冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第88話

ブラッドレイは、一歩前へ出た。

 

転移魔法陣の淡い光が、その軍服を静かに照らしている。

 

そして。

 

シエル。

マルグリット。

周囲を取り囲む序列持ち代行者達を、ゆっくり見渡した。

 

敵意は無い。

 

だが、油断も無い。

 

怪物同士の距離感だった。

 

「……君達には、世話をかけたな。」

 

静かな声だった。

 

その言葉に、何人かの代行者が僅かに目を見開く。

 

埋葬機関の人間へ、素直に礼を言う者など滅多に居ない。

 

まして、キング・ブラッドレイのような男なら尚更だ。

 

ブラッドレイは続ける。

 

「本来なら、我々はここで始末されていても不思議ではなかった。」

 

「それでも、交渉の席を設け、条件付きとはいえ自由を認めた。」

 

「感謝しよう。」

 

その言葉は、驚くほど率直だった。

 

シエルは静かに目を伏せる。

 

「……あなたが礼を言うとは思いませんでした。」

 

「私もだ。」

 

ブラッドレイは少し笑った。

 

「だが、礼節は必要だろう。」

 

その空気に。

 

マルグリットが、くすくすと肩を揺らす。

 

「あはっ♪」

 

「やっぱブラッドレイ、真面目ね。」

 

「誰かさんが不真面目過ぎるだけだ。」

 

「酷ぉ〜。」

 

笑いながら、彼女はブラッドレイの隣へ並ぶ。

 

血塗れの修道女。

 

処刑を愛する怪物。

 

だが今は、どこか穏やかな顔をしていた。

 

ブラッドレイは、そんな彼女へ視線を向ける。

 

「……マルグリット。」

 

「ん?」

 

「見送りは、ここまででいい。」

 

その瞬間。

 

マルグリットの笑みが、ほんの少しだけ止まった。

 

周囲の代行者達も沈黙する。

 

ブラッドレイは続けた。

 

「これ以上同行すれば、埋葬機関内部でも問題になる。」

 

「ナルバレックも頭を抱えるだろう。」

 

「それに――。」

 

彼は僅かに笑う。

 

「お前まで付いて来ると、“日常”が遠ざかる。」

 

その言葉に。

 

ウェイバーが小さく頷いた。

 

「……それはちょっと分かる。」

 

「酷いわぁ、ふふふ。」

 

マルグリットは頬を膨らませる。

 

だが、本気で怒ってはいない。

 

彼女自身、理解していた。

 

自分は“日常側”の存在ではない。

 

処刑台。

血。

祈り。

断頭。

 

それが、自分の世界だ。

 

マルグリットは、しばらく黙っていた。

 

そして。

 

ふっと、小さく笑う。

 

「……そっかぁ。」

 

その声だけは、少し寂しそうだった。

 

「まぁ、仕方ないわねぇ。」

 

彼女は、白銀の髪を揺らしながら後ろへ下がる。

 

「私は、埋葬機関の人間。」

 

「あなた達も、“普通”頑張ってくださいねぇ。」

 

最後まで笑顔だった。

 

だが。

 

ブラッドレイは気付いていた。

 

その笑顔の奥にある、“取り残される側”の感情に。

 

だからこそ。

 

彼は静かに言った。

 

「必要になれば呼べ。」

 

マルグリットが目を瞬かせる。

 

「……え?」

 

「君達も戦友だろう?。」

 

短い言葉。

 

だが。

 

それは、彼女にとって予想外だった。

 

埋葬機関の人間は、基本的に孤独だ。

 

任務が終われば別れる。

誰かが死んでも進む。

情など、足枷にしかならない。

 

だからこそ。

 

“戦友”という言葉は、妙に胸に残った。

 

マルグリットは数秒黙り込み。

 

それから。

 

いつものように、にへら、と笑った。

 

「あはっ……。」

 

「……ほんと、変な不思議な男ね。」

 

ブラッドレイは、ゆっくりと埋葬機関の面々を見渡した。

 

シエル。

マルグリット。

そして、影の中でこちらを監視し続けていた序列持ち代行者達。

 

誰も口を開かない。

 

地下大聖堂には、静かな鐘の残響だけが響いていた。

 

