笑い声が、ゆっくりと静まっていく。
時計塔との交渉は終わった。
完全な友好ではない。
疑念も警戒も残っている。
だが。
少なくとも、“今すぐ敵対するつもりはない”という総意は引き出せた。
それは十分過ぎる成果だった。
そんな空気の中。
ブラッドレイは静かに口を開く。
「……さて」
片眼の男の声音が、僅かに低くなる。
「次は、埋葬機関だな」
その瞬間。
工房内の空気が変わった。
先程まで比較的余裕を見せていた時計塔の怪物達ですら、表情を引き締める。
埋葬機関。
聖堂教会最強戦力。
異端、死徒、怪異を“滅ぼす”為だけに存在する怪物達。
そして。
その内部を知る男が、今ここにいる。
ブラッドレイは静かに続けた。
「こちらに関しては――」
一拍。
「確実に戦闘は起きる」
断言だった。
誰も、否定しない。
時計塔との違いは明白だ。
時計塔は合理で動く。
利益で妥協する。
だが、埋葬機関は違う。
連中は、“異端を狩る”事そのものが使命だ。
受肉した英霊。
変質した人間。
黒泥を越えた存在。
そんなものを見て、“放置”だけで済む筈がない。
老魔術師が低く唸る。
「……ナルバレックか」
「ええ」
ブラッドレイは頷いた。
「あの女は、“危険”と判断したなら迷わない」
その声音には、僅かな敬意が混じっていた。
元上司。
怪物。
そして、自分と同じ“狩る側”の人間。
ブラッドレイはよく理解している。
ナルバレックは、情で判断する人物ではない。
世界を守る為なら、必要な犠牲を躊躇わない。
イスカンダルが腕を組む。
「ふむ。つまり、“話し合いながら殴り合う”訳か」
「大体そんな感じだ」
ブラッドレイは平然と言った。
ウェイバーが顔を引き攣らせる。
「それ交渉って言うの……?」
「埋葬機関相手なら十分穏便だ」
切嗣が真顔で答えた。
「冗談だろ……?」
「いや」
綺礼まで頷く。
「むしろかなりマシな部類だ」
ウェイバーは頭を抱えた。
時計塔の魔術師達ですら、何とも言えない顔をしている。
法政科の壮年魔術師が静かに口を開く。
「……こちらから忠告しておこう」
視線が戦友達へ向く。
「埋葬機関は、時計塔以上に危険だ」
「分かっている」
ブラッドレイは即答した。
「私が育った場所だからな」
その一言が重い。
あの怪物集団の中で、“番外次席”まで上り詰めた男。
それがどれほど異常か。
工房の誰もが理解していた。
天体科の女魔術師が静かに問う。
「勝てるのか?」
空気が静まる。
単純な疑問。
だが、本質だった。
埋葬機関。
教会最悪の処刑人達。
それを相手に。
この戦友達は、本当に勝てるのか。
その時。
ギルガメッシュが、退屈そうに笑った。
「質問が矮小だな」
黄金の王は、当然のように言う。
「勝つに決まっているだろう」
絶対的な自信。
そこに虚勢は一切ない。
イスカンダルも豪快に笑う。
「ハッハッハ! 違いない!」
征服王の隻眼が獰猛に細まる。
「余も興味がある! “現代最強の処刑人共”とな!」
ディルムッドは静かに槍へ触れる。
「騎士として、全力を尽くしましょう」
ハサン達の影が揺らぐ。
「異端狩り」
「暗殺者」
「望むところ」
「問題ない」
切嗣は煙草を揉み消した。
「……まぁ、避けられないならやるだけだ」
綺礼は淡々としている。
「むしろ、埋葬機関が大人しく引く姿が想像できん」
「私もだ」
ブラッドレイが苦笑した。
そして。
片眼の男は、静かに時計塔の怪物達を見る。
「とはいえ、安心したまえ」
穏やかな声。
「こちらからロンドンで暴れるつもりはない」
法政科の魔術師が即座に返す。
「是非そうしてくれ」
本気だった。
もし。
受肉英霊達と埋葬機関がロンドンで激突すれば。
被害は洒落にならない。
ブラッドレイは小さく笑う。
「出来れば、向こうもそう思ってくれていると助かるのだがね」
その言葉に。
何人かの時計塔魔術師が、同時に思った。
――多分、無理だな、と。
時計塔との交渉を終えた一行は、静かに工房を後にした。
だが。
先程までの空気とは違う。
全員が理解している。
ここから先は、“本番”だと。
時計塔は理性で動く。
利益で妥協する。
だが埋葬機関は違う。
連中は、“必要なら殺す”。
それが前提の組織だ。
工房を出た後。
ブラッドレイは歩きながら、静かに口を開いた。
「向かう途中に、死徒に遭遇する可能性もある」
