冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第96話

ブラッドレイが窓の外へ視線を向けたまま、ふと口元を緩めた。

 

「ん?」

 

究極眼が、結界の外を捉える。

 

「噂をすれば、だな」

 

全員の視線が自然と窓へ向いた。

 

雨の降る夜道。

 

街灯の明かりの中を、三つの人影がゆっくりと歩いてくる。

 

先頭は、黒いコートを羽織った男。

 

無精髭。

鋭い眼差し。

ポケットへ手を入れたまま歩く姿。

 

衛宮切嗣。

 

かつて“魔術師殺し”と恐れられた男。

 

その隣には。

 

白銀の髪を揺らす、美しい女性。

 

優しい笑顔。

穏やかな眼差し。

 

アイリスフィール。

 

そして。

 

二人の間で手を繋ぎながら歩いているのは。

 

銀髪の少女。

 

赤い瞳。

 

無邪気な笑顔。

 

イリヤスフィール。

 

その姿を見た瞬間。

 

時臣が小さく息を吐いた。

 

「本当に家族になったのだな」

 

誰にも聞こえないほどの小さな声だった。

 

凛も思わず見入る。

 

第四次聖杯戦争を知る者ほど、その光景は奇跡に見えた。

 

本来なら有り得なかった未来。

 

本来なら失われていたはずの家族。

 

それが今、当たり前のように存在している。

 

イリヤが真っ先にこちらへ気付いた。

 

「あっ!」

 

元気よく手を振る。

 

「ブラッドレイおじさん!」

 

ブラッドレイが僅かに固まった。

 

凛が吹き出す。

 

「おじさん」

 

「おじさんだな」

 

綺礼が追撃する。

 

「おじさんですねぇ♪」

 

マルグリットまで乗っかった。

 

「……」

 

ブラッドレイは何も言わない。

 

だが少しだけ肩を落とした。

 

その様子にイリヤが不思議そうな顔をする。

 

「?」

 

アイリスフィールが小さく笑う。

 

切嗣は相変わらずの無表情だったが、僅かに口元が緩んでいた。

 

やがて。

 

三人は遠坂邸へ到着する。

 

玄関が開く。

 

「こんばんは」

 

アイリスフィールが柔らかく微笑む。

 

その瞬間。

 

部屋の空気が少しだけ和らいだ。

 

まるで暖炉の火が強くなったような感覚。

 

イスカンダルが豪快に立ち上がる。

 

「おお!!

 久しいなアイリスフィール!!」

 

「お久しぶりです、ライダー」

 

「ライダーではない!!

 イスカンダルだ!!」

 

「ふふっ♪」

 

全く気にしていない。

 

ギルガメッシュは椅子に座ったまま鼻を鳴らす。

 

「相変わらず騒がしい男だ」

 

「貴方も居たのですね英雄王」

 

「居て悪いか」

 

「少しだけ」

 

「貴様……」

 

珍しく英雄王が言葉に詰まった。

 

凛が笑いを堪えている。

 

そして。

 

最後に切嗣が部屋を見渡す。

 

英雄王。

征服王。

ブラッドレイ。

綺礼。

時臣。

シエル。

マルグリット。

 

異常な面子だった。

 

切嗣は数秒沈黙し――

 

やがて深く息を吐いた。

 

「……また厄介事になっているな?」

 

全員が納得したように頷く。

 

「そうだ」

 

ブラッドレイ。

 

「そうですね」

 

シエル。

 

「その通りだ」

 

ギルガメッシュ。

 

「うむ!!」

 

イスカンダル。

 

全員一致だった。

 

切嗣は目を閉じる。

 

数秒後。

 

諦めたように椅子へ座った。

 

「詳しく説明してくれ」

 

その横で。

 

アイリスフィールが苦笑しながら言う。

 

「だから言ったでしょう?

