巨大聖堂の最奥。
無数の代行者達に見下ろされながら、
ブラッドレイは静かに前へ進み出た。
黒衣が揺れる。
銀十字の灯火が、
その隻眼を鈍く照らしていた。
正面。
玉座にも似た高座で、
ナルバレックが腕を組み、
冷たい視線を向けている。
埋葬機関長。
対怪物殲滅組織の頂点。
その威圧感は、
時計塔のロード達ともまた違う。
純粋な“殺し”の圧力。
だが。
ブラッドレイは一歩も引かなかった。
「ナルバレック。」
静かな声。
「我々からの要求は、
不干渉だ。」
聖堂が静まる。
代行者達の視線が、
一斉に集まった。
ブラッドレイは続ける。
「平和に暮らしたい。」
その言葉に、
何人かの代行者が僅かに眉を動かした。
英霊。
祖殺し。
怪物級戦力集団。
そんな存在達が、
“平和”を口にしたのだ。
「……だが。」
ブラッドレイの声が低くなる。
「必要ならば、
手を貸す。」
瞬間。
空気が変わる。
ナルバレックの目が、
僅かに細まった。
「ほう。」
低い声。
「死徒討伐か。」
「ああ。」
ブラッドレイは頷く。
「二十七祖。
上位死徒。
災害指定級異端。」
静かに、
だが断言する。
「必要なら、
我々は戦う。」
その瞬間。
ギルガメッシュが、
不敵に笑った。
ギルガメッシュの背後で、
黄金の波紋が微かに揺れる。
「フン。
雑種共の掃除程度、
王の余興にもならん。」
「ハハハ!!」
イスカンダルも豪快に笑った。
「良いではないか!!
世界を滅ぼされては、
征服も楽しめん!!」
「……相変わらずだな君達は。」
ケイネスが疲れた顔で呟く。
一方。
ナルバレックは、
静かに全員を観察していた。
サーヴァント。
マスター。
そして、
ブラッドレイ。
特に。
その隻眼を、
じっと見つめる。
「ブラッドレイ。」
低い声。
「貴様は、
自分達がどれほど危険な存在か理解しているか?」
「理解している。」
即答。
迷いは無い。
「だからこそ、
先に話をしに来た。」
聖堂に沈黙が落ちる。
正しい。
極めて合理的だ。
もし彼らが本気で敵対する気なら、
わざわざ埋葬機関へ姿を見せる必要は無い。
ナルバレックも、
それは理解していた。
その時。
「ふふ。」
横で、
マルグリットが笑った。
巨大断頭武装を肩に担ぎながら、
楽しそうに口を開く。
「私は割と好きよ?
この人達。」
「貴様の意見は聞いていない。」
ナルバレックが即座に切り捨てる。
「えー。」
だが。
マルグリットは気にした様子も無い。
むしろ。
嬉しそうに、
元サーヴァント達を見ていた。
「ねぇあなた達。」
微笑む。
「首落としても戦えそうよね。」
元サーヴァントが僅かに固まった。
ディルムッドが真顔で距離を取る。
ウェイバーは、
本気で頭を抱えていた。
「なんでこんな危険人物しか居ないんだこの空間……。」
だが。
そんな空気の中。
ナルバレックは、
ゆっくりと立ち上がった。
巨大聖堂へ、
圧力が満ちる。
「……良いだろう。」
その一言で、
全員の空気が変わる。
「条件付きで、
不干渉を認める。」
代行者達がざわめく。
ナルバレックは続けた。
巨大聖堂。
埋葬機関長、
ナルバレックとの交渉を終えた後。
張り詰めていた空気は、
ようやく少しだけ緩んでいた。
代行者達も、
完全に警戒を解いた訳ではない。
だが。
少なくとも、
今すぐ殺し合いになる空気ではない。
それだけで、
十分過ぎる成果だった。
その中で。
ブラッドレイは、
静かに戦友達を見渡した。
ギルガメッシュ。
イスカンダル。
ディルムッド。
ハサン達。
切嗣。
綺礼。
時臣。
ケイネス。
ウェイバー。
地獄の第四次聖杯戦争を、
生き延びた者達。
そして。
“受肉した英霊”という、
世界そのものを揺るがす存在達。
だが。
今だけは。
誰も戦っていなかった。
ブラッドレイは、
僅かに笑った。
「さて、戦友諸君。」
静かな声。
だが、
そこには確かな実感があった。
「これで、
我々は自由だ。」
その言葉に。
ウェイバーが、
ようやく深く息を吐いた。
「……終わったんだな。」
「いや。」
切嗣が苦笑する。
「始まったんだろう。」
その通りだった。
聖杯戦争は終わった。
だが。
彼らは消えなかった。
生き残った。
人として、
世界へ残った。
それは。
誰も経験した事のない、
新しい未来だった。
ブラッドレイも静かに頷く。
「多少の縛りは有る。」
「時計塔。
埋葬機関。
死徒二十七祖。」
隻眼が細まる。
「面倒事は尽きんだろう。」
「ハハハ!!