その中で。

 

ブラッドレイは、静かに口を開く。

 

「……さらばだ、元同僚達よ。」

 

短い別れだった。

 

だが、その一言には確かな重みがあった。

 

埋葬機関。

 

怪物を狩る墓守達。

 

かつて、自分が剣を振るっていた場所。

 

血塗れの戦場。

死徒狩り。

異端審問。

終わらない処刑。

 

そこには確かに、“キング・ブラッドレイ”という処刑人の人生があった。

 

シエルは静かに目を伏せる。

 

「ええ。」

 

「あなた達に、主の加護がありますように。」

 

それは祈りだった。

 

埋葬機関の人間らしい、不器用な別れの言葉。

 

マルグリットは、いつものように笑っている。

 

だが。

 

その糸目は少しだけ細く、寂しげだった。

 

「また会いましょうねぇ、ブラッドレイ。」

 

「次は戦場じゃなくて、普通の場所で。」

 

「……努力しよう。」

 

ブラッドレイは僅かに笑う。

 

そのやり取りに、周囲の代行者達が小さく息を吐いた。

 

完全な敵ではない。

 

だが、完全な味方でもない。

 

それでも――。

 

確かに、奇妙な信頼は生まれていた。

 

ブラッドレイは踵を返す。

 

そして、背後にいる戦友達へ視線を向けた。

 

イスカンダル。

ギルガメッシュ。

ディルムッド。

ウェイバー。

切嗣。

綺礼。

時臣。

ケイネス。

ハサン達。

 

疲弊しながらも、生き残った者達。

 

聖杯戦争を終え。

怪物達との戦いを越え。

なお立っている者達。

 

ブラッドレイは、静かに言った。

 

「さて、戦友諸君。」

 

その声に、一同が顔を上げる。

 

転移魔法陣の光が、彼らを照らしていた。

 

「向こうへ帰れば、“普通”が待っている。」

 

「新たな人生が待っている。」

 

ほんの少しだけ。

 

ブラッドレイは笑う。

 

戦場では決して見せない、穏やかな笑みだった。

 

「……帰るぞ。」

 

その言葉と共に。

 

一同は、転移魔法陣へ足を踏み入れた。

 

淡い光が広がる。

 

空間が軋み。

魔力が渦を巻き。

古代術式が起動する。

 

埋葬機関の地下大聖堂。

 

怪物達の巣窟。

 

その景色が、ゆっくりと遠ざかっていく。

 

最後に。

 

マルグリットだけが、小さく手を振っていた。

 

「気をつけてねぇ、戦友さん達。」

 

その声を最後に。

 

閃光が、一行を包み込んだ。

 

閃光が消える。

 

耳鳴りのような転移の残響が、ゆっくりと静まっていく。

 

足元に刻まれた巨大な魔法陣が、淡い光を失い、周囲は薄暗い静寂に包まれた。

 

「……着いたか。」

 

ブラッドレイが低く呟く。

 

そこは、来る時に使用した地下ではなかった。

 

湿った地下回廊でも。

死臭漂う埋葬機関本部でもない。

 

冷たい夜風が吹いていた。

 

視界の先には、霧に包まれた深い森林。

 

ロンドン郊外――いや、人里から完全に隔絶された山奥。

 

埋葬機関が保有する、隠蔽結界付きの前線詰所だった。

 

石造りの小規模礼拝堂。

古びた宿舎。

武器庫。

聖別された井戸。

 

一見すれば、寂れた修道院にしか見えない。

 

だが。

 

その周囲には、幾重もの対魔術結界と、死徒感知術式が展開されている。

 

木々の間には黒鍵が突き刺さり。

見えない位置に狙撃用の聖銃陣地。

地下には緊急用転移路。

 

完全な“戦闘拠点”だった。

 

「うわ……。」

 

ウェイバーが周囲を見回す。

 

「こんな場所、ロンドンにあったのかよ……。」

 

「埋葬機関は、隠れるのが得意だからな。」

 

切嗣が静かに答える。

 

その視線は、既に周囲の警戒配置を確認していた。

 

ギルガメッシュは鼻で笑う。

 

「陰気な場所だ。」

 

「墓場みたいだな。」

 

