冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第80話

巨大聖堂の最奥。

 

無数の代行者達に見下ろされながら、

ブラッドレイは静かに前へ進み出た。

 

黒衣が揺れる。

 

銀十字の灯火が、

その隻眼を鈍く照らしていた。

 

正面。

 

玉座にも似た高座で、

ナルバレックが腕を組み、

冷たい視線を向けている。

 

埋葬機関長。

 

対怪物殲滅組織の頂点。

 

その威圧感は、

時計塔のロード達ともまた違う。

 

純粋な“殺し”の圧力。

 

だが。

 

ブラッドレイは一歩も引かなかった。

 

「ナルバレック。」

 

静かな声。

 

「我々からの要求は、

不干渉だ。」

 

聖堂が静まる。

 

代行者達の視線が、

一斉に集まった。

 

ブラッドレイは続ける。

 

「平和に暮らしたい。」

 

その言葉に、

何人かの代行者が僅かに眉を動かした。

 

英霊。

 

祖殺し。

 

怪物級戦力集団。

 

そんな存在達が、

“平和”を口にしたのだ。

 

「……だが。」

 

ブラッドレイの声が低くなる。

 

「必要ならば、

手を貸す。」

 

瞬間。

 

空気が変わる。

 

ナルバレックの目が、

僅かに細まった。

 

「ほう。」

 

低い声。

 

「死徒討伐か。」

 

「ああ。」

 

ブラッドレイは頷く。

 

「二十七祖。

上位死徒。

災害指定級異端。」

 

静かに、

だが断言する。

 

「必要なら、

我々は戦う。」

 

その瞬間。

 

ギルガメッシュが、

不敵に笑った。

 

ギルガメッシュの背後で、

黄金の波紋が微かに揺れる。

 

「フン。

雑種共の掃除程度、

王の余興にもならん。」

 

「ハハハ!!」

 

イスカンダルも豪快に笑った。

 

「良いではないか!!

世界を滅ぼされては、

征服も楽しめん!!」

 

「……相変わらずだな君達は。」

 

ケイネスが疲れた顔で呟く。

 

一方。

 

ナルバレックは、

静かに全員を観察していた。

 

サーヴァント。

 

マスター。

 

そして、

ブラッドレイ。

 

特に。

 

その隻眼を、

じっと見つめる。

 

「ブラッドレイ。」

 

低い声。

 

「貴様は、

自分達がどれほど危険な存在か理解しているか?」

 

「理解している。」

 

即答。

 

迷いは無い。

 

「だからこそ、

先に話をしに来た。」

 

聖堂に沈黙が落ちる。

 

正しい。

 

極めて合理的だ。

 

もし彼らが本気で敵対する気なら、

わざわざ埋葬機関へ姿を見せる必要は無い。

 

ナルバレックも、

それは理解していた。

 

その時。

 

「ふふ。」

 

横で、

マルグリットが笑った。

 

巨大断頭武装を肩に担ぎながら、

楽しそうに口を開く。

 

「私は割と好きよ?

この人達。」

 

「貴様の意見は聞いていない。」

 

ナルバレックが即座に切り捨てる。

 

「えー。」

 

だが。

 

マルグリットは気にした様子も無い。

 

むしろ。

 

嬉しそうに、

元サーヴァント達を見ていた。

 

「ねぇあなた達。」

 

微笑む。

 

「首落としても戦えそうよね。」

 

元サーヴァントが僅かに固まった。

 

ディルムッドが真顔で距離を取る。

 

ウェイバーは、

本気で頭を抱えていた。

 

「なんでこんな危険人物しか居ないんだこの空間……。」

 

だが。

 

そんな空気の中。

 

ナルバレックは、

ゆっくりと立ち上がった。

 

巨大聖堂へ、

圧力が満ちる。

 

「……良いだろう。」

 

その一言で、

全員の空気が変わる。

 