 きっとそういう話だって」

 

切嗣は何も言い返さない。

 

言い返せなかった。

 

なぜなら。

 

来る途中で、既に予感していたからだ。

 

――この面子が集まっている時点で、絶対に平和な話ではない。

 

そして。

 

イリヤはそんな大人達をよそに、部屋を見回しながら目を輝かせる。

 

「わぁ……」

 

その視線が。

 

シエル。

 

マルグリット。

 

ギルガメッシュ。

 

イスカンダル。

 

へ順番に向き――

 

最後に。

 

壁際に立て掛けられた第七聖典へ止まった。

 

「おっきい!」

 

シエルの顔色が変わる。

 

嫌な予感しかしなかった。

 

ブラッドレイは、興味津々で第七聖典を見つめるイリヤを横目に見ながら、切嗣へ視線を向けた。

 

「丁度連絡をしようとしていたところだ」

 

切嗣は椅子へ腰を下ろしながら煙草を取り出しかけ――

 

アイリスフィールの視線に気付き、何事もなかったようにポケットへ戻した。

 

その様子に凛が小さく吹き出す。

 

「相変わらずね」

 

「……余計なお世話だ」

 

切嗣は短く返した。

 

ブラッドレイは静かに続ける。

 

「君達がタイミング良く来てくれて助かった」

 

そして。

 

究極眼の男は少しだけ口元を歪めた。

 

「大凡は予想出来ているだろう?」

 

切嗣は即座に答える。

 

「ああ」

 

その声に迷いは無い。

 

「死徒の件だろう」

 

部屋が静かになる。

 

流石は衛宮切嗣だった。

 

無駄な説明を要求しない。

 

必要な情報だけを繋ぎ合わせる。

 

ブラッドレイは頷いた。

 

「その通りだ」

 

アイリスフィールの表情も穏やかなままだが、目だけは真剣だった。

 

「東欧……いえ、北欧方面で異常が起きているのでしょう?」

 

「そこまで掴んでいるか」

 

「埋葬機関と時計塔が同時に動き始めていますもの」

 

アイリスフィールは静かに答える。

 

「それに、教会側も慌ただしいです」

 

綺礼が小さく頷いた。

 

どうやら聖堂教会内部でも既に話は広がっているらしい。

 

切嗣は腕を組む。

 

「規模は?」

 

今度はシエルが答えた。

 

「最悪を想定しています」

 

即答だった。

 

「祖級。

 あるいはそれ以上」

 

その言葉に、切嗣の目が細くなる。

 

魔術師殺しとしての顔だった。

 

「……そうか」

 

驚きは無い。

 

ただ状況を整理している。

 

ブラッドレイは静かに言った。

 

「既にケイネスとウェイバーには話を通した」

 

「来るだろうな」

 

切嗣も同意する。

 

「あの二人は」

 

「来る」

 

イスカンダルが断言した。

 

「ウェイバーは頭を抱えながら来る」

 

「想像できる」

 

切嗣が珍しく少しだけ笑った。

 

その時。

 

イリヤがブラッドレイの隣へ来る。

 

「ブラッドレイおじさん」

 

また言われた。

 

究極眼の男の眉が微かに動く。

 

凛が笑いを堪えている。

 

「なんだね」

 

「また危ないの?」

 

その問いに。

 

部屋が静まった。

 

子供だからこそ聞ける。

 

そして。

 

大人達が最も答えに困る質問だった。

 

ブラッドレイは少し考えた。

 

そして。

 

静かに答える。

 

「危険だろうな」

 

嘘は言わない。

 

「だが」

 

その大きな手が、イリヤの頭へ置かれる。

 

「君達が心配する事ではない」

 

切嗣がその言葉を聞いて目を細める。

 

かつてなら。

 

こんな事を言う男ではなかった。

 

アイリスフィールも優しく微笑む。

 

ブラッドレイは続けた。

 

「子供は子供らしくしていれば良い」

 

イリヤは少し考え――

 

やがて頷いた。

 

「うん!」

 

その笑顔を見て。

 

部屋の空気が少しだけ柔らかくなる。

 

だが。

 

次の瞬間。

 

シエルの携帯端末が震えた。

 

全員の視線が向く。

 

シエルは画面を見て――

 

数秒固まった。

 

「……」

 

嫌な予感しかしない。

 

マルグリットが覗き込む。

 

「どうしましたぁ?」

 

シエルはゆっくり顔を上げた。

 

そして。

 

本気で疲れた顔で告げる。

 

「アルクェイドからです」

 

全員が固まる。

 

「内容は?」

 

ブラッドレイが問う。

 

シエルは画面を見たまま答えた。

 

「『蟹おいしかった。今からそっち行くね』」

 

沈黙。

 

