冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

8 / 58
第8話

『招かれざる怪物』

 

冬木市――深夜。

 

海から吹く冷たい風が街を撫でていた。

 

聖杯戦争。

 

その名を知る者達は、既に水面下で動き始めている。

 

だが今回。

 

彼らが最も警戒している存在は、聖杯そのものではなかった。

 

“黒剣のセイバー”。

 

その存在が、静かに各陣営へ波紋を広げていた

 

 

 

■ケイネス陣営

 

『時計塔の誇り』

 

冬木ハイアットホテル。

 

最上階。

 

豪奢なスイートルームで、ロード・エルメロイⅡ世以前の当主――。

 

ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、不機嫌そうに資料を机へ叩きつけた。

 

「埋葬機関だと?」

 

苛立ちを隠さない声。

 

その向かいには、ランサーのサーヴァント。

 

ディルムッド・オディナ。

 

彼は静かに主を見つめている。

 

「しかも番外次席……ふざけているのか」

 

ケイネスは鼻で笑う。

 

「聖堂教会も随分と趣味が悪い」

 

ソラウがワインを揺らしながら問う。

 

「そんなに危険なの?」

 

「危険などという話ではない」

 

ケイネスは鋭く言い切る。

 

「埋葬機関は、魔術師ですら避ける処刑部隊だ」

 

ディルムッドが静かに口を開く。

 

「それほどの者なのですか」

 

「死徒二十七祖を二体道連れにした男だぞ」

 

空気が重くなる。

 

ソラウですら表情を変えた。

 

死徒二十七祖。

 

それは怪物の頂点。

 

国家規模の災害。

 

一体でも討伐困難。

 

それを二体。

 

しかも相打ち。

 

「……人間なの?」

 

ソラウが呟く。

 

ケイネスは忌々しげに答える。

 

「人間だから厄介なのだ」

 

魔術師ではない。

 

幻想種でもない。

 

純粋な“人間”がそこへ至っている。

 

それが異常だった。

 

ディルムッドは静かに目を閉じる。

 

「強者、か」

 

その声には武人としての興味があった。

 

ケイネスは即座に釘を刺す。

 

「無用な接触はするな、ランサー」

 

「……」

 

「白兵戦では貴様ですら危うい」

 

ソラウが驚く。

 

「ランサーが?」

 

「奴の逸話を見ろ」

 

ケイネスは資料を睨む。

 

“都市内近接戦闘にて死徒軍勢七百体殲滅”

 

“封印指定執行官十二名殺害”

 

“吸血種上位個体単独討伐”

 

常軌を逸している。

 

もはや戦績ではない。

 

災害記録だ。

 

「化物め……」

 

ケイネスは低く呟いた。

 

 

■ウェイバー陣営

 

『征服王の笑い声』

 

一方。

 

安宿。

 

薄暗い部屋。

 

そこでウェイバー・ベルベットは頭を抱えていた。

 

「なんでだよぉぉぉ……!」

 

机へ突っ伏す。

 

その前では、ライダー――征服王イスカンダルが豪快に肉を食っていた。

 

「ガッハッハ! 面白いではないか坊主!」

 

「どこが!?」

 

ウェイバーが叫ぶ。

 

「死徒二十七祖二体討伐って何!? 英霊じゃなくてバグだろ!?」

 

「バグ?」

 

「理不尽って意味だよ!」

 

イスカンダルは豪快に笑う。

 

「良い良い! 強い奴は歓迎だ!」

 

「こっちは歓迎したくない!」

 

ウェイバーは資料を見る。

 

そして青ざめる。

 

「接近戦最強格って書いてある……」

 

「ふむ」

 

「しかも衛宮切嗣のサーヴァントとか最悪だろ!」

 

イスカンダルは愉快そうだった。

 

「坊主よ」

 

「な、なんだよ」

 

「余は会ってみたいぞ、そのセイバーに」

 

ウェイバーが絶望顔になる。

 

「やめて」

 

「何故だ?」

 

「絶対気が合うタイプだから!」

 

戦闘狂。

 

覇者。

 

豪胆。

 