「条件付きで、

不干渉を認める。」

 

代行者達がざわめく。

 

ナルバレックは続けた。

 

巨大聖堂。

 

埋葬機関長、

ナルバレックとの交渉を終えた後。

 

張り詰めていた空気は、

ようやく少しだけ緩んでいた。

 

代行者達も、

完全に警戒を解いた訳ではない。

 

だが。

 

少なくとも、

今すぐ殺し合いになる空気ではない。

 

それだけで、

十分過ぎる成果だった。

 

その中で。

 

ブラッドレイは、

静かに戦友達を見渡した。

 

ギルガメッシュ。

 

イスカンダル。

 

ディルムッド。

 

ハサン達。

 

切嗣。

綺礼。

時臣。

ケイネス。

ウェイバー。

 

地獄の第四次聖杯戦争を、

生き延びた者達。

 

そして。

 

“受肉した英霊”という、

世界そのものを揺るがす存在達。

 

だが。

 

今だけは。

 

誰も戦っていなかった。

 

ブラッドレイは、

僅かに笑った。

 

「さて、戦友諸君。」

 

静かな声。

 

だが、

そこには確かな実感があった。

 

「これで、

我々は自由だ。」

 

その言葉に。

 

ウェイバーが、

ようやく深く息を吐いた。

 

「……終わったんだな。」

 

「いや。」

 

切嗣が苦笑する。

 

「始まったんだろう。」

 

その通りだった。

 

聖杯戦争は終わった。

 

だが。

 

彼らは消えなかった。

 

生き残った。

 

人として、

世界へ残った。

 

それは。

 

誰も経験した事のない、

新しい未来だった。

 

ブラッドレイも静かに頷く。

 

「多少の縛りは有る。」

 

「時計塔。

埋葬機関。

死徒二十七祖。」

 

隻眼が細まる。

 

「面倒事は尽きんだろう。」

 

「ハハハ!!

それでこそ人生よ!!」

 

イスカンダルが豪快に笑う。

 

「征服とは、

未知へ進む事だ!!」

 

「まったく、

貴様はどこまでも騒がしいな。」

 

ギルガメッシュも、

呆れながら口元を吊り上げた。

 

その時。

 

ブラッドレイは、

ふと静かに言った。

 

「一足先に、

新たな生活を始めた者達も居る。」

 

空気が少しだけ柔らかくなる。

 

「ランスロットと、

間桐雁夜達のようにな。」

 

狂化から解放された騎士。

 

壊れかけていた男。

 

そして、

救われた少女。

 

彼らは既に、

戦場から離れ始めている。

 

「ならば我々も――」

 

ブラッドレイは、

静かに双剣へ触れた。

 

「新たな人生を歩むとしよう。」

 

その言葉に。

 

誰も否定しなかった。

 

戦争は終わった。

 

英雄達は、

本来なら消えるはずだった。

 

だが。

 

今ここに居る。

 

笑い、

酒を飲み、

言い争い、

未来を語っている。

 

それはきっと。

 

奇跡に近い。

 

その時。

 

マルグリットが、

楽しそうに首を傾げた。

 

マルグリット。

 

「ねぇブラッドレイ。」

 

「なんだ。」

 

「貴方、

老後とか考えてるの?」

 

数秒。

 

沈黙。

 

そして。

 

「……考えた事も無いな。」

 

珍しく、

ブラッドレイが困った顔をした。

 

ウェイバーが吹き出す。

 

イスカンダルが大笑いする。

 

ギルガメッシュですら、

口元を吊り上げた。

 

聖堂に、

笑い声が響いた。

 

それは。

 

第四次聖杯戦争では、

決して存在しなかった音だった。

 

その瞬間。

 

笑い声が、

ぴたりと止まった。

 

巨大聖堂の空気が、

一瞬で冷える。

 

ブラッドレイは、

先程までの穏やかな空気を消し、

静かに全員を見渡した。

 