それでこそ人生よ!!」
イスカンダルが豪快に笑う。
「征服とは、
未知へ進む事だ!!」
「まったく、
貴様はどこまでも騒がしいな。」
ギルガメッシュも、
呆れながら口元を吊り上げた。
その時。
ブラッドレイは、
ふと静かに言った。
「一足先に、
新たな生活を始めた者達も居る。」
空気が少しだけ柔らかくなる。
「ランスロットと、
間桐雁夜達のようにな。」
狂化から解放された騎士。
壊れかけていた男。
そして、
救われた少女。
彼らは既に、
戦場から離れ始めている。
「ならば我々も――」
ブラッドレイは、
静かに双剣へ触れた。
「新たな人生を歩むとしよう。」
その言葉に。
誰も否定しなかった。
戦争は終わった。
英雄達は、
本来なら消えるはずだった。
だが。
今ここに居る。
笑い、
酒を飲み、
言い争い、
未来を語っている。
それはきっと。
奇跡に近い。
その時。
マルグリットが、
楽しそうに首を傾げた。
マルグリット。
「ねぇブラッドレイ。」
「なんだ。」
「貴方、
老後とか考えてるの?」
数秒。
沈黙。
そして。
「……考えた事も無いな。」
珍しく、
ブラッドレイが困った顔をした。
ウェイバーが吹き出す。
イスカンダルが大笑いする。
ギルガメッシュですら、
口元を吊り上げた。
聖堂に、
笑い声が響いた。
それは。
第四次聖杯戦争では、
決して存在しなかった音だった。
その瞬間。
笑い声が、
ぴたりと止まった。
巨大聖堂の空気が、
一瞬で冷える。
ブラッドレイは、
先程までの穏やかな空気を消し、
静かに全員を見渡した。
「皆に言い忘れていた。」
低い声。
「バチカンの第十三課――
“イスカリオテ”には注意してくれ。」
その名を聞いた瞬間。
埋葬機関側の何人かが、
露骨に嫌そうな顔をした。
マルグリットですら、
「あー……」と本気で眉を顰める。
ウェイバーが首を傾げた。
「そんなにヤバいのか?」
「ヤバい。」
ブラッドレイは即答した。
「絶対に関わるな。」
断言だった。
「彼らは、
最初から交渉の余地すらない。」
隻眼が細まる。
「絶滅危惧種の狂信者達だ。」
静かな言葉。
だが、
そこに含まれる警戒は本物だった。
ケイネスが腕を組む。
「埋葬機関とは違うのか?」
「方向性が違う。」
返したのは綺礼だった。
「埋葬機関は、
怪物を殺す為の組織だ。」
「だが、
イスカリオテは――」
ブラッドレイが続ける。
「“異端を滅ぼす事そのもの”が目的化している。」
聖堂が静まり返る。
「吸血鬼。
異教徒。
魔術師。
化け物。」
「そして、
必要なら“人間”すら焼く。」
切嗣が静かに目を細めた。
「厄介だな。」
「ああ。」
ブラッドレイは頷く。
「理屈が通じん。」
その時。
ナルバレックが鼻を鳴らした。
「連中は昔から変わらん。」
珍しく、
露骨な嫌悪。
「こちらですら、
連携任務を嫌がる程だ。」
「へぇ。」
イスカンダルが豪快に笑う。
「そこまで言われるとは、
逆に会ってみたくなるな!」
「やめろ。」
ブラッドレイ、
ナルバレック、
マルグリット。
三人同時だった。
流石の征服王も、
少しだけ驚く。
そして。