間違いなく盛り上がる。

 

そして巻き込まれる。

 

ウェイバーは確信していた。

 

イスカンダルは豪快に笑う。

 

「良いではないか!」

 

「良くない!」

 

「人を斬り続け、それでも人であろうとする」

 

ライダーは目を細める。

 

「覇道とは違うが、嫌いではない」

 

ウェイバーは顔を覆った。

 

嫌な予感しかしない。

 

 

■雨生龍之介陣営

 

『愉悦と狂気』

 

廃ビル。

 

血臭。

 

腐臭。

 

そして。

 

無数の死体。

 

キャスター陣営。

 

雨生龍之介は楽しそうに笑っていた。

 

「へぇ〜!」

 

ぐしゃぐしゃの資料を見ながら、子供のようにはしゃぐ。

 

「すっげぇなぁこの人!」

 

対するキャスター――。

 

ジル・ド・レェ

 

青髭は不気味に笑った。

 

「ほう?」

 

「だってさぁ!」

 

龍之介は目を輝かせる。

 

「人間なのに怪物いっぱい殺してるんだぜ!?」

 

ジルは目を細める。

 

「神の鉄槌……あるいは処刑人か」

 

「いいよねぇ!」

 

龍之介はケラケラ笑う。

 

「こういう“壊れてるのに壊れきってない人”って芸術的じゃない?」

 

ジルは静かに頷く。

 

「理解できますぞ」

 

「会ってみたいなぁ」

 

その瞬間。

 

空気が変わった。

 

ジルの目が細まる。

 

「……やめておきなさい」

 

「え?」

 

「その男は危険です」

 

龍之介はきょとんとした。

 

「え、キャスターがそんなこと言うの珍しくない?」

 

ジルは珍しく真面目だった。

 

「同類ではない」

 

低い声。

 

「あれは、“人を守るために怪物になった者”です」

 

「ふーん?」

 

「故に、我らとは相容れぬ」

 

龍之介は少し考え。

 

そして楽しそうに笑った。

 

「じゃあ余計会いたい!」

 

ジルは沈黙した。

 

本当に死ぬぞ、と少し思った。

 

 

■間桐陣営

 

『蟲蔵の老人』

 

間桐邸。

 

地下。

 

腐臭。

 

湿気。

 

蟲の蠢く音。

 

その奥で、間桐臓硯は静かに笑っていた。

 

「ほっほっほ……」

 

老人の濁った目が細まる。

 

「埋葬機関とはのう」

 

その側で、バーサーカーの気配が揺らぐ。

 

狂気。

 

憎悪。

 

漆黒の騎士。

 

臓硯は静かに考える。

 

危険だ。

 

あの男だけは。

 

特に自分と相性が悪い。

 

何故なら。

 

ブラッドレイは“怪物殺し”だからだ。

 

吸血鬼。

 

死徒。

 

不死者。

 

そういう存在を殺すための剣。

 

つまり。

 

自分のような存在を最も嫌う。

 

「厄介じゃな……」

 

臓硯は笑う。

 

だが。

 

同時に興味もあった。

 

「どこまで人間で居られるかのう」

 

数百年生きた怪物には理解できない。

 

何故、壊れない。

 

何故、狂わない。

 

何故。

 

人を殺し続けてなお、人間性を保てる。

 

「ふふ……」

 

蟲が蠢く。

 

「会うのが楽しみじゃ」

 

 

そして。

 

誰もが知らない。

 

黒剣のセイバー本人はその頃。

 

アインツベルン城で。

 

真顔でこたつに入っていた。

 

「……駄目だな、これは」

 

ぼそりと呟く。

 

隣ではイリヤがみかんを食べていた。

 

「なにが?」

 

「人を堕落させる」

 

「こたつ?」

 

「危険兵器だ」

 

真剣だった。

 

切嗣は煙草を吸いながら呆れる。

 

「お前、ほんと平和ボケ適応早いな」

 

ブラッドレイは無言でみかんを剥く。

 

外では。

 

各陣営が、彼を“怪物”として警戒している。

 

だが当の本人は。

 

こたつから出られなくなっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。