「皆に言い忘れていた。」

 

低い声。

 

「バチカンの第十三課――

“イスカリオテ”には注意してくれ。」

 

その名を聞いた瞬間。

 

埋葬機関側の何人かが、

露骨に嫌そうな顔をした。

 

マルグリットですら、

「あー……」と本気で眉を顰める。

 

ウェイバーが首を傾げた。

 

「そんなにヤバいのか?」

 

「ヤバい。」

 

ブラッドレイは即答した。

 

「絶対に関わるな。」

 

断言だった。

 

「彼らは、

最初から交渉の余地すらない。」

 

隻眼が細まる。

 

「絶滅危惧種の狂信者達だ。」

 

静かな言葉。

 

だが、

そこに含まれる警戒は本物だった。

 

ケイネスが腕を組む。

 

「埋葬機関とは違うのか?」

 

「方向性が違う。」

 

返したのは綺礼だった。

 

「埋葬機関は、

怪物を殺す為の組織だ。」

 

「だが、

イスカリオテは――」

 

ブラッドレイが続ける。

 

「“異端を滅ぼす事そのもの”が目的化している。」

 

聖堂が静まり返る。

 

「吸血鬼。

異教徒。

魔術師。

化け物。」

 

「そして、

必要なら“人間”すら焼く。」

 

切嗣が静かに目を細めた。

 

「厄介だな。」

 

「ああ。」

 

ブラッドレイは頷く。

 

「理屈が通じん。」

 

その時。

 

ナルバレックが鼻を鳴らした。

 

「連中は昔から変わらん。」

 

珍しく、

露骨な嫌悪。

 

「こちらですら、

連携任務を嫌がる程だ。」

 

「へぇ。」

 

イスカンダルが豪快に笑う。

 

「そこまで言われるとは、

逆に会ってみたくなるな!」

 

「やめろ。」

 

ブラッドレイ、

ナルバレック、

マルグリット。

 

三人同時だった。

 

流石の征服王も、

少しだけ驚く。

 

そして。

 

ブラッドレイは、

ゆっくりと告げた。

 

「特に注意しろ。」

 

空気が重くなる。

 

「聖堂騎士――」

 

隻眼が、

静かに細まる。

 

「アレクサンド・アンデルセン神父にはな。」

 

その名。

 

その瞬間。

 

埋葬機関側ですら、

空気が変わった。

 

マルグリットが、

本気で嫌そうに顔を歪める。

 

「あの神父、

本当に嫌い。」

 

「珍しいな。

君がそこまで言うとは。」

 

「だって、

話通じないもの。」

 

即答だった。

 

ウェイバーが恐る恐る聞く。

 

「……どれくらい危険なんだ?」

 

ブラッドレイは数秒黙り。

 

そして。

 

静かに言った。

 

「死徒二十七祖相手に、

笑いながら突撃する程度には。」

 

「は?」

 

「しかも、

大体勝つ。」

 

「は???」

 

ウェイバーの思考が停止する。

 

ギルガメッシュが、

愉快そうに笑った。

 

「フハハハ!!

良いではないか!!

狂犬は嫌いではないぞ!」

 

「貴様は絶対気に入ると思った。」

 

ブラッドレイが真顔で返す。

 

だが。

 

その直後。

 

彼は、

珍しく本気の声音で続けた。

 

「……いいか諸君。」

 

聖堂が静まり返る。

 

「祖より危険な怪物は居る。」

 

「その代表例が、

“信仰に酔った人間”だ。」

 

その言葉に。

 

誰も、

軽く返す事は出来なかった。

 

「――あの男は、

名前と経歴しか分からない。」

 

巨大聖堂が静まり返る。

 

ブラッドレイは、

静かに壁へ背を預けた。

 

隻眼が、

遠い記憶を見る。

 

「あとは全て不明だ。」

 

低い声。

 

だが。

 