ブラッドレイは、
ゆっくりと告げた。
「特に注意しろ。」
空気が重くなる。
「聖堂騎士――」
隻眼が、
静かに細まる。
「アレクサンド・アンデルセン神父にはな。」
その名。
その瞬間。
埋葬機関側ですら、
空気が変わった。
マルグリットが、
本気で嫌そうに顔を歪める。
「あの神父、
本当に嫌い。」
「珍しいな。
君がそこまで言うとは。」
「だって、
話通じないもの。」
即答だった。
ウェイバーが恐る恐る聞く。
「……どれくらい危険なんだ?」
ブラッドレイは数秒黙り。
そして。
静かに言った。
「死徒二十七祖相手に、
笑いながら突撃する程度には。」
「は?」
「しかも、
大体勝つ。」
「は???」
ウェイバーの思考が停止する。
ギルガメッシュが、
愉快そうに笑った。
「フハハハ!!
良いではないか!!
狂犬は嫌いではないぞ!」
「貴様は絶対気に入ると思った。」
ブラッドレイが真顔で返す。
だが。
その直後。
彼は、
珍しく本気の声音で続けた。
「……いいか諸君。」
聖堂が静まり返る。
「祖より危険な怪物は居る。」
「その代表例が、
“信仰に酔った人間”だ。」
その言葉に。
誰も、
軽く返す事は出来なかった。
「――あの男は、
名前と経歴しか分からない。」
巨大聖堂が静まり返る。
ブラッドレイは、
静かに壁へ背を預けた。
隻眼が、
遠い記憶を見る。
「あとは全て不明だ。」
低い声。
だが。
そこには、
先程までとは違う種類の緊張があった。
「分かる事は一つ。」
ブラッドレイは、
ゆっくりと告げた。
「怪物だと言うことだ。」
その瞬間。
聖堂の空気が、
僅かに重くなる。
ウェイバーが思わず唾を飲み込んだ。
ブラッドレイは続ける。
「生身で、
化け物と異教徒を狩るために。」
「生物工学。
回復法術。
そして、
祝福儀礼を施された銃剣。」
静かな説明。
だが、
内容は異常そのものだった。
「それらを用いて、
延々と処刑を繰り返す。」
隻眼が細まる。
「バチカンの“人間兵器”だ。」
その言葉に。
ギルガメッシュですら、
僅かに興味を示した。
「ほう。」
黄金の瞳が細まる。
「人でありながら、
そこまで至るか。」
「至っている。」
ブラッドレイは断言した。
「だから危険なんだ。」
その時。
横で、
マルグリットが、
珍しく真面目な顔で口を開く。
「アンデルセン神父、
本当にしつこいのよ。」
巨大断頭武装を肩に担ぎながら、
嫌そうに眉を顰める。
「首を落としても来るし、
胸を潰しても来るし、
身体を裂いても聖書読みながら突っ込んで来るし。」
「君が言うと説得力が凄いな……。」
ケイネスが真顔で呟いた。
ブラッドレイも、
静かに頷く。
「生前の私と、
マルグリットの二人で。」
そこで一度言葉を切る。
そして。
「やっと太刀打ち出来るレベルだ。」
沈黙。
完全な沈黙。
イスカンダルですら、
流石に真顔になった。
「……それは、
誇張ではないのだな?」
「ああ。」
ブラッドレイは即答した。
「全力で殺しに行って、
ようやく止まる。」
静かな声。
だが。
そこには、
本物だけが持つ実感があった。
「しかも、
