地下大聖堂の警鐘が、なおも鳴り響く。
赤い警戒灯が、石造りの壁を不気味に染めていた。
代行者達が慌ただしく駆け抜ける。
自動防衛術式。
聖別結界。
対死徒用拘束杭。
その全てが、一斉に起動している。
にも関わらず。
地上から響く声は、止まらない。
『AMEN!!』
『ゲハハハハハハハ!!!』
遠く。
だが確実に近付いてくる、狂った笑い声。
キング・ブラッドレイは、深々と溜息を吐いた。
「……噂をすれば、だな。」
片手で額を押さえる。
「はぁ、最悪だ。」
その姿に、全員が僅かに目を見開いた。
あの男が。
黒き総統が。
二十七祖を前にしても冷静だった怪物が。
ここまで露骨に嫌そうな顔をしている。
ウェイバーが、乾いた声を漏らす。
「そ、そんなに嫌なのか……?」
ブラッドレイは即答した。
「ああ、嫌だ。」
「死徒の方が、まだ会話になる。」
ギルガメッシュが、面白そうに口角を吊り上げる。
「ほう?」
「貴様ほどの男が、そこまで言うか。」
ブラッドレイは、静かにサーベルを抜いた。
刃が、鈍く聖堂の光を反射する。
「ギルガメッシュ。」
「一つ忠告しておく。」
“究極の眼”が、ゆっくり天井を見上げた。
「奴は、“恐怖”で止まる相手ではない。」
「威圧も、殺気も、王威も効かん。」
「むしろ歓喜する。」
次の瞬間。
地上で轟音。
大聖堂そのものが揺れた。
何かが、外壁を“素手で”破壊した。
代行者の悲鳴。
銃声。
そして。
狂気に満ちた声。
『異教徒ォォォォォォォォォ!!!』
『裁きの時間だ!』
『ゲハハハハハハハハ!!!』
ウェイバーの顔が引き攣る。
「な、なんだあれは……!?」
マルグリット・ラ・ヴェルデュールが、椅子の上で愉快そうに笑った。
「来た来た。」
「相変わらず騒がしいわねぇ、あの神父。」
だが。
その笑みの奥にあるのは、明確な殺気だった。
銀髪の処刑人は、“首狩り兵装”を肩へ担ぐ。
「ナルバレック。」
「迎撃許可は?」
埋葬機関長は、冷徹に答える。
「許可する。」
「ただし、“殺すな”。」
その瞬間。
部屋の空気が凍った。
ケイネスが目を見開く。
「……何?」
ナルバレックは、静かに続ける。
「殺せば、“イスカリオテ”との全面戦争になる。」
「バチカンも埋葬機関も、そこまで愚かではない。」
ブラッドレイが、疲れ切った顔で呟く。
「つまり。」
「半殺しで止めろ、と。」
「簡単に言ってくれる。」
言峰綺礼が、初めて僅かに口元を歪めた。
「珍しいな、セイバー。」
「貴様が弱音とは。」
ブラッドレイは即座に返す。
「弱音ではない。」
「現実的判断だ。」
その瞬間だった。
地下大聖堂へ続く巨大扉が――
“投擲された銃剣”によって、爆発した。
轟音。
聖別銀の扉が、紙のように吹き飛ぶ。
煙の向こう。
神父服の上にコートを羽織った。
短く刈り上げた金髪の大柄な体型。
頬を裂けんばかりに歪めた笑顔。
丸メガネの奥には、隠しきれない狂気と歓喜を宿した瞳。
両手に、無数の祝福銃剣。
そして。
人間とは思えぬ速度で再生する傷跡。
男は、心底嬉しそうに笑った。
アンデルセン神父 は、両腕を広げ。
両手に持った銃剣を十字に交差させた。
『我らは神の代理人 神罰の地上代行者――』
『我らの使命は我が神に逆らう愚者を、
その肉の最後の一片までも絶滅すること―――』
『AMEN!!』
狂った歓喜と共に。
無数の銃剣が、一斉に放たれた。