そこには、

先程までとは違う種類の緊張があった。

 

「分かる事は一つ。」

 

ブラッドレイは、

ゆっくりと告げた。

 

「怪物だと言うことだ。」

 

その瞬間。

 

聖堂の空気が、

僅かに重くなる。

 

ウェイバーが思わず唾を飲み込んだ。

 

ブラッドレイは続ける。

 

「生身で、

化け物と異教徒を狩るために。」

 

「生物工学。

回復法術。

そして、

祝福儀礼を施された銃剣。」

 

静かな説明。

 

だが、

内容は異常そのものだった。

 

「それらを用いて、

延々と処刑を繰り返す。」

 

隻眼が細まる。

 

「バチカンの“人間兵器”だ。」

 

その言葉に。

 

ギルガメッシュですら、

僅かに興味を示した。

 

「ほう。」

 

黄金の瞳が細まる。

 

「人でありながら、

そこまで至るか。」

 

「至っている。」

 

ブラッドレイは断言した。

 

「だから危険なんだ。」

 

その時。

 

横で、

マルグリットが、

珍しく真面目な顔で口を開く。

 

「アンデルセン神父、

本当にしつこいのよ。」

 

巨大断頭武装を肩に担ぎながら、

嫌そうに眉を顰める。

 

「首を落としても来るし、

胸を潰しても来るし、

身体を裂いても聖書読みながら突っ込んで来るし。」

 

「君が言うと説得力が凄いな……。」

 

ケイネスが真顔で呟いた。

 

ブラッドレイも、

静かに頷く。

 

「生前の私と、

マルグリットの二人で。」

 

そこで一度言葉を切る。

 

そして。

 

「やっと太刀打ち出来るレベルだ。」

 

沈黙。

 

完全な沈黙。

 

イスカンダルですら、

流石に真顔になった。

 

「……それは、

誇張ではないのだな?」

 

「ああ。」

 

ブラッドレイは即答した。

 

「全力で殺しに行って、

ようやく止まる。」

 

静かな声。

 

だが。

 

そこには、

本物だけが持つ実感があった。

 

「しかも、

あの男は“死ぬ事”を恐れていない。」

 

切嗣が低く呟く。

 

「最悪のタイプか。」

 

「その通りだ。」

 

ブラッドレイは頷く。

 

「恐怖が無い。

躊躇が無い。

撤退も考えない。」

 

「信仰だけで突っ込んで来る。」

 

マルグリットが、

本気で嫌そうに続けた。

 

「しかも、

笑顔で。」

 

「……怖。」

 

ウェイバーの本音だった。

 

その時。

 

ナルバレックが腕を組み、

静かに口を開く。

 

「だから、

埋葬機関とイスカリオテは仲が悪い。」

 

「思想が違い過ぎる。」

 

「こちらは“必要だから殺す”。」

 

鋭い視線。

 

「連中は、

“神の為に殺す”。」

 

空気が冷える。

 

どちらも危険。

 

だが。

 

方向性が違う。

 

その時。

 

ギルガメッシュが、

愉快そうに笑った。

 

「フン。

ますます会いたくなったわ。」

 

「やめてくれ英雄王。」

 

ブラッドレイが珍しく疲れた声を出す。

 

「君とアンデルセンを遭遇させたら、

ロンドンが消える。」

 

「頼むからやめてくれよ?」

 

ブラッドレイは、

珍しく本気で疲れた顔をしていた。

 

「骨が折れるし。」

 

隻眼が細まる。

 

「なにより――」

 

そこで、

数秒言葉を切る。

 

そして。

 

「私は、

あの男が心底苦手なんだ。」

 

その瞬間。

 

聖堂全体が静まり返った。

 

ウェイバーが、

信じられないものを見る顔になる。

 

「……え?」

 

ケイネスも目を瞬かせた。

 

「今、

何と言った?」

 

「苦手だ。」

 