数秒後。

 

凛が頭を抱えた。

 

「なんでそんな旅行帰りみたいなノリなのよ……」

 

だが。

 

シエルは知っていた。

 

本当に恐ろしいのは。

 

その文面の気軽さではない。

 

――アルクェイド・ブリュンスタッドが、自分から動き始めた。

 

その事実そのものだった。

 

ブラッドレイは珈琲を一口飲み――

 

真顔のまま、シエルを見た。

 

「いや」

 

静かに言う。

 

「やはり私としては」

 

一拍。

 

「死徒の件よりも、あの真祖の姫と君が交流がある事の方が、ある意味で衝撃なんだが?」

 

部屋が静まり返る。

 

そして。

 

「そうですね」

 

切嗣。

 

「その通りだな」

 

時臣。

 

「否定出来ん」

 

綺礼。

 

「私もです」

 

ディルムッド。

 

「うむ!!」

 

イスカンダル。

 

「当然であろう」

 

ギルガメッシュ。

 

まさかの全員一致だった。

 

シエルが額を押さえる。

 

「なんでですか……」

 

「なんでも何も」

 

ブラッドレイは即答した。

 

「真祖の姫君だぞ?」

 

「ええ」

 

「伝説級の存在だぞ?」

 

「ええ」

 

「そして君は埋葬機関だ」

 

「ええ」

 

「普通は仲が悪い」

 

「まあ普通は」

 

「なのに交流がある」

 

「ありますね」

 

「しかも」

 

ブラッドレイは真顔のまま続けた。

 

「蟹だぞ?」

 

沈黙。

 

シエルが思わず聞き返す。

 

「蟹?」

 

「蟹だ」

 

「蟹ですね」

 

マルグリットまで頷いた。

 

「蟹だな」

 

切嗣も頷いた。

 

「蟹だ」

 

綺礼。

 

「蟹ですね」

 

アイリスフィール。

 

「蟹よね」

 

凛。

 

もはや何の会議か分からない。

 

シエルが本気で困惑する。

 

「待ってください。

 何故そこが重要なんですか」

 

「重要だろう」

 

ブラッドレイは真顔だった。

 

本当に真顔だった。

 

「我々は今」

 

指を折る。

 

「死徒による大規模軍事組織」

 

一本。

 

「祖級存在の活動」

 

二本。

 

「真祖勢力介入の可能性」

 

三本。

 

「時計塔と埋葬機関の共同作戦」

 

四本。

 

「アンデルセン暴走」

 

五本。

 

「世界規模危機」

 

六本。

 

そして。

 

「その最中に真祖の姫が北海道で蟹を食べている」

 

沈黙。

 

数秒後。

 

凛が吹き出した。

 

「ダメだ、言われると確かにおかしい!!」

 

イスカンダルが腹を抱えて笑う。

 

「ハハハハハハハハ!!」

 

綺礼ですら肩を震わせている。

 

時臣は額を押さえた。

 

「……確かに異様だな」

 

ギルガメッシュはワインを揺らしながら鼻で笑う。

 

「フン。

 あやつなら有り得る」

 

「知り合いなんですか?」

 

切嗣が聞く。

 

「少々な」

 

嫌な予感しかしない返答だった。

 

シエルは諦めたように溜息を吐く。

 

「アルクェイドはそういう人なんです」

 

「人なのか?」

 

ブラッドレイが聞く。

 

「その辺は置いておいてください」

 

即答だった。

 

マルグリットが楽しそうに笑う。

 

「アルクェイドさん、前に北海道へ行った理由も『テレビで見たから』でしたしねぇ♪」

 

「そうです」

 

「しかも二泊三日」

 

「そうです」

 

「目的が蟹だけ」

 

「そうです」

 

ブラッドレイが天井を見上げた。

 

究極眼を持つ男が。

 

死徒二十七祖を狩り続けた男が。

 

本気で理解不能な顔をしていた。

 

「……世界が滅びかけていても蟹を優先するのか」

 

「いや」

 

シエルは少し考えた。

 

そして。

 

非常に嫌な確信を持って答えた。

 

「多分、蟹を食べ終わってから世界を救います」

 

沈黙。

 

完全な沈黙。

 

ギルガメッシュが吹き出した。

 

イスカンダルも笑う。

 

