オラッ!催眠!催眠解除!催眠!(セルフ) 作:催眠お兄さん
「──ん、朝か」
魔王ちゃんの立会いの下、空白旅団のメンバーやウィンドアッシュの面々と顔合わせを済ませ、協力関係を取り付けた翌日。
俺はいつもの安アパート──ではなく、ヒナギクの家の隅っこで目を覚ました。
あの後ウィンドアッシュの子供たちにお菓子を配り、怪しいお兄さんから優しいお兄さんへとジョブチェンジをすることには成功した。
ただ、思った以上に懐かれてしまったようで。夕暮れ時から子供たちの遊び相手になっていると、いつの間にか太陽が沈みきっており、仕方なく一緒に夜を過ごすことにしたわけだ。
「まあ、俺も楽しかったし良いか……」
時刻は早朝。ボロいカーテンの隙間から差し込む光を頼りに、寝ている子供たちを起こさないようにそっと部屋を後にすると、キッチンの方から灯りが漏れているのに気付いた。
「あれ、ヴァス? おはよ~っ」
「……セイナ? こんな時間に何してるんだ」
キッチンに立っていたのはセイナだった。
艶やかな金髪を後ろ手に結び、可愛らしいエプロンを身につけた上で、何やら忙しない様子で動き回っている。
そんな彼女の手には包丁、コンロには大鍋、近くの台には野菜の束。これは……。
「ん~とね、子どもたちの為に朝ごはんを作ってるんだ。手っ取り早いカレーだけどね」
なるほど。道理でスパイスの香りがするわけだ。確かにカレーと言えば子供たちが好きな料理ランキング上位に入るし、一度にまとめて調理できるからコスパ面もバッチリ。
ただ、彼女だけに何十人前の料理をさせるというのは忍びない。今更回れ右も後ろめたいし。
「手伝おうか? 一人じゃ大変だろ」
「え、ホント!? ありがと~、助かるよヴァスっ!」
そう言うと、セイナはにこりと笑みを浮かべた。
というわけで、俺とセイナで分担して作業に取り掛かる。にんじんは軽く皮を剥いてから火が通りやすいように三~五ミリ程度のいちょう切り、ジャガイモは一口大サイズより少し小さめに。
玉ねぎはルゥに溶け込みやすいよう薄切り──と、手際よく野菜を切っていたところ、隣にいるセイナからまじまじと手元に視線を注がれていたことに気付いた。
「なんか手馴れてるね……。ヴァスってもしかして料理男子なの?」
「そうかもな。知り合いに振る舞っているうちに、手に馴染んだらしい」
いつからか俺は星ノ塔に入り浸っている間、塔の住人──ドスケベW小悪魔に毒舌ナース、接客態度が終わってるズボラ女と、コンビニの店長(鳥類)に手料理を振る舞っていた。
彼女たちが言うには、塔の住人は食事する必要がないらしいのだが。
それでも俺は、下手したら数百年も代わり映えのない
本音は窺い知れないが、きっと楽しんでくれていると思いたい。届け、先っちょでも……っ!