その瞬間。
戦友達の空気が自然に切り替わる。
イスカンダルの笑みが獰猛になる。
ディルムッドの姿勢が低くなる。
ハサン達の気配が、街の影へ溶ける。
切嗣は既に周囲の逃走経路を確認していた。
綺礼は淡々と黒鍵へ指を添える。
ギルガメッシュだけは退屈そうだったが、その黄金の瞳は既に周囲を観測している。
ブラッドレイは続けた。
「各々、警戒はしていてくれ」
短い言葉。
だが、この場にいる者達に説明は不要だった。
死徒。
特にロンドン地下は危険だ。
時計塔の近辺ですら、吸血種の影は完全には消えない。
むしろ。
神秘が濃い土地ほど、怪物も集まる。
ウェイバーが小声で呟く。
「……なんでそんな危険地帯に住んでるんだよ、この街」
「魔術師と死徒は、昔から腐れ縁だからな」
切嗣が淡々と返した。
「最悪だ……」
ソラウが小さく溜息を吐く。
「本当に、日常へ戻れる気がしないわね」
「無理だろうな」
ブラッドレイが即答した。
あまりに自然な断言だった。
そのせいで逆に、数人が吹き出しそうになる。
そして。
片眼の男は、静かにロンドンの地下方向へ視線を向けた。
「さて、行くかね」
その声音が、少しだけ低くなる。
「この街の地下に、埋葬機関本部への転移術式が刻まれた魔法陣がある筈だ」
時計塔側の魔術師達が僅かに反応する。
当然だ。
埋葬機関直通転移陣。
そんな危険物、普通は存在自体が秘匿される。
だが。
ブラッドレイは平然としていた。
「私が生きていた頃は有った」
さらりと言う。
その一言で、逆に恐ろしさが伝わる。
つまり。
この男は、本当に埋葬機関の深部を知っている。
しかも転移座標レベルで。
法政科の壮年魔術師が顔を顰めた。
「……消されていない事を祈る」
「私もだ」
ブラッドレイは苦笑する。
「もし無いなら、かなり大変だ」
ウェイバーが恐る恐る聞いた。
「……どれくらい?」
数秒、沈黙。
そして。
ブラッドレイは静かに答える。
「地下墓所区画を徒歩で突破する」
ウェイバーの顔色が消えた。
「嫌すぎる!!」
イスカンダルが爆笑する。
「ハッハッハ!! 面白いではないか!」
「全然面白くない!!」
ケイネスまで露骨に嫌そうな顔をした。
「……あそこは私でも行きたくない」
時計塔側の魔術師達が深く頷く。
ロンドン地下墓所。
神秘と呪いの吹き溜まり。
死徒。
霊体。
呪詛。
異端。
ありとあらゆる怪異が沈殿した危険地帯。
埋葬機関ですら、定期的に掃除している魔境だった。
綺礼が静かに言う。
「なるほど。だから“途中で戦闘になる可能性”か」
「そういう事だ」
ブラッドレイは頷く。
そして。
その赤い片眼が、戦友達を見渡した。
「……まぁ」
小さく笑う。
「君達なら、多少怪物が増えた程度では問題あるまい?」
その瞬間。
ギルガメッシュが不敵に笑った。
「当然だ」
イスカンダルが豪快に肩を鳴らす。
「良いではないか! 地下迷宮に怪物退治! まるで神話だぞ!」
ディルムッドも静かに笑った。
「久々に、騎士らしい戦いになりそうですな」
ハサン達の影が揺れる。
「問題ない」
「いつも通り」
「狩るだけだ」
切嗣が煙草を咥え直す。
「……結局、また地獄か」
「慣れたろう?」
ブラッドレイが言う。
切嗣は数秒沈黙し。
やがて、諦めたように笑った。
「……まぁな」
その時だった。
ロンドン地下から――。
微かに。
何かが、“こちらを見た”。
ロンドン地下――。
時計塔の地下深部へ続く、忘れ去られた古い鉄道跡。
湿った石壁には、かつて刻まれた魔術刻印が薄く残り、腐臭と鉄錆の匂いが漂っていた。
その闇の中を、異様な集団が進んでいた。
先頭を歩くのは、黒い軍服姿の男――
キング・ブラッドレイ
その隻眼が、闇を裂くように細められる。
そして。
「――諸君、喜べ。」
ブラッドレイは、口元を僅かに吊り上げた。
「死徒が来たぞ?」
空気が変わった。
直後。
暗闇の天井に――“何か”が張り付いていた。
いや、一体ではない。
無数。
赤い眼。
痩せ細った四肢。
人間だったもの。
長い年月を地下で過ごし、完全に理性を腐らせた下級死徒の群れ。
さらに奥。
濃密な殺気。
“上位種”がいる。
「……成程。」
静かに呟いたのは、
言峰綺礼
「歓迎は受けているらしい。」
次の瞬間だった。
天井から、死徒の群れが一斉に落下した。
――ギャアアアアアアアア!!
