冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第90話

「そう言えば、イスカンダルは相変わらず、好きに冒険しているようだな?」

 

静かにブラッドレイは、問いかけた。

 

「ああ……あの人は全く変わらないよ」

 

ウェイバーは呆れ半分、諦め半分といった顔で額を押さえた。

 

「数ヶ月前なんて、“海が見たい”とか言い出して、いきなり貨物船に乗って東南アジアまで行ったらしい」

 

「ほぉ」

 

ブラッドレイは興味深そうに眉を上げる。

 

「で、帰ってきた時には、現地の傭兵団と酒を飲み交わして、密林の死徒狩りに参加していたそうだ」

 

「相変わらず規格外だな」

 

「しかも本人は、

 『征服王たるもの、未知を見ねばならん!』

 とか言ってたよ……」

 

ウェイバーは深く溜息を吐いた。

 

「時計塔は大騒ぎだった。

 ロードクラスの関係者が突然行方不明。

 しかも同行者が受肉した征服王だなんて、胃が痛くなる」

 

「だが、生き生きしているのだろう?」

 

「……まあ、それは否定出来ない」

 

ウェイバーは苦笑した。

 

かつて、聖杯戦争で見た背中。

 

雷鳴のような笑い声。

無茶苦茶で。

豪胆で。

誰より自由だった王。

 

受肉した今も、イスカンダルは何一つ変わらない。

 

世界中を放浪し、

戦場へ首を突っ込み、

酒場で騒ぎ、

時には死徒相手に軍勢を率い、

時には子供達に混ざって馬鹿笑いしている。

 

まるで、“生”そのものを喰らう怪物だった。

 

「この前なんて、アフリカで現地の魔術師部族と意気投合して、“固有結界の再現実験”とか始めたらしい」

 

「迷惑極まりないな」

 

「本当にね……」

 

ウェイバーは頭を抱える。

 

「しかも、ギルガメッシュまで面白がって資金提供してるんだ」

 

その瞬間。

 

店内の空気が微妙に固まった。

 

ブラッドレイが静かに珈琲を置く。

 

「……英雄王も動いているのか」

 

「あの人もあの人で好き勝手やってるよ」

 

ウェイバーは疲れ切った顔で言った。

 

「表向きは世界中の企業や資産を買収してる。

 裏では魔術礼装、聖遺物、古代兵器の蒐集。

 時計塔ですら把握しきれてない」

 

「金で世界を弄び始めたか」

 

「しかも本人、“暇潰し”のつもりなんだよ……」

 

アンデルセンが鼻で笑った。

 

「ハッ……

 俗物の王らしいな」

 

「だが厄介だぞ、神父」

 

ブラッドレイは低く言う。

 

「英雄王が本気で世界へ干渉を始めれば、時計塔も聖堂教会も止められん」

 

「そんな事は、分かっている」

 

アンデルセンは笑みを消した。

 

「だからこそ目が離せんのだ、お前ら英霊は」

 

ギチ、と。

 

銃剣の柄を握る音。

 

「本来、死んでいた怪物が、

 肉体を得て世界中好き勝手歩き回っている。」

 

その言葉には、珍しく本音が滲んでいた。

 

恐怖。

 

嫌悪。

 

そして警戒。

 

マルグリットが空気を和らげるように笑う。

 

「でもぉ、少なくともイスカンダルは、世界征服とか考えてないんでしょう?」

 

「だろうな」

 

「征服王だからですよぉ♪」

 

彼女は柔らかく目を細めた。

 

「多分あの人、“支配”より“旅”の方が好きなんです」

 

ウェイバーは少し黙り――やがて、小さく笑った。

 

「……うん。

 たぶん、そうだ」

 

遠く。

 

夕焼けの彼方。

 

今この瞬間も、征服王はどこか知らない土地で笑っているのだろう。

 

新しい景色を見て。

新しい敵と戦い。

新しい酒を飲みながら。

 

それは、かつて少年だったウェイバーが、誰より憧れた王の姿そのものだった。

 

 

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