あの男は“死ぬ事”を恐れていない。」
切嗣が低く呟く。
「最悪のタイプか。」
「その通りだ。」
ブラッドレイは頷く。
「恐怖が無い。
躊躇が無い。
撤退も考えない。」
「信仰だけで突っ込んで来る。」
マルグリットが、
本気で嫌そうに続けた。
「しかも、
笑顔で。」
「……怖。」
ウェイバーの本音だった。
その時。
ナルバレックが腕を組み、
静かに口を開く。
「だから、
埋葬機関とイスカリオテは仲が悪い。」
「思想が違い過ぎる。」
「こちらは“必要だから殺す”。」
鋭い視線。
「連中は、
“神の為に殺す”。」
空気が冷える。
どちらも危険。
だが。
方向性が違う。
その時。
ギルガメッシュが、
愉快そうに笑った。
「フン。
ますます会いたくなったわ。」
「やめてくれ英雄王。」
ブラッドレイが珍しく疲れた声を出す。
「君とアンデルセンを遭遇させたら、
ロンドンが消える。」
「頼むからやめてくれよ?」
ブラッドレイは、
珍しく本気で疲れた顔をしていた。
「骨が折れるし。」
隻眼が細まる。
「なにより――」
そこで、
数秒言葉を切る。
そして。
「私は、
あの男が心底苦手なんだ。」
その瞬間。
聖堂全体が静まり返った。
ウェイバーが、
信じられないものを見る顔になる。
「……え?」
ケイネスも目を瞬かせた。
「今、
何と言った?」
「苦手だ。」
ブラッドレイは即答した。
「出来れば関わりたくない。」
断言。
しかも、
かなり本気だった。
マルグリットが、
横で吹き出す。
マルグリットは、
肩を震わせながら笑っていた。
「ふふ……
ブラッドレイ、
アンデルセン神父に追い回されてたものねぇ。」
「やめてくれ、思い出したく無い。」
「だって本当じゃない。」
楽しそうだった。
「“エェイメン!!”って叫びながら、
銃剣投げて追いかけて来るんだもの。」
「やめろ。」
「しかも、
貴方が逃げると余計嬉しそうになるし。」
「本当にやめろ。」
流石にブラッドレイの声が低くなる。
だが。
ウェイバー達は、
逆に戦慄していた。
あのブラッドレイが。
二十七祖を討伐した男が。
“逃げる”。
「……どんな化け物なんだその神父。」
切嗣が真顔で呟く。
ブラッドレイは、
深く溜息を吐いた。
「戦って分かった。」
静かな声。
「あれは、
理屈で止まる生き物じゃない。」
「死を恐れない人間ほど、
厄介なものは無い。」
ギルガメッシュが、
愉快そうに笑う。
「フハハハ!!
貴様にも苦手な相手が居たかブラッドレイ!!」
「居るとも。」
ブラッドレイは真顔で返した。
「君達も、
あの男と会えば理解する。」
その時。
マルグリットが、
妙に楽しそうな顔になる。
「ねぇブラッドレイ。」
「なんだ。」
「昔、
アンデルセン神父に言われてたわよね?」
嫌な予感がした。
ブラッドレイの顔が、
露骨に険しくなる。
だが。
マルグリットは止まらない。
楽しそうに、
神父の真似を始めた。
『ブラッドレイィィ!!
逃げるな異端者ァァァ!!
エェェイメン!!』
聖堂に響く、
妙に迫真のモノマネ。
数秒。
沈黙。
そして。
イスカンダルが爆笑した。
「ハハハハハハハハ!!