「雑種風情が。」
黄金の波紋。
空間が裂け、
ギルガメッシュの背後から宝具が射出される。
轟音。
死徒の群れが肉片へ変わった。
しかし、それでも止まらない。
左右の暗闇から、別の群れが迫る。
「ハッ!! いいではないか!!」
豪快に笑ったのは、
イスカンダル。
雷鳴のような足音と共に突撃。
死徒を片手で掴み、そのまま石壁へ叩き潰す。
骨が砕け、地下道が揺れた。
一方。
「前衛を維持しろ!」
叫ぶ
ケイネスの水銀礼装が奔流となって通路を封鎖。
後方では、
切嗣が冷徹に魔術回路を撃ち抜いていく。
一切の躊躇がない。
人間なら救いを考えたかもしれない。
だが、これは既に“人”ではない。
「数が多いな。」
低く呟く
ディルムッド
その槍が一閃する度、
死徒の肉体と呪いが同時に断ち切られていく。
だが。
ブラッドレイは動かなかった。
彼だけが、
遥か奥を見ていた。
「……居るな。」
地下の最深部。
転移術式の方向。
そこに、
“本命”がいる。
次の瞬間。
暗闇の奥で、
二つの紅い眼が開いた。
空気が凍る。
下級死徒とは比較にならない圧力。
長い年月を生きた、
真祖に近い領域の怪物。
そして。
その存在は、
ブラッドレイを見た瞬間――止まった。
「……貴様。」
掠れた声。
「何故、貴様が生きている……“墓守”。」
空気が張り詰める。
ブラッドレイは静かに軍帽を被り直した。
「久しいな、死徒。」
その隻眼が、獣のように細まる。
「では――地下清掃を始めようかね。」
地下空間に、金属音が静かに響いた。
――シャリン。
King Bradleyは、腰から二振りの銀製サーベルを抜き放つ。
その刀身は、ただの銀ではない。
埋葬機関が用いる聖別銀。
長年に渡り、祈りと秘跡を刻まれ続けた“死徒殺し”の武装。
刀身を見た瞬間、
奥に潜む上位死徒の顔色が変わった。
「……その剣……!」
ブラッドレイは歩みを止めない。
軍靴が、血溜まりを踏み潰す。
「さて、戦友諸君。」
静かな声。
だが、その場にいる全員が自然と耳を傾けていた。
「私から死徒の殺し方をレクチャーしよう。」
その言葉に、
ウェイバーが僅かに眉を動かす。
「……普通に首を落とせば死ぬんじゃないのか?」
ブラッドレイは鼻で笑った。
「雑魚ならな。」
次の瞬間。
彼の姿が消えた。
否。
“踏み込んだ”。
一歩。
たった一歩で、
十数メートル先の死徒の懐へ入り込んでいた。
死徒が反応するより早く。
銀閃。
右のサーベルが首を裂き、
左のサーベルが心臓を貫く。
同時。
刀身に刻まれた秘跡が発光した。
――ギャアアアアアアア!?
断末魔。
死徒の肉体が、灰のように崩れていく。
ブラッドレイは振り返りもせずに言った。
「第一。
死徒は“再生する”。」
また一歩。
今度は背後から飛び掛かった死徒を、視線すら向けず斬り伏せる。
「第二。
脳、心臓、霊核。
最低でも二つは同時に潰せ。」
斬撃。
爆ぜる血。
銀が肉を焼き、
呪いそのものを削り取っていく。
「第三。」
その瞬間。
上位死徒が超高速で踏み込んだ。
人間では視認不能。
だが。
キィィィン!!