「実際、墓場みたいなものだろう。」

 

綺礼が淡々と返す。

 

「ここは怪物狩りの拠点だ。」

 

その時。

 

詰所の扉が、静かに開いた。

 

中から現れたのは、黒衣の若い代行者だった。

 

一瞬、転移してきた一団を見て硬直する。

 

そして。

 

「あ……。」

 

顔色が変わった。

 

当然だ。

 

突然現れた集団の中に。

 

サーヴァント。

埋葬機関元序列。

時計塔のロード。

英雄王。

 

危険人物しか居ない。

 

代行者は反射的に黒鍵へ手を伸ばしかけ――。

 

「待て。」

 

ブラッドレイが静かに制した。

 

その声に、代行者の動きが止まる。

 

ブラッドレイは、一歩前へ出た。

 

「ナルバレックから話は通っている筈だ。」

 

「我々は通過するだけだ。」

 

若い代行者は緊張したまま頷く。

 

「し、失礼しました……。」

 

声が僅かに震えていた。

 

無理もない。

 

目の前の男は、“元埋葬機関番外次席”のキング・ブラッドレイ。

 

内部でも半ば伝説扱いの処刑人なのだから。

 

イスカンダルが豪快に笑う。

 

「ガハハ! そんなに怯えるな!」

 

「余らは今日は暴れん!」

 

「“今日は”って付けるなよ……。」

 

ウェイバーが疲れた顔で突っ込む。

 

小さな笑いが漏れる。

 

その空気に、若い代行者も少しだけ肩の力を抜いた。

 

夜風が吹く。

 

ロンドンの空は曇っていた。

 

だが。

 

地下大聖堂のような圧迫感は無い。

 

血の臭いも薄い。

 

静かだった。

 

本当に静かな夜だった。

 

ブラッドレイは、その空気をゆっくり吸い込む。

 

「……。」

 

普通。

 

平穏。

 

日常。

 

自分達には、あまりに遠かったもの。

 

だが今だけは。

 

その入口に立てている気がした。

 

そして。

 

遠くで、微かにロンドンの街明かりが見えていた。

 

詰所の外。

 

霧の漂う山道に、冷たい夜風が吹き抜けていた。

 

遠くにはロンドンの灯り。

 

近くには、怪物狩り達の隠れ家。

 

その境界線に、戦友達は立っていた。

 

誰もすぐには動かない。

 

聖杯戦争。

 

死徒との戦い。

 

時計塔と埋葬機関。

 

あまりにも濃密な日々を共に越えた者達にとって、この別れは、思っていた以上に重かった。

 

ブラッドレイは、一同を見渡す。

 

その視線は、どこか穏やかだった。

 

「……さて。」

 

静かな声が響く。

 

「これで、お別れだ。」

 

ウェイバーが、少しだけ顔を曇らせる。

 

イスカンダルは腕を組みながら、何も言わない。

 

ギルガメッシュですら、珍しく口を挟まなかった。

 

ブラッドレイは続ける。

 

「戦友諸君。」

 

その呼び方に、誰も違和感を抱かなくなっていた。

 

本来なら、敵同士だった筈なのに。

 

互いに殺し合っていた筈なのに。

 

今では、その言葉が妙にしっくり来る。

 

ブラッドレイは、薄く笑った。

 

「……叶うなら、また。」

 

一瞬だけ、夜風が吹く。

 

その声は、戦場の剣士ではなく。

 

一人の人間としての声だった。

 

「生きて会おう。」

 

静寂。

 

だが、その言葉は確かに皆の胸へ落ちた。

 

切嗣が、ゆっくり煙草の無い口元を歪める。

 

「……縁があればな。」

 

時臣は静かに頷いた。

 

「次は、もう少し平和な席で会いたいものだ。」

 

「酒くらいは用意しろよ、遠坂時臣よ。」

 

ケイネスが鼻を鳴らす。

 

「君は相変わらず図々しいな。」

 

ディルムッドは、騎士らしく深く一礼した。

 

「貴方と共に戦えた事、誇りに思う。」

 

ギルガメッシュは退屈そうに鼻を鳴らす。

 

「フン……。」

 

「雑種共の割には、悪くない余興だった。」

 