何だそれは!!」
ギルガメッシュまで笑っている。
ケイネスですら吹き出しかけていた。
一方。
ブラッドレイは、
深く顔を覆っていた。
「……本当に、
関わりたくないんだあの男とは。」
地下大聖堂に、重い沈黙が落ちた。
埋葬機関本部――。
数百本の蝋燭だけが照らす、巨大な石造りの会議室。
サーヴァント達ですら、僅かに空気を呑む。
キング・ブラッドレイは、珍しく葉巻を咥える手を止めていた。
その片目――“究極の眼”が、過去の悪夢を見ているかのように細められる。
「姿は、人間なのに、会話がまるで成立せず、狂気に染まった笑顔で、こちらを狩りにくるんだぞ?」
低い声だった。
だが、その場の誰もが理解した。
これは誇張ではない。
“本気で恐れている声”だと。
「首を刎ねても、心臓潰しても、怯まず、再生しながら、祝福儀礼付きの銃剣を投擲してくるんだ。」
ブラッドレイは乾いた笑みを浮かべた。
「想像してみろ、ナルバレック。」
その瞬間。
埋葬機関長、ナルバレックは静かに目を閉じた。
そして、
「……ある。」
短く答える。
周囲の空気が、更に冷えた。
ナルバレックが、傍らの古びた机を指で叩く。
すると、礼装で封印された鉄箱が、機械音と共に開いた。
中には。
大量の写真。
だが、その殆どが――血で染まっていた。
ケイネスが眉を顰める。
「なんだこれは……」
言峰綺礼が、一枚を手に取った。
そして、僅かに目を細める。
写真には。
黒衣の神父。
祝福儀礼が施された銃剣を両手に持ち。
笑っていた。
狂気的な笑みで。
だが、その周囲には。
死徒。
異端者。
そして――埋葬機関の代行者達の死体。
大量に転がっていた。
ウェイバーが、思わず息を呑む。
「こ、れが……」
ナルバレックが淡々と言う。
「バチカン第十三課、“イスカリオテ”。」
「その実働制圧担当。」
「アレクサンド・アンデルセン。」
ギルガメッシュが鼻で笑う。
「たかが人間だろう?」
その瞬間だった。
ブラッドレイが、即座に否定した。
「違う。」
会議室の空気が止まる。
「アレは、“人間の皮を被った何か”だ。」
「少なくとも、私はそう判断している。」
イスカンダルですら、僅かに表情を引き締めた。
ブラッドレイは続ける。
「奴は、“死”を恐れていない。」
「いや、違うな。」
「“殉教”そのものを歓喜している。」
「だから止まらん。」
写真が、机の上へ投げられる。
次の写真。
そこには。
上半身を吹き飛ばされながら。
それでも笑顔で銃剣を投げるアンデルセンの姿。
更に別の写真。
胴体を切断されながら。
這いずり。
聖句を叫び。
異端者へ食らいつく姿。
ディルムッドが、低く呟く。
「……狂戦士か。」
「いや。」
ブラッドレイは静かに否定した。
「狂っているのに、理性がある。」
「理性があるのに、止まらんのだ。」
その言葉に。
今まで笑っていたマルグリット・ラ・ヴェルデュールですら、笑みを消していた。
銀髪の処刑人は、静かに頬杖をつく。
「嫌ねぇ。」
「アンデルセンの話すると、本当に空気が暗くなる。」
だが、その赤い瞳には。
確かな緊張があった。
「ま、でも仕方ないか。」
「埋葬機関でも、正面からアイツと殴り合えるの、ブラッドレイと私くらいだったし。」
ウェイバーの顔色が変わる。
「は……?」
「ちょ、待ってくれ。」
「君達、“二十七祖”を殺せる側の人間だろ……?」
マルグリットは、にこりと笑った。
「だから?」
「アンデルセンは、その“殺せる側”を殺しに来る化け物なの。」
沈黙。
長い沈黙だった。
遠坂時臣が、静かに紅茶を置く。
「……つまり。」
「我々は、“教会”とも、“時計塔”とも違う。」
「第三の危険勢力に睨まれている訳ですか。」
ナルバレックは頷いた。
「そうだ。」
「しかも最悪なのは――」
その瞬間。
地下大聖堂の警鐘が鳴り響いた。
轟音。
赤い警戒灯。
埋葬機関の代行者達が、一斉に武器を取る。
ナルバレックの顔から、完全に感情が消えた。
「……馬鹿な。」
ブラッドレイが、ゆっくり立ち上がる。
そして。
“究極の眼”が、遥か上層を見抜いた。
次の瞬間。
彼は、心底嫌そうな顔で呟いた。
「…………来たぞ。」
静寂。
そして。
地上から。
聖歌のような、狂った笑い声が響く。
『エェェイメェェェェェン!!!』
地下大聖堂の空気が、凍りついた。