ブラッドレイは即答した。

 

「出来れば関わりたくない。」

 

断言。

 

しかも、

かなり本気だった。

 

マルグリットが、

横で吹き出す。

 

マルグリットは、

肩を震わせながら笑っていた。

 

「ふふ……

ブラッドレイ、

アンデルセン神父に追い回されてたものねぇ。」

 

「やめてくれ、思い出したく無い。」

 

「だって本当じゃない。」

 

楽しそうだった。

 

「“エェイメン!!”って叫びながら、

銃剣投げて追いかけて来るんだもの。」

 

「やめろ。」

 

「しかも、

貴方が逃げると余計嬉しそうになるし。」

 

「本当にやめろ。」

 

流石にブラッドレイの声が低くなる。

 

だが。

 

ウェイバー達は、

逆に戦慄していた。

 

あのブラッドレイが。

 

二十七祖を討伐した男が。

 

“逃げる”。

 

「……どんな化け物なんだその神父。」

 

切嗣が真顔で呟く。

 

ブラッドレイは、

深く溜息を吐いた。

 

「戦って分かった。」

 

静かな声。

 

「あれは、

理屈で止まる生き物じゃない。」

 

「死を恐れない人間ほど、

厄介なものは無い。」

 

ギルガメッシュが、

愉快そうに笑う。

 

「フハハハ!!

貴様にも苦手な相手が居たかブラッドレイ!!」

 

「居るとも。」

 

ブラッドレイは真顔で返した。

 

「君達も、

あの男と会えば理解する。」

 

その時。

 

マルグリットが、

妙に楽しそうな顔になる。

 

「ねぇブラッドレイ。」

 

「なんだ。」

 

「昔、

アンデルセン神父に言われてたわよね?」

 

嫌な予感がした。

 

ブラッドレイの顔が、

露骨に険しくなる。

 

だが。

 

マルグリットは止まらない。

 

楽しそうに、

神父の真似を始めた。

 

『ブラッドレイィィ!!

逃げるな異端者ァァァ!!

エェェイメン!!』

 

聖堂に響く、

妙に迫真のモノマネ。

 

数秒。

 

沈黙。

 

そして。

 

イスカンダルが爆笑した。

 

「ハハハハハハハハ!!

何だそれは!!」

 

ギルガメッシュまで笑っている。

 

ケイネスですら吹き出しかけていた。

 

一方。

 

ブラッドレイは、

深く顔を覆っていた。

 

「……本当に、

関わりたくないんだあの男とは。」

 

地下大聖堂に、重い沈黙が落ちた。

 

埋葬機関本部――。

数百本の蝋燭だけが照らす、巨大な石造りの会議室。

 

サーヴァント達ですら、僅かに空気を呑む。

 

キング・ブラッドレイは、珍しく葉巻を咥える手を止めていた。

 

その片目――“究極の眼”が、過去の悪夢を見ているかのように細められる。

 

「姿は、人間なのに、会話がまるで成立せず、狂気に染まった笑顔で、こちらを狩りにくるんだぞ?」

 

低い声だった。

 

だが、その場の誰もが理解した。

 

これは誇張ではない。

 

“本気で恐れている声”だと。

 

「首を刎ねても、心臓潰しても、怯まず、再生しながら、祝福儀礼付きの銃剣を投擲してくるんだ。」

 

ブラッドレイは乾いた笑みを浮かべた。

 

「想像してみろ、ナルバレック。」

 

その瞬間。

 

埋葬機関長、ナルバレックは静かに目を閉じた。

 

そして、

 

「……ある。」

 

短く答える。

 

周囲の空気が、更に冷えた。

 

ナルバレックが、傍らの古びた机を指で叩く。

 

すると、礼装で封印された鉄箱が、機械音と共に開いた。

 

中には。

 

大量の写真。

 

だが、その殆どが――血で染まっていた。

 