「料理のできる男子はポイント高いよ。特に巡遊者だと、苦手な人も多いからね~」
「マジで? そりゃ嬉しいわ」
そんな雑談も挟みながら、俺たちは子供たちが起きてくる前に何とか人数分のカレーを拵えることができた。新婚夫婦の嗜みだね。
味付けはセイナに全任せしたのだが、正直言って今まで食べた中で一番美味かった。サイコー♡
……
…………
「さて。──人数も揃ったことだし、作戦会議をするとしようか」
ヒナギクの家の一室にて。
頃合いを見計らって、魔王ちゃんを始め中心メンバーが一堂に会することになった。俺、セイナ、コハク、アヤメ、そしてミネルバ。
他にもウィンドアッシュのネールモント&フォルモント姉妹が参加したがっていたのだが、ミネルバの鶴の一声でアッシュエリアで起こるトラブルへの対応に駆り出されていったのが現状だ。
むほ~っ♡ 女の子のいい匂いに囲まれてるぜ……! フレグランス♡
「本格的に動く前に、私たちには解決しなければならない問題があるのは分かっているな?」
全員の顔を見渡して、魔王ちゃんがそう告げる。いち早く手を挙げたのはセイナだ。
「はいはーい! まずはミドリちゃんを返してもらわないと!」
「その通り。第一に、フィキンの下にあるオアシス号を奪還する必要がある。移動手段がないのは何かと不便だし、空白旅団の拠点とも言えるものが向こうに渡っているのは明確な弱点だ」
借金のカタに分捕られたミドリちゃんことオアシス号。交渉の場において人質……というか
ウィークポイントを積極的に潰しにかかる精神、愛車への思い入れの心、どちらも誉れ高い。
「借用書の原本か証拠品もいるよな? 奴らをブッ潰すにしても名分はあった方がいい」
「ああ。あれだけの額を吹っ掛けたんだ、必ずどこかに帳簿があるはずだ。もしなかったとしても、捏造した証拠として突き付けてやればいい。契約違反となれば恩恵意思も動くぞ……」
とミネルバが続く。争いに大義名分は付き物。それは嫌というほど分かっている。
「後は……この願掛けカードの出処についても調べましょう。見た限り、白亜商会のものではなさそうですし。個人や何らかの組織がバックについていると考えるのが自然かと」
そう言ってアヤメが取り出したのは一枚のカードだった。
装飾もないシンプルなカードだが、そこから感じられる魔力の波長に
「これは……」
「ぬ、そう言えばヴァスには説明してなかったな。フィキン曰く祈願箱から出てくる神器の方向性を定めるものらしい。ただ、必要以上に記憶を消費するというデメリットがあるんだ」
魔王ちゃんに補足説明されたものの、俺の意識は別の所にあった。この場の誰もが気づいていないようだが、カードには微細な魔力が込められている。
不吉なようでいて、純粋な魔力の気配。波長パターンを解析するに──
しかし下手なことを口に出しても混乱を招くだけなので、ここは黙っておくことにする。
「ボス、どうするの?」
「時間との勝負だ。……作戦決行は今夜だな。皆で白亜商会に潜入するぞ」
コハクの問いに、魔王ちゃんは即答。昨日今日どころか朝に作戦を立てて夜には決行とかいう朝令暮改の逆をいくとは中々やりおる。そのテンポの良さ、タマン・セロ。
「んじゃ、あたしはフィキンのトコに殴り込みに行くぜ」
「私もっ! ミドリちゃんの居場所を聞き出さないといけないし!」
突入組はミネルバとセイナが立候補。
「……なら、あたしが忍び込んで証拠品集めをするね。アヤメは後方支援で」
「ええ。任せて」
コハクが潜入し、アヤメが万が一のサポート役に。
「ヴァスはどうするんだ?」
「俺は……突入組に加わろうかな。魔王ちゃんの護衛役ってことで」
と言いつつ、本命は他にある。もし仮に俺の読みが当たっていたとすれば、フィキンの近くには件の協力者の影が付きまとう。
彼女は──否、彼女たちは心相石を扱う一般的な巡遊者にとっての天敵だ。無論セイナたちも。
そのリスクを考慮に入れると、同じ土俵で戦える俺がいた方がいいというのが結論だ。
「了解した。ヴァスがいるなら心強い。──決行は今夜だ、必ず成功させるぞ!」
最後に魔王ちゃんが締め括り、一旦会議はお開きとなった。
早速コハクたちは武器の調子を確かめているが、俺にはその必要もない。
無手こそ最強。よって二度寝します。おやすみなさい……。Zzz。
★