だが、その赤い瞳には僅かな愉快さがあった。

 

そして。

 

イスカンダルが、大きな手でブラッドレイの肩を叩く。

 

「ハハハ! 次に会う時は、余の軍勢に加えてやっても良いぞ!」

 

「断る。」

 

「即答か!」

 

笑いが起こる。

 

疲れ切った、だが暖かい笑いだった。

 

そんな中。

 

ウェイバーだけは、少し俯いていた。

 

「……終わったんだな。」

 

その呟きは、小さい。

 

だが、一同には聞こえていた。

 

聖杯戦争。

 

あまりにも多くを壊した戦い。

 

それが今、本当に終わったのだ。

 

ブラッドレイは、静かに頷く。

 

「ああ。」

 

「終わった。」

 

その言葉と共に。

 

戦友達は、それぞれの道へ歩き出していく。

 

普通を知らない者達が。

 

普通へ向かって。

 

戦場しか知らなかった怪物達が。

 

新しい人生へ向かって。

 

霧の向こうへ、ゆっくりと消えていった。

 

霧の中へ歩き出しかけていた戦友達の足が、止まる。

 

ブラッドレイの声だった。

 

低く。

静かで。

だが、鋼のように揺るがない声。

 

「……何か有れば、呼べ。」

 

一同が振り返る。

 

夜風の中。

 

ブラッドレイは、変わらぬ姿勢で立っていた。

 

軍帽の影に隠れた隻眼が、静かに皆を見渡している。

 

「我々は戦友だ。」

 

その言葉は、確認ではない。

 

既に決まった事実として語られていた。

 

時計塔も。

埋葬機関も。

聖杯戦争も。

 

そんなものを越えて。

 

死地を共に潜った者達だけに許される呼び名。

 

ブラッドレイは続ける。

 

「必ず助けに行く。」

 

その瞬間。

 

切嗣が、小さく目を細めた。

 

綺礼は静かに口元を歪める。

 

イスカンダルは豪快に笑い。

 

ディルムッドは、静かに胸へ手を当てた。

 

そして。

 

ブラッドレイは、ほんの僅かに笑う。

 

「戦友の敵は――私の敵だ。」

 

その一言に。

 

空気が変わる。

 

それは、英雄の誓いだった。

 

王の宣言だった。

 

キング・ブラッドレイという男が、一度認めた者を見捨てないという、絶対の意思。

 

ギルガメッシュが鼻で笑う。

 

「フン……。」

 

「雑種の癖に、随分と王らしい事を言うではないか。」

 

「お前に言われるとは光栄だ、英雄王。」

 

イスカンダルは、大声で笑った。

 

「ガハハハ!! 良い!!」

 

「実に良いぞブラッドレイ!!」

 

「余はそういう男が好きだ!!」

 

ウェイバーは、どこか呆れたように笑う。

 

「……なんかさ。」

 

「聖杯戦争より、こっちの方がよっぽど変な縁だよな。」

 

「違いない。」

 

ケイネスが苦笑する。

 

遠坂時臣も、静かに目を閉じた。

 

「ならば私も約束しよう。」

 

「諸君が窮地に陥った時、遠坂の名において可能な限り力を貸す。」

 

ディルムッドが続く。

 

「騎士として、その誓いに応えよう。」

 

ハサン達は、静かに影の中で頷いた。

 

切嗣だけは少し遅れて。

 

「……面倒な連中に関わったな、俺も。」

 

そう呟きながら。

 

僅かに笑った。

 

その光景を見ながら。

 

ブラッドレイは、静かに目を細める。

 

戦友。

 

かつて、自分には無かったもの。

 

利用し合う関係でも。

軍の部下でも。

命令でもない。

 

互いの意思で背中を預ける関係。

 

それが今、確かにここにあった。

 

霧が流れる。

 

ロンドンの灯りが遠く揺れていた。

 

そして、戦友達は。

 

それぞれの新しい人生へ向け、ゆっくりと歩き出していった。

 

霧の深い山道。

 

埋葬機関の隠蔽詰所を背にして、戦友達は静かに立っていた。

 

誰も急ごうとはしない。

 

この別れが、“戦場の解散”ではないと分かっていたからだ。

 

これは。

 