凛は机へ突っ伏した。

 

切嗣が目を閉じる。

 

ブラッドレイは数秒黙り――

 

やがて静かに呟いた。

 

「……なるほど」

 

そして。

 

本気で納得した顔で言った。

 

「死徒の件より衝撃だな」

 

「だから何でですか!?」

 

遠坂邸に、シエルの珍しい抗議の声が響いた。

 

ブラッドレイは、騒がしい居間を見渡した。

 

征服王は豪快に笑っている。

 

英雄王はワインを飲みながら鼻で笑う。

 

凛は机へ突っ伏している。

 

シエルは頭を抱えている。

 

マルグリットは楽しそうに笑っている。

 

イリヤは何が面白いのか分からないまま一緒に笑っている。

 

切嗣は疲れた顔で椅子に座り。

 

アイリスフィールは優しく微笑んでいる。

 

時臣は静かにワインを傾け。

 

綺礼は珍しく穏やかな顔をしていた。

 

つい先程まで。

 

死徒の軍勢。

 

真祖。

 

祖級存在。

 

埋葬機関。

 

時計塔。

 

世界規模の危機。

 

そんな話をしていたはずだった。

 

それなのに。

 

今の話題は。

 

「真祖の姫が北海道で蟹を食べていた」

 

である。

 

ブラッドレイは深く珈琲を飲んだ。

 

そして。

 

少し呆れたように呟く。

 

「……なんというか」

 

誰もが自然と彼を見る。

 

究極眼の男は、静かに言った。

 

「平和だな」

 

沈黙。

 

その言葉に。

 

誰もすぐには返事をしなかった。

 

それは皮肉ではなかった。

 

本心だった。

 

第四次聖杯戦争。

 

血と裏切り。

 

死と絶望。

 

あの日々を知る者達だからこそ分かる。

 

今、この瞬間は確かに平和だった。

 

綺礼が小さく笑う。

 

「君の口からその言葉を聞く日が来るとはな」

 

「私もそう思う」

 

ブラッドレイは否定しない。

 

時臣が静かにグラスを置いた。

 

「だが、確かにそうだ」

 

遠坂時臣。

 

かつて根源だけを見つめていた男。

 

その視線は今、娘達の未来へ向いている。

 

「昔なら考えられなかった」

 

誰も反論しない。

 

イスカンダルが豪快に腕を組む。

 

「うむ!!」

 

征服王は満足そうに頷く。

 

「これこそ余が見たかった景色よ!!」

 

ギルガメッシュが鼻で笑う。

 

「貴様らしくもない」

 

「そうか?」

 

「そうだ」

 

だが。

 

英雄王の口元も、僅かに緩んでいた。

 

イリヤが不思議そうに首を傾げる。

 

「平和なの?」

 

その問いに。

 

大人達は顔を見合わせる。

 

切嗣が娘を見る。

 

しばらく考えて。

 

そして。

 

静かに答えた。

 

「ああ」

 

短い言葉だった。

 

「今はな」

 

アイリスフィールが微笑む。

 

イリヤも嬉しそうに笑った。

 

その光景を見て。

 

ブラッドレイは窓の外へ視線を向ける。

 

雨は少し弱くなっていた。

 

世界は相変わらず危険だ。

 

死徒はいる。

 

祖はいる。

 

真祖もいる。

 

アンデルセンは相変わらず暴れているだろう。

 

北欧では何かが動いている。

 

明日には再び剣を抜く事になるかもしれない。

 

それでも。

 

今だけは違う。

 

敵だった者達が同じ卓を囲み。

 

笑い合っている。

 

それは。

 

聖杯戦争を生き延びた者達が、ようやく掴んだ日常だった。

 

ブラッドレイは小さく笑う。

 

「まあ」

 

珈琲を置く。

 

「悪くない」

 

その言葉に。

 

誰も反論しなかった。

 

本当に。

 

悪くなかった。

 

ブラッドレイがそう呟くと、先ほどまでの穏やかな空気の中に、再び現実的な話題が戻ってきた。

 

「残りは、ランスロット達だけだな」

 

珈琲を置きながら続ける。

 

「誰が連絡するかね?」

 

その瞬間。

 

全員が何故か視線を逸らした。

 

妙な沈黙が流れる。

 