「──わ、悪かった! 私が悪かったからその剣とバットを下ろしなさいッ!!」
背後から剣を突きつけるセイナと、ニヤニヤしながらバットを素振りするミネルバに囲まれたフィキンは、血の気の引いた顔でそう懇願する。
ゴールドエリア──白亜商会のホールにて。
無事に白亜商会の本拠地へと潜入を果たした魔王一行は、オアシス号の在処や願掛けカードについて問いただす為、平和的解決手段をチラつかせながらフィキンとOHANASHIしていた。
≪ボス。見つけたよ。やっぱり借用書の件はでっち上げの嘘みたい≫
≪やはりか……≫
≪他にも証拠になりそうなものはアヤメに持たせて先に戻らせたから、そっちに合流するね≫
魔王はココチャに届いたコハクからのメッセージに目を通すと、顔面蒼白なフィキンに近づく。
「ね、話し合いましょう! 話し合えばきっと分かり合えるはずよ!」
「なら……色々と説明してもらおうじゃないか。交渉に応じるのはそれからだ」
悪い笑みを浮かべた魔王。
そこで観念したのか、フィキンは折れた。
──願掛けカードは、協力者からの技術提供を受けて独自に研究したモノ。
星ノ塔を登り、祈願箱から手に入れる神器の種類や質がその時々の巡遊者によって左右されるという不確定要素を排除するために開発されたと。
オアシス号を奪い取ったのは、試金石としてパーツをバラして調べるため。
カードによって方向性が定まれば誰でも簡単に神器を手に入れることが可能になり、供給量が何倍にも増えて良いこと尽くめだろう……と、悪びれもせずにそう語った。
「あなたたちにとっても悪い話じゃないはずよ。これで納得したかしら」
だが魔王は眉根一つ動かさず、無表情のままフィキンを見遣った。
「……その代償は誰に払わせるつもりだ? 何も知らない子供たちか? それとも私たちに?」
「そっ、それは……」
言い淀むフィキンに対し、散々搾取されてきたミネルバは苛立ちを隠そうともしなかった。
これ以上は話し合いの無駄だと切って捨て、フィキンの胸ぐらを掴んで睨み付ける。
「おい、あんまり舐めたクチ利いてっとブン殴るぞ。ああ゛?」
「ヒィッ!? は、離しなさい……!」
「チッ、ならとっとと契約書とオアシス号の場所に案内しろ」
ズルズルと地面を引きずられる間抜けな姿を晒すフィキンに、魔王が溜息を吐いたそのとき。
「ふむ。──紅茶の味はよく分からんな」
静けさに包まれた部屋に、カップを置くカチッという硬質な音が響いた。弾かれたように振り返る魔王たちの視線の先、誰もいなかったはずの席に腰掛けていたのは黒衣に白髪の少女。
「なっ!? 一体いつから『このおバカ! 私がピンチに陥ってるっていうのに、なに吞気にティータイムを楽しんでるのよ……ッ! ほら、さっさと私を助けなさいってば!!』」
「おや、それは失礼した。だが今は勤務時間外だ。他を当たるといい」
助けを求めてギャーギャー喚くフィキンを無視し、謎の少女は茶菓子をポイっと口に放り込む。
マイペース極まるその態度に、魔王たちは困惑した表情で顔を見合わせた。
「……それに私は技術者だ。用心棒の役割を求められては困る」
「は? はぁーっ!? いい加減にしなさいよ……! 早くこいつらをやっちゃって!」
「だがどうしてもと言うのなら、そうだな──此方の組織を支援しろ。最近また黄昏庁のイヌどもが鬱陶しくてな、中々計画を進められんのだ。そうすれば、手伝ってやってもいいぞ?」
言いながら、ゆっくり立ち上がる。
少女から漂ってくる底知れない不気味さを感じ、自然とセイナは剣を構えた。
ミネルバもまたバットを手に、魔王を守るようにして背中に庇う。
「分かった。そっちの条件は何でも呑むから……だからこいつらを追い払ってッ!!」
「ふっ、承った」
少女は薄い笑みを浮かべ、セイナ、ミネルバ、そして魔王の
「お前たちには何の恨みもないが、仕事なんでね。──即刻、この場から立ち去るといい」
そう言い切った直後、ノータイムで放たれたのは闇色の弾丸。詠唱もなしに練り上げられた魔力の弾が、不規則な軌跡を描いて次々と飛来する。
セイナは一発目を半歩ズレて回避し、二発目、三発目を流れるような動きで受け流す。
「ほう……勘が良いな」
わずかに目を見張る少女だったが、余裕の笑みを崩さない。
すると、セイナのやや後方のミネルバがバットを構え、受け損ねた弾丸の幾つかを弾き返す。
