 その視線は真剣だった。

 

「これから会うのは、時計塔でも特に厄介な連中だ」

 

 時臣が静かに頷く。

 

「降霊科、天体科、法政科……派閥主義者の巣窟ですな」

 

「加えて、“利益”に飢えた魔術師共だ」

 

 ケイネスは露骨に不快そうに言う。

 

「受肉した英霊など、連中からすれば“根源へ至る鍵”にしか見えん」

 

 その言葉に、ディルムッドの表情が険しくなる。

 

「つまり、我々を奪おうとする者が出ると」

 

「間違いなく出る」

 

 即答だった。

 

 切嗣が静かに周囲を見渡す。

 

「なら、ここから先は実質敵地だな」

 

「最初からそう言っている」

 

 ケイネスは疲れたように答えた。

 

 だが。

 

 その時だった。

 

 ブラッドレイの“究極の眼”が、ふと上空を見た。

 

 霧の遥か向こう。

 

 時計塔上層部。

 

 無数の視線。

 

 観測。

 探査。

 解析。

 

 既に、“見られている”。

 

 魔術師達が、こちらを覗いている。

 

 それも。

 

 好奇心と恐怖を混ぜた目で。

 

 ブラッドレイは静かに笑った。

 

「……なるほど」

 

「どうした、セイバー」

 

 綺礼が問う。

 

 ブラッドレイは時計塔を見上げたまま答える。

 

「歓迎は、随分と盛大らしい」

 

 その瞬間。

 

 時計塔上層から、強大な魔力反応が幾つも立ち上がった。

 

 空気が震える。

 

 まるで巨大な獣達が、一斉に目を覚ましたかのように。

 

時計塔上層部。

 

 霧の奥で幾つもの魔力が脈動している。

 

 観測。

 探査。

 威圧。

 牽制。

 

 中には、明確な“敵意”すら混じっていた。

 

 その空気を、“究極の眼”で見通したブラッドレイは、小さく口端を吊り上げる。

 

「……随分、好戦的な者も居るようだな?」

 

 その声音は穏やかだった。

 

 だが。

 

 彼の片眼は、既に幾つもの狙撃地点、結界の綻び、伏兵位置を把握していた。

 

 もし戦闘になれば。

 

 どこから誰が動き、誰が最初に死ぬか。

 

 既に計算済みだった。

 

 ケイネスは眉を顰める。

 

「当然だ。時計塔は巨大組織だぞ」

 

 苛立ち混じりに外套を翻した。

 

「慎重派も居れば、武闘派も居る。貴様らのような“未知”を見れば、力尽くで確保したがる馬鹿も出る」

 

「魔術師らしい」

 

 切嗣が皮肉げに呟く。

 

「合理的だろう?」

 

「狂ってるだけだ」

 

 即答だった。

 

 ケイネスは一瞬だけ不快そうに目を細めたが、否定はしない。

 

 むしろ、小さく鼻を鳴らした。

 

「……否定できんな」

 

 そのやり取りに、イスカンダルが豪快に笑う。

 

「ハッハッハ! 良いではないか! 力ある者に群がるのは人の常よ!」

 

「征服王だから言える台詞だな」

 

 ウェイバーが疲れた声で言う。

 

 その隣で、ギルガメッシュは退屈そうに天を仰いでいた。

 

「雑種共の視線など鬱陶しいだけだ」

 

 黄金の王の周囲で、空間が僅かに軋む。

 

 不機嫌になれば、即座に宝具が飛びかねない。

 

 ケイネスの胃が痛くなった。

 

(本当に、どうしてこうなった……)

 

 ロード・エルメロイとしての威厳を保ちながら、内心では頭を抱えている。

 

 だが。

 

 ブラッドレイはそんな空気を意に介さず、静かにケイネスへ視線を向けた。

 

「まぁ、それよりも――」

 

 軍服の男は、穏やかに言う。

 

「工房まで案内を頼むよ、ロード・エルメロイ」

 

 一瞬。

 