火花。
ブラッドレイの双剣が、既にその爪を受け止めていた。
「“油断するな”。」
死徒の眼が見開かれる。
「な――」
隻眼。
究極眼が、
筋肉の収縮。
血流。
魔力循環。
殺意。
全てを読んでいた。
ブラッドレイは至近距離で嗤う。
「死徒は、窮地ほど知性を取り戻す。」
瞬間。
片方の剣が絡め取るように爪を逸らし、
もう片方が胴を横一文字に切断した。
しかし。
死徒は笑った。
切断面から無数の肉槍が噴き出す。
「死ね、“墓守”――!」
だが次の瞬間。
銃声。
――パンッ!!
後方から放たれた起源弾。
切嗣の一撃が、
死徒の魔力流動を完全に破壊する。
動きが止まった。
その隙を、
ブラッドレイは見逃さない。
「良い援護だ、切嗣。」
二本の銀刃が交差する。
十字。
埋葬。
「さらばだ、化け物――」
閃光。
「――スンッ。」
斬。
空間そのものが裂けたような一撃。
上位死徒の身体が、
十字に崩壊した。
断末魔すら残らない。
静寂。
地下道に、
灰だけが舞う。
数秒後。
ギルガメッシュが鼻を鳴らした。
「ほう。
雑種にしては、なかなか愉快な剣技だ。」
「恐ろしい男だな……。」
と、
イスカンダルが笑う。
一方。
奥の暗闇では。
まだ、“何か”が動いていた。
下級でもない。
今の上位種でもない。
もっと古く、
もっと深い“死”。
ブラッドレイの表情が、僅かに険しくなる。
「……戦友諸君。」
双剣を構え直し、
地下最深部を見据える。
「どうやら、“27祖”に連なる類が居るらしい。」
地下の空気が変わった。
先程まで余裕を見せていた魔術師達ですら、
その言葉には反応せざるを得なかった。
「――死徒二十七祖。」
ブラッドレイが静かに口にした瞬間、
地下道に重苦しい沈黙が落ちる。
それは単なる“強敵”を意味しない。
魔術世界における、
災害。
神秘。
禁忌。
人類史の裏側に存在する、
怪物達の頂点。
ブラッドレイは歩きながら続けた。
「死徒の頂点に位置する、死徒二十七祖と戦闘経験のある者は?」
その問いに、
即座に答えたのは、
ケイネスだった。
「……現代の時計塔でも、極少数だ。」
険しい顔。
「討伐隊に参加した程度なら居る。だが、“単独で相対した”となれば話は別だ。」
遠坂時臣も低く続ける。
「祖は一柱ごとに災害指定。
国が滅ぶ事すらある。」
「ふむ。」
笑ったのは、
ギルガメッシュ。
「神を僭称する吸血種か。
滑稽極まる。」
だが、
その英雄王ですら、
完全には侮っていなかった。
ブラッドレイは説明を続ける。
「古参の祖ならば、神代から生きている者もいる。」
地下の奥。
闇が脈打つ。
「上位は、神霊や神に近い存在もいる。」
その言葉に、
ウェイパーが息を呑んだ。
「神代って……
冗談じゃないぞ……。」
「冗談ではない。」
返したのは、
言峰綺礼
神父の表情は冷静そのものだった。
「埋葬機関が単独で討伐できる祖は限られる。
故に、聖堂教会と時計塔は互いを嫌悪しながらも、祖への対応では協力せざるを得ない。」
「その通りだ。」
ブラッドレイが頷く。
「時計塔ならば有名だろう?