ブラッドレイが片眉を上げる。

 

「……何だね、その反応は」

 

凛が真っ先に口を開いた。

 

「いや」

 

「うむ」

 

イスカンダルも頷く。

 

「これは難題だぞ」

 

「何故だ?」

 

ブラッドレイには本気で分からない。

 

すると切嗣が静かに言った。

 

「雁夜はともかく」

 

「うむ」

 

「ランスロットは桜優先だからな」

 

全員が頷いた。

 

ブラッドレイも頷いた。

 

「その通りだな」

 

理解はしている。

 

しているが。

 

「それと誰が連絡するかに何の関係が?」

 

今度はアイリスフィールが苦笑した。

 

「関係ありますよ」

 

「あるか?」

 

「あります」

 

即答だった。

 

時臣が静かに補足する。

 

「仮に私が連絡した場合」

 

全員が想像する。

 

――遠坂時臣から電話。

 

『北欧へ来てくれ』

 

ランスロット。

 

『承知しました』

 

桜。

 

『気を付けてね』

 

ランスロット。

 

『はい』

 

即決である。

 

「問題ないな」

 

ブラッドレイが言う。

 

「私もそう思う」

 

時臣も頷く。

 

すると綺礼が手を挙げた。

 

「私の場合はどうだ」

 

凛が即答した。

 

「胡散臭い」

 

「何故だ」

 

「自覚無いの?」

 

綺礼は少し考えた。

 

「無いな」

 

「だからよ」

 

切嗣が溜息を吐く。

 

一方。

 

イスカンダルは大笑いしていた。

 

「余なら一発よ!!」

 

「どうするんです?」

 

ディルムッドが聞く。

 

征服王は胸を張った。

 

「桜へ頼む!!」

 

全員。

 

「ああ」

 

納得した。

 

最も成功率が高い。

 

非常に合理的だった。

 

ブラッドレイも頷く。

 

「確かに」

 

「だろう?」

 

「だが」

 

ブラッドレイは少し考える。

 

そして。

 

静かに言った。

 

「本人達に直接連絡するより」

 

全員が嫌な予感を覚える。

 

「桜へ連絡した方が早い気がする」

 

沈黙。

 

数秒後。

 

凛が吹き出した。

 

「ダメだ、それ絶対そうだわ」

 

切嗣まで頷く。

 

「否定できない」

 

時臣も遠い目になる。

 

実の父親として少し複雑だった。

 

その時。

 

シエルが小さく手を挙げた。

 

全員が見る。

 

「……私でもいいですよ?」

 

沈黙。

 

ブラッドレイが聞き返す。

 

「君がか?」

 

「はい」

 

「何故」

 

シエルは少し気まずそうな顔になる。

 

そして。

 

「この前、桜さんから連絡先を交換しませんかって」

 

また沈黙。

 

マルグリットが笑いを堪えている。

 

凛が机に突っ伏した。

 

「交換してる!」

 

「してるのか!」

 

ブラッドレイも驚いた。

 

「してます」

 

シエルは諦めたように答える。

 

「たまに写真も送られてきます」

 

「写真?」

 

イリヤが興味津々になる。

 

シエルは携帯を開く。

 

そして。

 

見せた。

 

そこには。

 

庭で野菜を育てる雁夜。

 

洗濯物を干すランスロット。

 

笑顔の桜。

 

そして。

 

畑を耕しているバーサーカーが写っていた。

 

居間が静まり返る。

 

イスカンダルが一言。

 

「平和だな」

 

「平和ですね」

 

アイリスフィールも頷く。

 

ブラッドレイは額を押さえた。

 

死徒。

 

真祖。

 

時計塔。

 

埋葬機関。

 

そんな話をしているはずなのに。

 

気付けば皆で、雁夜一家の家庭菜園の写真を見ている。

 

そして彼は小さく溜息を吐いた。

 

「……もうシエルが連絡してくれ」

 

「はい」

 

「ついでに桜にもよろしく伝えてくれ」

 

「分かりました」

 

シエルが微笑む。

 

その瞬間。

 

誰もまだ知らなかった。

 

数分後。

 

その連絡を受けた桜が。

 

「皆さんが集まるなら私も行きます」

 

と言い出し、

 

雁夜とランスロットが頭を抱える事になるのを。

 

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