ケイネスが眉を顰める。

 

「なんだこれは……」

 

言峰綺礼が、一枚を手に取った。

 

そして、僅かに目を細める。

 

写真には。

 

黒衣の神父。

 

祝福儀礼が施された銃剣を両手に持ち。

 

笑っていた。

 

狂気的な笑みで。

 

だが、その周囲には。

 

死徒。

 

異端者。

 

そして――埋葬機関の代行者達の死体。

 

大量に転がっていた。

 

ウェイバーが、思わず息を呑む。

 

「こ、れが……」

 

ナルバレックが淡々と言う。

 

「バチカン第十三課、“イスカリオテ”。」

 

「その実働制圧担当。」

 

「アレクサンド・アンデルセン。」

 

ギルガメッシュが鼻で笑う。

 

「たかが人間だろう?」

 

その瞬間だった。

 

ブラッドレイが、即座に否定した。

 

「違う。」

 

会議室の空気が止まる。

 

「アレは、“人間の皮を被った何か”だ。」

 

「少なくとも、私はそう判断している。」

 

イスカンダルですら、僅かに表情を引き締めた。

 

ブラッドレイは続ける。

 

「奴は、“死”を恐れていない。」

 

「いや、違うな。」

 

「“殉教”そのものを歓喜している。」

 

「だから止まらん。」

 

写真が、机の上へ投げられる。

 

次の写真。

 

そこには。

 

上半身を吹き飛ばされながら。

 

それでも笑顔で銃剣を投げるアンデルセンの姿。

 

更に別の写真。

 

胴体を切断されながら。

 

這いずり。

 

聖句を叫び。

 

異端者へ食らいつく姿。

 

ディルムッドが、低く呟く。

 

「……狂戦士か。」

 

「いや。」

 

ブラッドレイは静かに否定した。

 

「狂っているのに、理性がある。」

 

「理性があるのに、止まらんのだ。」

 

その言葉に。

 

今まで笑っていたマルグリット・ラ・ヴェルデュールですら、笑みを消していた。

 

銀髪の処刑人は、静かに頬杖をつく。

 

「嫌ねぇ。」

 

「アンデルセンの話すると、本当に空気が暗くなる。」

 

だが、その赤い瞳には。

 

確かな緊張があった。

 

「ま、でも仕方ないか。」

 

「埋葬機関でも、正面からアイツと殴り合えるの、ブラッドレイと私くらいだったし。」

 

ウェイバーの顔色が変わる。

 

「は……?」

 

「ちょ、待ってくれ。」

 

「君達、“二十七祖”を殺せる側の人間だろ……?」

 

マルグリットは、にこりと笑った。

 

「だから?」

 

「アンデルセンは、その“殺せる側”を殺しに来る化け物なの。」

 

沈黙。

 

長い沈黙だった。

 

遠坂時臣が、静かに紅茶を置く。

 

「……つまり。」

 

「我々は、“教会”とも、“時計塔”とも違う。」

 

「第三の危険勢力に睨まれている訳ですか。」

 

ナルバレックは頷いた。

 

「そうだ。」

 

「しかも最悪なのは――」

 

その瞬間。

 

地下大聖堂の警鐘が鳴り響いた。

 

轟音。

 

赤い警戒灯。

 

埋葬機関の代行者達が、一斉に武器を取る。

 

ナルバレックの顔から、完全に感情が消えた。

 

「……馬鹿な。」

 

ブラッドレイが、ゆっくり立ち上がる。

 

そして。

 

“究極の眼”が、遥か上層を見抜いた。

 

次の瞬間。

 

彼は、心底嫌そうな顔で呟いた。

 

「…………来たぞ。」

 

静寂。

 

そして。

 

地上から。

 

聖歌のような、狂った笑い声が響く。

 

『エェェイメェェェェェン!!!』

 

地下大聖堂の空気が、凍りついた。

 

 

 

 

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