死徒二十七祖第三位――」
その瞬間。
時計塔組の空気が僅かに張り詰めた。
「――宝石翁。」
その名は、
魔術師にとって伝説だった。
キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ
魔法使い。
第二魔法。
並行世界運用。
そして。
“死徒でありながら、人類側に立つ怪物”。
「祖でありながら、
魔法使い……。」
ウェイバーが呆然と呟く。
「意味が分からない……。」
「分からんでいい。」
ブラッドレイは即答した。
「理解しようとすると、頭がおかしくなる。」
その場にいた何人かが真顔で頷いた。
実際、
時計塔ですら、
ゼルレッチは“説明不能の災害”として扱われている。
そして。
ブラッドレイはそこで、
僅かに声を低くした。
「……ちなみに。」
「埋葬機関が“見つけ次第逃げろ”と判断している祖も存在する。」
流石に、
その場の空気が凍る。
「おいおい。」
イスカンダルが笑みを引き攣らせる。
「教会の化け物共が逃げる相手か?」
「ああ。」
ブラッドレイは即答した。
「真正面から戦えば、
サーヴァントですら消耗無しでは済まん。」
その言葉に、
ディルムッドすら沈黙した。
だが。
その時だった。
地下最深部。
転移術式が存在する方向から。
――ドクン。
巨大な鼓動のような音。
地下全体が脈動する。
同時。
暗闇の奥で、
ゆっくりと“何か”が立ち上がった。
人型。
だが、
大きすぎる。
そして。
その存在が姿を現した瞬間。
時計塔の魔術師達の顔色が変わった。
「……ッ!?」
「馬鹿な……!」
空気が歪む。
魔力ではない。
“存在そのもの”が周囲を書き換えている。
ブラッドレイの隻眼が細まる。
「成程。」
双剣を構える。
「地下通路の主か。」
そして、
怪物は笑った。
それは、
人類を遥か昔に辞めた者の笑みだった。
地下通路に響いていた異形達の唸り声が、
一瞬だけ遠のいたように感じられた。
誰も口を挟まない。
ただ、
ブラッドレイの言葉だけが、
重く地下へ沈んでいく。
「生前の私が殺した死徒二十七祖は、二体。」
ブラッドレイは淡々としていた。
まるで、
昔の戦歴でも語るように。
「十九位と二十三位だ。」
だが。
その場にいた時計塔の魔術師達は、
誰一人として平静ではいられなかった。
二十七祖。
それは、
一柱討伐するだけで、
聖堂教会と時計塔双方に歴史として刻まれる怪物。
それを“二体”。
しかも。
単独で。
「……冗談だろ。」
掠れた声を漏らしたのは、
ウェイバーだった。
「祖を二体討伐した人間なんて……。」
「居る。」
短く返したのは、
言峰綺礼
その目は、
ブラッドレイから逸れない。
「だからこそ、
彼は“埋葬機関の例外”だった。」
ブラッドレイは静かに続ける。
「だが、
この目と剣でも、殺し切れなかった。」
隻眼が、
ゆっくりと地下奥の闇を見る。
「まぁ、相性が悪かったのも有るが。」
その口調に誇張は無い。
純粋な事実。
それが逆に、
その怪物達の異常性を際立たせていた。
「最終的には――」
そこで、
ブラッドレイは僅かに笑った。
乾いた、
軍人の笑み。
「私自身を囮に、
霊脈ごと、周りの死徒諸共道連れにした。」
沈黙。
地下の空気が、
重く沈む。
「それが私の生前の最期だった。」
誰もすぐには言葉を返せなかった。
遠坂時臣ですら、
僅かに目を伏せる。
ケイネスの表情も険しい。
魔術師は死を恐れない。
だが、
それは“理解可能な死”に限る。
祖と相討ち。
しかも、
霊脈そのものを爆破して。
それは最早、
人間の戦いではない。
すると。
「ハッ!」
突然、
豪快な笑い声が響いた。
イスカンダルだった。
「良いではないか!!
実に武人らしい最期だ!」
地下が揺れるほどの大声。
「怪物を道連れに、自らも散る!
それでこそ英雄よ!」
「征服王……。」
ウェイバーが頭を抱える。
だが。
意外にも、
ギルガメッシュが不快そうにはしなかった。
黄金の王は腕を組み、
鼻を鳴らす。
「ふん。
雑種にしては見事な死に様だ。」
それは、
彼なりの賞賛だった。
一方。
切嗣だけは、
静かにブラッドレイを見ていた。
「……なるほどな。」
短い言葉。
だが、
そこには理解があった。
切嗣には分かる。
“自分が死ぬ前提でしか勝てない敵”。
それと戦い続けた者の覚悟が。
その時。
地下最深部の怪物が、
初めて明確な殺意を放った。
――ゴォォォォ……
空気が腐る。
壁面が黒ずみ、
周囲の死徒達が跪く。
王への拝礼。
そして、
巨大な影が嗤った。
「……ああ。
思い出したぞ、“隻眼の墓守”。」
低い声。
粘つくような、
古い血の臭い。
「貴様か。
我が同胞を二柱、地獄へ送った狂人は。」
ブラッドレイは、
静かに双剣を構えた。
「覚えていて貰えて光栄だ。」
隻眼が、
紅い闇を射抜く。
「では――」
その瞬間。
彼の魔力が、
地下空間を震わせた。
「戦友諸君。
少々、“大物”だぞ。」