それらは絶妙な力加減とコントロールにより、向かってくる弾丸とぶつかって相殺した。
「行け、セイナ!」
「オッケ~! 任せてよ♪」
一瞬の隙を突いて、セイナが低姿勢で駆け出した。
少女は即応して火力を集中させるも、四ツ足の獣を思わせる機敏さに加えて天性の動体視力により、弾丸の合間を縫って至近距離まで接近される。
剣が届くリーチ。セイナは愛用する片手剣・ナナシを振りかざして、
「残念だが──ブラフ『予想通りっ!』 っ……!?」
待っていたかのように狙い澄まされた闇色の一撃を剣の腹で受け止める。
代わりに上から少女へと撃ち込まれたのは炎の弾丸だった。
「ん、防がれた」
天井の梁から音もなく降り立ったのはコハク。
虎視眈々と隙を窺い続け、セイナが油断を誘った隙に乗じて連携攻撃を加えたのだ。
しかし有効打には至らなかったようで、煙が晴れると無傷のまま少女が現れる。
「面倒な奴らめ……」
「ちょっと! その程度のやつら、遊んでないでとっとと片付けなさいよ!!」
「ええい、静かにしろ。……言われずともそうするつもりだ」
フィキンの文句に悪態を吐いた少女が何かを唱えると同時に、足元から影が溢れだす。
影は少女の姿をかたどったかと思えば、一瞬でコハクたちに憑りついた。
「なに、この影……?」
「関係ない。狙い撃つ──」
コハクはトリガーに指をかける。しかし、双銃は
カチッ、カチッと何度も引き金を引こうとするも、虚しい金属音が重なるだけ。
「無駄だ。心相石の魔力を封じ込めた。……偽物の魔力とはいえ、ソレがなければ手足の一つを捥いだも同然だろう?」
魔法の一切が使えなくなったコハクたちを、少女は得意げに見下ろした。まさに天敵。
「このッ……魔力が使えなくたって……!」
「威勢がいいのは認めるが、手間をかけさせるな。そら、オマケだ」
彼女がパチン、と指を鳴らすと魔王の仲間たちの体が凄まじい力で押さえつけられる。
見れば、背中に小さな羽──夜の闇より深い、漆黒のカラスの羽が突き刺さっていた。
……最初から、魔王たちは少女の術中に
「は、あはははっ! 地べたにお座りさせられて、なんて滑稽なのかしら! 貧乏人のくせに、私に楯突くからこうなるのよッ!」
フィキンが勝ち誇った顔で魔王たちを嘲笑する。ミネルバは何かを言い返そうとして、強制的にその口を閉じさせられた。セイナも、コハクも、苦しそうに呻くしかない。
魔王だけは枷から逃れられたものの、自分の無力さを嚙み締めることしかできなかった。
「ふむ。魔力絶縁体質、か。珍しいが……それだけだな」
少女の眉がピクリと動く。が、一瞬のうちに興味をなくしたようで、無力化すべく歩み寄る。
「くッ……」
万事休すか。魔王の脳裏にいくつもの選択肢が浮かび上がり、その尽くが後悔と自責の念によって押し流される──その瞬間だった。
ふと、少女が足を止めた。止めさせられた。一拍遅れてフィキンも気が付く。
今の今まで気配を隠蔽して認識の外側にいた──
「ごめんね、魔王ちゃん。護衛役をすっぽかして」
「……! ヴァス!」
「埋め合わせは後でするからさ。……それで、お前はどうしてしょうもない悪事に手を貸すような真似をしているんだ? なぁ──オーロラ」
「ヴァシリスッッ……! 貴様こそ、なぜここに……!!」
オーロラと呼ばれた謎の少女は、不愉快そうにヴァシリスを睨む。
何が何だか理解していない様子の魔王とフィキンを他所に、二人の視線が交差した。
「簡単な話だ。そいつらは俺の仲間ってこと」
「……貴様に仲間だと? 私はてっきり、一匹狼を好んでいると思っていたが」
「変わったんだよ、俺も」
ヴァシリスは魔王たちを一瞥し、前に進み出る。オーロラは不満げに舌打ちした。
「チッ、ならばいっそ我々の組織に加われば良いものを……」
「仲良くお尋ね者になれってか? 冗談じゃねぇ」
オーロラの言葉を鼻で笑い飛ばすと、ヴァシリスはポケットに手を突っ込んだまま見据える。
「ま、積もる話は置いといて。──そろそろ覚悟はできたか?【明かりを灯す者】」
「愚問だな。貴様の相手はしたくないのが本音だが……行くぞ、【星狩り】ッ!」
次話タイトル(仮):持ち味を活かせ! 節操のない子め
長くなったのでオーロラvs主人公は次回の冒頭で。催眠チートもやっと出ます。