それぞれが、“自分の人生”へ戻る瞬間だった。

 

最初に動いたのは、遠坂時臣だった。

 

黒い外套を整えながら、彼は一同へ静かに一礼する。

 

「では、私は遠坂の責務へ戻るとしよう。」

 

「時計塔への根回しも必要だからな。」

 

ケイネスが鼻を鳴らす。

 

「君の政治力には期待しているぞ、遠坂。」

 

「君ほど露骨ではないがね、ロード・エルメロイ。」

 

小さな皮肉を交わしながらも、二人の間に以前のような険悪さは無かった。

 

時臣は最後に、ブラッドレイを見る。

 

「……生き延びてくれて良かった。」

 

「お互いにな。」

 

短い会話。

 

だが、それで十分だった。

 

遠坂時臣は霧の中へ歩き出し、やがて静かに姿を消していく。

 

次に。

 

ディルムッドが前へ出た。

 

月明かりを受けた双槍が、静かに輝く。

 

「私は、主君を探しながら各地を巡ろうと思う。」

 

「今度こそ、“騎士”として生きてみたい。」

 

その顔には、聖杯戦争中には無かった穏やかさがあった。

 

ブラッドレイは頷く。

 

「お前なら出来る。」

 

ディルムッドは深く礼をした。

 

「貴方と戦えた事、誇りでした。」

 

そう言い残し、風のように去っていく。

 

その後ろ姿を見送りながら。

 

ウェイバーが、ぽつりと呟いた。

 

「……皆、本当に行くんだな。」

 

「当たり前だ。」

 

ギルガメッシュが退屈そうに答える。

 

「いつまでも群れている趣味は無い。」

 

そう言いながらも、彼はすぐには動かなかった。

 

イスカンダルが笑う。

 

「おぉ英雄王よ、寂しいのか?」

 

「殺すぞ征服王。」

 

「ガハハハ!!」

 

騒がしい笑い声が、山奥へ響く。

 

だが、その時間も長くは続かない。

 

ハサン達は、いつの間にか影へ溶け始めていた。

 

別れの言葉すら無い。

 

ただ、去り際に。

 

百貌のハサンだけが、静かに振り返る。

 

「……感謝する。」

 

その一言だけを残し、闇へ消えた。

 

切嗣は、遠くのロンドンを見ていた。

 

「……帰る場所、か。」

 

綺礼が隣へ立つ。

 

「まだ迷っているのか。」

 

「迷ってるさ。」

 

切嗣は苦笑した。

 

「平和に生きるなんて、俺には向いてない。」

 

「だが。」

 

彼は少しだけ目を細める。

 

「試してみる価値くらいは、あるかもしれない。」

 

綺礼は何も言わない。

 

ただ、静かに頷いた。

 

そして二人も、ゆっくり歩き出していく。

 

残されたのは。

 

イスカンダル。

ウェイバー。

ギルガメッシュ。

そして、ブラッドレイ。

 

征服王は、豪快に笑いながらウェイバーの背を叩く。

 

「では行くぞ、坊主!」

 

「痛ぇ!! 力加減しろって!!」

 

「次は世界征服だ!!」

 

「絶対付き合わねぇからな!?」

 

騒がしい声が、少しずつ遠ざかる。

 

ギルガメッシュは最後まで動かなかった。

 

黄金の王は、静かにブラッドレイを見る。

 

「……貴様。」

 

「何だ?」

 

「退屈はせんように生きろ。」

 

それだけだった。

 

だが、それは英雄王なりの餞別だった。

 

ブラッドレイは僅かに笑う。

 

「努力しよう。」

 

ギルガメッシュは鼻で笑い。

 

次の瞬間には、黄金の粒子となって夜へ溶けた。

 

静寂。

 

気付けば。

 

その場には、ブラッドレイ一人だけが残されていた。

 

霧が流れる。

 

冷たい風が吹く。

 

だが、不思議と孤独ではなかった。

 

それぞれが別々の道を歩きながらも。

 

確かに、繋がっている。

 

戦友として。

 

ブラッドレイは、遠くの街明かりを見つめる。

 

「……さて。」

 

静かな声が、夜へ溶けた。

 

「私も、“普通”を始めるとするか。」

 

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