 ケイネスは少しだけ目を見開いた。

 

 “ロード・エルメロイ”。

 

 それは敬称だった。

 

 皮肉でも侮蔑でもなく。

 

 純粋に、対等な責任者として扱う声音。

 

 聖杯戦争の最中。

 

 誰も彼をそんな風には扱わなかった。

 

 才能ある魔術師。

 傲慢な貴族。

 鼻持ちならないロード候補。

 

 そういう目ばかりだった。

 

 だが今。

 

 地獄を越えた処刑人は、真正面から彼を“指揮官”として見ている。

 

 ケイネスは数秒黙った後、フンと鼻を鳴らした。

 

「当然だ」

 

 外套を翻す。

 

「ついてこい。私の工房は、この時計塔でも最高峰の設備を誇る」

 

 その言葉に、ソラウが小さく笑う。

 

「自慢は忘れないのね」

 

「事実を言っているだけだ」

 

「はいはい」

 

 その空気に、僅かな緩みが生まれる。

 

 だが。

 

 時計塔側の魔術師達は違った。

 

 彼らは困惑していた。

 

 理解できない。

 

 なぜ、あの危険極まりない集団が、こんなにも自然に会話しているのか。

 

 英霊と魔術師。

 代行者と暗殺者。

 王と処刑人。

 

 本来なら決して交わらない存在達。

 

 なのに。

 

 その背中には、奇妙な信頼感があった。

 

 “戦友”。

 

 その言葉が脳裏を過る。

 

 ケイネスは先頭を歩き始める。

 

 時計塔内部へ続く巨大な回廊。

 

 古い石壁には無数の術式が刻まれ、空間そのものが魔術工房となっている。

 

 進む度に、視線が増えていく。

 

 学生。

 講師。

 封印指定執行者。

 各学部の魔術師達。

 

 彼らは皆、足を止めていた。

 

 受肉した英霊達を見ている。

 

 生ける伝説。

 

 神話。

 

 英雄そのもの。

 

「本当に……サーヴァントなのか……」

 

「有り得ない……」

 

「魔力反応が人間と完全に融合している……」

 

「どうやって現界維持を……」

 

 ざわめきが広がる。

 

 そして。

 

 その視線は次第に、“研究対象を見る目”へ変わり始めていた。

 

 ブラッドレイの片眼が、静かに細まる。

 

 ギルガメッシュも気付いていた。

 

 イスカンダルも。

 切嗣も。

 綺礼も。

 

 この場所は、平和な学び舎ではない。

 

 欲望の巣窟だ。

 

 根源へ至る為なら、人間性すら切り捨てる者達の国。

 

 その中心を、一行は歩いている。

 

 そしてその時。

 

 回廊の奥から、一人の老魔術師が現れた。

 

 深い紫のローブ。

 無数の魔術刻印。

 鋭い眼光。

 

 ただ歩くだけで、周囲の空気が重くなる。

 

 時計塔上位者。

 

 間違いなく、ロード級に近い怪物。

 

 老魔術師は、一行を見た瞬間――。

 

 ギルガメッシュで止まり。

 イスカンダルで止まり。

 最後に、ブラッドレイを見て、目を細めた。

 

「……なるほど」

 

 低い声が響く。

 

「確かに、“聖杯戦争程度”では済まんな、これは」

 

無数の視線。

 

 回廊の上層。

 観測窓。

 魔術礼装越しの監視。

 使い魔の眼。

 

 時計塔そのものが、一行を観察していた。

 

 受肉した英霊。

 異常変質した魔術師。

 黒泥を越えた生存者達。

 

 それは、魔術世界にとって“未知の塊”だった。

 

 そして魔術師は、未知を前にすると二つの顔を見せる。

 

 恐怖か。

 好奇心か。

 

 今、一行へ向けられているのは、その両方だった。

 

 ブラッドレイは周囲を見渡し、小さく肩を竦める。

 

「……流石に、こういった視線は慣れんな」

 

 片眼の男は、可笑しそうに笑った。

 

「まるで見世物だな」

 

 その言葉に、周囲の時計塔魔術師達が僅かに表情を強張らせる。

 

 図星だった。

 

 彼らは警戒している。

 恐れている。

 

 だが同時に、“観察”していた。

 

 希少な幻想種を見るように。

 未知の標本を見るように。

 

 ギルガメッシュが鼻で笑う。

 

「当然だ雑種共。貴様らは檻の外から獅子を眺めているつもりなのだろう」

 

 黄金の瞳が細まる。

 

「だが実際は逆だ」

 

 その瞬間、空気が軋んだ。

 

 魔術師達が息を呑む。

 

 たった一言。

 それだけで、圧力が生まれる。

 

 王とは、それだけで世界を塗り替える存在だ。

 

 イスカンダルは豪快に笑った。

 

「ハッハッハ! 良いではないか! これほどの英雄達が揃っておるのだ! 目立つのも当然よ!」

 

「お前は少し静かにしていろ」

 

 切嗣が即座に返す。

 

「む? 何故だ?」

 

「余計に目立つ」

 

「既に十分目立ってんだよ!」

 

 ウェイバーが半泣きで叫んだ。

 

 そのやり取りに、何人かの時計塔魔術師が呆気に取られる。

 

(……本当に、サーヴァントか?)

 

 伝説の英雄達。

 

 本来なら、人類史に刻まれる超常存在。

 

 だが彼らは今、妙に“人間臭い”。

 

 笑い。

 呆れ。

 軽口を叩き合っている。

 

 その異様さが、逆に現実感を狂わせる。

 

 老魔術師が静かにブラッドレイを見る。

 

「君は随分と落ち着いているな、セイバー」

 

 低い声。

 

「時計塔に来れば、こうなる事は予測していただろう?」

 

 ブラッドレイは歩みを止めず答えた。

 

「当然だ」

 

 迷いのない即答。

 

「私は元々、“異端を見る側”の人間だったのでね」

 

 その一言で、空気が変わる。

 

 埋葬機関。

 

 その単語こそ出なかったが、上位魔術師達は即座に理解した。

 

 ――この男は、“狩る側”だった。

 

 研究対象ではない。

 

 怪物処理の専門家。

 

 しかも。

 

 その視線には、時計塔そのものへの警戒と分析があった。

 

 老魔術師の目が細まる。

 

「……なるほど。君が“あの埋葬機関”の人間か」

 

「元、だよ」

 

 ブラッドレイは軽く笑った。

 

「既に退職、いや殉職した身だな」

 

「それで済む組織ではあるまい」

 

「違いない」

 

 その返答に、老魔術師は一瞬だけ口元を歪めた。

 

 笑ったのだ。

 

 時計塔の怪物が。

 

 周囲の若い魔術師達が息を呑む。

 

 あり得ない光景だった。

 

 だが。

 

 彼ら上位者は理解していた。

 

 目の前の片眼の男は、“危険”だ。

 

 単純な戦闘能力だけではない。

 

 経験。

 精神性。

 覚悟。

 

 黒泥を浴びても壊れなかった理由が、会話だけで伝わってくる。

 

 そして何より。

 

 この異常集団の中心に居る。

 

 王達ですら、自然と彼を軸に動いている。

 

 それが恐ろしかった。

 

 ケイネスが苛立たしげに振り返る。

 

「いい加減、廊下で立ち話をするな」

 

 彼は周囲の視線を睨みつけた。

 

「貴様らも見るな! 散れ!」

 

 ロードの怒声が響いた瞬間、周囲の学生達が慌てて散っていく。

 

 だが、それでも視線は消えない。

 

 遠巻きに観察している。

 

 噂は既に時計塔中を駆け巡っていた。

 

 “受肉した英霊達が来た”。

 

 その事実は、間違いなく魔術世界を揺るがす。

 

 そして。

 

 彼らが進む先――ロード・エルメロイの工房。

 

 そこでは既に。

 

 時計塔各派閥の代表達が集まり始めていた。

 

 

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